遊戯王の二次小説を作ってみるテスト   作:ナマタマゴ

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自己評価(つけるなら)2

ただ文字数を重ねただけで作品としての赴きがない。2017.2.6


第一話 ★デュエル・スタンバイ★

 一世を風靡する最先端のカードバトル、マジック・アンド・ウィザーズ。それまで存在したどのゲームとも違う、ソリッドヴィジョン・システムによる圧倒的な迫力は、老若男女、果ては世界を超えて楽しまれた。時代は流れ、一人の王が生まれる。名を、武藤遊戯。千年アイテムに選ばれし、三千年の因縁を闘い抜いた英雄である。数々の死線を潜り、強敵を打ち倒した姿、それは正に、次代の傑物達に置いても欠く事が出来ない、重大な目標となった。はてさて、ここにも一人、そんな大きな背中を追い続ける、小さなヒーローが居る。彼の未来を知る者は、まだ一人もこの世に居ない。時代と共に流れる雑踏の喧騒、その最中を駆ける青春を夢見て、少年はただ走るのである。

 

「やっべぇ、このまんまじゃ遅刻しちまうぜー!」

 

 少年の名は遊城十代。所々に木の葉や樹の枝を付け忙忙しく走り向かう先は、果たして決闘者の学園、デュエル・アカデミア予選会場。最早ゲームの域を超え、スポーツの領分を冒し、生活必需事項と化したデュエルは、その優秀さを見込まれた若者達を育てる事すら許された競技となったのである。少年、遊城十代もまた、栄えあるデュエル・アカデミアの予選に参加する事を許された決闘者だった。

 

「ふう、どうやら間に合ったらしいぜ」

 

 鉄製の手すりを乗り越え、会場前に飛び降りる。高低差は五メートル程だろう。しっかりと両足で着地し、柔軟なバネの様な筋肉で衝撃を霧散させる。軽いランニング程度の速度で小走りに、ゆっくりと入り口へと歩みを進めた。受付に受験番号と名前を応え、軽い確認の後内部に入る。そこでは既に幾人もの決闘者が己の腕を競い合っていた。目に見えて瞳を滾らせる少年に、会場内のスタッフと見られる大人が席を案内する。受付での確認と共に差し出された、胸元に付けた受験番号のバッチを見ての判断である。十代と番号の近い少年少女達が座して待つ座席の、自分の判断で決めた適当な椅子に腰を深くかけた。

 

「あー、早くデュエルしてぇぜ」

 

 懐から取り出した愛用のデッキを、慈しむ様に愛撫する。デッキボトムのカードは十代の持つ友人の一人、E・HEROフレイムウィングマン。決闘者のソウルが木霊する室内に呼応する様に、カードの英雄がきらりと目を光らせる。ふと周りのデュエルに目を付けた。赤い帽子を目深に冠る、背の高い決闘者。もう一人は水色の髪をした、丸眼鏡の決闘者。気弱そうな性格が見て取れる、腰の退けた小さい少年だった。フィールドは至って平凡。お互いの持ち合う下級モンスターで闘い、少々気弱そうな少年の方が押されている。その隣では、厚化粧が目立つ、ひょろ長い素麺の様な異邦人が一人、切れ長の目を更に細めてその決闘を見ている。遠目には良く見えないが、見た目からして少なくとも新米決闘者のそれでは無さそうだ。そう思った十代は、自分の胸元に光る番号バッチを指で弾き、口笛を吹いた。緊張感に包まれた会場内のざわめきに、口笛は掻き消されるばかりだった。

 

「上手いな。流行りの曲か?」

 

 背凭れの更に向こうから声を掛けられ、内ももあたりで所在なげにしていた手の内に握られたデッキを、そっと懐に隠したデッキホルダーに仕舞い込み、忙しく声の方を求める。一階上の最前列に座る、同年代の少年だ。誠実そうな印象を受けさせる、柔和な笑顔を浮かべて十代を見ている。十代は体を乗り出し、膝立ちで椅子に座ってけらけらと子供っぽく笑った。

 

「いいや、自分で作った。ウェイク・アップ、ってな。お前は?」

 

 恥ずかしそうに、しかしどこか自信に満ちた表情でにかりと笑い、鼻の先をピンと人差し指で弾く。

 

「俺は三沢大地。受験番号一番。いい曲だ」

 

 階段上から笑い掛ける少年――三沢は、胸ポケットの上にピンで留めたバッチを素早く取って十代に見せた。十代は十代で、自分のバッチを取って誇らしげに見せようとする。しかし、三沢の視線は既に別を指していた。十代の背後から、小さいながらも感嘆の声が場を沸かせる。半身を乗り出したまま転げ落ちそうになるのを何とか抑え、十代はそっちを見やる。先程のデュエルが終わりを迎えていた。おしい、と十代は思った。同時に三沢も口に出していた。何事かとする十代。目を見張る三沢。両者の視線が自然と衝突する。三沢はしばし唖然としていたが、十代の目を見てはっとなる。ギラついた闘志が籠る迫力に気圧され、頸を振る。ちらりと自分のバッチを一瞥し、一瞬だけホッとした様な、そんな情けなさを振り払うと、今度こそ十代の顔をまじまじと見つめる。瞬き一つせず、三沢は言った。

 

「もうすぐ俺の番だ。あのデュエルも終わった事だし、そろそろ君の出番も来るだろう」

 

 だから落ち着け。そう言った三沢はすくりと立ち上がり、腰に付けたデッキホルダーを一つ叩いて、十代からは見えなくなった。十代はぞくぞくする高揚感を傍らに、誰も居ない筈の三沢が座っていた席へと、三つ指を突き刺した。それが何を意味するのか、先に席を後にした三沢にはまだ判らない。

 

 デュエルが終わった二人が戻ってくる。期せずして、十代と同じ百番台であった。水色髪の少年は沈痛な趣きの見える表情で席に座る。見るからに落ち込んでいる。対する赤帽子の少年は、深く埋もった顔を見せない様にして、無言のまま席に着いた。十代は見逃したデュエルの内容を聞こうとし、押し留まる。後の楽しみに取っておこうと心で密かに決めたのだ。間近に迫った自分の番に、焦る気持ちを捧げながら。融合モンスターとデッキを別ける作業に入った。

 

「さて、次は百十番対、百十二番のデュエルナノーネ。両者、バトルステージに上りナサーイ!」

 

