東方生還記録   作:エゾ末

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拾話 知的な向こう見ず

 

 

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

 

 妖怪の山の一角である鬼の集落。

 日は沈み、辺りには闇夜が訪れる中、焚き火を集落全体に灯し、至る所で鬼達が酒を飲み交わす大宴会が催されていた。

 

 

「なあ嬢ちゃん! この後俺と一戦しないか?」

 

「あっ! 抜け駆け狡いぞ! 俺様が先だ!」

 

 

 身体のあちらこちらが包帯に包まれながらも、なんとか五体満足で済んだ紫が、血気盛んな鬼達に絡まれる。

 

 

「こら、私達が話してるところでしょうが。求愛は此奴の身体が回復してからにしな」

 

 

 胡座をかいてお酒を飲んでいた勇儀が手をしっしと払い、鬼達を引き返させる。

 

 

「にしても、生斗の関係者だからって半身だけ置いて行っちまいやがったからねこの飲んだくれ。明らかに舐めてるよねぇ」

 

 

 ポンポンと隣にいる萃香の頭を叩く勇儀。それに対して悪びれた様子もなく萃香は伊吹瓢内にある酒を一気飲みする。

 

 

「ぷはぁあ! そりゃ〜目の前に御馳走が二つも置いてあったんだ。どっちも取らないのは失礼でしょ?」

 

「どっちも取ろうとする方が失礼だろ」

 

 

 二人が互いの頬袋を引っ張り合っているのを他所に紫は真っ二つに割れた剣助を手に持って溜息をついていた。 

 

 

「必要経費とは言え、生斗の宝物を壊してしまったわ……」

 

「あ、一応罪悪感あったんだ。まるで紙屑のような使い方してたからもう不用品なんかと思ってたよ」

 

「貴女を騙す為に必要だったのよ」

 

「んー、確かに。私は()()()()剣助とどっちが強いかはっきりさせようとしてたからね」

 

「今度こそ?」

 

 

 萃香の口振りに違和感を憶える紫。

 まるで以前も手を合わせたかのような口振り。

 それを察したのか勇儀が口を開く。

 

 

「以前生斗が帰った時に見せびらかしてきてね。興味を持った萃香が適当な理由をでっち上げて生斗と一騎討ちになったことがあったのさ」

 

「結果は紫もなんとなく理解してるだろうけど、逃げられたんだよね」

 

「逃げられたっていうか、衝突の直前に振り被った萃香の腕を側面から斬り落としたっていうのが正しいね」

 

「逃げたの!」

 

「へえ、そんな事が」

 

 

 まさかとは想定していたが、生斗が萃香と再戦していたことに内心驚愕する紫。

 妖怪ですら一撃で致命傷になりかねない萃香の攻撃を、霊力と能力があるとは言え人間である生斗が五体満足で生きている事実に、自身が相対して改めて人外であると実感していたからだ。

 

 

「ここにおったか」

 

「あっ、天魔___と文!」

 

 

 剣助の話で盛り上がっている所に、天狗の長である天魔と、酒のつまみを乗せたお盆を持った射命丸文が姿を現す。

 

 

「八雲紫、と言ったか」

 

「御免なさいね。昼間は不躾な挨拶をしてしまって」

 

「よい。罰はもう受けたのじゃから、他の天狗等も文句は言うまいて」

 

 

 カラカラと笑う天魔を見て、昼間との態度の違いに呆気にとられる紫。

 公私で性格が変わることはまま有ることだが、自信の屋敷を壊されて尚柔和な態度はそうそう取れるものではない上、こうも敵対していた時の表情と声質に天地の差があったからだ。

 

 

「横を失礼するぞ」

 

「ええ、どうぞ」

 

 

 紫の隣に腰を掛け、文に酌をさせる天魔。徳利をそのまま受け取り、紫の杯へ酒を注いだ。

 

 

「ほら、乾杯」

 

「乾杯」

 

「私達も混ぜな!」

 

 

 杯を交わし、互いが酒を喉に通す。

 度数で言えば人間が軽く卒倒するレベルであるが、ここにいるのは大妖怪。一口程度で酔うほど軟弱な者はいない。

 

 

「さて、盛り上がってる所に水を差してしまったかな」

 

