その日も俺はノートパソコンの電源を入れ、提督(艦これ)の任に着いた。
前回から俺は何もしていなかったわけではない。様々なサイトから情報を仕入れ、
効率的な資材の運用について学んでいたのだ。
<か・ん・こ・れ 始まるよ!>
「おーし来た!今日こそは絶対練習艦、潜水艦を当てるんだ!!」
「もう、なんでいちいち起動するたび叫ぶんですか!キーボードクラッシャーと
やってること同じですよ、とっくに旬の過ぎたネタですけど!
とにかくうるさいから静かにプレイしてください!」
執務室の片隅で打ち込んでいた経理仕事の手を止めて、三日月が文句を飛ばしてきた。
「悪かった悪かった、でも聞いてくれ、今日の俺は違う。違うんだ」
「“何が?”って聞いて欲しいんでしょうけど、どうせ艦これ絡みのことだから
放置することにします」
「俺は今の艦隊運用を根本的に見直すことにしたんだよ」
「うわ、無視だよ……まぁこっちも無視するけど」
「燃料が慢性的に枯渇している窮状については前回話したとおりだ。
原因は主力艦隊の燃費が悪すぎる点だ。一回出撃して補給する度に
ごっそり資材を持ってかれるから、建造レシピを回せない歯がゆい状況を、
指をくわえて見ているしかなかった。しかぁし!」
「うるさい!」
「……こほん。しかし、俺は某巨大掲示板に助けを求めた。
すると有力な情報が得られた」
「結局人頼みですか」
「こんな回答が帰ってきた。“駆逐育てろ”“遠征しろ”。以上だ」
「煽られなかったのが奇跡ですね」
「確かに!一年ほど前の俺はとにかくステージを突き進む為に
航空戦艦、空母、重巡といった強力な艦ばかりで編成し、駆逐艦達を軽んじてきた!
そこで俺はとりあえず改または改二まで改造可能な手持ちの駆逐艦だけの艦隊を作り、
演習でLv100前後ある相手の胸を借り、ささっといくつかレベルを上げてみた。
するとどうだろう!何度か連戦したにも関わらず、
消費資材が主力艦隊の5分の1にも満たないじゃあないか、
なんという低燃費!低コスト!天皇陛下バンザーイ!」
「(ますますキークラね)ええと、メロンブックスが3165円、と……」
「今の主力艦隊は第3艦隊で、遠征・出撃用に駆逐艦に軽巡を2隻混ぜたメンバーに
編成し直した第2艦隊、そして第1艦隊を駆逐艦育成用に当てた。
すると今までのジリ貧状態が徐々に改善されてきたのだよ三日月君!」
「それと、まだ手もつけてないバイオ7が6850円。ああ、やっと終わった」
「次に驚いたのは遠征だよ。また例のWikiで調べたら、
なんと3時間で燃料350も手に入るミッションがあるじゃないか!
俺はすぐさま第2艦隊を派遣した!驚いたね、昼寝から目覚めたら
2桁だった燃料が一気に300近くになったじゃないか!
あ、少し減ったのは燃料不足で補給できなかった艦に補充したからだよ。
これまで長時間艦隊が動かせなくなるのが嫌で放ったらかしていたのがアホらしい!」
「らしいじゃなくて掛け値なしのアホです。
とりあえず昼寝の件は上層部に言いふらしておきます」
「まま、待ちたまえ!今日は君にとっても嬉しいニュースがあるんだよ、あるんだよ!」
「2回言わなくてもわかります」
「そう言わずにこれを見てくれたまえ!」
俺はノートパソコンを反対側に向けた。
三日月が面倒くさそうに近寄ってきてモニタを覗き込んだ。
「ああ、彼女は……」
「そう、“ぜかまし”だよぜかまし!あの万能レシピを回していたら
偶然、たまたま、ラッキーなことに彼女に出会えたんだよ!
高性能駆逐艦と言われているぜかましに!」
「いちいち声が大きいと何度言えば……もういいです。あーよかったじゃないですか。
駆逐艦隊に入れてあげたらどうですか?」
「もちろんだとも。ええと、彼女は性能的に……サヨナラ。
ほんで、ぜかましをポチッとな。おーし!流石にレベル1で実戦には出せん。
また平均レベル100の廃じ……先輩方の胸を借りるとしよう」
「レア艦の育成で少しは大人しくなってくれるといいんだけど……」
そして俺は到底勝てる相手ではない艦隊と演習を開始した。
一方的にボコられる俺の艦隊。だが構わない。
1ポイントでもダメージを与えればそれだけ経験値は増える。
またレベル差が大きければ大きいほどそれは同じ。
だが、そんな消化試合を眺めていると、俺は信じがたいものを目にした。
「おい、なんだよこれは……一体どういうことだ!俺わかるように説明しろー!!」
「今昼休みじゃなかったら、そのデカイ頭に爆雷投げつけてるとこでした」
「見てくれこの戦闘結果を!」
「何が変なんです?」
「敵チームの編成だよ!気になる艦娘はいないのか!?」
「あーこれは……提督に遠距離セクハラされてるコマンダン・テストさんですね。
羨ましいからって喚き散らすのは止めてください。
通常建造できるまで待つっていったじゃないですか」
「そうじゃないんだ、俺だって既に彼女を手に入れた提督がいても
仕方がないことくらいはわかってる!
でも、戦闘中に恐ろしいものを見てしまったんだ!」
「どうしたんです。提督に向かって中指立ててたとか?」
「そんな甘っちょろいもんじゃない!こともあろうに、
彼女は、彼女が!升に入った豆を持って微笑んでたんだ!
ああ間違いない、これは節分期間限定グラだ!くそっ、運営の連中め!
パリジェンヌになんてことさせやがる……!」
「牛丼の方がよかったですか?」
「いいわけないだろう!それにWikiで過去の限定グラを見てみると……(カタカタ)。
見てくれよ!“春の花束”なんて素敵なグラがあるじゃないか!
これだろう、美しいパリジェンヌに持たせるなら!升に入った豆なんざ、
それこそ鬼怒のほうが似合ってるだろう、名前がモロ鬼だし!威嚇ポーズだし!」
「今度他の艦娘に八つ当たりしたらマジビンタしますから」
「すいません……でも、でもこんなのおかしいよ!
どうして彼女だけ……彼女が、彼女が遠くに行ってしまう!」
「元々高嶺の花だったじゃないですか。もう彼女のことは忘れて、
大人しく駆逐艦の育成に戻ってください。
ああ、そろそろ昼休憩も終わりなので、私も仕事に戻ります」
「ちくしょう……今の俺にできるのは、ぜかまし含む駆逐艦のレベル上げだけか。
己の無力さが嫌になる」
「あーちなみに、どうして彼女が“ぜかまし”と呼ばれてるかご存知ですか?」
「え、あ、それはーあれだ。きっと“ぜんいん かえるときは まどを しめてね”の
略だ、多分!」
「アホ丸出しの回答ありがとうございました。……逆読み」
「逆読み?……あぁ、なるほど。でもなんで反対なんだ?」
「昭和初期はまだ日本も逆読みだったから、その雰囲気を出したいんじゃないか、
っていうのが“タレ派”の野郎の見解です」
「なるほどー物知りですのね三日月さん……」
*先輩方、一体どんな育成をされてるんですか?本当に…