Fleet Collection 業火が燃え広がる世界   作:夜間飛行

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前回のおさらい

ヒューマンバイオオーグメンテーションの技術で新たな力を手に入れた第五遊撃部隊。だがその頃世界では人類殲滅の狼煙が上がる。


Der totale Krieg
悲劇


2065年

イギリス ロンドン

 

●REC

娘『お父さん、見て!ビックベンだよ!』

 

父親『ああそうだな』

 

母親『思ってたより大きいのね』

 

彼らはスコットランドに住む弁護士一家だ。この日は休暇を取って家族旅行でロンドンに来ていた。

 

娘『わぁ!鳥さんだ!』

 

少女は鳩の群れを見つけると走り寄っていく。鳩はその走り寄ってきた少女に驚いて一気に飛び去った。それは戦争とは無縁な平和な様子を体現したかのようだった。

 

鳩が平和の象徴とされるのは旧約聖書の『創世記』に登場する『ノアの箱舟』に由来するとされている。

人間の堕落を憂えた神は大洪水を起こして人類を滅ぼすことを計画する。ただそんな中、唯一信心深かったノアという男にだけはそのことを伝えた。

そして、「方舟を作り、家族とつがいの動物を乗せなさい」と告げた。ノアは神のお告げ通りにし、大洪水に備えた。

そして神は宣言通り大洪水をおこし、方舟に乗せたノアの家族と動物以外を滅ぼした。

 

方舟はアララト山の上に停まり、40日後ノアは鳩を放った。地表が出ているかどうかの確認をさせるためである。鳩はオリーブの葉を持って帰り、再び地表が現れたことを伝えた。そして方舟は地表へたどり着き、再び人類と動物は繁栄したという物語である。

 

この逸話により鳩が平和の象徴とみなされるようになった。

 

その認識がさらに高まったのは20世紀の画家パブロ・ピカソの影響もあるという。1949年パリで第1回平和擁護世界大会が行われた。その会議のポスターを手掛けたのがピカソだった。そこにはオリーブの葉を咥えた鳩が描かれた。これにより鳩が平和の象徴であるという認識が世界中に広まったのである。

 

日本では逆に鳩は戦神八幡大菩薩の神使として扱われた。軍記物には出陣に際して、勝利の瑞鳥として現れる話が数多く残されている。平安時代には平家物語にも登場する熊谷直実が軍功により源頼朝から「向かい鳩」の家紋を下賜されるなど、武家の家紋にも採用されるほどだったという。

このように日本と西洋との鳩の認識は全く逆だったのである。

 

話を戻そう。

 

父親『こらこら、危ないぞ』

 

母親『そんなに走ると転んじゃうわよ?』

 

娘『早く早く!』

 

父親『ハハッ、わかったよ』

 

母親『ごめんなさい、あなた。あんなに忙しい時期なのに』

 

父親『いいんだよ。家族サービスってやつさ』

 

その時、すぐ隣を1台のトラックがゆっくりと通過し、十数メートル先で停まった。父親は気が付きはしたが娘を撮るのに夢中になっていたので特に気にしてはいなかった。その後カメラは捉えた。停車した後逃げるように運転席から降りトラックから離れる男2人組の姿を。そして次の瞬間トラックは爆発した。

 

爆発したトラックの荷台から緑色の気体が溢れ出した。デイビス一家は爆発により全員が即死していたので吸い込むことはなかったが、吸い込んだ人間は次々と倒れていった。

 

 

横須賀鎮守府内のとある場所

 

薄暗い部屋。普段は静かで若干の話し声とキーボードをたたく音だけが聞こえるのだが、今は怒号が飛び交っている。ここは国際統連合軍情報統制部である。横須賀鎮守府にはもちろん場所は言えないが設計図には載っていない部屋が存在する。この場所を知っているのは提督、任務娘である大淀、秘書艦である長門、情報艦である青葉のみである。

 

BBC《グリニッジ標準時午後1時20分頃、深海棲艦による大規模なヨーロッパ同時攻撃が行われ・・・》

 

ARD《毒ガスによりベルリンは死体の山と化しており・・・》

 

HTV《現在官庁街より半径3km圏内は軍により完全に封鎖されており…》

 