「水を差す程のことでもないよ。これ、紫の横に置いてる剣助の話をしてたんだよ」

 

「剣助?」

 

 

 天魔が訝しげに紫の膝に隠れた剣助を見ると、懐かしい物を見たかの如く目を見開く。

 

 

「お〜、これはこれは。わしと河童が共同で作成した妖刀じゃないか!」

 

「えっ、天魔がこれ作ったの?」

 

「そうとも。生斗がこの山を出ると秘密裏に聞いておっての。公に渡すわけにいかんから、河童に頼んで渡してもらったんじゃ」

 

 

 天魔のカミングアウトに一同が驚愕の声を上げる。

 まさか生斗が使用していたのは、天魔の加護を持った代物であったとは、相対した萃香ですら気付けなかったのだから。

 

 

「無惨に折れているが、折れ口を軽く熱して妖力を込めればすぐ直る。そのように作ったからの」

 

「それは良いことを聞いたわ(これで証拠隠滅が出来るわね)」

 

「にしし、今度生斗に会ったら紫がお粗末に剣助扱ってたって言っとくよ」

 

「勘弁して頂戴……」

 

 

 紫の気持ちを察してか、萃香が悪戯な笑みを浮かべながら彼女を誂う。

 

 

「今度……そうです。今度。紫さん、生斗さんはいつこの山に顔を見せるんですか?」

 

 

 先程まで発言を控えていた文が口を開く。

 その姿を見て、ただのお付だと認識していた紫が疑問符を浮かべる。

 

 

「貴女は……?」

 

「申し遅れました。鴉天狗の射命丸文と申します。この妖怪の山に生斗さんが在住されていた際に直属の部下として従事していました」

 

「文って料理も美味いし腕っぷしも強いんだ。この山でも両指に入る程にね」

 

「恐れ多いお言葉です、勇儀さん」

 

「へえ、貴女が」

 

 

 妖怪の山での出来事を夜更けまで聞かされた際によく出てきていた名。

 その時の彼の楽しそうな顔を見て、密かに嫉妬心を燃やしたのを思い出し、紫は苦笑いする。

 

 

「よく生斗から聞いていたわ。自慢の部下兼友達だって」

 

「へへ、そんなぁ」

 

「なんか私の時と態度違わないかい?」

 

「違いません」

 

「わっ、急に真顔になった」

 

 

 文の表情変化の違いに勇儀が驚いているのを横目に、萃香は猪の串焼きを頬張り、残った串で紫の方向へ指した。

 

 

「そんなことよりさ。文の言っていたとおり、なんで生斗はこの山に来なくなったのさ。そして紫、あんた()()がここに来たのもそれに関係があるのかい?」

 

 

 萃香が天満の屋敷もとい紫を急襲したのは強い者と戦いたいというのもあるが、生斗の所在を知る為であったこと。

 あまりにも紫との一時を満喫してしまった為、二の次となっていたが、今が彼の現在を知る絶好の機会だと認識したのだろう。

 酒により頬は紅くなっても、眼は真剣そのもの。

 ただならぬ雰囲気を感じ取ってか、紫は杯に残った酒を一呑みし、一息つける。

 

 

「そうね。私も時を伺っていた所だったの」

 

 

 ボロボロの身体を動かし、姿勢を正す紫。

 これから百年もの間行方不明となった友の所在が判明するのだと、皆が理解し息を呑む。

 

 

「これから話すのは、私と生斗が邂逅した百年前、そしてそこから八十五年前に()()()()()()()()()()()までの経緯よ」

 

「生斗が……」

 

()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 それから私達は紫の話を相槌を打ちつつ事の顛末まで聞き終えた。

 まさか私達に会いに来なくなったのは、妖怪になって間も無い紫への配慮と、月の民に連れ攫われたからだってね。

 あいつは酒の席でよく月の話を楽しげに話していた。

 そしてこの山を出た理由も月の連中に顔を見せる為。

 元より生斗は月へ行く方法を模索していた。それが連行される形とは言え、念願が叶ったのだ。

 これは友として喜ぶべきことなのか……なんとも悩ましいところだね。

 

 

「にしても、あの生斗が子育てねぇ」

 

「子育てとは聞き捨てならないわね」

 

 

