東方生還記録   作:エゾ末

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捌話 全てにおいて規格外

 

 天魔様の屋敷が無い。

 

 天狗の長である天魔様の屋敷は謂わば天狗界の中枢。重要な会議や機密文書の保管、時には宴会等汎ゆる側面を持った最重要施設であった。

 

 そんな屋敷が跡形も無く消し去るなんて、鬼がこの山を侵略してきて政が安定していなかった時以来だ。

 

 

「本当に、"あの人間"が関わると碌なことが無いな」

 

「飯綱丸様!」

 

 

 天魔様屋敷跡地の周りを天狗達が騒ぎ立てている中、私の背後から近付いてきたのは、私の直属の上司である飯綱丸龍様。

 自身の鮮やかな髪色と同色の青素地の衣裳に、片肩から垂らした漆黒の外套に身を包んだその姿は、満月に照らされた星空のように美しい。

 

 

「あの人って……生斗さんの事を言ってるんですか?」

 

「此処に居座るような馬鹿な人間、あいつ以外に何処にいるんだ」

 

 

 確かに……生斗さん以外で此処に居を構えた人間はいない。

 どれも妖怪や八百万の神達ばかり。

 妖怪の拠り所たるこの山に、人間が介入する暇はない。普通ならばですけど。

 

 

「それよりも、だ。射命丸、哨戒天狗達にお前を行かせないように指示させていた筈だが」

 

「振り払ってきました」

 

「馬鹿、がっつり規律違反だ」

 

「いでっ」

 

 

 いつも携えているお仕置き棒で頭を叩かれてしまった。

 いやまあ、お仕置きを受けることは覚悟していた。この山の異変や指示受けを逸早く把握出来る哨戒天狗達が飯綱丸様の命令で拘束しようとしてきたのを振り払ってまで此処に来たのだ。

 それもこれも、私が生斗さんを慕っていたから。彼女からしてみれば、生斗さんの関係者がこの山に現れたと分かれば、私が何をしでかすか分かったものではないのであろう。

 

 

「それに、お前が来ても何もできやしないさ」

 

「……そのようですね」

 

 

 遥か上空にも関わらず、轟音が鳴り止まないのは、侵入者と萃香様が戦っているからだ。

 上空には空間の割れ目や歪みが無数に広がり、予測不能な弾幕群が辺り一面に蔓延っている。

 

 あんな死地に飛び込めば、いくら天狗内でも実力派である私だとしても数秒と持たない自信がある。

 

 

「あの場で私達に出来ることはない。それよりもやる事があるだろう」

 

「それはなんです?」

 

「大騒ぎ、喧嘩沙汰の後にやる事は?」

 

「……そう来ましたか」

 

 

 鬼達が大好きで事あるごとに催す()()

 特に鬼達のお気に入りであった生斗さんの使いが来たとなれば、確実に催されるだろう。

 後でいきなり言われる前に、事前準備しておこうって事か。それに飯綱丸様も人が良い。咎めたばかりだというのに私に"機会"を与えてくれるなんて。

 

 

「ほら、鬼の集落へ行くぞ」

 

「はい!」

 

 

 ほんとに、飯綱丸様は口と態度は悪いが部下思いだ。

 鬼の集落なんて絶対行きたくないだろうに、態々私を連れて迎おうとしてくれるなんて。だから私も安心してついていけている。

 

 さあ、翠さん直伝の腕によりをかけて鬼達に料理を振る舞うとしましょうか! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「楽しいなぁ八雲紫!」

 

「ええ、伊吹萃香……!!」

 

 

 今日はなんて吉日なんだ。

 冷えつつあった私の魂が今、猛々しく燃え上がっているのを感じる。

 

 虚を突き突かれ、四肢が弾ける程の猛攻を負い負わす。

 

 互いが互いを深く観察し脳味噌を全力で稼働し巡らせ一手を打つ。

 盤上では味わえない一手を誤れば数瞬で詰みが確定してしまうこの緊張感。

 

 手の内の分からない相手だからこそ、それは最大限に機能する。

 

 楽しい! 楽しい楽しい楽しい!! 

 

 人間と戦うのも楽しい。けど、大妖怪同士の戦いも同等に楽しい! 

 

 

「!!」

 

 

 私の分身に触れ、又も私の能力を強制解除し実態となった私の腕を掴む八雲紫。

 勿論、そんな芸のないことを何度もするわけじゃないんでしょ。

 見せてくれ。魅せてくれ。私の想像を超えた一手を。私はその一手を上回る一手を繰り出してみせるからさ! 

 

 

「!!! 私以外にそれはやっちゃ駄目だよ!!」

 

「貴女だからこそやったの____」

 

 

 密と疎を更に弄って私の身体を強制霧散させようとはね。私の能力外のことで起こされたから一瞬全身から血と酒が噴き出してしまったよ。

 直ぐ様能力と自身の再生力を活かして自らの身体を再構築したから事無きを得たけれど、それが無ければ即死だったろうね。

 私も相手に同じ事が出来るけど、それは一種の反則技でしょ。

 ま、私だから此奴も出したんだろうけどさ。

 

 

 それはさておき、八雲紫はその能力を発動させる(一芸を見せる)為に私に触れた状態のままなわけだ。

 

 これは、攻守交代って事でいいんだよね? 