 両腕を大きく開き宣言する異邦人。十代は自分の番号を呼ばれた事に気が付き、急いでデッキホルダーにカードを詰めて席を立つ。今から降りて壇上に立つには間に合いそうも無い。瞬間的にそう思った十代は、そのまま席を掻き分けて、身軽くひょいと下段のデュエルスペースに飛び降りた。何とも劇掛かった登場である。試験用の決闘盤を近くの大人に渡され、そこにデッキをセットする。そこではたと気がついた。念入りに分別した融合カード達を、自分の席に忘れてしまったのだ。相手の決闘者も既に準備万端。席を見ると、赤帽子の少年がくいと帽子を上げ、十代のフェイバリット達を見つめている姿がある。早くしろと相手が急かし、十代は不安を抱えて決闘に挑むのだった。デュエルキングの永遠のライバル、海馬瀬人は言った。カードは剣と。十代は己の楯となる決闘盤からカードを五枚、空を裂く様にドローする。相手が剣を構え、楯を備えた姿を確認し、どちらともなく高らかに宣言する。――デュエル、と。決闘盤の光が指し示すのは、先に剣を相手へ突きつけ、より決闘を有利に運ぶ権利。十代の先行だ。既にデュエルは、始まった。

 

「オレのターン、ドロー」

 

 十代は左腕に構えた決闘盤のウィング部分にカードを置く。最新鋭のコンピュータ技術によって、カードに描かれた絵とテキストが読み込まれ、バトルフィールドに映像化される。光彩が舞い、渦が逆巻いた。

 

「迸る閃光と共に、雷のヒーローは現れる。E・HERO スパークマンを攻撃表示で召喚!」

 

 霧散する粒子が凝固しその姿を見せる。青い稲妻が屈強な筋肉を作り、眩しい轟のそれが黄金に輝くアーマーを形造る。靭やかな体つきをした戦士の下級モンスター、スパークマンが十代の場に召喚された。

 

「こいつが俺のヒーローだ! カードを一枚セットし、ターンエンド」

 

 先攻は攻撃出来ない。雷鳴は収まり、静かに己のターンを待つ相手決闘者へと進行権は移る。じっと自分の手にある手札を見つめる少年が動き出した。

 

「ドロー。あんたがヒーローを使うってんなら、さしずめ俺のモンスター達は、悪の怪人ってところか?」

 

 そう言う少年は、十代の方を見もしない。じっと自分の引いたカードを見つめ、つまらなそうな顔。手持ちの手札にドローカードを加え、その中でも十代から見て一番右のカードを場に出した。

 

「吸血ノミ、召喚だ」

 

 少年が場に出したカードは吸血ノミ。攻撃力は十代の持つスパークマンよりも低く、比較的昔のカードでもある。心臓が見える程透明の皮膚に覆われ、ぶくぶくと肥大した怪虫の登場に、僅かに女生徒達の金切り声が耳を劈いた。丸い口に生えた四本の牙がぎちぎちと気味悪い音を立てる。異臭すら感じる程リアルなグラフィックを見て、十代は身を震わせた。

 

「そいつがお前のモンスターか! 見たことも無いモンスターだぜ」

 

 未知なるモンスターの登場は、何時も決闘者を熱くさせる力がある。十代も洩れず、それらの類だ。

 

「見たことも無い、か。更に装備魔法、レーザー砲機甲鎧を吸血ノミに装備する」

 

 吸血ノミの腹に括りつけられるレーザー砲。攻撃力が上がり、スパークマンの攻撃力1500を超え、レベル4以下の下級モンスターのアベレージ、1800に届いた。

 

「そのままバトル、吸血ノミでスパークマンに攻撃だ」

 

 吸血ノミが己の身につけた新しい力を誇示する様に、身体をびくんと震わせて大きく飛び跳ねる。二階席まで高く飛び上がり、上昇が止まった頃、何本も生えた毛だらけの脚を畳み。砲口をスパークマンへとさし向ける。数秒、光が場を埋めた。十代も、見ていた生徒達も同時に目を守る。サングラスの下でどう思っているか十代の知る所では無いが、一瞬の瞬きの後に残った十代の場には、雷光よりも早く熱い、過ぎ去った光に溶けるケロイド状の地面だけだった。

 

「くうーっ、眩しいぜ!」

 

 わくわくと稚気たっぷりの笑顔が決闘場に咲く。余裕そうな十代を見た相手の少年は、一瞥する程度に済ませて再び手札を覗きこむ。

 

「減ったライフは微々たる物さ。徒に戯けるのはこちらの心を乱す為か?」

 

 十代の決闘盤に映し出されるライフは200減って3800。改めて問題にする程の痛手を負った訳でもない筈の相手の反応に少年は密かに動揺していた。

 

「なんの話だよ。リバースカードオープン、ヒーロ・シグナル! これによって、俺の場に新しいヒーローが生まれるぜ!」

 

 熱くなった空気と地面から、灰が熾きる。咽びそうになる煙と共に巻き起こる火の武曲。赤い赤い炎が固まると、そこには女性が立っていた。

 

「E・HERO バーストレディ。守備表示で特殊召喚だ」

 

 仲間が倒れても、戦友が救ってくれる。エレメントに導かれた英雄は、裏切りを知らない。消えた灯火は息を吹き返し、新たなモンスターが場に呼ばれたことに少年は歯噛みした。

 

「火は嫌いだ。永続魔法、大樹海を発動してターンエンド」

 

 フィールドに新たな映像が加わる。自然の迷宮と化した樹海、その深淵を写したグラフィック。鳥の囀りと、見えない虫のさざめきが心を乱す。右も左も消え、闇に潜む幾つもの瞳が十代をじっと見つめていた。

 

「気味悪いーっ、でもすげえぜ。ドロー!」

 

 引いたカードを確認し、そのまま決闘盤に置く。現れたのは土の巨人、クレイマン。ヒーローデッキではその高い防御で仲間の守護を任される、頼もしいヒーローだ。

 

「クレイマン守備表示で召喚。更にカードを二枚セットして、ターンエンド!」

 

 片膝を付き、少年から十代を遮る様に巨躯を構えるクレイマン。少年は又少しの間だけ見て手札に目線を移す。十代もそれにようやっと気付き、解せんと顔を歪ませる。

 

「お前、なんでそんなにつまんなそうなんだ?」

「今は試験中、減点されたくなければ慎むことだな。ドロー」

 

 少年は初めて面を上げてまじまじと十代の顔を拝む。死んだ瞳がぬらりと目の縁を舐める様に動き、ドローカードを確かめる。その姿が、どことなく十代には蔑みに見えた。少年の鼻から空気が抜ける音がする。周りの歓声と決闘の張り詰めた雰囲気の中で、一際それが十代の耳に留まった。