 この山で一緒に馬鹿やってた時とは想像ができないね。

 昔なんて小鬼に対してどれだけ自分だとバレずに驚かせるか競ってたりしてたのに。

 あの時の生斗の変顔は人間がしていい顔ではなかった。

 

 

「でも、良かったじゃないか萃香。私達に愛想が尽きて帰ってこなくなった訳じゃなくて」

 

「そうだね。本当にそれが理由だったら地の果てまで追い掛け回して無間地獄に落とすところだったよ」

 

「(本当にそれが出来てしまうから萃香さんは怖いんだよなぁ)」

 

 

 文が何か言いたげな顔をしているが、口に出さない辺り失礼な事なんだろう。

 いつもならダル絡みして困らせてやる所だけど、今は優先順位が違う。

 紫の話はまだ、彼女にとっての『本題』には入っていないからだ。

 

 

「それで八雲、御主が熊口の助言を後回しにし、八十五年も力を付けてきたのには理由があるんじゃろう。まだ続きがあるんじゃろう」

 

 

 胡座の状態で顎を手で擦りながら話の動線を戻す天魔。

 やはり皆もこれで話が終わるとは思っていないのだろう。この話もそうだが、紫がこの山に入る所から何から何まで不可解な点が多いからね。

 この中で勘付いていない思慮浅い者はいない。

 

 

「えっ、まだ話に続きがあるのかい?」

 

 

 いたね、馬鹿勇儀が。

 どうせ勇儀の事だから挑発的な山への侵入も、態々八十五年も修行して来たのも、そして私達を満足させるよう立ち回っていたのも全て、単純に強い奴と戦いたかったからだって結論付けてるのだろう。

 脳筋勇儀め。

 

 

「強い貴女達と戦いたかったからよ」

 

「ほらやっぱり!」

 

「ばっかあんた紫あんたほんっと!」

 

 

 虚を突かれた私は思わず罵りの言語化に失敗した。

 絶対分かった上で言ったでしょ紫の奴!

 

 

「ふふ、1割は本当なのよ。強くなければ意味がないもの」

 

「……1割はあるんだ」

 

「私の今の実力の指標と、今の貴女達の実力を測るのに、闘争は打って付けでしょ」

 

 

 自身が今どのぐらいの実力なのか。

 そして妖怪の山を統べる私達の実力は如何ほどなのか。

 それを測る為、自ら虎穴に身を投じたってのは分かった。

 だけれども、それだけで疑問が解消されよう筈もない。

 

 

「それで、残りの9割は何さ」

 

 

 私の投げ掛けに、紫は暫し瞼を瞑る。

 勿体ぶるのは好きじゃない。しかし、有無を言わせない何かがある。

 それだけに、紫が次に発する言葉には”重み“があると言うことだ。

 

 

「……」

 

 

 そしてゆっくりと瞼を開いた紫は、ポツリと呟き始める。

 

 

「月の民は私達の知識を遥かに上回る技術力を有しているそうなの」

 

「それはさっきあんたから聞いた話からなんとなく分かったよ」

 

 

 月から訪れた黄金に輝く船。

 矢を放つ者を失神させ、攻撃すらもかの船の前には無力化される。

 そんな代物が巨万とあると竹女が言っていたそうな。

 そんなデカブツ、私なら一撃で破壊できる自信があるけど。

 

 

「そんな代物が自身の手に入るとしたら、心躍ると思わない?」

 

「……まさか御主」

 

「!!」

 

 

 _____手に入れる。

 

 そう紫が言葉に発した瞬間、私の身体から全身に武者震いを起こした。

 

 紫の話から聞いた、『綿月司令』。

 己の肉体のみで、剣豪と紫を一撃で戦闘不能にし、命を賭して強化した生斗を討ち破り、月へ連行した張本人。

 

 私は月の技術力なんかより、そんな強者が月にいるという事実に心躍っていた。

 

 そして紫の言う『手に入れる』とはつまり______

 

 

 

 

「生斗を月から迎えに行くついでに、()()()()()()()と思って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 妖怪の山にて良からぬ策略が企てられている同時刻。

 事の発端となった当事者である生斗は____

 

 

「……」

 

 

 何も無い真っ白な空間で唯一人、うつ伏せになって倒れていた。

 

 

 

 

 

 




次回月の民編です。
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