マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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トランの村

やぁみんな、僕はルジク・ヴィ・アルストラトス。これから僕のことは、アルトと呼んでくれたまえ。

 

さて、久々にユナンに会ったのはいいものの……どうしようか。

 

基本的に僕の旅は行き当たりばったりだ。

時に気まぐれで、時に規則的に。それが僕の性格(ルール)だ。

 

大峡谷の北端には、トランの民の村がある。

どうしようか、また彼らの世話になろうかな。向こうの好意に甘えて、また会いに行こうかな……。

 

よし、そうと決まれば善は急げだ。Let's go、トランの村!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、トランの村。

僕が村に足を踏み入れた瞬間、見知った二人が出迎えてくれた。

 

『アルト!帰ってきたのね!』

『よかった、心配してたんだよ?』

『本当か?心配かけてすまないな』

 

……昔はこの言葉が普通だったのにな。

確か、今ではトラン語とか言われて、学者達の研究対象になってるんだって?随分と有名になったもんじゃねーか。

 

僕は村の民に案内されて、長の元へ向かった。

 

案内してくれるこの人達は、僕によくしてくれるクレス&マラ夫妻だ。

村の中で一番若い夫婦で、最近結婚したばかりだという。えーと、確か9年前だっけ。

 

……え?最近じゃない?ダメだ、長く生きすぎて時間の感覚が狂ってしまったらしい。こんなんじゃ、原始竜(マザードラゴン)に笑われちまうな。

 

あ、そうだ。今度はいつ大峡谷の向こう岸に渡ろう。

ファナリスのみんなに会いに行きたいし、暗黒大陸なら一周したら百年くらい暇潰しできるし……。

うーん……でも、今の所は向こうに渡る予定はないかな。だってこっちの世界の方が面白いし。

 

『アルト!』

『えっ⁉︎何?』

『もう、さっきからボーッとしちゃって。ほら、長の家に着いたわよ』

『あ、ああ。ありがとうクレス、マラ』

『またウチに遊びにおいで!』

『待ってるわ!』

 

二人にお礼を言って、長の家のドアをノックする。

まぁ、その後の展開は…………説明しなくてもみんなわかるよな?僕は長にここに泊まっていいか訊いて、OKを貰うってことさ。

 

ま、ここの長もちっちゃい子供の頃から知ってるけどね……。

当然だろ?これでも六十億年生きてんだ。ナメるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トランの村で明かす夜は、正直言ってとても静かだ。

今回も泊めてくれたクレスとマラを起こさないように、浮遊魔法を使って外に出る。

 

満天を彩る星の数々。それの中心に、大きな月が出ていた。

それがまるで、王の器に集まる家臣のように見えた。

 

世界は、こうして成り立っている。

幾度となくマギに出会った僕にはわかる。

 

人々は集まると、それを治める主が現れ、さらにそれが大きくなり、国を作る。そして、土地や資源を巡って国同士で争い、死に絶えていくーー。

 

別に虚しくも何とも思わないね。六十億年生きたせいで、哀しみの感情が薄れていったようだ。

まぁ、僕からすれば、お前達人間の一生が儚すぎて、いちいち哀しんでられないんだがね。

 

月を眺めてると、僕の心を察したルフ達が、慰めようと集まってきた。

 

「……ありがとな、みんな。大丈夫だよ」

 

フッと小さく笑って、再び空を仰ぐ。

 

「……空のもっと向こう側か。……まだ行ったことなかったな……」

 

また、僕の楽しみが一つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。クレスとマラが、僕を村の外まで送ってくれた。

 

『本当にありがとう、クレス、マラ』

『また遊びに来てくれよな、アルト』

『今度来た時は、三人でお迎えするわ』

『三人?』

 

キョトンとしてマラを見ると、なるほど、彼女の腹が膨れていた。

これは……腹の中に、新しい命が……。

 

『なんだよ、お前達赤ん坊ができたのか⁉︎そんなおめでたいこと、どうして言ってくれなかったんだよ!』

『あはは、アルトなら気づくと思ってたんだけど……』

『ひどいなぁ、僕を試したというのかい?』

 

あはははは、と楽しげな笑い声が響く。

そうだな、またすぐにでも会いに行かなきゃな。二人の子供に会いに……。

 

『そうだね、またお前達に会いに行くよ。性別は?名前は決まっているのかい?』

『いや、男の子だってことはわかってるんだけど……まだ名前が無くて』

『だからアルト、君が名付けてくれないか⁉︎』

『僕が?』

 

またまた、キョトンとしてしまった。

二人が期待の目で、僕を見てくる。僕は嘆息して、二人の肩に手を置いた。

 

『悪いね、クレス、マラ。生憎僕にはそんな役は務まらない。言うなれば、僕にとって名付け親なんて、小さすぎて取るに足らない役なのさ。だから名前は、お前達が話し合って決めればいい。名前は、親が子供に送ってやれる最初のプレゼントだぜ?素敵な名前を送ってやれよな、クレス、マラ』

『アルト……』

『……まったく、お前らしいな、アルト』

『六十億年生きた僕からの些細な説教さ。それじゃあな、二人共。次会う時までに、子供へのプレゼントを考えておくよ』

 

僕は背を向けて、ヒラヒラと手を振る。二人を振り返らず、僕は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に聞いた話だが、クレスとマラの子供は無事生まれ、元気に育っているという。

で、その肝心の名前が「ルジク」だと聞いた途端、僕に頭痛が襲いかかった。

……僕の名を取ったって長寿にはなれねーぞ、二人共ーー。

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