マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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シンドリア王国・夜

月が上る頃、盛大な宴は幕を開ける。

国を讃える歓声と太鼓の音が、始まりを告げた。

 

謝肉祭(マハラガーン)

起源はイムチャックの成人の儀と共に催される、海の恵みに感謝するお祭り。

シンドバッドは南海生物の撃退をパフォーマンス化し、外国からの観光客なども楽しめる一大イベントに仕立て上げたのだ。

 

謝肉祭(これ)に参加するのは、もちろん初めてのことではない。

盛り上がる街を串焼き片手に闊歩しながら、僕は少し静かな所に出た。

祭りの賑やかな雰囲気も大好きだが、少しひっそりとした空間も悪くない。

閑静なその場所に、水の音と鳥の囀る声。最高だ。

 

串に刺さった肉にかぶりつき、もぐもぐと咀嚼する。

タレが肉に浸透してて、とてもジューシーだ。美味いなぁ。

 

満天には、今日も星が瞬く。見上げればそこに数々の光が煌めいていた。

まるで、この世界に生きる全ての人々の魂の輝きのように。

 

星の数は全部でいくつあるのだろうか。

六十億年生きた僕でさえ、その答えは知らない。

正攻法で一つ一つ数えたこともあったけど、結局どれを数えたかわからなくなってしまい、諦めた。

それ以降は、星の数なんて気にせず、天を埋め尽くす星々の輝きに想いを馳せている。

 

「あ、流れ星」

 

たまに空を眺めていると、こんな風に星が空を駆ける。でもこれは本当は星なんかじゃないって、誰もが知ってる事実だ。

 

そんな真実と未知で、今日も世界は回ってる。

真実は世界を肯定する鍵であり、未知はまだ見ぬ世界への扉。それに合う鍵を見つけて、開錠していくことで、真実は増えていく。

 

そんなことに気づいた者もそうでない者も……世界は全てを包み込む。

 

「ーーー、ーーーー」

「〜〜、〜〜〜〜!」

 

遠くから、話し声が聞こえてきた。声から判断するに、二人の若い少年だ。

 

未来を見つめる彼らの会話に、水を差してはならない……僕はそそくさとその場を後にした。

 

「…………」

「どうしたんだ、アラジン?」

「ねぇ、アリババくん。さっき誰かいなかったかい?」

「え?……誰もいねーぞ?」

「そうかい……気のせいかな。そんなことよりアリババくん、新しい料理がきたよ!早く食べよう!」

「また食う気かよ、お前!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンドリアで明かした夜は、とても気持ちよかった。

皆が酔い潰れ食い倒れている路地を抜けて、森の奥に入っていく。

 

「アルト!」

 

こっちへ近づいてくる足音と、僕を呼び止める必死そうな声。思わず笑みがこぼれてしまった。

 

もういい、お前と話すことなんて何もないよ。帰ってくれ、シンドバッド。

 

「待ってくれ……っ、アルト!」

 

背中が、温もりに包まれる。

すぐ後ろまで来ているのに気づいた僕は、左足を一歩後ろに出し、シンドバッドの腕の中からするりと抜けた。

 

「⁉︎」

 

いきなり目の前から消えた僕を探して、シンドバッドがキョロキョロする。

……どうして僕のために、そこまで必死になれるんだ?シンドバッド。

 

「ここだよ」

 

このまま無視するのは少し彼がかわいそうで、背後に立ったまま声をかける。

振り向いたシンドバッドは目を見開いて僕を見下ろしていたけど、すぐにホッとしたような表情に変わった。

 

「アルト……」

「僕に何の用だ?シンドバッド。言っておくが、もう少しシンドリア(ここ)に留まれという頼みは受けんぞ」

「わかってる。行くなと言っても、どうせ行くんだろ?」

「よくわかってるじゃないか」

 

僕が答えると、シンドバッドの表情も心なしか緩む。

これが旧知の仲、といったところだろうか。僕も頬を緩ませて、微笑んだままシンドバッドの横を通り過ぎた。

 

「それじゃあな、僕は行く。まぁ、また縁があったら会えるだろう。その時は、また僕と仲良くしておくれよ」

「……あぁ。俺は待ってるぞ。シンドリア(ここ)で」

 

今度はシンドバッドは、僕を引き止めようとはしなかった。

 

……あの男は嫌いだけれど、僕にはどうも、お前を嫌いになれないや。

フッと自嘲気味に笑って、振り返ることなく呟いた。

 

「バイバイ、シンドバッド。大好きだよ」

「俺は、愛してる」

 

僕にしては珍しく、最後の一言を聞き損ねた。

 

水平線から、陽の光が差し込むのが見える。

新しい朝の訪れを告げ、太陽は今日も世界を照らしていく。

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