マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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二極化する世界

戦いが終わった、その後。共通の敵が消えた今、七海連合と煌帝国が共同戦線を張る必要は一切なくなった。

両者が相対する中、第三者の立場にいるアラジンが、紅炎を説得する。

 

「やめてよ‼︎兵を退くってアルトお姉さんと約束したもんね‼︎紅炎おじさん‼︎」

「……………………いや………………元々俺達の目的はここ、マグノシュタットだ。そもそも、煌帝国の金属器使いをこれだけ控えさせていたのは、レームの金属器使いに対抗するため。戦う相手がすげ替わっただけの話だ」

「おじさん!!!話が違うじゃないか!!!」

(あちら)はマギともう一人の金属器使いが来ておらんぞ。奥の手があるのでは?」

「それはシンドバッド(あちら)もわからない」

 

互いが互いを探り合う中、シンドバッドは紅炎から視線を逸らした。

その先には、この状況を案じるように見ていた紅玉。彼女の様子が、ふと変わろうとしたその時ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカじゃねぇの、お前」

 

 

 

 

 

呆れたような声が、辺りに響く。シンドバッドは思わず、紅玉にかけた魔法を抑えてしまった。

 

その声は、女にしては少し低く、男にしては高すぎる。

小麦色のマントは少し綻び、その下に隠す肢体は白く、陶器のように滑らかな肌がスカートや袖から覗いた。

艶やかにぷっくりとした唇は健康的な薄桃色で、整った目鼻はシュッとしている。黒曜石をそのまま埋め込んだかのような漆黒の瞳は呆れを映し、栗色のセミロングを柔らかい風が撫ぜた。

 

誰もが、彼女に振り向いた。傾国の美女とはいかないものの、それなりに魅力を持つ美しい女。

 

七海の覇王シンドバッドは彼女を恋慕い。

 

ファナリス兵団団長ムー・アレキウスは友として絶大な信頼を寄せ。

 

煌帝国第一皇子練紅炎は世界の真実を知るため、彼女を強く求めた。

 

 

そんな王達が惹かれ、目を逸らせない女ーールジク・ヴィ・アルストラトスが、何食わぬ顔で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やれやれ。急いで身体を作って戻ってこれたと思ったら、もう修羅場かよ。気が早いね〜、このバカ共は。

特にシンドバッド。お前、このタイミングで紅玉に仕掛けた魔法使うとか……ちょっと時期尚早だと思うけどなぁ?

 

溜息をついて、ユナンにアイコンタクトを送る。煌帝国とぶつからねえために、予防策とやらを講じてきたんだろ?それ、今言ってくれや。

ユナンは僕の言いたい事を、視線だけで察知して頷き、シンドバッドに伝える。

 

その予防策というのは……七海連合とレーム帝国の、正式同盟。

 

シェヘラザードが最後の最後に成した、約束だ。

 

レームと煌。この二つの均衡を保っていたのは、他ならぬシンドバッドの七海連合。そいつが、レーム帝国側についた……ということは、世界は完全に真っ二つになるわけだ。

シンドバッドはさらにヤムライハの養父であるモガメットのことを出し、紅炎達に「マグノシュタットはこちら側のものだ、大人しく退け」と言ってのけた。

 

はぁ……これで大人しく引き退ってくれるか?紅炎(こいつ)は……。

で、紅炎はしばらく黙って……不意に、僕の腕を掴む。

 

「では俺は……この女を頂く」

「えっ」

 

あれ?と思った瞬間、僕は紅炎に片腕で抱えられていた。

えっ……?ちょっと待ってちょっと待って…………………………えっ?