 

「代打バッターを召喚、守備だ」

 

 新緑の海に潜む魔物がその姿を現す。戦闘機のプロペラが回る様な音を起て、大きなバッタが飛び出した。

 

「吸血ノミ、バーストレディに攻撃しろ」

 

 少年の指示に従い、巨大昆虫が炎の女傑に猛攻を叩き込む。全体重を勢いと共に乗せた殲滅的な殺戮。弾き飛ばされたバーストレディは十代の目前に転がり、小さな炎となって消滅した。

 

「バーストレディ! くっ、だがダメージは無いっ。そして俺はリバースカードを発動していた、ヒーロー見参!」

 

 バーストレディの燃え滓を覆い隠す様に黒いカーテンが囲む。ヒーロー見参、相手の攻撃宣言時に自分の手札からランダムに相手が選び、選択したカードがモンスターであれば場に特殊召喚出来る特殊な罠だ。

 

「さあ選べ、俺の手札は二枚だ!」

「つくづくヒーローは立ち上がる。面倒くさいモンスターだな。俺が択ぶのはお前から見て右のカードだ」

 

 漆黒の帳が赤黒く燃える。空気に溶ける様に揺らぎ、徐徐に人の形を作り出す。

 

「当たりいっ! お前が選択したカードはモンスター、E・HERO ネクロダークマンだ!」

 

 闇を纏う執念の戦士、ネクロダークマン。悪魔にも見える様相と、割れた仮面を思い出させる顔からは一切の表情が窺えない。

 

「だが、それでは攻撃力が足りんな。壁に過ぎん」

 

 ネクロダークマンの攻撃力はレベル5にして1600と、決して高いとは言えないステータスだ。攻撃力の上がった吸血ノミが場にある限り、少年の言う通り、そのままでは壁にしかならない。

 

「言ったな、直ぐに見返してやるぜ? ドロー! 俺は手札から装備魔法、融合武器ムラサメブレードを発動。ネクロダークマンに装備するぜえっ」

 

 ネクロダークマンの腕に絡みつく東洋の刀が妖しく燦めく。強化魔法によって攻撃力が800ポイントアップして、上級モンスターの基準値、2400に届いた。少年の顔が険しくなる。

 

「行くぜっ。ネクロダークマンの攻撃力は装備魔法によって攻撃力2400となった! 吸血ノミに攻撃だ!」

 

 十代の攻撃宣言と共に、右腕に装備したムラサメブレードの鋒を吸血ノミへと向けるネクロダークマン。身体に繋がった血管状の管から送られた、赤黒い水が滴り落ちては地面に触れて波を作る。己の力を増幅させる刀剣をネクロダークマンが思い切り振り下ろすと、空気の層を形通りに歪める程強い斬撃が地走り、気がつけば硬い装甲ごと吸血ノミの巨躯を真っ二つに別けた。

 

「たったの600ダメージだろう。それに、あんたは一つミスを犯した」

「へえ? どんなミスだってんだよ」

「直ぐに判るさ」

 

 二つに割れた吸血ノミの亡骸が深緑のカーペットに沈む。内容物がどろどろと流れ出し、絶命時の筋肉の収縮、弛緩によって何本もの脚がざわつく。観客の顔色が悪くなり、時折悲鳴にも似た独白が聞こえてくる。「気持ち悪い」、「吐き気がする」、「引っ込め」、etc……。それでも表情を変えない相手の少年を見て、十代はニヤリと笑った。

 

「そうだよ。その顔だ! わくわくする決闘を見せてくれるんだろ? こんなくだらねぇ理由で決闘が終わっちまったら、つまんねえもんな!」

 

 少年の顔が不思議がる。十代の言いの意味と、そして「その顔」の意味する事。少年本人は愚か、その場で十代達の決闘を見ている観客も、試験官さえも、その言葉の真意に気が付かない。少年は死骸に一度だけ目をやり、大樹海を発動した時に生えてきた厚い草陰に意識を向けた。十代もその視線を追うと、幾つもの黒い影が巨木の間を通り過ぎるのが見えた。

 

「樹海は常に死が周りを囲い込む。しかし、それは時として野生動物にとって最大級の富となる事もある。永続魔法、大樹海の効果発動!」

 

 少年のデッキから一枚のカードが引き抜かれ、それが手札に加わる。それと同時に吸血ノミの骸に大きな影が幾つも貪り付き、我先にと死体を囲んだ。

 

「場の昆虫が破壊によって死んだ時、そのプレイヤーはデッキから同レベルの昆虫モンスターを手札に加える事が出来る。食物連鎖は自然の常だ。摂理だ。死して黙する弱者は、絶対的強者に屠られる運命にあるのさ!」

「複数回使えるサーチカードか! E・HEROには無い利点だぜ。俺はカードを一枚セットして、ターンエンド」

 

 十代のフィールドにカードが一枚セットされる。場に残ったのは強車であるネクロダークマンと守備体勢の代打バッター。最初のターンにセットされたカードが先の攻撃で発動されなかった事を思い出し、少年は頭で噛み締める。睨みながらもゆっくりとカードを引き、己の手札と重ね合わせた。

 

「ドロー。……俺はドローで引いたカードを信じない。手札から魔法カード、闘虫仮装を発動。手札の昆虫を墓場に捨て、デッキから新たな昆虫を手札に加え、自分フィールド上の昆虫を破壊する。俺が破壊するのは勿論代打バッターだ。……お前らにこの意味が判るか!」

 

 それはグロッキーな決闘の展開に罵声を浴びせてばかり居るアカデミアへの挑戦者達、そして興味無さげに試合を見る試験官達に向けた言葉。決闘をしていた他の受験者、そして別の決闘ばかりを見ていた観客席に居る決闘者達も思わず少年の方を向く。その中には先程十代が話した三沢大地の姿も見えた。

 

「闘虫仮装の効果で破壊された代打バッターの効果発動! 手札から昆虫モンスターを特殊召喚することができる。来い、電動刃虫!」

 

 レベル4にして攻撃力2400のモンスターの特殊召喚に、興味本位で見た決闘者達の目は釘付けにされる。

 

「更に、永続魔法大樹海の効果発動! デッキから代打バッターのレベルと同じ、レベル4モンスターの昆虫族を手札に加える! そして、闘虫仮装のコストとして墓地に送られた髑髏顔 天道虫の効果発動。ライフポイントを1000回復する!」

