「……あぢぃ…………!」
暑い。暑い暑い暑い暑い‼︎
はい、ここは真夏の国シンドリア王国。
赤道付近にあるため、やたらと暑い。ギラギラした太陽が照りつけてくる。どこの王様に似たんだか。
もうヤダ帰りたい。もう帰ろうかな。
あ、でも、ここのパパゴラスの丸焼きは絶品なんだよな……。
ううっ、食欲には敵わない。よし、これだけ食べたら帰ろう。そうしよう。
「アルトさん?」
「うぁあああああああ‼︎」
ビクッと肩を上げて、振り返る。見上げなければ、その顔が見れない。
赤い髪にムスーンとした顔、超デカいこの男はマスルール。
「いきなり話しかけるな!驚くだろ⁉︎」
「はぁ、すみません」
「オイ、マスルール!先輩を勝手に置いてくな!」
げっ!僕の嫌な予感センサーが反応する。
回れ右して逃げようとしたら、首根っこを掴まれて持ち上げられた。
ぐぁあああああ!ファナリス嫌いぃぃぃぃ!
「ん?あっ!アルトじゃねーか!」
「シャ……シャルルカン……」
ひょいと軽く手を挙げて駆け寄ってきたのは、チャラ男ことシャルルカン。こないだ会ったアールマカンの弟だ。
昔はとっても可愛い男の子だったのに……誰だ!こんなチャラ男に育てたのは!
「…………」
「ん?何だよその目は」
「いや……時の流れって残酷だなぁって……」
「なんだよ、そりゃ俺だって大人になるっての。大体お前は時が経ってもそのままだろうが」
「昔は何でもすぐに泣く可愛い子供だったのに……」
「うるせえ!いつの話してんだ!」
ていうかいい加減下ろしてもらえないだろうか、マスルール。
マントごと服の襟を掴んでるのはわかるんだけど、このままじゃ破れそう。ていうか喉が苦しい。
チラ、とマスルールを見て視線で訴えると、黙って腰を抱えてだっこしてくれた。
……下ろしてはくれないのね。
「お前ホント変わらねーなぁ。年をとらねぇってのは本当なんだな」
「会った時からそう言っているだろ。それとマスルール、いい加減下ろせ」
「…………城、来てくれないっスか」
「行かねえよ。僕は今回こそ、のらりくらりと平凡な旅をしたいんだ。国のトップに挨拶回りしに来たんじゃねーよ」
「じゃあ下ろしません」
「お前人の話聞いてた⁉︎」
こいつも無理矢理か!ミュロンといいマスルールといい、ファナリスの連中はみんな耳が悪いのか!
「じゃあ行きましょうか」とマスルールに担がれたまま、僕はまたまた連行されたのだった。
……なんで旅をすると毎回こうなるんだろ……?
「アルト殿!」
「あー!アルト!」
「帰っていいですか」
「ええ⁉︎」
王宮に攫われて、出迎えてくれたのはスパルトスとピスティ。今すぐにでも回れ右して帰りたい気分だった。
この分だと、ヤムライハはまた研究室に籠っているらしい。会わなくてよかった。
だってヤムに会ったら即行で研究室に閉じ込められて、魔法の研究に付き合わされる。ひどい時には五日間くらい解放されないこともある。悪魔だあの娘は。
そういえば、あのお母さんと葉王もいない。
むしろそっちの方がいい。ジャーファルの奴は昔優しくしちまったせいか無駄に懐きやがったし、シンドバッドに至ってはもう好意が目に見えてわかる。言葉にしなくても伝わってくる。
頼むから帰らせてくれ。
ピスティがくいくいと僕のマントを引っ張る。
上目遣い可愛い。卑怯だ!
「ねぇねぇアルト!
