マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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ここからしばらく、ルジクの過去編が続きます。


僕とソロモンの出会い

今から約一千年前。

世界の片隅にある小さな小さな木製の家。

窓の外の景色を眺めながら、僕は分厚い本を読んでいた。

 

時折窓から吹き抜ける風が僕の長い髪をなびかせ、揺らしていく。

お茶請けとして作ったシフォンケーキは、今日は上々の出来だった。

 

上手く作れたシフォンケーキに舌鼓を打ち、ハーブティに口をつける。

ふうと一息ついてから、また細かい文字の羅列に目を落とす。

 

 

これが僕の毎日だ。特に何もすることなく、日々をのんびりと過ごしていく。

 

本を読んで、ティータイムを楽しんで、たまにお掃除をしたり、外に出て庭の手入れをしたりするね。

 

……とまぁ、こういった具合で僕は長い長い暇潰しをするのさ。永遠にね。

 

 

だって僕には、共にこの長い時を生きてくれる人はいない。

ましてや止めてくれる人なんてもっといない。

 

別に同情なんて求めてないけど、まぁ……少し寂しいのは事実だ。それくらいだね。

 

 

今日読んでいる本は、古いお伽話。

昔々あるところに、森の奥に一人隠れ住むドラゴンがいました……一人っつーか一匹だろ、というツッコミを入れる。

こんなどこかで見たことあるようなくだらない話を、黙々と読み続ける。

 

 

パラ、とページを一枚めくった瞬間。

 

 

 

 

コンコン、と誰かがドアをノックした。

 

 

 

 

誰だ?こんな所に……。

 

椅子から立ち上がって、ドアに向かって歩き出す。ガチャリ、と開くと。

 

 

ーーピィピィ、ピィピィ

 

 

ルフが、ざわつく。

僕は息が止まった感覚に陥った。

 

「…………あんたが六十億年生きてるって女か?」

「……だとしたら一体なんだ?」

「会いに来た。そしてできれば、俺達に協力してほしい」

「……お前は何者だ?」

 

僕は、目の前の少年から目を逸らさず、真っ直ぐに見つめて尋ねた。

 

「俺の名は、ソロモン」

 

これが、僕とソロモンの出会い。

 

********

 

ソロモン、と名乗った少年を家に通し、礼儀として茶を淹れてやる。

僕は気づかなかったが、ソロモンの後ろには女一人と男一人がいた。彼らはアルバ、ウーゴといった。

 

「ほらよ。粗茶だけど」

「いや、ありがとう」

 

三人に茶とケーキを出して、僕も椅子に座る。

三人はソファに並んで座り、それぞれ茶を口にしたり僕の家をキョロキョロ見回していた。

 

僕は三人の様子を見つつ、紅茶を口に運ぶ。

 

「……で、僕に一体何の用だ?」

 

本題を切り出すと、ソロモンは真剣な眼差しで僕を見つめてくる。

目は似てないけれど、その雰囲気はどことなくあの男(・・・)に似ていた。僕の嫌いな、あの男と。

 

「……お願いします。ルジク・ヴィ・アルストラトス様。俺達抵抗軍(レジスタンス)に力を貸してください」

「は?」

 

僕は思い切り顔をしかめた。

 

僕は一応、この世界の全種族の群勢を全て把握している。だから、今人間が何をしているのかも頭に入っていた。

もちろん……人間が、異種族達を精神魔法で支配していることも。

 

頭を下げたソロモンに続いて、隣に座るアルバという女も口を開く。

 

「神の使者である貴女であれば、すぐにでもこの対立も収まるはずです!お願いします、『聖教連』の魔導士達に……」

「神の使者?笑わせるなよ」

 

言葉の途中だったアルバが、遮られて驚いたように目を見開く。

 

「僕はもう、『彼』とは別離した存在だ。だから僕は、神の使者でも何でもない。ただの魔導士、ルジク・ヴィ・アルストラトスだ。残念だがお前らの求める力を、僕は持ってないよ」

「そんな……!」

「わかったらさっさと帰れ。面倒事はごめんだ」

 

そう。もう僕は、面倒事はお断りなんだ。人間のくだらぬ思考に失望し、二度と会いたくないとまで思った。

 

……僕は、ただ一人でひっそりと生きていきたい。もうこの上を望まないから。だから、もう放っておいてくれ。

目頭を押さえて深い溜息を吐く。

すると、ソロモンが口を開いた。

 

「……ならば、ルジク(・・・)。一人の魔導士として、お前に頼みがある」

「……は?」

「俺達と一緒に、聖教連を倒してくれ」

「………………」

 

ソロモンの青い眼が、真っ直ぐに僕を射抜く。僕は何も言うことなく、それを見つめ返す。

 

「戦ってほしい。一人の魔導士として、俺達と共に」

「……………………はぁ?」

 

顔を歪めながら、どういうことかと尋ねる。

 

「さっきの話はつまり、"神の使者"としてではない、ルジク・ヴィ・アルストラトス本人の協力を得られれば、お前は俺達に力を貸してくれる……そういうことだろう?」

「…………へぇ。面白い事言うじゃないか。一人の魔道士としてなら戦うと、いつ僕がそんなことを言った?お前の耳は飾りかい?」

「少なくともちゃんと聞こえてるよ。俺にはそういう風にな」

「はぁ………………これは予想外だ。僕も無駄に長いこと人生を生きてきたけど、まさかまだ、僕の知らぬ言語があったとはね」

 

嘲笑うように、鼻を鳴らす。それでも、ソロモンは口元に笑みを浮かべたまま、僕を見つめていた。

 

「言語なんて大層なものじゃない。そもそもこの言葉は、俺達の知る言語なんて使わなくても伝わるものなんだ」

「へぇ。それは一体、どんなものなんだい?」

「心の声、さ」

「!」

「お前、人間が大嫌いなんだろう?人間達に理不尽に支配される他の種族が哀れでならない。違うか?」

 

心の声が聞こえるとか言うこのソロモンは、僕の考えを当てていく。ここまでくると本当笑えてくる。

ーーむっかつくなァ……。

 

「わかってんならさっさと帰れ。何度も同じことを言わせるな」

 

ジッとこちらを見つめてくるソロモンの視線に、虫唾が走る。

 

「お前の言う通りさ。僕は人間が大嫌いだ。神に選ばれた?ご大層な妄想なこった。そんなのただの偶然だ。お前らが崇拝する神とやらは、所詮意志も何も持たないただのエネルギーの塊だ。お前らが期待するようなものでもないんだよ。それを神がてめーらに魔法を与え、神の使者としてこの世界に遣わしたなんて……阿呆にもほどがあるや」

 

最っ高の軽蔑を込めて、嗤ってやる。ソロモンの隣に座るガタイのいいウーゴとやらが、不安そうに彼を見ていた。

 

「わかったらさっさと帰れ。僕はお前らなんかに付き合ってやるほど暇じゃ……」

 

 

 

ーードォォン!!!

 

 

「!?」

「な、何だ!?」

 

外から大きい音が聞こえて、立ち上がる。……やれやれ、また(・・)か。溜息を吐いて、窓を開ける。

 

「しつこい奴は大嫌いなんだけどなァ」

 

 

窓の外には、巨大な飛行船が空を漂っていた。

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