「上手い! 闘虫仮装はデッキサーチする弊害として手札コストと、自分の場のモンスターを破壊するデメリットがある。しかし彼は前のターン、戦闘によって破壊された吸血ノミによって発動した大樹海の効果によって天道虫をサーチした。そして自分のターンにサーチした天道虫を捨てライフを回復。そして戦闘、効果を問わず破壊を機動にする代打バッターを破壊し、攻撃力だけで言えば上級モンスターにも勝るとも劣らない、下級アタッカーを即時に特殊召喚。更に代打バッターの破壊と共に大樹海の効果で手札増強。なんて研鑽されたコンボだ!」

 

 自分の決闘を忘れた様に、三沢が鼻息荒く口走る。慢性的に停滞気味の決闘はペガサス・J・クロフォードが王国を開いた時から続き、それは段々と飽和状態へと成り代わる事となっていた。単なる高攻撃力、高ステータスのモンスターを召喚するだけの決闘では、既にデュエルモンスターズというカードゲームの遅延を加速させるだけなのだ。時代は代わり、どれだけの手がデッキの中にあり、それをここぞという時に使えてこそ、強者と呼ばれる様になる。

 

「そして俺は儀式魔法、ジャベリンビートルの契約を発動。手札のデスサイズ・キラーを生け贄に、ジャベリンビートルを儀式召喚! バトルだ。ジャベリンビートルでネクロダークマンを攻撃!」

 

 巨木が靡き軋み上がる程の風を纏わせ、ジャベリンビートルが樹海の空から滑空して降りてくる。更に、特殊召喚された電動刃虫が森の奥から牙を擦りながら飛んできた。高攻撃力モンスターが二体も並び、場を圧巻する。総攻撃力4850が十代に重くのしかかった。飛びかかってきたジャベリンビートルにネクロダークマンも健闘するが、ムラマサブレードと共に身体を折られて闇に溶けた。

 

「お次は電動刃虫の攻撃だ。泥人形なんぞ噛み砕いてやれ!」

「泥っ? クレイマンだっての!」

 

 HEROの堅い護りも虚しく、一瞬でクレイマンの懐に潜り込んだ電動刃虫の刃先がクレイマンの胸を貫いた。

 

「クレイマンまで!」

「お前がさっきのターンに使わなかった時点では様子見様の攻撃反応型かと思っていた。だが、HEROの強みである融合を行わない、あんたの妙な動きで直ぐに思い直したのさ。クレイマンはバーストレディとの融合で強力な融合体となるし、最初のターンに出したスパークマンはHEROの下級モンスター中では最高の攻撃力。そしてクレイマンとの融合であるサンダー・ジャイアントの効果また強い。しかし結果はスパークマンも守らず、新たに呼んだバーストレディもまた壁として墓地へと送られた。極めつけはネクロダークマンだ。本来墓地へ居る事が利点であるネクロダークマンを通常召喚、そして装備魔法を装備した事で確信した。エンドだ」

 

 

 

 その決闘を見ていた者達が、その洞察眼に驚いた。十代と闘うという事は、それだけ下の番号に居る事に他ならない。強い決闘者としての素養、デッキ・コンボの構築能力。最初から見ていた決闘者の殆どが、その実力に心の中で頷いた。

 

「すげえ、すっげえじゃんかよ! お前やっぱ強いよ。でもこっから、俺が逆転してやるからな。俺の仲間、HEROの力をよーく見ておけよ! 電動刃虫の効果により、カードを1枚ドローッッ!」

 

 十代の胸中は、燃えていた。熱く、紅く、明らかに。絶望的な状況で、いかにその状況を楽しめるか。何事も、楽しんだ者は自ずと刹那に至高の輝きを魅せる。

 

「更に、俺のターン、ドロー! おしっ、来てくれたか!」

「何が来ようと関係ない。ヒーローなんぞ潰してくれる」

「まあそう言うなって。俺はE・HERO エッジマンを、墓地に居るネクロダークマンの効果によって生け贄無しで召喚する!」

 

 E・HERO エッジマン。攻撃力は2600と高いが、レベル7であるが故に生け贄が二体と重く、また数少ないレベル5以上のE・HERO。一度召喚に成功すれば並大抵のモンスターでは対処出来ないモンスターだ。しかし、少年の場には大樹海と高攻撃力モンスターが二体。戦闘によって破壊したとしても、更なる最上級モンスターが手札に加わるだけだ。しかし。

 

「確かに俺のセットカードはどちらも攻撃反応型の罠じゃない。けれどな。案外、お前が警戒したよりも厄介なカードかもよ? リバースカード、オープン!」

 

 伏せられたカードが、姿を表した。

 

「強欲な壺! カードを二枚ドローする!」

「強欲な壺を伏せていたか。常識は通用しなさそうだ。だが、そう都合よく逆転の札を引けるか?」

「わっかんねえ。でもよ。ワクワクしねえか? 未来は誰にもわからない。だから決闘は、いつだって俺を楽しませてくれるんだ!」

 

「ドローッッッッ!」

 

 天高くカードを振り抜き、十代の目が一層輝きを増す。それは、決闘王を目指す決闘者である限り、誰もが一度は辿り着く須臾の到達点。アクセルをぐんと踏みつけ、トップスピードの風となる一体感と。そして峠を駆け抜ける時のアンバランスな絶対的危機感。ゲームを愛する者であれば、必ず感じ、時には執着し、全てを賭けても、楽しむ。

 

「お前がどんなにドローを嫌っているかなんて、俺には判らない」

 

 ふと、十代が目を閉じて独り言つ。

 

「どうしてお前が、弱肉強食ってのを大事に思っているかも理解できない」

「……一体何の話だ。俺は」

「楽しもうぜ、決闘。俺は手札から通常魔法、ヒーローハートを発動。エッジマンの攻撃力を半分にし、このターンエッジマンの攻撃回数を一度だけ増やす事ができる!」

 

 ネクロダークマンと共に破壊されたムラサメブレードの欠片がエッジマンの右手に装備される。

 

「更に通常魔法、H-ヒートハートを発動! 場のモンスター一体の攻撃力を500アップするぜ」

 

 エッジマンの握る拳がより固く結ばれ、肩の筋肉が倍に増幅する。滾る闘気を感じたのか、場を覆う樹海の虫達が脅える様にさんざめく。少年の場に居る昆虫達もまた、警戒心を顕に威嚇動作を二、三繰り返した。少年が訝しげに十代の自信満々な顔を睨む。

 