 

「あ、あの……紅炎さん……?ちょっとあの、その……」

「約束したもんなっ」

「はいっ約束しました‼︎貴方に間違いはございませんっっ‼︎」

 

恐る恐る、紅炎に抗議というか文句をつけようとした僕が間違っていた。

こいつにそんなのが通じるわけがない。笑顔怖い目が笑ってない。

これで反論なんかしたら、今度こそ牢獄に繋がれるかもしれない。お前は悪魔か。

大体何?いい年こいたおじさんが語尾に"もん"なんてつける?何?おちゃめさんなのか?可愛くねーよ!むしろ恐怖しか感じねーわ‼︎

 

「ウチに来てくれるの?アルト!」

 

やめて紅覇。そのキラキラした期待に満ちた眼差し。眩しい。

あんたんとこに来たって、アルマトランの話をするまで紅炎に閉じ込められるのがオチだ。それはそれで嫌だけど、僕はお前も結構苦手な部類に入るぞ。

 

だってお前、僕の肌やら髪やらを散々弄った挙句、合う化粧水は何だの服はもっと可愛いやつを着ろだのうるせえんだよ。

お前は母親か!母なんて僕にはいたこともないから知らんが!

 

だから、僕にとって一番楽なのは紅明か紅玉くらいだ。

紅明は寝てる時もあるからその時は全力で弄り倒すから楽しいし、紅玉に至っては癒しだ。可愛い。可愛すぎる。もうお嫁においで。無理だけど。

 

……え、白瑛?あいつはダメだ。

裁縫ならまだしも、料理を振る舞われたら僕は死ぬ。その時は黙って青舜に犠牲になってもらうが。

ちなみに白龍も論外。無理。あんなブラック病み野郎にどう接しろってんだ。

 

「……おい、紅炎」

「口答えするな」

「…………」

 

何この人強引すぎる。

ああ、あんな約束しなけりゃよかった。もう僕に天のお救いはないのか……と諦めたその時。

 

「ちょっと待っておくれよ!」

 

そう言って僕の手を引いたのは、アラジン。

どうやら僕を紅炎から離そうとしてるみたいだけど、あいにく今僕の足を地に着いてない。

無駄だよアラジン。でも気持ちはとても嬉しい。

 

「アルトお姉さんはダメなんだ!だってお姉さんには、心に決めた人がいるんだもん!ね、アルトお姉さん!」

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

こいつ、今とんでもない爆弾を投下しやがった。

辺りが一瞬でシンとした。

 

シンドバッドはすごいショッキングな顔で見つめてくるし、ムーは「えっ?こいつに彼氏なんていたの?」みたいな目で見てくる。紅炎に至っては動じない。

よし、ムーと紅炎はあとでシメる。

 

アラジンがそのことを知っているのは、おそらく「ソロモンの知恵」で見たからだろう。

間違っちゃいないけど、まぁそのことは誰にも話してないので、いきなり暴露されて少し恥ずかしかった。

 

「あの……アラジン。その……そういうことは、あんまり……」

「えっ、アルトって彼氏いたの?どうしてもっと早く話してくれなかったの?」

 

ユナンまで絡んでくる。

うわ、こいつ絶対シンドバッドをからかって楽しんでるよ。タチ悪りぃなこのマギ。

 

まぁ、アラジンのおかげで空気が変わった。この流れに乗っかって、話を転換させよう。

 

「まぁその……今回、あの黒い化け物っつー共通の敵が現れたんだ。ここは王の器が集まって、会談を開くべきじゃねーのか?」

「会談?」

 

ムーが反応を示してくれたおかげで、ぐんと話しやすくなった。傍らの紅炎の視線は鋭くなるだけだが。

 

「そう。あの化け物が現れた時点で、お前らだってわかったろ?争ってる場合じゃねぇ、敵は他にもいるって。その敵はとてつもなく強大なんだよ。この僕でさえ、歯が立たないくらいのな。その敵の正体、ついでにこの世界が生まれた理由も、全て話してやるよ。この僕がな」

 

紅炎に抱えられるというなんとも不恰好な姿で、まともな事を提案する僕は、かなりシュールなんだろうな……。

 

「ふざけるな」

 

ワントーン、低い声。思わず「ひっ」と喉が鳴った。

紅炎だ。紅炎大魔王が怒ってらっしゃる。

 

