さて、やってきましたレーム帝国!
今僕がいるのは、首都レマーノ。
市場や商店街、闘技場、劇場、賭博場など楽しそうな場所が盛りだくさんだ。
ここレマーノは、世界でも類を見ない娯楽の多い都市。道路も水路も整備されていて、市民にとって安心できる国なのだ。
……まぁ、奴隷制度のある国でもあるけどね。
何しろここの奴隷商人の中には、あのファナリスを捕まえるのに長けた連中がいるって話だから、恐ろしいったらない。
え?僕はファナリスに勝てるのかって?
魔法を使えるなら話は別だけど、肉弾戦なら無理。僕は平和主義者なのさ。
うーん、来たのはいいけれど何をしよう?
レームは広いから、全部周ってみるかな?
……んん?
「あっ、お前見たことあるのだ!」
「ホントだ!この子、前に団長が連れてきた子じゃない?」
おやおや?ものすごい脳筋の匂いがするこの娘二人組は?
あぁ、僕も見覚えがあるぞ。確か、レーム帝国の軍隊の一つじゃなかったっけな……。
その名も『ファナリス兵団』。名家アレキウス家の子息、ムー・アレキウスが団長を務めるその名の通り、ファナリスだけを集めた軍隊。
で、この二人はファナリス兵団の……確か、ミュロンとラゾルだったっけ?
……でもこの流れ、明らかに拉致られるパターン?
え?僕ヤダよ。だってもうアールマカンに会ったもん。これ以上王様に会いたくない。うん。めんどくさい。
よし、回れ右してさっさとこの場を去ろう。
「待つのだ!アルト!」
「逃がさないよ!」
あ、僕終わった。
「……で、再会を喜ぼうとしたら逃げられたから、取り敢えず捕まえたのだ!」
「そ、そうか……」
「えっへん!」と胸を張るミュロンに、苦笑いのムー。
僕はミュロンの肩に担がれたまま、ジタバタしていた。
くっそ、流石ファナリス。全然逃げられない。
あの後、逃げたのはいいものの、ファナリスの速さに鈍足の僕が勝てるはずもなく、一秒未満で捕まった。
誰か助けろください!
「大体、アルトも私達見るなり逃げるなんてひどいよ。どうして逃げたの?」
「今回の旅はのんびりと行きたかったのに、お前らに見つかれば捕まって、王宮とか高級な建物に連れていかれると思ったからだ。僕は高級ホテルなんかより、安い宿屋か野宿の方が好きなんだよ!」
「どうでもいいけど、またアルトの話聞きたいのだ。アルト、今日は泊まってくれるのだ?」
人の話をこれっぽっちも聞いちゃいない。
お兄さん!なんとか妹さんを説得してください!
そしていい加減下ろして!
「なんだ、泊まるのか?それなら大歓迎だ。シェヘラザード様もお喜びになるだろう。何せ、アルトさんと旧知の仲なんだからな」
お前も人の話を聞かんかい!こんのバカ兄妹!
溜息を吐いて、僕は諦めてミュロンとラゾルのされるがままになった。
「よし、できたのだ!」
「可愛い〜〜‼︎」
「…………」
ハイ、着せ替え人形になりました。ものすごい豪華なドレス着せられて化粧もされてヤバい。
すっごい気持ち悪い!普段化粧しないからか?そうなのか⁉︎
そしてミュロン、ラゾル、お世辞はいらない!それと僕で遊ぶのはもうやめてくれ!
あぁ……
ったく、味をしめやがって、クソガキ共が。
「……もういいだろ。服返せ。着替える」
「ダメなのだ!せめて日付が変わるまでこのままでいてほしいのだ!」
「は?」
何言ってるんだ?こいつは?
「今夜、アレキウス家が主催するパーティーがあるのだ。それに、アルトも参加してほしいのだ!」
「やだね」
「お願いアルト!」
「僕が参加する理由がない。断る」
ミュロンとラゾルに懇願されるが、冷たくはねのける。
だから僕はこういうの嫌いなんだって。人の話聞いてる?ねぇ。
そっぽを向いて無視してると、ガチャ、と扉の開く音がした。
「あっ、団長!」
「兄さん、アルトに何か言ってやってほしいのだ!今夜のパーティーに参加してくれないのだ!」
あぁ……なんだ、ムーか。
ふん、たとえシェヘラザードが言っても僕は断るぞ。僕は今気分が悪いんだ。
ムーが二人を宥める。
「いきなりそんなこと言っても、アルトさんを困らせるだけだぞ?彼女は今日、レームに来たばかりみたいだし……無理に誘うもんじゃないぞ、ミュロン、ラゾル」
おおっ、流石!わかってるじゃないか、ムー!
偉いぞ!この僕が褒めてつかわそう!