RAI《これに対し政府は国家非常事態宣言を発令し・・・》

 

粕屋「状況を報告せよ!」

 

大淀「提督!深海棲艦の攻撃目標はパリ、ベルリン、ローマ、ロンドン、モスクワ・・・」

 

青葉「提督!GIGNより通信!画面に出します!」

 

GIGN隊長『こちらGIGN本部!部下が死んでいく!ゴホッゴホッ、私も吸い込んでしまった!』

 

青葉「KSK、GIS、SAS、スぺツナズからも緊急通信です!」

 

ドイツ海軍『こちらヴィルヘルムスハーフェン海軍基地!深海棲艦の攻撃を受けている!』

 

粕屋「深海棲艦による毒ガス攻撃の報告は受けている。直ちに中和部隊を送る」

 

ドイツ海軍『違う!深海棲艦の大艦隊だ!猛攻を受けている!上陸部隊もいるぞ!』

 

粕屋「繰り返せ、ヴィルヘルムスハーフェン。深海棲艦が?」

 

ドイツ海軍「深海棲艦の総攻撃だ!直ちに援軍をよこせ!」

 

粕屋「了解した。直ちに艦隊を派遣する。半日だ。半日持ちこたえてくれ」

 

鎮守府内に警報が鳴り響く。いつもは作戦会議室で命令を出すのだが直ちに出動しなければならないときはこのように警報が鳴り響き館内放送で作戦を伝える。

 

粕屋『提督の粕屋だ。ドイツ ヴィルヘルムスハーフェン海軍基地から連絡があり、現在同基地は深海棲艦の艦砲射撃を受けているとのことだ。我々はこれに対し艦隊を派遣を決定した。全艦出撃せよ。幸運を祈る。』

 

艦娘「了解!」

 

艦娘たちは全員敬礼をすると急いでドックへ、ではなく飛行場へと向かった。艦娘専用フライトスーツを着ると格納庫の輸送機に飛び乗る。

 

パイロット妖精「管制塔。こちらFGC-1。全員の座乗を確認。離陸許可を求む」

 

管制塔「了解FGC-1。離陸を許可します」

 

数十機の輸送機が順番に牽引車に引かれて誘導路に出て行く。

エンジンが唸りを上げて機体がゆっくりと滑走を始めた。長門は全機につながる無線を手に取った。

 

長門「今回の任務はドイツ近海の深海棲艦の撃滅である!今回の攻撃はこれまでのものとは比べ物にならない程激しいものだ。私のような戦艦にも轟沈艦が出るだろう。しかし!私は貴様達の日々の訓練に対する努力を知っている!貴様達は再び祖国の土を踏むことができるだろう!この作戦が失敗すれば敵はヨーロッパ全土を支配下に置く。これは言うまでもないがヨーロッパ諸国民の運命は偏に貴様達の双肩にかかっている!獅子奮迅の活躍を期待する!暁の水平線に勝利を刻み込むのだ!以上をもって私の訓示とする」

 

その瞬間艦娘たちは鳥になった。彼女達は今西へ飛んでいる。夜に飛び立ったが西に進むにつれて西の空が白み始める。それはまるで太陽が彼女達を歓迎しているかのようだっだ。

 

粕屋は艦娘たちに任務を伝えた後、もう1か所に無線を繋げた。

 

加賀《何でしょうか提督》

 

粕屋「全員聞いているな?」

 

全員《はい》

 

粕屋「内容は言わなくてもわかるだろう?」

 

吹雪《深海棲艦のヨーロッパ大規模同時攻撃ですね?》

 

粕屋「そうだ」

 

金剛《meたちにも出撃しろってことデスネー?》

 

粕屋「そうなんだがお前たちにはもう一つ別の任務についてもらう」

 

加賀《別の任務?》

 

粕屋「攻撃を受けた同時刻にハンブルクで深海棲艦が会議中だった各国首脳たちを人質にしている。目的はわからないが安全確保の為に助けてやってほしい」

 

吹雪《待ってください。それだけの理由じゃないですよね?今回の会議には日本の首脳は参加してないですしわざわざ日本から出向く必要がないのではないですか?》

 

