翌日。アレキウス家にお世話になった僕は、ムーにシェヘラザードの元へ連れてってもらった。
シェヘラザードは、このレーム帝国の最高司祭として君臨しているマギ。
伝説の巫女とか言われてるけど、僕にとっては、どこにでもいる可愛い女の子に変わりはない。
「着いたぞ、アルト」
あ、余談だけど、昨晩以来、ムーは喋り方を直してくれた。
ファナリス兵団のみんなの前でも普通に呼び捨てにしてくれたし、昨日みたくからかったら可愛い反応を返してくれた。ミュロンやラゾル、ヤクートにロゥロゥも驚いてたが、そんなものは些細な事だ。
ムーがノックしてから、扉を開ける。
部屋の中に、自分の背丈より大きい杖を持って、シェヘラザードが静かに座していた。
「やぁ、久しぶり。シェヘラザード」
「ええ……待っていたわ、アルト」
僕がシェヘラザードの向かいに椅子を持ってきて座ると、シェヘラザードはムーを見て言った。
「ムー、悪いけど二人にしてちょうだい……」
「はい」
ムーは一礼して、部屋を出て行った。
相変わらずシェヘラザードには従順だなぁ。どんな手を使って無垢なムー少年をたぶらかしたんだよ、こいつぅ!
ニヤニヤしながら彼女を見ると、困ったように苦笑を返した。
「もう……アルトったら。本当に変わらないのね」
「んだよ、いきなり」
「昔からそうだったけれど……貴女、とても楽しそうね。まるで子供みたい」
「長い人生を楽しむコツは、童心を忘れないことさ」
「ふふふ……そうね、そうよね」
上品に笑うシェヘラザード。
可愛いなぁ、ホントに。
「また、旅をしているの?」
「ああ、こないだ大峡谷に寄り道したんだ。それで、カタルゴからエリオハプトを抜けて、レームに来たってワケさ」
「そう……いいわね」
「だろ?シェヘラザードもとっとと隠居して、街の散策なり何なり自由にすればいいのに」
「それは……できないわ」
「……だろうな」
シェヘラザードは、自分が二百年前に出会った仲間達が作った国……レーム帝国を、ずっと支え続けてきた。
そしてこれからも、変わらないのだろう。お前だって、どうせいつか死ぬのに。
「じゃあさ、また今度一緒に行こうぜ。お忍びレーム散策!」
「ふふ、そうね。また行きましょう。ねぇ、今度はいつレームに帰ってこれる?」
「帰るも何も……僕に故郷なんて無いよ?」
肩を竦めて言うと、シェヘラザードは首を振った。
「いいえ、貴女の居場所は……
「勝手に決めないでくれ。僕は根無し草……川の流れに身を任せて、ただただ流れ行く者さ」
「……そんなこと言って。本当の根無し草なら、私やムー達とあそこまで仲睦まじくお喋りなんてできないわよ。そして……貴女には、世界中にそんな人がたくさんいるんでしょう?」
私達と同じように……旧知と呼べる存在が。
シェヘラザードにそう言われて、思わず溜息を吐いた。
お前の言う通りさ、シェヘラザード。僕は、行く先々で知り合いを多く作ってきた。
ユナンだけじゃない。
アールマカンやムー、シンドバッドにラシッド、モガメット。さらにはミラ、ダリオス、ラメトト、チャガン、練家兄弟、
どいつもこいつも厄介な国のトップばかりだけど、僕にはそういう奴らを惹きつける何かがあるらしい。そいつらの日常に、いつの間にか溶け込んで根を張る習性が。
はた迷惑な習性をくれたもんだぜ、神様はよぉ。
……いや、神が存在するなら、訊きたいことがある。
何故、不老不死の僕を生み出したのか。
そんな意味のないものを作り上げて、何がしたいのか。
過去に神と繋がろうとした男は僕を捕らえたがっていたけど、僕には運命が見えるワケじゃないから、奴の真意は未だにわからない。
いや、わかりたくもなかった。
だってそんなの、未来を見るようなもんじゃないか。
僕も未来可視はできるけど、それじゃミステリーの結末だけを読んで、後から内容を読むようなもんだ。何も面白くない。
「……ありがとう、シェヘラザード。気持ちは嬉しい。でも、僕はどこかに腰を落ち着けて暮らそうとは思わないんだ。変わりゆく世界を歩くのも、なかなか楽しくてね」
「そう……貴女らしいわね」
「だろ?」
これから世界はどう変わっていくか。
その主役はお前達人間だ。バケモノの僕は、これからもそれを傍観させてもらうとするよ。
「もう行っちゃうの?アルト……」
「ああ。僕は流れ者だからな。一箇所に固まるとうずうずするんだ。だからもう行くよ」
シェヘラザードをはじめ、ムー率いるファナリス兵団、イグナティウスやネルヴァもわざわざ見送りに来てくれた。
豪華なメンバーだなオイ。
「元気でね!また遊びに来てね!」
「ああ。お前も元気でな、ラゾル」
「次は僕と一緒にレマーノを散歩するのだ!」
「そうだね。そうしようか、ミュロン」
「今度こそ、俺とデートしてくれませんか、アルトさん!」
「デートは断るが買い物にはついてってやるよ、ヤクート」
「じゃあな、奴隷狩りには気をつけろよ」
「わはは。要らぬ心配だぜ、ロゥロゥ」
「行ってらっしゃい、アルト」
「ああ。行ってくるよ、ムー」
「今度来た時は、また旅の話をお聞かせください」
「もちろん。たくさん聞かせてやるよ、イグナティウス」
「……あの」
「それじゃあな、ネルヴァ」
「なっ、待て貴様‼︎」
一人一人挨拶を交わし、背を向けて歩き出す。
さぁ、次はどこに行こうか。
行き当たりばったりの僕の旅は、永遠に終わらない。