「そんなことをしても無駄だ。俺の最強昆虫軍団を前に、あんたのモンスターじゃ太刀打ち出来ないさ!」

 

 少年自身の巧妙なテクニックと、場にある大樹海の効果で高速展開された高攻撃力モンスター二体を指さし、誇らしげに嘯く。対する十代の表情は、至って自信有り気ににへらと笑っていた。

 

「知ってるか? ヒーローにはヒーローの、闘うべき場所があるってこと! 俺は更にフィールド魔法、摩天楼-スカイスクレイパー-を発動するぜ!」

 

 エッジマンの足元から背の高いビルが聳え立ち、それを皮切りに森緑を覆う広範囲のビル群が立ち上る。木の根が生えた柔らかい土がボロボロと崩れ、少年の場に居る昆虫達も驚いて暴れ出す。

 

「無駄だぜ。この街は、夜の帳が幕を閉じたその瞬間から、ヒーロー達がその正体を隠しながらも悪と闘う晴れ舞台。普段は平和なこの街を壊そうとするモンスターは、ヒーローの目から決して逃げられない! エッジマン、昆虫達をやっつけろ!」

 

 エッジマンの攻撃力はヒーローハートの効果により半分の1300、そしてヒートハートにより500上がって800。このままではどちらのモンスターに対しても攻撃は効かない。どころか返り討ちにあってしまう。先程発動したフィールド魔法の効果に気が付いた少ない決闘者以外の顔は、皆疑問に満ちていた。

 

「スカイスクレイパーの効果! ヒーローが戦闘する時、相手モンスターの攻撃力がヒーローを上回っていた場合、ヒーローの攻撃力を1000ポイントアップする。つまり」

 

 突然現れたビルのジャングルに興奮し、走り出した昆虫モンスター。無機質な壁に何度も衝突しながら、逃げる様に街へと迷い込む。やがてその脚は袋小路へと辿り着いてしまった。逃げ場を失い、進むべき道も失った少年のモンスターの前に、月影をバックに天高く飛翔するエッジマンが現れた。

 

「俺の昆虫じゃあ、勝てないッッ!」

 

 エッジマンの鋭い拳が、折れたムラサメブレードを併せてより鋭利な武器へと変貌する。拳圧による裂波に巻き込まれ、ジャベリンビートルと電動刃虫の堅い甲殻もろとも木端が如く粉砕されてしまう。少年のライフ4400から、750のポイントが引かれた。苦々しげにエッジマンを一瞥し、それがどうしたと言いたげな顔を作って十代を鼻で笑う。破壊されたわけではない大樹海の効果を使用し、手早くデッキからカードを二枚引き抜いた。

 

「俺の手札は一枚。これをセットしてターンを終了するぜ」

 

 こうして十代のターンが終わった。少年も構わずターン最初のドローに手を付ける。が、思うように手が言うことを利かない。小さく舌打ちし、デッキの上に手を置こうと、少年の身体がゆっくり動き出す。しかし、それを抑える声が会場に響いた。

 

「引けよッ、ドローをッ! あんた自身がデッキを信じなくて、いったい誰がこんな熱い決闘を出来るってんだ!」

 

 俺はいつでも信じてる。そう言って十代は、自分の決闘盤のデッキスペースを軽く叩いた。それに呼応するかの様に、決闘を見届ける異邦人も頷いた。

 

「この決闘に、サレンダーはアリマセンーノ。最後までしっかりと、決闘に向き合いなさい」

「決闘に、向き合う……?」

 

 少年はサーチしたカードをじっと見つめなおす。どちらも自分がデッキからサーチし、好んで呼び出したモンスター。しかし、その実少年は、単にこのタイミングでデッキからドローすると困るから手札に敢えて加えただけであり、どうしても欲しかったカードでも、フェイバリットモンスターであるわけでもなかった。このデッキに入っているモンスターで、エッジマンの実質攻撃力を超えられるモンスターはレベル8、4両方に存在しなかった。元に戻ったエッジマンの攻撃力は2600。そしてスカイスクレイパーの効果で、攻撃力単体で考えて3600。決闘の流れは十代の手中。既に諦めている自分が居る事に気がついてしまった。

 

「向き合ってなんになる? カードは物言わぬ道具だ。使える時に来ないのならば、自分から呼び込めばすむ。しかしそれでもお前には勝てなかった。ただ、それだけだ! ルールによって背は向けられんようだ。ならばただドローするだけにすぎん」

 

 デッキトップを引き、見もせずにエンドフェイズを迎える。意気消沈した少年の決闘に、見ていた観客は野次を飛ばす。少年の耳にはそれすら聞こえない。自嘲気味に鼻で笑うだけだった。

 

「ターンエンドだ……」

「ふざけんなっ!」

 

 激昂する十代に、真底不思議そうな顔をする少年。その真意を計りかねていた。対する十代は、その表情に一層腹を立てた。あれだけ楽しい、胸が熱くなる決闘を繰り広げていた対戦相手との決着が、こんな終わり方をする事に納得がいかない様子だ。

 

「最後まで決闘しねえのかよ。なんの為にここに来たんだ!」

「敗北の決まった決闘になんの意味がある!」

「ライフは零じゃねえ。手札もある! どうしてここで諦めんだよ!」

 

「黙らっしゃい!」

 

 明確に表れた二人の対立に、異邦人――監督官、クロノス・デ・メディチがそれを制止する為前へと出る。決闘を静観していた監督官の横入りに一瞬怯む少年と、興奮醒めやらぬ十代。クロノスはそっと首元に付けた小型マイクを口に近づけ、こう言った。

 

「受験者諸君。在校生諸君。ここデュエル・アカデミアは、誇り高い決闘者を育て上げる学び舎ナノーネ。謂わば決闘者達の登竜門。その場に相応しい決闘が、今この会場では続々と行われているノーネ」

 

 クロノスは一瞬十代を一瞥し、直ぐに言葉を繋げる。

 

「決闘者である限り、諦める事は許されない。それは確かに誇り高く、とてもとても大事なコト。デスーガ、押し付けるのはノンノン、まだまだ駄目なのーね」

「ぐぬぬ」

 

 顔をむすっと膨らませて不機嫌になる十代を無視し、クロノスは少年の方を見る。

 

「しかし、対する貴方は、まるで決闘がなってない。タクティクスは上場、デッキ構築も又及第点、いやそれ以上ナノーネ」

「そうだ。俺が作り上げた、俺だけの最強にして最高のデッキだ」

「ホントーにそうデースか?」

 