 

 

「っ!!?」

 

 

 掴まれた腕を骨が折れるほどの力で握り返し、八雲紫を引き込む。

 

 そのままの勢いで私は彼女の腕を起点にし、まるで人形を乱暴に扱う赤子の如く振り回す。

 

 天狗ですらこれには数秒も耐えられるものはいなかった。

 さて、八雲紫はこれにどう対応する。

 どうせこれにも難なく対応するんでしょ? 

 

 

「人形遊びがお好きなようね」

 

「…………やるぅ」

 

 

 眼前に空間の裂け目が発生し、そこから姿を現したのは振り回されている筈の八雲紫。

 まさかと思い握る腕の先を見るとそこには札が貼られた木っ端妖怪が無惨にも息絶えていた。

 

 

「式神まで使えるなんてね。あんた、どんだけ引き出し持ってんの」

 

「多いに越したことはないでしょう」

 

 

 言えてる。

 私に対しては一発芸にしかならないが、余興を楽しむには丁度いい。

 

 式神使いは数の利を用いた戦法を得意とし、自身の能力の一部を与えることが出来るため戦略の幅を大いに増やすことが出来るのが利点。弱点といえば、式神使役の難易度と、能力譲渡の数が増えれば増えるほど精度は下がって術者本人の能力も弱体化される事ぐらいか。

 

 そして式神使用の利点の殆どは私には通用しない。

 数の利も、能力の使用も、即座に対応できる私には先に言ったように一発芸でしかないのだ。

 

 

「でしたら、これはどうでしょう」

 

「馬鹿だね」

 

 

 辺り一帯には式神であろう鴉の大群が宙を覆い尽くす。それに隠れるように八雲紫は姿を眩ませる。

 

 ……命を粗末にするとはこの事だ。

 これだけ集めるのにも一苦労だったろうに、ここに来て大盤振る舞いとは。

 

 

「数で私を上回ろうだなんて、万の兵士を集めて出直してきな!」

 

 

 自身を十万の分身へと姿を変化させる。

 一人一人の攻撃が大妖怪並と言っても過言ではない。

 これに八雲紫はどう対処する? 

 そのままかち合えばそちらの全滅は必至。

 地力では此方が断然上。それを八雲紫が理解していない筈が無い。能力を複製しているかに()()()()()その能力___それでこの戦況を覆すか。それともまだ私に通用する引き出しがあるか。

 何方にせよ全部吐かせてあげるよ。

 

 

「!!!」

 

 

 有象無象の闇と私とが妖怪の山の頭上でで衝突する。

 鴉共の必死の突撃は、十万の私の拳によりその一切が塵と化す。

 

 …………ん? 感触的にこれは_____紙か。

 生物に擬態するよう術式を刻んでいたか。

 

 

 _____ふぅん。その手があったか。

 

 

「こんにちは、小鳥さん」

 

「にしては大きすぎないかい?」

 

 

 私を()()()()()安心したからか、八雲紫が空間の裂け目から姿を現してくる。

 

 紙の式神には鴉の擬態以外にももう一つ術式が仕込まれていた。

 それは式神内に溜め込まれた妖力素の霧散。

 妖怪の山を埋め尽くす鴉の大群を瞬く間に全滅させたことにより、八雲紫の妖力が十万の私の周りを覆い尽くしたその規模は、彼女が即時に出せる出力を優に超える。

 

 だからこそ対応が遅れた。

 私を覆い尽くす妖力から大結界が生成される瞬間を見逃してしまった。

 

 

「ふん、こんなもの」

 

「疎にしようとしても無駄よ。これはとある陰陽師の術式を模倣して作った結界。結界内は能力が使えなくなる仕様なの」

 

「安心しな。端から能力を使うつもりなんてないよ」

 

 

 分身した私はそのまま。

 だけれど密になろうとしても上手く能力が扱えない辺り、八雲紫の言っていることは本当なのだろう。

 けどあんたは一つ勘違いしている。

 

 

 

 能力なんてものは、戦いにおいての味の付け足しでしかないんだよ。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 漸くあんたの驚く顔が見れたよ。

 

 相当自信のあった結界だったのだろう。

 それがの一分身体の()()()()鹿()()で破壊されたら、驚愕の色を隠せなくなるのは仕方ないのかもしれないね。

 

 

「これで終わりじゃないんだろう、八雲紫」

 

 

 崩れ行く結界を跳ね除け、十万の私を集めながら、八雲紫の前へと立ちはだかる。

 

 

「……貴女、規格外過ぎるわね。私がここまで入念に対策して倒せなかったのは貴女で二人目よ」

 

「なんだ、私以外にもいるんだ。今度紹介してよ」

 

「ええ、勿論。()()()()()()()()()()()

 

 

 その為に? 

 少し引っ掛かりのある言葉だけど、言及するつもりはない。

 そんな野暮な事でこんな楽しい一時に水を差すような事はしたくないからね。

 

 

「さあ、八雲紫。休憩時間は終わりだよ。あんたはあと幾つ引き出しがあるかな? 一か、十か、それとも百か?」

 

「……幾らでも___充分過ぎるほどに」

 

「最高だよ!!」

 

 

 永遠と続いてくれたら良いのに、全く。

 

 

 

 

 それにしても、()も清々しい顔で山かけられるんだね。

 

 

 妖力ももう()()を切ってるというのに。

 

 

 





次話紫VS萃香完結です。
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