自己紹介を終えた休み時間、俺は頬杖をついて外を眺めていた。
後ろに突き刺さる無数の視線…大方、俺と秋斗を見に来た生徒達だろう。
(客寄せパンダみてぇな気分だな…)
「ちょっと良いかい?」
小さく溜め息を吐いていると、誰か…いや、誰かなんて解っているか。
「…」
視線を移動させた先には、あのクズ…秋斗が居た。
「久しぶりだね、一夏。元気そうでよかったよ」
秋斗に声をかけられた俺は、話しやすい場所に行こうと言われ、屋上に来ている。
だが…コイツが屋上を選んだ理由が話しやすい場所だから、というのは建前だ。
「さっさと本音で話したらどうだ?此処には誰も来れねぇようにしたのは解ってんだ」
「…何時からそんなに鋭くなったのかは、まぁ良いだろう」
俺の言葉を聞いた秋斗は、小さく息を吐いた後俺の方を振り返った。
それも、さっきまでの笑顔なんかじゃねぇ…ゴミを見るような目でだ。
「てっきり死んだとばかり思っていたよ、この織斑の面汚しが。今更どの面さげて戻ってきたんだい?」
「いちいちテメェの顔色窺って戻ってこなきゃならねぇ法律でも出来たのか?ソイツは驚きだ」
秋斗の言葉に僅かな侮蔑を乗せて返事を返した…昔は想像も出来なかった事だな。
今まではずっと言い返そうにも言葉が無かったんだから。
「...随分というようになったね。昔はただ言われるままの弱虫だったのに」
「お前が甘ったるい微温湯に浸かっている間に色々あったんでね。お前こそ、姉貴に護られてきて随分と乳臭くなったじゃねぇか?さっさと帰って母乳でも飲んでろよ」
鼻で笑いながら更に言ってやると、秋斗は憎らしげに顔を顰めて睨んでくる。
いくらコイツが凄んできてもガキが睨んできたようにしか感じない辺り、俺もあの時と比べて変わったって事なんだろう。
「…本当、口が達者になったもんだよ。まぁ、その態度も何時まで続くか見物だけどね」
小さく舌打ちをすると、秋斗は踵を返して教室へと戻って行った。
それは寧ろ、此方のセリフなんだがな…しかし。
「本当、乳臭ぇ場所だ…」
屋上から見渡せる学園を眺めながら、俺は顔を顰めた。
「という訳で、ISは…」
秋斗との再会の後、俺は教室に戻ってきて授業を受けているんだが……どれもこれも、巫山戯てやがるな。
教科書をパラパラと捲りながら、俺は小さく溜め息を吐いた。
アラスカ条約で軍事利用が禁止され、スポーツとして扱われているISだが、装備されている武装は簡単に人を殺せるものばかりだ。
競技として戦うのであれば、わざわざ実弾やら真剣を振り回す必要なんか無い。
それに疑問を持たずに真剣に授業を聞いている奴らを見ると、この世界も随分歪んでいる事を実感する。
そもそも、条約なんてのも形だけで、実際中東に赴いた時には内戦にISが導入されているのを見た事もあった。
つまり、ISというのはどれだけ条約や綺麗事というオブラートで包もうが、銃や刀と同じ兵器でしかない。
扱うには、相応の覚悟やら注意事項があるんだが…この教科書には、何も書かれていない。
この学園に入って最初の授業は、落胆のままに終わった。
次の授業までの休み時間の間、俺は屋上で適当に時間をつぶそうとしていた…そんな時だった。
「ちょっと良ろしくて?」
「あ?」
後ろから声をかけられ、後ろを振り返れば、そこには高慢そうな金髪が立っていた。
育ちのいいボンボンが着るドレスみたいに改造した制服を着た…名前知らねぇからドリル頭で良いか。
ドリル頭は、腕組みをして俺を品定めするような目線を送っていた。
「…何か、失礼な事を考えませんでした?」
「別に、その髪型がドリルみてぇだなって思っただけだぜ?」
ジト目で睨んでくるドリル頭に返事を返すと、ソイツは顔を真っ赤にして「私怒ってますよ」と言わんばかりに表情を変えた。
…それは良いんだけどよ、後ろの奴ら笑い堪えんのやめろ。相手に失礼だろ?