 クロノスがそう尋ねる。少年は訝しむ様にクロノスの顔を見た。

 

「デーハ、どうして貴方は追い詰められているノーネ?」

 

 その言葉にあからさまに顔を顰める少年。答が見つからないのではない。敢えて見ないようにしていることは、少年自身わかっている。

 

「運が、悪かったから」

「甘ったれるんじゃないノーネ!」

 

 叫んだクロノスは、おもむろに胸元に装着していた決闘盤からカードを五枚引き、自分では見ずに少年に見せるける。そこにあったカードは、クロノス・デ・メディチのフェイバリットにして最強のカード、古代の機械巨人とトローホース、二重召喚と大嵐にリミッター解除の五枚だった。必勝とも言える最高の手札に驚く少年。その後クロノス自身も見て、思わず微笑んだ。

 

「あららのら。これが決闘中じゃないのが悔やまれる好手札。運を使っちゃったノーネ」

 

 手札をデッキに戻し、決闘盤の電源を落とすと、クロノスは向き合う様に少年を見た。

 

「もしワターシが対戦相手だったとして、追い詰められた時、ただ相手の運が良かっただけと言い訳するのか、それとも自分の実力不足を嘆くのかは自分次第。しかし、この場は神聖な決闘者の闘技場。自分の剣が切り拓く未来と実力、そのどちらか一方でも信じることが出来ない戦士に、勝利の女神は微笑みません」

 

 クロノスは決して決闘中の決闘者には近寄らない。助言も助太刀も、公正な決闘ではあってはならない行いだからだ。しかし、確かにクロノスには見えていた。あまり変わらない少年の表情の奥に、燻ぶる炎が。それに伴い反応する、デッキに眠るカードの鼓動が。

 

「さあ、もう貴方には時間が残されていません。試験決闘は三十分の制限時間付きナノーネ」

「そんな、俺こんな終わり納得出来ねえよ、先生!」

「お黙りなサイのボンジョルノ!」

 

 残り時間は三分もない。焦る十代を余所に、少年の手と心は震えていた。その震えがなにを表すのかは、少年自身の中にある。誰も完全に理解出来ない心の領分。手札にある一枚のカードを握る力が強まった。

 

「俺は認めない。ドローに賭けるだけの決闘なんて、絶対に認めないっ。俺は、埋葬呪文の宝札を発動! 墓地のジャベリンビートルの契約と闘虫仮装を除外することで、デッキからカードを二枚ドローする!」

 意を決した少年は、真底嫌そうにカードをプレイする。埋葬呪文の効果によってドローしたカードは二枚。それらのカードを見て、少年は更に顔を顰めた。

 

「……カードを一枚セットし、魔法カード、命削りの宝札を発動する!」

「二枚連続して宝札のカード! なんだよなんだよ、やるじゃんか!」

 

 構わず十代のテンションも鰻登り。手札の数だけ決闘者は強くなる。そして同時に、新たな決闘を作り出すことが出来る。無限の可能性を秘めた決闘者の魂と魂のぶつかり合い。それこそが十代の求めていた決闘だ。

 

「手札が五枚になるようにドローする。俺の手札は三枚、よって二枚ドロー」

 引き抜かれる二枚のカードに目を通し、須臾の間呆気に取られる。直ぐに憎々しげな表情に変わった。

 

「魔法カード、二重召喚発動! 効果により二度召喚することが出来る。俺は、ラーバモスを守備表示で召喚し、更に砂漠の守護者を守備表示で召喚! そしてラーバモスに進化の繭を装備する!」

 

「ラーバモスに、進化の繭! そのコンボは確か、かつての全国大会優勝者が最も得意とした、最強の昆虫カードを呼び出す為の布石。百十番は果たしてどうする?」

 

 三沢の呟きが聞こえたかは定かではない。十代の瞳に燃える闘志が一層猛る様を見た人間が何人居たかどうか。

 

「今は守りにつくしかない。ターンを終了だ」

「俺のターン、バトルだ! 行けぇ、エッジマン!」

 

 速攻を仕掛ける十代。先のターンで手札を使い尽くし、引いたカードに手は付けない。エッジマンの豪腕が脈動波立つ繭に振り下ろされる。寸前、その太い腕が弾かれた。

 

「エッジマンの攻撃が止められたっ?」

「エッジマンの攻撃宣言時、俺はリバースカードを発動していたのさ。この、コマンド・サイレンサーのカードをな」

 

 コマンド・サイレンサー。相手モンスターの攻撃宣言を無効にし、カードを1枚ドローする効果。一度限りではあるが、次へと繋ぐ命綱だ。

 

「感謝するぜ。お前が攻撃してきてくれたお陰で命拾い出来た」

「へへっ、何が出てくるか知らねぇが、俺のターンはこれで終了だ!」

「今にわかるさ。ドロー。さあ、既に繭が出来てから二ターンが経過した。この鼓動が聞こえるか? 緑の蛍光色が脈動する繭の中で、外界に蔓延る弱者を貪る日を夢見て、今か今かと喉を鳴らしている。昆虫の王様が! キングが! ドローしたカードはマジック・プランター。場の大樹海を墓地へ送りカードを二枚ドローする」

 

 森緑のソリッドヴィジョンが薄くなり、摩天楼の街並みが本当の姿を見せる。高層ビルに迫る影、月の斜光を遮る用に、両腕を組んで仁王立ちするエッジマン。巨大な繭は立ち並ぶ灰色の木々に糸を張り付かせ、重力に逆らえず爛れたケロイドの様な節々が交差する地面を溶かした。

「狂った召喚歯車を発動! 相手は相手モンスターと同じレベル、種族を持つモンスターを二体、デッキから特殊召喚する。その後俺は墓地から攻撃力1500以下のモンスターを1体特殊召喚し、同名モンスターを手札、デッキ、墓地から攻撃体勢で特殊召喚する! 来いっ、代打バッター!俺は更に代打バッター二体を生け贄に捧げ、デスサイズ・キラーを召喚する!」

 

 フィールドに表れた途端、鎌の鋒に引き裂かれて生き絶える代打バッター。繭を覆う程大きい魔物が、天を衝く様にその大鎌を掲げた。

 

「デスサイズ・キラーは場の虫ケラの魂を狩り、その血で鎌を濡らして攻撃力を底上げする、飢えた強者だ。弱者は強者にその生命を捧げ血肉になることこそが、大自然の掟なのさ! デスサイズ・キラーよ、残りの代打バッターを食べて攻撃だ!」

