外史へ(一護視点)
白装束の男の持つ銅鏡の光に飲み込まれてしばらく経ち、光が収まったのを感じ目を開いた。
「…なん、だ…ここは」
目に入ったのは、断界ではなくだだっ広い荒野だった。
尸魂界の瀞霊廷の外に似たような場所はあちらこちらにあるが、まさかあそこまでやって尸魂界のどこかってことはないはずだ。
「ったく、何だってんだ…」
情報を整理しようと思ってもその情報が少なすぎる。
俺をここに連れてきた奴は道士で霊圧が全く無い、多分人間。
道士ってのが何か分かんねーが、マンガとかで見た道士と同じなら、何かしら妖しい術でここに連れてこられたという事になる。
「…まだ狐に化かされた方が現実味があるぞ」
俺は深いため息を呆れながら吐いた。
何をしようにもどこに行こうにも、目的が定まらない。
とはいえ、ボーッと突っ立って時間を潰すのも解決にならない。
「しょーがねぇ。テキトーに行くしかねーか…」
「お、兄ちゃん。良い得物持ってんじゃねーか」
とりあえずの指針(っても目的地は無い)を決めたとこで、声を掛けられた。
ラッキーと思って振り向くと、そこに居たのは頭に黄色い布を巻いた男三人。
その全員が俺を見てニヤニヤしていた。
「得物ってーーあれっ⁈」
そこで、俺は斬月が今の二刀ではなく昔の一刀の斬月になっている事に気付いた。
鞘も柄も鍔もハバキも無い、昔の斬月の始解状態。その斬月が俺の背中にあった。
三人の中のオッサンの斬月の評価はとりあえず横に置いて、俺はオッサンに質問を飛ばした。
「スンマセン、ここってどこか教えてもらってイイっスか⁇」
この質問に、三人はお互いに見合ってボソボソと話し合いを始めてしまった。
ただ、ここがどこか知りたかっただけなんだが。呆れながら眺めていると、話し合いが終わったのか、真ん中のオッサンが。
「その大剣を寄越しな。そしたら教えてやるよ、兄ちゃん」
こんなアホな提案を寄越してきやがった。
「何言ってんスか。何でそんな事で斬月渡さなきゃなんないんスか」
「はぁ⁇ タダで教えるわけねーだろ。ほれ、さっさと寄越しな」
まぁ、言ってる事に間違いは無い。
ただ、オッサンの基準が普通とかけ離れ過ぎている。対価も釣り合ってねーし、わざわざそこまでして教えてもらう義理も無い。
「…じゃイイっスわ。スンマセンした」
内心でため息を吐きながら反転、歩き出すがその行く先をオッサンの連れのチビとデブが塞ぐ。
そして、退路を塞ぐようにオッサンが俺の背後に立つ。
「…何の真似だ⁇」
「分かってんだろ⁇」
ニヤつくオッサン。
どうやら、目的は斬月らしい。少なくとも、視線が斬月を捉えている。
一応、三人の霊圧を探るが思った通り霊圧を「全く」感じない。
霊圧に絶大な差が出ると弱い方が強い方の霊圧を全く感じ取れなくなる、らしい。
実際、最後の月牙天衝を会得した俺と対峙した藍染惣右介が霊圧を感じ取れず、霊圧を棄てたと勘違いしたほどだ。
それに一定以上の霊力が無い場合も霊圧が感じ取れない。
目の前の三人が別次元の強さを持ってる、とは思えないので多分、後者の方だろう。
前者なら、斬月は要らない筈だ。
「やるってんなら、容赦はしねーぜ」
俺は斬月に手を掛けず自然体でチビとデブに向き合う。それと同時にオッサンの気配に気を配る。
三人の強さはおそらく合わせても俺より下だ。だが、気は緩めない。
ここは未知の場所。何があるか分からない。
三人が剣を抜いたところで。
「いくぜ」
俺はデブの鳩尾に掌底を叩き込んだ。
「ぶふぉぉっ⁈」
「「デブッ⁈」」
名前で呼んでやれよ、と思いつつチビの背後に回り首に手刀の一撃を見舞う。
マンガとか時代劇でよくやってるが、チビが意識を失うのを見て案外上手くいくもんだなと思った。
「テメェェッ‼︎」