特に吹き出したダル袖。お前だ、お前。
「あ、貴方!このセシリア・オルコットに対して随分な物言いですわね!?」
「リソシア・フルボッコだか誰か知らねぇけど、思ったまま口に出たんだ。仕方ねぇだろ」
「セシリア・オルコットですわ!まったく……織斑先生のご兄弟と比べて、無礼にも程がありますわよ」
顔を真っ赤にして怒るセ、セ…ドリル頭は、呆れたように溜め息を吐きながら俺を見る。
…オイ、そこのダル袖。どうでも良いけどお前、腹抱えて我慢するくらいなら笑えよ。痙攣起こしてて正直キモイぞ。
つか、コイツ秋斗にも声かけたのかよ。自分からエサになりに行くとか、自殺志願者かコイツ?
「無礼も何も、興味ねぇ奴の名前覚える程暇じゃねぇからな」
これ以上付き合っているのも面倒だし、俺は欠伸しながらそう言うと、そそくさと屋上に向けて歩いて行った。
途中、ドリル頭がなんか言ってたみてぇだけど…相手にするだけ時間の無駄だし、胸糞悪くなるだけだ。
授業に入る前、教室に入ってきた姉さんが口を開いた。
「三限目に入る前に、再来週行われるクラス対抗戦に出場するクラス代表を決める。自薦、他薦は問わん。推薦がある者は手を挙げろ」
その言葉と同時に、何人もの手が挙がり、僕と……そして、あの面汚しを推薦する声があがった。
複数の推薦がある場合、これは多数決で決められるのが一般的だろうけど、此所はIS学園。
おそらくは試合で決められる事になるだろう。
(あの時は随分虚勢を張っていたみたいだけど、この試合で教えてあげるよ…一夏、君が誰に喧嘩を売ったのかをね)
そう考えていた時、一人の女子の声が聞こえた。
「納得いきませんわ!」
そう言って立ち上がったのは、イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。
彼女は僕と面汚しの他にも…この国に対して罵詈雑言を宣っている。
まったく、自分の発言が国際問題になる恐れがあるという事も理解出来ていないのかな。
まぁ、これに乗じない手は無い。
彼女の挑発に態と乗って試合を行い、あの面汚しと代表候補生を倒せば此所での立場も確立するだろう。
仮に代表候補生を倒せなくても、善戦すれば強く印象に残るのは間違いない。
そう思い、僕は彼女とお遊びで口論を繰り広げた。
「で、ハンデはどのくらい付けたら良いのかな?」
僕の言葉に、クラスの奴らが笑い声を上げる。
男が強かったのはISが出てくるまでの話だとか言っているけど、コレもある程度予測は出来た。
それに、彼女が油断すればする程掌で踊らせやすい。
そう思っていた時だった。
「だったら、今証明してくれねぇか?女が男より強いって所をよ」
今まで黙っていたもう一人の男の声と同時に、耳を劈く轟音が鳴り響いた。
「…海、動…くん?」
前の席…いや、それだけじゃねぇ。
クラスの奴らが全員呆気にとられた顔で俺を見てくる。
俺の右手に握られているのは、硝煙を上げるM9。
天井に向けて発砲したそれは今、前の席にいた女子の額に照準が合わせられている。
「なぁ、お前らは男より強ぇんだろ?だったら此所で証明してみせろよ」
俺の言葉を聞いた女子は、何が起きているのかさっぱり解ってねぇ面で俺を見上げている。
まぁ、いきなり銃口向けられたら気が動転すんのは解るがな。
「そ、そんなモデルガン持ってきたら危ないよ?子供じゃな「玩具だと思うか?」」
声を震わせながら言ってくるのを遮り、今度はグラウンド側の窓に照準を合わせて引き金を引く。
再び轟音がクラスに鳴り響くと同時に窓ガラスが割れ、近くに居た女子が悲鳴を挙げた。
此所で漸く、俺が持っているものが本物だと理解したんだろう。
悲鳴を挙げるもの。
逃げようと席を立ち上がるもの。
クラスの中は、地獄絵図と化した。
「
俺の言葉に、クラスの奴らは動きを止めた。
恐らく…いや、今の俺は「仕事」をする時の顔になっているだろう。
命の奪い合いを…殺し合いを繰り広げている時の顔に。
実際、奴らの顔は俺を見て恐怖に染まっているし、姉貴達は俺の変わり様に驚きを隠せてねぇ。
「…これがお前達の現実だよ。ISがあるから男より強いとか言ってるが、所詮は虎の威を借りた狐に過ぎねぇ。今誰も俺を抑えられてねぇのがその証拠だ」
そう言って溜め息を吐くと、俺は姉貴を見た。
「この際だから、ハッキリ言わないとな…なぁ、織斑先生?」
「…何をだ」
何を?決まっているだろ。
「ISは所詮、コレと同じ人を殺せる道具で...お前達生徒は戦争の予行演習をしています、ってさ」
姉貴の言葉に呆れながら、俺はハッキリと…クラスの全員に聞こえるように言ってやった。