「しかし、残念だなぁ。パーティーにはとても美味しい料理がたくさんあるのに……」
……えっ?今何てった?美味しい料理?
チラッとムーを振り返る。
「ミュロン、ラゾル。仕方ないから、アルトさんの分もたくさん食べよう。とても美味しい料理をな」
「……そうだね、そうしようかミュロン!」
「うん!」
「えっ⁉︎えっ、ちょ、ちょっと!」
ちょっと待て!僕は?置いてきぼり⁉︎
そんな、美味しい料理を目の前にしてそれは辛い!
「待て!僕も行く!行くから料理だけは食うなっ!」
そう口走って、ハッとした。
そーっと顔を上げると、ムー、ミュロン、ラゾルの三人がニマニマして僕を見ていた。
……は……はめやがったなああああああ‼︎
「言いましたね、アルトさん。パーティーに行くと、はっきりと」
「うぐっ……!」
ムカつく!ムーの野郎、こんな性悪に育ちやがって!
これも全てユナンとシェヘラザードの監督不行き届きのせいだ!
で、時は過ぎパーティー。
レームの貴族のパーティーは、立食ではなく寝食パーティー。太るぞお前ら。
僕も整えたドレスで横になり、頬杖をついてぶどう酒を飲んでいた。
しかし久々に酒飲んだな。ま、僕って健康体質だから、酒なんて滅多に飲まないんだよね。
寝食パーティーって、これでご飯食べるとお腹がキツい。
やっぱ座って行儀よく食べるのが大事だ。マナー破るのよくない。
「ムー、僕ちょっと夜風に当たってくる。皿持ってっていいか?」
「?ええ、どうぞ」
寝台から降りて、料理を皿に少し取ってから、バルコニーに出る。レマーノの夜景がそこから見下ろせた。
今宵も美しい月夜だ。月光を浴びながら、ぶどう酒を傾ける。
「月見酒とは、随分と洒落込んでますね」
ムーが僕の肩に布をかけて、隣に立つ。寒くならないようにだろう。流石、モテる男は違うというか。
少しぶどう酒を揺らしてから、再び口につけた。
「月見酒なら、安い鬼倭酒でいい。ぶどう酒は僕には少し高価でね。勿体無いのさ」
「そうですか。……いつもミュロンが我儘を言ってすみませんね」
「……いや、構ねぇよ。女の子の可愛い我儘くらい、いくらでも付き合ってやるよ。どうせ、お前もあの子も儚い命だ。せめて、生きてる間は楽しくしてやらねーとな」
そう。
ムーもミュロンも、シェヘラザードもユナンも。
僕からしたら、儚い刹那の命の一つに過ぎない。
二百年生きているシェヘラザードも、僕から見れば可愛い女の子さ。
あまりにも長く生きすぎた。
悲観しても、諦めたように悟っても、僕の命が終わるわけじゃない。
だったらせめて、これからも続く人生を楽しく生きてやろうじゃないか。
何度彼らの命が巡っても、僕は生き続ける。
これからも続く人生を、のんびり楽しく生きられれば。一日一個、楽しいこと嬉しいことを見つければ。
それで、僕は充分幸せなんだ。
「……そういえばさ、ムー」
「何ですか?」
「何でお前、敬語なんだ?」
「それは……シェヘラザード様の、ご友人ですから」
「昔みたいにアルトって呼び捨てでいいんだぜ?ったく、こんなんだから、外面いいくせに本当の友達少ないんだよ」
「はぁ⁉︎余計なお世話だ‼︎」
おっ、怒った?
あはは!やっぱ面白いなムーは!
「そうそう、こないだユナンから聞いたぞ?お前ガキの頃シェヘラザードに……」
「うわああああああ‼︎やめろ、その話は忘れてくれ!」
「あ、あと、これもユナンから聞いたんだけど。お前って昔貴族主義の高飛車おぼっちゃまだったんだな!」
「なっ⁉︎」
おっ?おっ?なんだかムーが真っ赤になってる。
これだから、ムーをからかうのはやめられない……!
「お前と出会ったのって、もう十年近く前だっけ?そっか〜、その頃はもう思春期終わってるもんな。残念だなぁ、もっと早くに出会ってたら、お前のこともっと知れてたのに……」
「頼むからもう
「どうして?僕はお前のこと、もっとたくさん知りたいと思うのに。いけないか?」
「っ‼︎」
ムーが目を見開いて、固まった。
そして、顔を逸らして頭を抱え、何やらごにょごにょ言っている。
「……何なんだよいきなり……狡すぎるだろ……」
「は?何て?」
「‼︎いや、何でもない……」
何なんだ一体?
僕は首を傾げて、背を向けて会場に戻るムーを見送った。