マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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バルバッド(煌帝国領)

シンドリアからの直航便は出ていなかったので、一度陸に下りてから歩いてようやく辿り着いた。

 

バルバッド王国。

ここは以前、市民による大規模なクーデターが起こり、それを鎮圧する目的で煌帝国が介入してきた。

つまり、ここは今煌帝国領。街も全て壊され、所々煌帝国式の建物に変わっている。

まだ元のバルバッドの名残りはあるが……いずれ消えよう。

 

別に国の方針に一介のバケモノである僕が口を挟むつもりはないが……ある意味、恐ろしいやり方だ。

その国の全てを奪い取り、新たに作り変える……建物も法律も制度も歴史も。本当、恐ろしいやり口だ。

一体どこの誰が、そんな恐ろしい事を考えたんだか。

……いや、心当たりあるけどね。ありまくりなんだけどね。

 

侵略国家、の名がふさわしい煌帝国。僕もそう思う。

だって、本当の事じゃないか。国の全てを奪い、自分の国と同じにする。文化否定、とはまさにこのこと。

世界中に色んな人がいて、色んな考え方があるからこそ、多種多様な文化が生まれるのに……。

 

……まぁ、確かにその文化の差異で、戦争が起きているというのは一端でもあるけれど。

彼らはそれに固執して、一つの世界を作り上げ、唯一の王が世界を治めねばならない……と考えた。

 

いやぁ、歴史は繰り返すね。

かつて僕に魔力(マゴイ)を与えてくれていた、あいつと。

 

さて、そんなことは置いといて……どこかに食事処とかないかな?と、辺りを見渡してみたけど、どこもかしこも工事ばっか。

街を整備しているから、店なんてどこも開いてない。ふざけんな。

あーあ。ここの名物・エウメラ鯛のバター焼き、絶品なのにな〜。

 

チッ、ここはもう何もないらしい。

何もない国なんて、荒野と同じで何の面白みもないつまんない所だ。

しょうがない、さっさと別の国に行くか……。

 

「うぅ……ぐすっ、ひっく……」

 

……ん?どこかから、泣き声が聞こえてくる。

辺りをキョロキョロしてみても、あるのは工事中の建物ばかり。仕方ない、遠隔透視魔法を使うか。

 

あ、いた。工事中の家の近くに、女の子が一人。

小麦色の髪を小さくポニーテールにしてるその子は、何かわからないけれど、えんえんと泣いていた。

大丈夫かな〜、あんな所にいて。絶対上から材木とか落ちてく……あ。

 

ガラガラッ!

 

「‼︎」

「危ないっ‼︎」

 

女の子が降り注いでくる材木に怯え、落下する材木を見ているだけしかできない工事の人達。

あーあー。ったく、何で僕の嫌な予感って当たりやすいんだ?

このまま短すぎる人生が終わるのを見てるのも偲びない。……助けるか。

 

「『力場停止(ゾルフ・メドウン)』」

 

パチンと指を鳴らして、材木を止める。

女の子は頭を抱えて地面に蹲っていたけど、いつまで経っても来ない衝撃に、ゆっくりと顔を上げた。

キョロキョロと辺りを見回して、上空の影を見上げる。僕が空中で止めた材木に驚いていた。

……いや、驚くのはいいから早いとこ逃げてくんない?

 

「何をしているんだ?さっさとそこから離れろ」

「‼︎はっ、はいっ!」

 

女の子はそそくさと走り出し、誰もいなくなったそこに僕は材木を落とした。

寸での所でまた止めて、クイっと人差し指を上に向ける。

 

「『浮遊魔法(アラ)』」

 

落ちてきた材木を、工事のおっさん達の元に戻す。

 

え?奴らがおっさんなら僕はババアだって?……あー、昔ジュダル(バカ)にそんなこと言われたよ。

だから、言い返してやったさ。僕は見た目が若いからいいんだってね。そしたらあいつ、「なんだよ。見た目詐欺のロリババアのクセに」なんて言いやがったから、制裁を下してやった。ハン、ざまーみろバーカ。

 

よし、これで万事解決、と。さて、あの子はどこかな?

あ、いた。僕の真反対の場所に。

 

「大丈夫?怪我はないか?」

「……………っ」

 

女の子は僕を見向きもせずに、タッと走り去ってしまった。

……まぁ、当然だよね。いきなり現れて魔法使ったもん。怖いよね。

さってと、とっととこの国から出て陸路でマグノシュタットにでも行くかな。

 

「……おい、何者だあの女」

「あれって……魔法ってヤツじゃないのか?」

「マズいぞ!魔法使いが現れた!急いで紅炎様にお伝えしろ‼︎」

 

……げっ‼︎マズい、今の場面煌の兵士達に見られてたッ!

くそっ、こんな所で捕まってたまるか!

 

「逃がすな!追えぇぇ‼︎」

 

ぎゃああああああ‼︎

嫌だっ紅炎に捕まるのだけは絶対に嫌だ!

野郎は昔、僕がアルマトランの話をするまで、一週間近く僕を監禁しやがったとんでもない男なんだからな!

ヘタしたらシンドバッドよりもタチが悪い男なんだぞ!

 

よし、ここは容赦なく裏ワザを使おう。

裏ワザって何かって?魔法に決まってるだろうが‼︎

 

「『氷結石化(サルグ・ハジャール)』」

 

パチン。

再び指を鳴らして、大気を氷結させる。

バルバッドは霧の町と呼ばれるほど湿気の多い国だから、そんな場所で氷魔法を使えば……

 

「うわっ、何だこれ!」

「足が凍りついて動けん‼︎」

 

ほらね、この通り。空気中の水分が凍って、こうなるわけだ。

よし、今のうちに逃げよう。

あまり使い物にならない鈍足を叩いて、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルバッド国境、煌帝国征西軍拠点基地。

 

「ご報告致します!昼頃バルバッド市街地にて、例の女が現れました!」

 

バタバタと忙しなく部屋に入ってきた兵士が告げたのは、あの女(アルト)を見つけたという情報。それを聞きとめた()は、ピクリと眉を上げた。

すかさず、彼の隣に立つ男が尋ねる。

 

「して、彼女は?」

「申し訳ありません、怪しげな術により足止めを食らい、逃がしてしまいました……」

「そうですか」

 

男は短く切り、頬杖をついて座る彼にボソリと呟く。

 

「やはり、兄王様に怯えたのでは?以前『滅びた世界』の話を聞き出すために、監禁したのがまずかったのですよ」

「あれがさっさと話さんから悪い。俺は知らん」

 

こちらを見向きもせずに返した言葉に、男は溜息を吐いた。

相変わらず知識欲の強いお方だ。アルト(かのじょ)が逃げたくなる気持ちもわかる……と、どこにいるかもわからない、少女の姿をしたバケモノに想いを馳せる。

 

世界の秘密を知っている、六十億年も生きた女。

そう自分で名乗って、彼女は現れた。

思わせぶりな言葉を並べ、風のように何も掴ませない妙な女。

 

しかし、彼女は存在し続けた。前皇帝が死に、太子が二人死んだ後も、彼女は変わらぬ姿で存在した。

あの女から、いつか必ず真実を手に入れてやる。

彼は彼女の小さな背中を思い浮かべて、口角を上げた。

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