Fleet Collection 業火が燃え広がる世界 作:夜間飛行
元帥と鷹泉中尉の救出に成功した加賀と吹雪だったが、金剛たちと脱出を試みるも吹雪だけが脱出に失敗し瀕死の重傷を負ってしまう。彼女を助ける手立てはあるのだろうか。
提督室
大淀「失礼します。提督。報告があります」
粕屋「ああ、すでに聞いている。吹雪の怪我のことだろ?」
大淀「あれほどの怪我となりますと艦娘としての復帰は不可能です。少なくとも我が軍の技術力では、ですが」
粕屋「あとはアトラスがどこまでやれるか、ということか」
粕屋は立ち上がり机の上のものを力の限り薙ぎ払った。
粕屋「ちくしょう!俺は吹雪が大変な時だってのに!指をくわえて見てるしかできないのか!」
大淀「提督・・・」
粕屋は底なしの無力感を感じていた。それは窓の外に見える海よりも深く静かなものだった。
アトラス社研究室
1杯のコーヒーが湯気を立てる。白衣の男はこれ以上なく優雅にコーヒーをすすり報告書を読む。男の名は鶴田翔。いわゆる天才科学者というやつである。彼が世界に与えた影響は絶大だった。彼の研究によりヒューマンバイオオーグメンテーションの技術は飛躍的に進歩した。
ヒューマンバイオオーグメンテーションとは簡単に言えば人体に機械を組み込む技術である。実を言うと加賀の義手もヒューマンバイオオーグメンテーションによるものだ。この技術により人類が永遠の命を手に入れることも夢物語じゃなくなるのだ。
助手「博士、新たな依頼です」
鶴田「登録ID D246195314515947。名前は吹雪。吹雪か。確かアトラス所属艦娘の中で最古参だったな。両手足欠損。出血多量。内臓もぐちゃぐちゃだ。こんな状態でよく生きていたな」
助手「どうなさいますか?」
鶴田「決まってるだろ。艦娘は人類にとって貴重な戦力なんだ。ヒューマンバイオオーグメンテーションを行う」
助手「了解しました」
鶴田「・・・ちょっと待った。この際他の第五遊撃部隊隊員全員にも施すことにしよう」
助手「なぜです?」
鶴田「好奇心」
先ほど鶴田は天才科学者だといったが、彼は世間一般に認められるような天才ではない。彼は
第357号室
ここは吹雪の病室である。人工呼吸器につながれた吹雪。それを重い表情で取り囲む第五遊撃部隊の面々。誰も話すことなくただ果てしない沈黙が支配していた。だがその沈黙は突然破られた。突然ドアが開かれ真っ白な防護服を着た数人の研究員が入ってきた。そして吹雪をストレッチャーに乗せる。
瑞鶴「ちょっと!吹雪をどうするの!?」
突然入ってきた男たちに説明もなしに連れていかれる吹雪。そんな理解が追い付かない状況に瑞鶴、加賀、金剛、大井、北上は研究員に詰め寄った。
研究員「手術ですよ」
金剛「Unbelievable!治るンデスカー!?」
研究員「もちろんですよ。我が社のヒューマンバイオオーグメンテーションの技術を持ってすれば治ります」
加賀「それってもしかして私の義手の・・・」
研究員「そうです。同じ技術です」
大井「加賀さんは結構義手を駆使して戦果をあげてましたよね?」
北上「吹雪もおんなじ感じになるってこと?」
瑞鶴「なかなか羨ましいわね」
研究員「それから、あなたたちも手術を受けてもらいます。」
金剛「どういうことデース!?」
研究員「あなたたちに受けてもらうのは筋肉と筋肉の結合部分に機械を植え付け身体能力を上げる手術です。それとこちら。」
研究員はタブレットを見せる。それは新しい特殊スーツの計画書であった。
瑞鶴「特殊スーツ?」
研究員「ええ。まあ、スーツと言ってもカスタマイズが可能ですので見た目としては皆さんが今着ていらっしゃる服と変わりませんがね。寒暖などの体温調節はもちろん、スーツで内蔵された機械で酸素を生成し直接体内へ供給するので海にも潜れますよ。」
全員「!?」
全員が驚愕した。いうまでもなく潜水艦以外の軍艦が海の中に潜るということは撃沈されたことを意味するからだ。
大井「ちょ、ちょっと待ってください!艤装は?艤装のおかげで海に立ってるんですよ?」
