東方生還記録   作:エゾ末

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拾壱話 無口な監視者

 

「……」

 

 

 大画面のモニターに映る綿津見大神と反逆者熊口生斗の戦闘。

 この映像は衛星撮影により記録され、ごく一部の上層部及び関係者にのみ公開されている。

 そのように綿津見大神が規制したのだ。

 

 まったく、彼は被害者だというのに、お人好しな事だ。

 まあ、知人である以外にも規制させた理由はあるのでしょう。

 今、熊口生斗は月で渦中の人だ。

 太古の昔、月移住時の戦犯とされた命令違反者。

 それが罪として島流しを受けていた蓬来山家の令嬢と邂逅により発覚した生存。

 その報告は瞬く間に月の都に知れ渡り、その波を受け月移住時の戦犯行為に対する見直し運動がなされたのだ。

 これまで元副総監一派の件により触れる事を恐れていた月の民も、時の流れにより薄れたことも影響しているだろう。

 

 

「(なのに、何故彼は歯向かうような真似を……)」

 

 

 蓬来山の令嬢と共に月へと迎える準備は確かに進められていた。

 彼の遺言であった『少し遅れる』という言葉からも、月へ行く意思があると綿津見大神は声を大にして発言し、上層部を黙らせていたのも記憶に新しい。

 

 だというのに、熊口生斗は蓬来山家の令嬢を逃がすため、綿津見大神に刃を向けた。

 

 正気の沙汰ではない。

 八意永琳の薬により、月の近況や綿津見大神の力量も解った筈。

 自らの命を使ってでも、彼は抵抗し、庇ってくれた綿津見大神を()()()()()()()

 

 そう、あの爆発する霊弾の弾幕群の時だ。

 あの潮盈珠と潮乾珠を破壊し、綿津見大神へと幾度ともなく放たれた爆発する霊弾は、綿津見大神の肉体を破壊するには十分な威力があった。

 

 それを月の都の叡智の結晶である仮死の腕輪身代わりとなって仮死状態となり、以降のダメージをカットしていたのだ。

 そして綿津見大神の驚異的な回復力。

 その相乗効果により、即座に戦線復帰し見事熊口生斗を撃ち破った。

 

 月の宝具と叡智の結晶。その二つを犠牲にしての辛勝。気付いてもらえるようにと、神力を霊力に変換していたとしても、綿津見大神の力量は折り紙付きであることに異論を唱えるものはいないだろう。

 

 何度見ても熊口生斗という人間が分からない。

 何故穢土の一人間が神にも匹敵する力を持っているのか。

 あんな弾幕群が月の都に落ちてみろ。それだけで都は壊滅状態となるだろう。

 それにあの状態はまだ、月移住時の状態よりも力が発揮されていないときた。

 

 そんな相手なのに、私は、私は…………

 

 

「サグメ様、ここにおられましたか」

 

 

 上層部の一人が、不躾に私の部屋へと立ち入ってくる。

 一応私も月の賢者の一人なのだけれど、上層部_____月読命様から独立した管理組織には関係のないことか。

 

 

「会議終了間際に月読命様から仰せつかったのでね。御神の下へ馳せ参ぜよとのことです」

 

「……ほう、貴女達が月読命様の使いだなんて珍しいわね」

 

「滅相な事を。幾ら月読命様の威権から独立した組織とは言え、この浄土の統治者は御神である事に違いはありませんよ」

 

 

 態々月読命様が私を呼ぶ為に上層部の連中を使った。

 それは私____『稀神サグメ』が”熊口生斗の監視者“である事以外に他ならない。

 

 例の映像の規制の件もあり、大多数の月の民には輝夜姫は帰らず、熊口生斗のみが月に来た事しか知らされていない。

 それは混乱を抑制させる為であるが、その情報統制により上層部の中でも私が監視者として月読命様から勅命を受けたことを把握しきれていない可能性があった。

 それを看破させる為に態々上層部に頼んだのだろう。恐らく。

 

 実に、知人とは言え月読命様も甘過ぎる。

 牽制する為とはいえ、態々監視者に月の賢者を使うなんて。

 後から上層部から国損だとか直訴されても私は擁護出来ない。事実なのだから。

 

 

「案内しましょうか?」

 

「……要らない。貴方は、早く持ち場に戻ると良い」

 

「サグメ様、貴女……!!」

 

 

 無礼に対する細やかな嫌がらせさ。

 持ち場に戻れられなくなるかどうかは知らないが、ただ戻るだけでは至らなくなっただろう。

 途中で運が良いことが起こる事を祈っているが良い。

 

 _____性格の悪い行いはこれぐらいにして、行くとするか。

 気は重いが……深く関わる事のないよう細心の注意を払って事に当たるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ここ、何処だ」

 

 

 淡い光に囲まれた空間。

 綿月隊長との戦闘で敗れたおれが目覚めた最初の感想がそれだ。

 何故敗けたか、そもそも何故彼処まで勝ちに拘ってしまったのかという後悔の念を抱くよりも先にだ。

 何これ、おれ死んじゃったの? 一回死んでもあと一つ残機が残ってるはずなんだけど。

 もしかして綿月隊長が残機無くなるまでやっちゃった感じか? 

