マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

7 / 27
シンドリア王国

「……あぢぃ…………!」

 

暑い。暑い暑い暑い暑い‼︎

 

はい、ここは真夏の国シンドリア王国。

赤道付近にあるため、やたらと暑い。ギラギラした太陽が照りつけてくる。どこの王様に似たんだか。

 

もうヤダ帰りたい。もう帰ろうかな。

あ、でも、ここのパパゴラスの丸焼きは絶品なんだよな……。

ううっ、食欲には敵わない。よし、これだけ食べたら帰ろう。そうしよう。

 

「アルトさん?」

「うぁあああああああ‼︎」

 

ビクッと肩を上げて、振り返る。見上げなければ、その顔が見れない。

赤い髪にムスーンとした顔、超デカいこの男はマスルール。

 

「いきなり話しかけるな!驚くだろ⁉︎」

「はぁ、すみません」

「オイ、マスルール!先輩を勝手に置いてくな!」

 

げっ!僕の嫌な予感センサーが反応する。

回れ右して逃げようとしたら、首根っこを掴まれて持ち上げられた。

ぐぁあああああ!ファナリス嫌いぃぃぃぃ!

 

「ん?あっ!アルトじゃねーか!」

「シャ……シャルルカン……」

 

ひょいと軽く手を挙げて駆け寄ってきたのは、チャラ男ことシャルルカン。こないだ会ったアールマカンの弟だ。

昔はとっても可愛い男の子だったのに……誰だ!こんなチャラ男に育てたのは!

 

「…………」

「ん?何だよその目は」

「いや……時の流れって残酷だなぁって……」

「なんだよ、そりゃ俺だって大人になるっての。大体お前は時が経ってもそのままだろうが」

「昔は何でもすぐに泣く可愛い子供だったのに……」

「うるせえ!いつの話してんだ!」

 

ていうかいい加減下ろしてもらえないだろうか、マスルール。

マントごと服の襟を掴んでるのはわかるんだけど、このままじゃ破れそう。ていうか喉が苦しい。

 

チラ、とマスルールを見て視線で訴えると、黙って腰を抱えてだっこしてくれた。

……下ろしてはくれないのね。

 

「お前ホント変わらねーなぁ。年をとらねぇってのは本当なんだな」

「会った時からそう言っているだろ。それとマスルール、いい加減下ろせ」

「…………城、来てくれないっスか」

「行かねえよ。僕は今回こそ、のらりくらりと平凡な旅をしたいんだ。国のトップに挨拶回りしに来たんじゃねーよ」

「じゃあ下ろしません」

「お前人の話聞いてた⁉︎」

 

こいつも無理矢理か!ミュロンといいマスルールといい、ファナリスの連中はみんな耳が悪いのか!

 

「じゃあ行きましょうか」とマスルールに担がれたまま、僕はまたまた連行されたのだった。

……なんで旅をすると毎回こうなるんだろ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルト殿!」

「あー!アルト!」

「帰っていいですか」

「ええ⁉︎」

 

王宮に攫われて、出迎えてくれたのはスパルトスとピスティ。今すぐにでも回れ右して帰りたい気分だった。

 

この分だと、ヤムライハはまた研究室に籠っているらしい。会わなくてよかった。

だってヤムに会ったら即行で研究室に閉じ込められて、魔法の研究に付き合わされる。ひどい時には五日間くらい解放されないこともある。悪魔だあの娘は。

 

そういえば、あのお母さんと葉王もいない。

むしろそっちの方がいい。ジャーファルの奴は昔優しくしちまったせいか無駄に懐きやがったし、シンドバッドに至ってはもう好意が目に見えてわかる。言葉にしなくても伝わってくる。

頼むから帰らせてくれ。

 

ピスティがくいくいと僕のマントを引っ張る。

上目遣い可愛い。卑怯だ!

