お待たせしました最新話にございます。
4月初頭、入学式が行われ誰一人として居ない廊下を足早に歩いていた。
逸る気持ちを抑えようにも、身体が自分の意志を全く聞き入れてくれない。
それだけ…私、織斑千冬の心は揺れ動いていた。
事の始まりは数年前、あの第二回モンド・グロッソの日に遡る。
その日、私は決勝戦まで勝ち上がり、二度目の優勝を手にする事が出来た。
だが…それ以上の衝撃が私を襲った。
弟…一夏の誘拐。
決勝戦後、駆けつけたドイツ軍の兵から聞かされた言葉に、私は衝撃を受けた。
一夏が誘拐された事など、その時の私は全く知らなかった。
決勝戦前には、日本政府は情報を掴んでいたが、保身の為に黙殺したと…当時、私に付き添っていた政府の人間を問詰めれば吐いてくれた。
取り乱しながらも、ドイツ軍に教えられた場所に向かったが、其処にあったのは8つの死体
一夏の姿は、何処にもなかった。
ドイツ軍と警察に協力してもらい捜索を行ったが消息は掴めず、捜査は打ち切られてしまった。
あれから3年経ち、IS学園の入学式も近くなって来たある日。
私はあるニュースを耳にした。
世界で2番目にISを動かした男が現れたのだ。
ISは本来女性にしか反応しない。
それを反応させたのは…私のもう一人の弟、秋斗だった。
当初は私は関係ない、そう思っていた。
一夏が居なくなった今、残った秋斗だけは絶対に護る。
そう誓っていた…筈だった。
海動一夏。
アナウンサーが口にした名前に、私は思考を停止せざるを得なかった。
誘拐されて数年…未だ消息が掴めない一夏と関係があるかは解らない。
だからこそ…
私は、自分の目で確認する為、校門へと向かっていた。
「一夏」
「ん?」
校門前で、学園側の迎えを待っている傍ら、護衛兼付き添いで来ていた姐さんから声をかけられた。
ちなみに、兄貴は暇そうにナイフの手入れをしている。
「お前の姉は、どんな人だったんだ?」
「どんなって…」
姐さんの言葉に、俺は思わず言い淀んだ。
子供の頃を思い出しても、俺はあの姉と…あのクズの二人と比べられてきた。
それが理由で、俺はあの二人が嫌いになった訳だが…。
「嫌いだけど…嫌いじゃない人、かな」
「…そうか」
俺の漠然とした言葉を聞いて、姐さんは小さく笑った。
兄貴についていった当初は、何故助けに来てくれなかったなんて考えて怨んだりもした。
だけど、それはよくよく考えれば逆恨みでしかない。
あの時、あの女は俺が攫われた事など知らなかったんだ。
それを怨んだってお門違いでしかない。
寧ろ、あの時まで俺を育ててくれたことに感謝こそしている。
「……」
だが…、そう思いながら俺は拳を握りしめる。
そんな時、学園の方から一人の女が此方へ歩いてきた。
黒いスーツに背中まで伸びた黒髪。
「…一夏」
パッと見は誰か解らなかったが、俺を呼ぶ声を聞き…漸く誰か解った。
織斑千冬…嘗て、俺を育ててくれた女だった。
目の前に立つ男…一夏は、あれから随分と変わっていた。
髪の毛は逆立ち、目つきも子供の頃とは比べ物にならない程鋭くなっている。
それに、立っている姿でも解るくらい、体つきも逞しくなっていた。
「…一夏」
恐る恐る声をかける。
きっと、私は声が震え、今にも泣きそうになっているだろう。
今更、どのような顔をして会えば良いのか解らなかったのだ。
「…」
私の声を聞いて、一夏はゆっくり口を開いた。
「はじめまして…なんて、言っても納得出来ないか。久しぶり」
一夏のその言葉を聞いて、私は自分の感情を抑える事が出来なかった。
溢れる涙を止める事無く、一夏を抱きしめる。
「一夏…っ」
暖かい。
腕に伝わる温もりが、この現実をはっきりと物語っていた。
「…すまなかった」
感情のままに声を殺して泣き、漸く落ち着いた所で私は一夏から離れる。
「行方知れずの弟が生きていたんだ。無理も無いだろう」
私が離れた所で、先ほどのやり取りを見ていた赤髪の女が私に話しかけてくる。
「…お前は」
「失礼。私設兵団WSO、グレンファルコン隊隊長のスカーレット・ヒビキだ。こっちはデスカプリース隊所属の海動剣」
私の質問に女…スカーレットは答えながら、近くに座っていた男を顎で指す。
「一夏、お前は…」
「その事だけど」
スカーレットの紹介を聞きながら、私は改めて一夏を見た。
今まで何をしていたのか、など聞きたい事が山ほどある。
何故、海動一夏と名乗っているか…など。
そう考えていると、一夏が口を開き、一枚の紙を渡してきた。
「!」
その紙…離縁状と書かれた紙を見て、私は息を呑んだ。
「織斑一夏はあの時…モンド・グロッソの年に死んだ。この国に見殺しにされてな。此処に居る俺は…WSOの海動一夏だ」
一夏の言葉を聞いて、私は過去の自分を呪った。
あの時、もし私が一夏を助けにいけたならば、こんな事にはならなかっただろう。
これはきっと…一夏を見殺しにしてしまった私に対する神からの罰なのだ。
だから…コレを拒む権利など、私にはない。
「…わかった。だが…」
私は、一夏から離縁状を受け取りながら小さく呟いた。
「…生きていてくれて、ありがとう」
この作品がアンチ千冬だと思った人は手を挙げろ。
...挙げた人は残念だったな。
さて、これで何人の方の予想を裏切る事が出来たでしょうか。
この作品の一夏君は、あくまで千冬が嫌いです。
ですが、憎い訳ではありません。
憎んでいるのは束と自分を見殺しにした日本政府くらいでしょうか。