粕屋「さすが吹雪だな。今回の会議には首脳の他に参加者がいたんだ」

 

瑞鶴《参加者?なんかとんでもない人のような気がするんだけど》

 

粕屋「『灰色の男たち(グレイメン)』と呼ばれる7人の男たちだ。世界経済を牛耳るほどの権力を持っている」

 

大井《世界経済って・・・滅茶苦茶とんでもない人たちじゃないですか!?》

 

粕屋「実はわが軍がこうして活動できるのも彼らの資金面での支援が大きい。ここで灰色の男たちを失うということは軍が立ちいかなくなるということを意味する。だから絶対に彼らを無事に救出しなければならない」

 

加賀《了解しました。直ちにハンブルクに向かいます》

 

粕屋「ついでに言っておくがこの任務の指揮はアトラス(そっち)に一任することになっている。そちらの指揮官に従うように」

 

全員《了解!》

 

アトラス社

 

アトラス社にいた加賀たちは提督からの命令を受けアトラス社内の格納庫にある輸送機の中にいた。ウィングスーツを着込みヘルメットをかぶりすでに準備万端だった。

 

加賀「任務の再確認をするわね。毒ガス攻撃と同時にハンブルク市内で行われていた会議が深海棲艦の襲撃を受けた。参加していたEU各国首脳たちと灰色の男たちが人質になっているわ」

 

加賀に対し吹雪がヘルメットの濃色シールドを挙げて答える。

 

吹雪「今回の任務は首脳と灰色の男たちの保護」

 

加賀「ええ、そうよ。首脳と灰色の男たちの安全が確保でき次第私たちもヴィルヘルムスハーフェンに向かう」

 

金剛「いよいnew第五遊撃部隊の出番ネー!」

 

北上「じゃあみんな準備はいい?」

 

大井「はい!北上さん!」

 

北上は無線機を手に取った。

 

北上「じゃあ発進しちゃってください」

 

北上がそう言うとエンジン始動とともに機体が小刻みに揺れ始める。

 

金剛「今までsecretにしてマシタケド、実は飛行機苦手なんデース。特にlandingが恐くて」

 

吹雪「だ、大丈夫ですよ金剛さん!ち、着陸よりもりり、離陸の方がき、危険らしいですから・・・」

 

金剛「ブッキー!不安を煽るような事を言うのはやめてくだサイ!!」

 

北上「ハハハ・・・」

 

大井「金剛さんやっぱり飛行機苦手だったんだ。だから降下の訓練の時欠席が多かったんですね」

 

それぞれが思い思いの事を話す中、加賀だけただ一人ずっと考え事をしていた。

 

加賀(いよいよ深海棲艦も本気を出してきたってとこかしら。だけど首相や灰色の男たちを人質にするためにこんな大事を起こすのだろうか?何か別の目的が?それに今回の攻撃。裏に巨大な何かが動いているような気がする。案外他に隠し玉があるのかもしれないわね)

 

加賀は色々と思案を巡らせた。ただ加賀のこの考えが現実のものになるのはまだ後の話である。

 

窓はないので外の様子はわからないが機体が進んでいるのだけはわかった。徐々にスピードは上がっていき機体が傾いていく。下に重力を感じる。離陸すると輸送機は高度1万メートル以上を飛行する。敵の視認圏外であり攻撃を避けるためだ。作戦はこうだ。各国空挺及び艦娘部隊と合流。ドイツ上空に到達後ウィングスーツで降下。ベルリン上空では敵艦載機による激しい攻撃が予想されるため超低空飛行を行い高層ビル群を楯に目標へと接近する。閣僚達の安全を確保でき次第、基地へと向かう。大まかに言えばこんな感じである。

 

鉄の鳥は夜空へ舞い上がり矢の如く遠いドイツを目指す。地獄への一方通行。それを彼女達は神妙な面持ちで感じていた。

 

 

 

『平和を思うのに死にに行く。それが異常だと気づけない』 ー藤原寛治




次回予告

灰色の男たちと各国首脳らの救助に向かった第五遊撃部隊。だがそこで深海棲艦の真の目的を知ることになる。地獄の扉はまだ開いたばかりである。
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