私設兵団WSOが所有する移動拠点…スカーフェイス。
そのモニター室に、一本の通信が入った。
『こちらアモン7。スカーフェイス、応答してくれ』
「こちらスカーフェイス、アモン7の認証を確認。お疲れさまです、海動特務中尉」
モニターから発せられた少年…一夏の声に、オペレーターの女性が返事を返した。
『急な用事で悪いんだけど、荒神谷参謀に通信を繋いでもらえるか?』
牝狐に絡まれた後、部屋に戻った俺はスカーフェイスに通信を繋いでいた。
目的は一つ。
今回の件にカイザーを使えるかどうか、だ。
『荒神谷だ。IS学園はどうだね?』
「ガキの集まりですね。アイツらはどうも、ファッションとかスポーツの一環みてぇに見てる奴が多いです」
オペレーターに通信を頼んで暫く、代わった参謀からの質問に溜め息を吐きながら返事を返した。
『我々と違い、戦争のない国で育ったのだ。仕方ないだろう…それで、世間話をするために私に通信した訳ではないのだろう?』
小さく苦笑しながら返事を返してきた参謀だが、俺が通信した意図を察したのだろう。
眼光を鋭くして俺を見てきた。
「えぇ。今回、愚弟とそれに噛み付いた馬鹿のせいで模擬戦が行われるのですが…なんの因果か、俺も巻き込まれまして」
『それにカイザーを使えるかどうか…か』
俺の言葉に続くように、参謀は小さく呟いた。
その様子をみて、ダメかもしれねぇなという考えが頭を過る。
第一に、カイザーはWSOが所有している兵器だ。
俺はパイロットに任命されただけで、カイザーを貰った訳ではない。
第二に、カイザーは…ISではない。
扱い方はISに似ているし、見た目も全身装甲と言えば疑われはしない。
だが…ISに搭載されているPICや絶対防御、ハイパーセンサーといったシステムを全く搭載していない。
機械仕掛けの鎧、と言った方が正しいかもしれねぇ。
それらから、今回の事にカイザーを出張らせられねぇ…と思っていた。
『…ふむ、許可しよう』
「はい?」
だが、参謀から返ってきた返事は許可。つまりはOKサイン。
「良いんですか?」
『うむ。本来ならば許可出来ないが…此方としても、出撃させる事情があってな』
あまりに呆気ないOKサインに肩透かしを喰らっていると、参謀は気になる発言をしてきた。
「事情?」
『うむ。君は織斑秋斗に専用機が支給される事を知っているかね?』
参謀の言葉に俺は小さく頷く。
今日の授業中、姉貴がそんな事を言っていた記憶があるし…それでクラスに一悶着あったから印象が強い。
『実はアイラから通信を受けていてな…その機体を中心に世界が動くやもしれん、と言われたのだよ』
「!アイラが…?」
その言葉に俺は息を呑んだ。
アイラというのは以前出会ったチベットに居を構える尼寺の高僧で、変わった力を持っている。
それは、これから起きるであろう出来事を予知するというものだ。
『万が一の事もある。海動特務中尉、心しておいてくれ』
「了解」
アイラの予知という事もあってか、参謀の口調も何時もより硬い…それだけ、信憑性が高いということだろう。
俺は返事を返すと、通信を切った。
アイツの専用機が来るのは試合の日…一週間後だ。
それからどうなるかは…誰にも解らない。