二人の惨状を見てなお向かってくるのは、勇敢なのか無謀なのか、はたまたタダの馬鹿なのか。
向かってくるオッサンに正対し、オッサンが振り下ろす剣を俺は受け止めた。
「っ…ぁ…⁈」
「悪いな、オッサンの剣じゃ、俺を斬るのはーー無理だ」
そう言って、俺はオッサンの剣を片手で折った。
▼
俺は、未だ最初の場所から大きく移動していない。
斬月を欲しがったオッサンは剣を折られて戦意を無くしたのか逃げ出した。
驚いたのは、手加減したとはいえデブがすぐに復活し意識が無いチビを抱えてオッサンの後を追っていった。
足は遅いが、何となく後ろ姿で二番隊の副隊長の大前田稀千代を思い出してしまった。
そこまではいい。まぁ、ちょっと絡まれたりしたがようやく移動出来ると思ったからだ。
しかし、だ。
「いやはや、得物を使わずに賊を追い払うとは。良い腕をお持ちだ」
ちょっと絡まれるスパンが短すぎやしないか。しかもまた三人組。
違う点は、さっきは男。今は女、それだけだ。
その中の水色髪の女が上機嫌な様子で俺に声を掛けてきた。その片手には二股の槍。どうやら、戦える人間らしい。一応三人とも調べたが霊圧はやっぱり感じられなかった。
その水色髪の女の後ろには二人の女。眼鏡を掛けた黒髪の女と淡い金髪の女。
眼鏡を掛けた黒髪の女は、カッチリしてそうでどことなく八番隊副隊長の伊勢さんに雰囲気が似ている。
淡い金髪の女は、見た感じお子様だ。のんびりしてそうで、ペロペロキャンディを持ち頭に変な人形を乗せている。まさか、不思議ちゃんなのだろうか。
水色髪の女は艶やかなミニスカ着物を下品にならないレベルで着崩している。この人は雰囲気が十番隊副隊長の乱菊さんに似ている。何となく、酒も好きそうだし。
「で、アンタらも俺に何か用か⁇」
「これといって特に無いな。純粋にお主の戦う様を見ていただけだ」
「別に私たち二人は興味ありませんでしたが」
「私はそーでもないですよー。体の使い方とかは星ちゃん並みに上手でしたしねー」
「…まぁ、確かに」
「用が無いんなら、俺は行くぜ」
時間は無限じゃない。
見知らぬ場所で野宿とか勘弁被りたい。しかし、向こうはそんな事御構い無しのようで。
「まぁ、待ちなされ。そんなみすぼらしい姿でフラついてると、また襲われてしまうぞ」
「…何でだよ。武器しか持ってねーんだから、襲う奴なんかいねーだろ」
「いや、お主のその大剣…類稀なる業物とお見受けした。お主の実力を知らぬ者はそれはもう蝿のように群がるであろうな」
「…何が言いてぇんだ?」
「うむ。しばらく我らと共にーー」
「星ちゃーん。時間切れでーす」
金髪の少女が、一点を見つめながら水色髪の女に言う。
よく見てみると、何やら鎧っぽいのを着込んだ集団がこっちに向かっていた。しかも、かなり多い。
先頭の馬に乗った奴が持つ旗には「曹」の一文字。
「…ちっ、官軍か。何とも頃合いの悪い…」
「急ぎましょう。今官軍と関わるのよろしくありませんし」
「ではではー、またお会いしましょう。お兄さん」
そう言って三人ともが脱兎の如く俺の前から走り去っていった。
「…何なんだよ、一体‼︎」
そろそろ、ストレスがMAXになりそうだ。
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兗州、陳留郡。
現在この陳留を治めるのは、曹孟徳。分かりやすく言えば、魏の曹操だ。
正直、三国志なんて其処まで興味が無かった。だから、知ってるのは有名な武将の名前とかなり大雑把な話の流れぐらいだ。
はっきり言って曹操が陳留を治めていたかどうかすら分からない。
だが、それでも確実に分かる事は一つあった。
曹操は男ーーという事。
しかし。
「それでは、取り調べを始めましょうか」
目の前にいた曹操は、女だった。