 月での殺しは厳則御法度だって言うし、状況的に実行可能なのはあのゴリラぐらいなんだが……

 

 

「……目覚めたか」

 

「うわっ!?」

 

 

 何もない空間から突如として開かれ現れたのは、片翼の白髪少女であった。

 翼はまるで天使を彷彿とさせるほど美しい純白で、同じく煌びやかなセミショートの髪に三つ編み。整った顔立ちに案の定紅色の瞳をしている。

 奇抜な上下の衣服の上に黒模様の刺繍の入った白のジャケットを羽織っている姿から見ても、彼女が只者ではないことが窺えるな。

 

 

「他人の部屋勝手に入らないで貰えない?」

 

「……そうか、それでは」

 

「ちょちょちょ待って! 冗談だから!」

 

 

 おれの冗談に真に受け、開けた空間から出ていこうとする片翼少女。

 流石にここで置いてけぼりは勘弁願いたい。

 

 

「……失礼する」

 

「どうぞどうぞ。お茶も茶菓子も座布団すらも無いけどゆっくりしていって」

 

 

 おもてなしの精神が足りないって? 

 目覚め一発目の知らん空間でどう持て成すっていうんだ。

 自分で言っててなんだけどな! 

 

 

「……」

 

 

 そんな一人ツッコミを内心で繰り広げていると、片翼少女はおれと相対する位置でちょこんと正座した。

 それに釣られるように、おれも彼女の前で姿勢を正して正座する。

 

 

「……私は、諸事情で言葉は控えているの。君の処遇等は、この資料に纏めておいたから、目を通しておいて」

 

 

 片翼少女が床に置いたのは小型タブレット。

 彼女曰くこの機器の中におれの知りたい情報が入ってるそうだ。

 

 

「すっご」

 

 

 タッチパネルらしき箇所に手を触れると、電子画面がおれの視界もとい空中に広がる。

 流石月の技術。いとも容易くおれの常識を覆してくる。

 

 

「……それじゃあ」

 

「えっ、もう行くのか?」

 

「……私は君の監視者。()()()()()()()()()

 

 

 そう言い放つと、立ち上がり先程侵入してきた空間を開いて出て行く片翼少女。

 狭間が閉じるとそこにはまた何もない空間が広がり、おれが手で触れようとしても空を切ることしか出来ない。

 これ、おれが次元を斬ったらどうなるんだろうな。

 

 

「それよりも、だ」

 

 

 どうやらここは天国ではなかったらしい。

 まあだいたい予想はできていたが、ここは月の何処かなんだろう。

 あの片翼少女も永琳さんの注射の記録上どんな人物か思い出した。

『稀神サグメ』。永琳さんと同じ月の賢者であり屈指の権威者。そんな御方がおれの監視者なんて、おれは相当なVIP対応を受けているようだ。

 

 

「……ま、そうなるよな」

 

 

 空中に浮かぶ電子画面。

 サグメさんの言っていたとおり、そこにはおれの犯した罪とそれによる処遇、そしてサグメさんの軽い挨拶が記されていた。

 

 おれの犯した罪は言わずもがな月移住時の独断行動による隊務違反、それに綿月隊長への凶刃を向けた事が追加されている。

 そしてそれに対する罰だが、どうやらこの何もない空間の幽閉だそうだ。

 期限は記されていない。

 場合によっては数千、数万年の可能性だってあるだろう。永琳さんの注射のおかげで同じく幽閉されている人物を知っているから何となく分かる。

 

 

「どうしたもんかな」

 

 

 正味拷問とかされたり晒し者にされたりするもんだと思ったが、ある意味精神的に辛いのが来たな。

 あわよくば旧友と顔を合わせてさっさと月の都をおいとま出来ればと考えてたんだが、そう上手くはいかないらしい。

 

 それにおれは綿月隊長に牙を向けた。

 恩人に対して仇を為したら、普通皆怒るよなぁ。でも、舌の回らないおれには、輝夜姫を逃がしつつ、綿月隊長を説得する術を持ち合わせていなかった。なんなら、永琳さんですら実力行使を前提としていた事から、それ以外の選択肢は逆にありえなかっただろう。

 

 

 あ〜、綿月隊長や依姫達にどう顔を向ければ良いんだ。

 気でも狂ったんじゃないかと嫌悪の眼差しを向けられる未来しか見えない。

 いやでもあれじゃん、綿月隊長も戦ってる時楽しそうにしてたし、もしかしたらそんなに怒ってないんじゃないか? 

 いやでもあんなに怪我させまくったし流石にごめんじゃ許されないよなぁ。

 

 

「…………へっ?」

 

 

 これから起こるかもしれない再会に対して、頭を掻きむしっていると、()()()がおれの膝上に落ちてくる。

 

 その()()()を見た瞬間、おれはあまりの非現実的な現象に目を疑ってしまった。

 

 

「グラサンが、取れた?」

 

 

 この世界に来て、一度として外れなかったグラサンが、そこにあったからだ。

 

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