 

「ねぇねぇアルト!謝肉祭(マハラガーン)には参加しないの?」

「南海生物が出たのか?」

「うん!ついさっきね!」

「美味い飯が食えるなら残ってやってもいいが……」

「ホント⁉︎じゃあ、早速着替え……」

「バイバイ」

「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ‼︎」

 

ピスティの言いたいことを一瞬で察した僕は、踵を返して帰ろうとした。

泣きながらピスティが謝っているが、どうせ嘘泣きだろう。男は騙せても女の僕は騙せんぞ、ピスティ。

 

え?ピスティが何を言いたかったのかって?あの布面積の少ない露出の多い衣装を着ろということさ。

ふざけるなよ。お前、僕の胸がまな板なのをバカにしているのか?お前も同じようなもんだろうが。

 

しかし、謝肉祭(マハラガーン)に参加できるのは嬉しいことだ。

何せ、僕の人生の楽しみの一つである食事が楽しめる。美味い飯にありつけるなら、僕は何だってするさ。

いやあ、今回は本当にタイミングが良かったなぁ!

 

「…………アルト?」

「アルト……ですか?」

「アルト……!」

 

聞き覚えのある三つの声に、思わず「げっ」と漏らした。

最悪。この二文字が、脳内を支配する。

この国で、会いたくなかったトップ3のメンバーの声だったからだ。

 

一人はこの国の王であり、パルテビアで出会った少年・シンドバッド。時は流れ、今では三十路突入したおっさんであるが、僕の知り合いの一人である。

 

そして同時に、厄介な男でもある。

この男、黒いのだ。

いや、肌の色がとかそんなどうでもいいことじゃなく、そもそもこいつは特に肌が黒いわけでもないけど、何というか、黒なのだ。

まぁ簡単に言えば、悪い奴の匂いがする。そして、その匂いは約二千年前に出会ったあの男と同じ匂い。僕を人間嫌いにさせた、あの男と同じ。

だから僕は、シンドバッドが嫌いなのだ。

 

それと、あと二人はジャーファルとヤムライハ。

彼らは別にそこまで嫌いじゃない。どちらかと言えば苦手の部類に入る。

あ、なんか頭痛くなってきた。

 

ダッ!

 

「アルト!またシンドリアに来てくれたのね⁉︎」

「ぅぐえっ!苦しい、放せヤム!」

「さ、今度こそあの魔法の命令式を教えてもらうわよ!」

「知るかそんなの!放せっつってんだ!」

 

僕の姿を見るなり、一目散に駆けて来たヤム。

ホント、魔法のことになれば目の色変わるよね。せっかくの美人さんなのに、勿体無い。

 

この娘の魔法に対する意欲は、最早狂気だ。この僕が言うのだ、太鼓判を押しても足りないくらいだよ。

モガメット、お前の娘は元気に暮らしてるよ。でも僕を追いかけ回すのはもうやめてほしいかな。

 

「ヤム、何度も言っているだろう。僕は自分のためにしか魔法は使わないと決めているんだ。だからいい加減諦めろ、そして放せ」

「お願いアルト!せめて、あの簡略化された転送魔法の魔法式だけでも教えて!」

「そんなの自分で作り出せ。僕は知らん」

 

パチンと指を鳴らすと、ヤムの体がふよふよ浮いて離される。

ようやく自由を手にした僕は、ぐーっと伸びをした。

 

「久しぶりですね、アルト」

「やぁ、久しぶりだな、ジャーファル。相変わらず変わらないな」

「それはこちらのセリフですよ」

 

いやいや、お前にも同じ事が言えると思うぞ。

ジャーファルは童顔だからな。昔っから顔立ちが変わらねー。強いて言うなら背が伸びたかな?

 

「そんなことより、今夜宴があるんだろ?楽しみにしてるよ」

「ええ、今朝久々に南海生物が現れましてね。民も皆、夜を待ちわびているのですよ」

「ハハッ。祭り好きなんだな、この国の民達は」

 

賑やかな事は僕も好きだ。

この国は、本当に良い所だと思う。

そんな素晴らしい国を建てた。さっきからずっと見てくるこの野郎だからこそできたことだ。

 

「……よくやったじゃねーか、シンドバッド」

「!」

 

ボソッと呟いたのを聞きとめたシンドバッドが、少し頬を赤くした。

そんな彼を見ないふりして、僕は夜が更けるのを待った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。