研究員「皆さんの艤装とスーツを同調すれば皆さんが念じるだけで潜ることができるようになりますよ」
北上「だけど、提督の命令でもないのにこんな手術はねぇ・・・」
研究員「許可ならもらってますよ。ほら」
そう言って粕屋提督の署名入りの命令書を見せつける。
加賀「間違いなく提督の字ね」
瑞鶴「提督の命令である以上従わないわけにはいかないわね」
北上「恐いけど、海に潜れるねぇ・・・いいかもね」
大井「北上さんと一緒ならどんな壁でも乗り越えられます!」
金剛「皆サン異論は無いデスネー?」
全員がうなづく。
研究員「それでは皆さん、早速今日から入院してもらいます。これから1人ずつ精密検査をします」
加賀たちが研究員の後を追って病室を出ていく。
加賀「ところで、もしも私たちが拒否したらどうするつもりだったんですか?」
研究員「拒否されてたら麻酔薬を使って強制的に手術を受けさせるつもりでしたよ。博士の命令は絶対なので」
加賀は自分の所属企業でありながら、少しゾッとした。この人たちはその博士に死ねと命じられたら喜んで死ぬのだろう。病院の白い壁、床、制服、それらすべてがどんどん歪んでいっているように見えた。
その日から加賀たちの入院生活が始まった。加賀は義手の時や入渠の時に入院していたので慣れていたが、金剛たちは何もかも戸惑っていた。食事は海軍病院では普通の病院食だが、ここではなんでも食べれるという。風呂も海軍のより治りが早い。ベッドは寝るとクラシック音楽をかけてくれる。何もかもが海軍のより優れていた。
入院生活は検査の毎日である。血液検査、レントゲン、MRI などなど。きっと待遇が良いのもこのせいなのだろう。
そしてついに全員の手術の日がやってきた。病室に防護服を着た研究員が入ってくる。そして加賀達をストレッチャーに乗せてそれぞれの手術室へと向かっていった。加賀の体に麻酔が打たれる。若干の痛みを感じるが徐々に意識が遠のいていく。次目覚めるときは新たな力が手に入った時だ。加賀はそう思いながら意識を手放した。
手術は体に小さな穴をあけて超小型ロボットを操作して体内に遺伝子操作などで機械を植え付けていくものだ。博士が言うには普通の人間がやれば98%が壊れるという。だが艦娘のような鍛え上げられた軍人ならばその生存の確率は格段に跳ね上がるという。
手術は8時間にわたる大手術となった。結果は大成功。加賀たちは新たな力を手に入れた。加賀は病室で目を覚ますと全身を見渡したが特に変わった様子がない。まあ若干機会を植え付けただけなので違和感があるほうがおかしいのだろう。自分の会社とはいえアトラスの技術はすごいものだと加賀は内心感心していた。
翌日からリハビリが始まった。リハビリといっても操作上の問題点の修正、強化状態の筋肉とスーツへの順応、艤装を展開しての航行及び演習。いわばブートキャンプのようなものだ。リハビリは熾烈を極めたが加賀たちは見事に期待に応え順応していった。
この地球上のどこかにある黒い部屋。そこに彼らはいた。
?「アレノ準備ハデキタカ?」
ヲ級「ハイ。プレゼントハコチラノ無線デ合図ヲ送レバスグニデモ我ガ同胞ガソレゾレノ配達場所ニ向カイ行動ヲ開始シマス。」
?「長カッタナ。戦争ガ始マッテ100年。ヤハリ人類ガ支配スルニハコノ地球ハ広スギル。人類ニ思イ知ラセル時ガ来タ。我々深海棲艦コソガコノ地球ノ真ノ支配者ナノダト。合図ハ?」
ヲ級「『パンドラ』デス」
彼は目の前の無線のスイッチを押した。そして静かで冷たい声で話す。
?「各員、聴イテイルカ?」
深海棲艦兵A『問題アリマセン』
深海棲艦兵R『電波状況良好』
深海棲艦兵F『作戦ノ指示ヲ』
?「ナニカ言イ残ス事ハナイカ?」
全深海棲艦兵『天ヨ!我等ガゴライアスノ名ヲ讃エヨ!世ニ光ヲ齎サンコトヲ!』
ゴライアス「全深海棲艦ニ代ワッテ感謝スル。コレヨリ人類殲滅作戦ヲ開始スル。『パンドラ』」
『戦争は破壊の科学である』 ー アボット
次回予告
家族旅行でロンドンを訪れたとある一家。父親がカメラで妻と娘の姿を撮っていると隣に一台のトラックが停まる。新たな悲劇の幕が上がる。