 宵闇に陰るヒーローの背中を、怪物の魔の手が襲う。

 

「無駄だぜっ。ここはヒーローの独擅場、例えデスサイズ・キラーの攻撃力が上がったところで俺のエッジマンはその上を越えて成長する! 迎え撃て、エッジマン!」

 

 十代の言いに頷く隙も見せずエッジマンは動いた。艶やかに光る剛毅な身体が翻り、生命を狩ろうと絶叫する鎌の風切り音が通り過ぎると、堅いコンクリートをして礫に変わる。返す刃で大鎌の鋒が引かれ、エッジマンの首を刈り取ろうと月光に濡れる。同時にデスサイズ・キラーの懐へと潜り込んだエッジマンの堅い拳が土手っ腹に炸裂した。

 

「ヒーローは必ず勝ぁつ! お前の熱い攻撃は凌ぎきったぜ。次のターン、俺が新しい仲間を一体でも召喚出来れば勝ちだ」

 意気揚々と声高に宣言する十代に、監督官のクロノスの表情も幾分か納得気味である。これにて長いようで短い試験が終わる。そう会場に居る決闘を見届けていた観客全体が悟り始めていた。お互いの強力モンスターで攻撃を打ち合い勝敗を決める。潔さは決闘者に求められる一つの要因だ。彼の行動に疑問は愚か、蔑みや嘲りを浮かべる人間は居なかった。――ただ一人、三沢大地を除いて。

 

「どうかな? あいつはまだまだ可能性が残っている。どうしてそれに気づく人間が居ない。……ここは、未来のプロ決闘者を育成する機関なんだろう! ――あいつの闘いは、まだ終わってなんか居ないっ!」

 

 

 

「フフフ、フフフフ。ーッハハハハハ!」

 狂ったように笑いだす百十二番の少年に、観客は窮余におかしくなったのかと表情を様々に変えた。一通り笑い終えた少年は十代を指さし、そのまま摩天楼に降り注ぐ光の大基、月へと差し向けた。

 

「よぉく場を見てみろよ、百十二番。俺のデスサイズ・キラーはピンピンしているぜ?」

 

 月夜にシルエットを作り出し巨体を振り乱しながらデスサイズ・キラーが落下する姿がそこにはあった。ぬらりと光る大鎌の余映が垂直に残像を見せて、ヒーローの街へと弾ける。――では、十代のエッジマンはどこへ? そう考えたのは誰が最初だったか。落ちてきたデスサイズ・キラーの真横に作られた小さいクレーターの中心に伏していた。

「エッジマン! くっ、一体どうしてエッジマンがっ」

「速攻魔法ハーフ・シャット。手札にあったこのカードを発動していたのさ」

 

 速攻魔法ハーフ・シャット。モンスター一体の破壊を免れる代わりに、選ばれたモンスターの攻撃力を半分にしてしまう、守りにも攻めにも使える汎用性の高いサポートカードだ。スカイスクレイパーの効果が適用される寸前に発動され、逆順処理でエッジマンの攻撃力が半分の1300になり、次にスカイスクレイパーの効果が適用され攻撃力が1000上がり2300。デスサイズ・キラーは自分の効果で2800まで力を増しているが、エッジマンはハーフ・シャットの作用で戦闘破壊されないサンドバックとなってしまった。

「ぐぐぅっ、ライフが大きく減っちまった!」

「百十番、いや遊城十代。お前のライフは残り2250。デスサイズ・キラーの攻撃力とちょうど同じだ」

 

 迫真の決闘に息を飲まされる。

 

「百十番は手札、セットカード共に一枚ずつ。ターンドローも残っている。勝負はまだ分からんな」

 

 三沢大地が席に腰掛けため息混じりにそう呟く。知らず内、額に汗をかいている事には気づいていない。決して番号が高い方では無い筈なのに、決闘者として見逃せない決闘がそこにはあった。誰もが笑みを浮かべ、悔しがりながら見守る熱いバトル。そしてあそこに自分が居ない。どうしてあの決闘に参加していない。疑問は付きず、しかし誰もが心に、口に、頭に刻みこめた。

「頑張れーっ! どっちも負けるなぁぁーーっ!」

 

 近くの席でそう叫んだのは、臆病そうな水色髪の眼鏡の少年だった。小さい身体を大きく動かして、唾を飛ばしながら応援する。それが伝達し、会場全体の空気を染め上げた。

 

「っくぅぅぅぅぅぅぅぅ、燃えてきたァー! 俺のターン、ドロォォーッ! エッジマンの攻撃力は既に戻ったってことは、そのままでもデスサイズ・キラーを倒せる! 行けっエッジマン、お前の本気を見せてやれぇぇ!」

 

 意気衝天、底抜けに明るい主の声に、豪腕の英雄がその目を滾らせる。超速度で突進し、デスサイズ・キラーの巨体に風穴を開けて吹き飛ばした。百十二番のライフが4100になる。まだまだ序盤のライフポイントを下回る事はない。それでも十代に、諦めの言葉は浮かばない。浮かれるのは高揚する気分だけだった。

「リバースカードをセット、ターンエンドだ!」

「……デスサイズ・キラーがやられる事など百も承知。これで繭は4ターンの間成長した。お前は既に断頭台へと足を踏み入れているのさ! ドロー、俺は永続魔法、無視加護を発動。相手が攻撃を宣言した時、墓場で眠る昆虫達を除外する事で防ぐ事が出来る、昆虫デッキでは防御の要。覚悟しろ百十番。俺は必ず、キングでお前を倒してみせる!」

「望むところさ。俺のターン、ドロー! ッチ、カードを一枚セットしてターンエンド」

 

 夜の都会に似つかわしくない音がする。刃物を擦り合わせる様な歯軋りと、濡れ羽が開く裂音。静寂の帳を食い破り、強烈な悪臭と共に超特大の虫が出現した。

「これで計六ターンが経過した。俺は場の繭を墓地へ送り、究極完全態・グレート・モスを特殊召喚する! その攻撃力、通常で3500! かのブルーアイズを越える王の中の王! これで俺の勝ちが確定だァ、遊城十代ィ!」

 

 麻痺性を持つ毒鱗粉を撒き散らし、重厚な羽をはためかせ飛翔するグレート・モス。背の高い筈のエッジマンですらグレート・モスの足元にも及ばない大きさに、見ていた観客達の中にも醜悪さで気分を悪くした者が多数居た。

 