「南海生物が出たのか?」
「うん!ついさっきね!」
「美味い飯が食えるなら残ってやってもいいが……」
「ホント⁉︎じゃあ、早速着替え……」
「バイバイ」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ‼︎」
ピスティの言いたいことを一瞬で察した僕は、踵を返して帰ろうとした。
泣きながらピスティが謝っているが、どうせ嘘泣きだろう。男は騙せても女の僕は騙せんぞ、ピスティ。
え?ピスティが何を言いたかったのかって?あの布面積の少ない露出の多い衣装を着ろということさ。
ふざけるなよ。お前、僕の胸がまな板なのをバカにしているのか?お前も同じようなもんだろうが。
しかし、
何せ、僕の人生の楽しみの一つである食事が楽しめる。美味い飯にありつけるなら、僕は何だってするさ。
いやあ、今回は本当にタイミングが良かったなぁ!
「…………アルト?」
「アルト……ですか?」
「アルト……!」
聞き覚えのある三つの声に、思わず「げっ」と漏らした。
最悪。この二文字が、脳内を支配する。
この国で、会いたくなかったトップ3のメンバーの声だったからだ。
一人はこの国の王であり、パルテビアで出会った少年・シンドバッド。時は流れ、今では三十路突入したおっさんであるが、僕の知り合いの一人である。
そして同時に、厄介な男でもある。
この男、黒いのだ。
いや、肌の色がとかそんなどうでもいいことじゃなく、そもそもこいつは特に肌が黒いわけでもないけど、何というか、黒なのだ。
まぁ簡単に言えば、悪い奴の匂いがする。そして、その匂いは約二千年前に出会ったあの男と同じ匂い。僕を人間嫌いにさせた、あの男と同じ。
だから僕は、シンドバッドが嫌いなのだ。
それと、あと二人はジャーファルとヤムライハ。
彼らは別にそこまで嫌いじゃない。どちらかと言えば苦手の部類に入る。
あ、なんか頭痛くなってきた。
ダッ!
「アルト!またシンドリアに来てくれたのね⁉︎」
「ぅぐえっ!苦しい、放せヤム!」
「さ、今度こそあの魔法の命令式を教えてもらうわよ!」
「知るかそんなの!放せっつってんだ!」
僕の姿を見るなり、一目散に駆けて来たヤム。
ホント、魔法のことになれば目の色変わるよね。せっかくの美人さんなのに、勿体無い。
この娘の魔法に対する意欲は、最早狂気だ。この僕が言うのだ、太鼓判を押しても足りないくらいだよ。
モガメット、お前の娘は元気に暮らしてるよ。でも僕を追いかけ回すのはもうやめてほしいかな。
「ヤム、何度も言っているだろう。僕は自分のためにしか魔法は使わないと決めているんだ。だからいい加減諦めろ、そして放せ」
「お願いアルト!せめて、あの簡略化された転送魔法の魔法式だけでも教えて!」
「そんなの自分で作り出せ。僕は知らん」
パチンと指を鳴らすと、ヤムの体がふよふよ浮いて離される。
ようやく自由を手にした僕は、ぐーっと伸びをした。
「久しぶりですね、アルト」
「やぁ、久しぶりだな、ジャーファル。相変わらず変わらないな」
「それはこちらのセリフですよ」
いやいや、お前にも同じ事が言えると思うぞ。
ジャーファルは童顔だからな。昔っから顔立ちが変わらねー。強いて言うなら背が伸びたかな?
「そんなことより、今夜宴があるんだろ?楽しみにしてるよ」
「ええ、今朝久々に南海生物が現れましてね。民も皆、夜を待ちわびているのですよ」
「ハハッ。祭り好きなんだな、この国の民達は」
賑やかな事は僕も好きだ。
この国は、本当に良い所だと思う。
そんな素晴らしい国を建てた。さっきからずっと見てくるこの野郎だからこそできたことだ。
「……よくやったじゃねーか、シンドバッド」
「!」
ボソッと呟いたのを聞きとめたシンドバッドが、少し頬を赤くした。
そんな彼を見ないふりして、僕は夜が更けるのを待った。