「お前はどこまで俺を焦らせば気が済む?今回は逃がさんぞ」

「我らが兄王様をここまで誑かしたからには、責任を取って煌まで来ていただきましょう。もちろん、貴女に拒否権などありませんが」

「ちょっ⁉︎」

 

紅明、お前もか!お前だけは味方だと信じていたのに!このブラコン野郎っ‼︎

どうにもこうにも、この魔王をかわしてクリア、なんて都合のいいゲームではないらしい。ま、そんなクソゲー誰もやらねぇか。

 

……ていうか、さっきからシンドバッドの視線が怖い。氷点下並みの冷たさなんだけど。凍てつく闇の冷たさなんだけど。下手したらこれ絶対零度なんだけど。

何?確かにお前が僕のこと好きなのは知ってるよ。え、じゃあこれは所謂嫉妬ってやつなのか?

いらないいらない、こんなメンタルがゴリゴリ削られる三角関係。

 

僕はパチンと指を鳴らして、紅炎の腕からすり抜ける。もう無理。これ以上は耐えられない。

こっちだってな、疲れてるんだよ。それに、やることだってあるし、忙しいんだ。

 

「さて……と」

 

ガシガシと頭を掻いて、ルフを奪われ死んだ大地まで歩く。そこに手をついて、魔力(マゴイ)を送り込んだ。

 

「『蘇生(ヨア・ネグス)』」

 

大地から光が伸び、生命を蘇らせていく。枯れた草木はたちどころに生気を取り戻し、花を咲かせ葉を巡らせた。

倒れた生き物達も生命を吹き込まれ、体を起こす。死んだ海も生き返り、魚達は元気に泳ぎ出した。

 

……これが僕の、禁忌とも呼べる魔法。ルフを奪われて、一度は死んだ生命に、新たに生命を与えるとんでもない魔法。世界の理から外れた僕にしかできない、唯一の魔法。

 

それゆえ……魔力(マゴイ)消費量がバカにならないのも事実だ。

 

即席で作り上げた身体じゃ保たなくて、すぐに息が上がる。瞬間、視界がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海連合、レーム、煌。

彼らは皆、化け物が見せた奇跡とも呼べる魔法に驚いていた。

 

一度は枯れた生命に、新たな生命を吹き込む。

そんなありえない魔法を、この女は実現してしまっている。

 

彼らは畏怖を覚えると共に、また強く彼女を欲した。

 

その時、アルトの体がグラリと崩れる。シンドバッドが、ムーが、紅炎が三者三様に彼女に駆け寄る。

 

しかし、誰よりも先に彼女を抱きとめたのは、ユナンだった。

ユナンは彼女を横にさせて、疲れて眠るアルトの綺麗な寝顔に微笑を送る。

 

「お疲れ様……よく頑張ったね、アルト」

 

アルトの頭を膝に乗せ、慈しむように髪を梳く。

こんなに力を使ったのは久しぶりだろうに、無理をおして死んだ者達の蘇生まで行ってしまうなんて。

本当、冷たいように見えて、とても優しい人なのだ、彼女は。

 

ユナンは彼女を抱きかかえて立ち上がり、浮遊魔法で飛ぶ。

 

「それじゃあね、会談でまた会おう。アルトには僕から全て話しておくよ」

 

そう言い残して、ユナンはアルトを連れて去る。スヤスヤと胸に頭を置いて凭れてくる愛おしい彼女に、ユナンは頬を擦り付けた。

 

アルトは、誰のものにもならないと言った。それは、もし好きな相手ができても、永遠に生きながらえてしまう自身の業を考えてのことだろう。

それでも、彼女の周りには好意を持たずにはいられない。

 

彼女は一体、どこから来たのか。

 

その目は一体、何を見てきたのか。

 

 

それがついに、彼女自らの口から語られるーー。




これで、マグノシュタット編はお終いです。
次回からついに、アルトの正体、その過去を交えたアルマトラン編を開始します。

たくさんのお気に入り、本当にありがとうございます。
拙い文章ですが、今後ともよろしくお願いします。
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