「すっげぇ! だが攻撃力3500じゃ、スカイスクレイパーのエッジマンを超えられないぜ?」

「小賢しい、凶暴化の仮面を究極完全態グレート・モスに装備。攻撃力を1000ポイント上昇。これで舞台は整った。行けっ、究極完全態グレート・モスの攻撃、モス・パーフェクト・ストーム!」

 モスの王が重たげに飛揚するだけで大旋風を巻き起こす。ビル群に根深い創痕を成形した。強烈な衝撃波がそこかしこを跋扈する世界で、エッジマンだけが兀爾として、御影と言うには汚穢と言える昆虫王の姿を睥睨していた。新調した十代のコートが風に煽られ悲鳴を挙げる。

 

「雑魚は吹き飛べぇっ!」

 

 陽炎の様に景色を揺らめかせる、特大級の衝撃波がエッジマンに襲いかかる。エッジマンが膝をついた。しかし、エッジマンもただで破壊される事はなかった。

 

「っうぐ、リバースカードオープン! 速攻魔法、死角からの一撃! 相手の場に居る守備表示モンスターの守備力分、エッジマンの攻撃力を上げる! 迎え撃て、エッジマン!」

 相手の攻撃宣言時はまだエッジマンの方が攻撃力が低い為、スカイスクレイパーの効果が適用される。砂漠の守護者は場に出ている魔法、罠カードの数300ポイント守備力が上昇する効果を持ち、スカイスクレイパー、無視加護、十代の場にセットされているカード二枚、そして死角からの一撃の数アップしてその数値2500。エッジマンの元々の攻撃力の倍以上の数値へと昇華した。その攻撃力なんと5100。向かい風を両腕で振り払い、エッジマンの力で出来た爆風がグレート・モスに向かった。

 

「なにっ! くそっ、砂漠の守護者の効果発動! 自軍の昆虫モンスターが破壊される時に身代わりとする事が出来る。グレート・モスの盾になれっ!」

 グレート・モス程では無いにしろ大きいサイズの砂漠の守護者が身を乗り出してグレート・モスを庇う。それでも完全に防ぎ切れなかった余波がグレート・モスを襲いでっぷりとした腹に傷を作った。少年のライフポイントが大きく削れる。4100あったライフポイントから1600引かれ、2500まで大きく下落した。お互い大型モンスターが猛撃を止めず、ライフポイントの差もほぼ皆無にまで近づいた。

 

「へへ、追いついたぜ? 不屈のヒーローに、不可能など無いのさ!」

「小憎らしい! 雑魚は雑魚らしく這いつくばって、絶対強者に踏まれていればいいのだ! どの道お前のターンに攻撃は出来ない。凶暴化の仮面のライフコストでライフがなくなる前にケリをつけて――なにっ?」

 フィールドにあった筈の防波堤、フロントラインを唯一守ってくれていた無視加護のカードと、強化カードの凶暴化の仮面が消滅していた。クロノスもそっと呟いた。それが夸言かどうかは、耳に入れているかどうか関係無く少年が一番悟っていた。

 

「どういう事ナノーネ!? これでは彼のグレート・モスは次のターンで……」

 

 

 

「さあ、俺のターンだ! もう時間も無い。このターンで勝負付けようぜ? 俺の、タァァァァン!」

 

 監督官が。試験者が。会場が。十代の一挙一動に静一した。唾を飲み込む音が聞こえた。遠くで船が汽笛を鳴らす。三沢の額にあった汗が眉間を、顎を伝い、無機質な床に当たる音までが聞こえた気がした。意識の遠のきそうな程の時間は、果たして何秒だったのか。確かな耳鳴りまで聞こえる程の空気の静態が――再び動いた。

 

 

「――っっっっだぁぁぁぁぁあああ! リバースカードオープン! 装備魔法、呪いのお札を究極完全態グレート・モスに装備。っエッジマンでグレート・モスに攻撃ぃ! パワー・エッジ・アタック!」

 

 満身創痍のグレート・モスの身体に、摩天楼の効果により攻撃力がアップしたエッジマンの重たい一撃が突き刺さる。傷のついた堅い甲殻を破り、汚濁の如く体液を垂れ流す罅に肩まですっぽり入った拳。エッジマンがはらわたを握りつぶすと、黒紫色の気炎が傷口から散り、グレート・モスを焼き尽くした。

 

「呪いのお札を装備されたモンスターが破壊され墓地へ行った時、破壊されたモンスターの守備力分のダメージを装備されたモンスターのプレイヤーに与える。グレート・モスの守備力は3000、これでお前のライフは0だぜっ!」

 そう言ってその場に座り込む十代。相変わらずにへらと相貌を崩しているが、決闘を見ていた内、どうして無視加護と凶暴化の仮面が破壊されたのかを理解している人間が居なかった。

 

「どう、して?」

 

 膝からがくりと落ち込む百十二番の疑問に十代は、得意気に鼻をこすりながら、発動したカードを墓地から取り出して見せながら名前を読んだ。

 

「魔法効果の矢。速攻魔法で、相手の場にある表側表示の魔法カードを全て破壊して、その分だけ500ポイントのダメージを与えるカードさ! いやぁー危なかった危なかった、最後はどうなるもんかと思ったぜ」

 

 少年の手札にあったカードはジャベリン・ビートルが破壊された時に大樹海の効果で手札に加えたレベル八のモンスター、鉄鋼装甲虫のみ。明け透けな決闘の内容に、魔法効果の矢を防ぐ手立てが無い事は十二分に予想出来た。

「呪いのお札を前のターンに使うのは、まだお前のドローがあったから心配だったんだ。しっかし随分と時間くったな。俺腹減ってきちまったぜ。なあ、お前も一緒に食いに行かねぇか?」

 

 愕然と煤ける少年に十代は気にせず声をかける。既に十代の中では少年は友達だった。だからこそ、かける言葉が決まっている。十代は勝敗に拘らず、いつも決まって対戦相手にこう言った。

 

 

「ガッチャ、楽しい決闘だったぜ!」

 

 

 

 

 

 西暦20XX年、ここに一人の決闘者が居た。まだ駆け出したばかりの彼の道は長く遠い。これからの出会いの中で、様々な困難と向き合い、成長し、少年が大人へと成長していく。この物語は、その軌跡のプロローグを書くに過ぎない物である。




取り敢えず上げてみる。
文字列の空間とか全然配慮してないので、目がとても滑るとお察しします。だいたいどれくらいがこのサイトだと度合いがイイのか未だ不明ですので、教えてくださる方がいらっしゃれば感想一言等でお教え頂けたらなによりです。
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