物心ついた頃から、俺は姉弟と比較されて生きてきた。
俺がどれだけ頑張っても、出来の違う姉と弟が居たから「これくらい出来て当然だ」と言われ貶される始末。
その風当たりは、ある事件を切っ掛けに更に厳しさを増した。
篠ノ乃束博士によるパワードスーツ...ISの発明と、「白騎士事件」
それによって男女のパワーバランスが崩れた。
これによって、俺は更に姉弟と比較される事となった。
なぜ、皆は俺を見てくれないんだろう。
なぜ...皆俺を「織斑千冬の弟」としてしか見ないんだ。
俺には、「一夏」という名前があるのに...。
そして...それは今、目の前に置かれている状況でもそうだった。
俺は、千冬姉が出場するISの技能大会「モンド・グロッソ」を観戦するため双子の弟である「秋斗」と二人ドイツに来ていた。
そして、千冬姉の試合まで時間があるからと市街地を観光していたとき...俺は誘拐された。
「ガキ一人誘拐するだけで俺らを使うって、このガキそんなに重要なのか?」
「あぁ。なんせ、あの織斑千冬の弟だからな」
使われなくなった廃工場で縛られた俺は、誘拐したグループの話に聞き耳をたてていた。
どうやら…千冬姉のモンド・グロッソ2連覇を台無しにしたいが為に俺を誘拐した事になる。
「下手に動こうとしない方が良いぞ、死にたくはないだろう…織斑秋斗君?」
犯人グループの一人が銃を持ったまま俺に声をかけてきた。
下手な動きも何も、中学生の俺には何も……待て、目の前の男はなんと言った?
秋斗…まさか、コイツら…
「オイ、どういう事だよリーダー!」
「なんだ騒々しい、少しは静かに「出来るかよ!なんで織斑千冬が決勝戦に出てんだよ!」…」
隣の部屋から出てきた仲間の怒声に、リーダーと呼ばれた男は眉根を寄せた。そして
「それだけじゃねぇ!監視カメラの映像をジャックしてみたら、誘拐してきた筈の織斑秋斗が観客席にいやがるぞ!」
その言葉を聞いて…男は目を見開いた。
「おい…坊主」
男は、俺に声を掛けながら銃口を此方に突きつけてきた。
「もう一度聞く…お前は織斑秋斗か?」
「…一夏…俺は、織斑一夏だ」
銃口を突きつけられた事で再び襲う恐怖に堪えながら名前を呟くと、男は舌打ちした。
「忘れてたな…織斑千冬の弟が双子だったという事を…織斑千冬はまだ試合中か?」
「あ、あぁ…生中継だから間違いない」
男達の言葉を聞いていた俺は困惑していた。千冬姉や秋斗は…俺が誘拐されている事に気づいていない?
「大方、国のお偉方が自分たちの名誉の為に黙ったんだろう。ただでさえ日本はISの事で他の国からの風当たりが強いからな…だが」
そう言うと、男は銃口を突きつけたまま底冷えするような冷たい瞳で俺を見た。
「それとこれは話が別だ。織斑千冬の決勝戦出場を辞退させなければ弟の命はない…向こうにはそう伝えた」
男は俺を見据え呟きながら、ゆっくりと引き金に指を掛けて力を込めていく。
「お前に罪はないんだがな…怨むのなら俺たちじゃなく、お前を見捨てた国と姉を怨むんだな」
そして…銃弾が俺めがけて放たれる…筈だった。
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォン……!
「「「!」」」
俺たちの鼓膜を容赦なく叩き付ける爆音と地響きに、俺たちは辺りを見回した。
音がしたのは工場の出入口…俺たちがいる場所からそこはハッキリと見えた。
入り口には…一人の男が立っている。
そして…一歩、また一歩と近づいてくる。
何かを肩に担いでいるのが目に見えたが…近づくにつれ、陽光を反射するそれが抜き放たれた真剣だというのを認識した。
逆立った髪に鋭く、飢えた獣のような獰猛な瞳
黒いズボンとブーツで隠された足は、歩み方から相当鍛えられていることが見て取れる。
そして…それを更に裏付けるのは、ノースリーブのジャケットで申し訳程度しか隠されていない筋肉。
これが…俺と、後に俺の兄貴となる男…