東方生還記録   作:エゾ末

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拾漆話 親友に言葉は要らず

 

 

 突如として現れた能面を被った僧兵。

 両の手には其々打刀と脇差を携え、既に抜刀している。

 明らかな敵意に、最初は場違いな格好に素っ頓狂な声を上げた生斗も霊力剣を生成し、臨戦態勢へと移行する。

 

 

「誰だ、お前」

 

「……!!」

 

 

 生斗の問い掛けに聞く耳を持つ様子もなく、僧兵は構えを取る。

 

 

「(霊力や妖力、ましては神力すら感じない。完璧なまでの抑制技術……その場にいるのに見失いそうだ)」

 

 

 自身の力をかさ増しさせるのに必須な霊力を、生斗にすら感知させない程の抑制技術により、その精錬さを見せつける。

 だが、それは力を使うまでもないという、生斗に対する挑発に他ならない。

 

 

「何方かは存じ上げないが、そっちがその気ならおれだって考えがある」

 

「!」

 

 

 霊力剣を二本、それも僧兵と同じ刀身で生成し、敵と同じ構えを取る生斗。

 勿論、霊力剣以外の霊力を最大限にまで抑制。まるで写し鏡のような状況に、僧兵が一瞬動揺する。

 その隙を生斗は見逃さなかった。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 僧兵が油断した刹那、霊力を一気に解放しただ同時に、サグメから教わった爆散霊弾による超スピード肉薄を実践する生斗。

 見事なまでに僧兵の懐まで接近した生斗は袈裟斬りを繰り出すが、間一髪で反応が間に合った僧兵は自身の持つ脇差の柄で防御する。

 だが、生斗の剣戟は並の刀であれば両断する程の威力を持つ。

 霊力剣は相手の柄を破壊し、僧兵の左腕まで到達。

 殺生が御法度の月の事情を鑑み、霊力剣の刀身は潰しているため、切断されることはない。ただ左腕の自由が利かなくなる程度の威力。の筈____

 

 

「まじか!」

 

 

 脇差の柄を握り潰す程の握撃により、自身の拳を極限にまで硬め、霊力剣の進行を止める。

 人間離れした力、それも霊力等による制限を掛けた状態でのその所業に、生斗も思わず声を上げる。

 

 その隙に右手に携えた打刀を振り下ろそうとしたが、生斗はもう片手の脇差の柄で僧兵の横腹を叩くことにより怯ませ、脇差に挟まった霊力剣を起点にして僧兵の胸にドロップキックを繰り出し、後方へと吹き飛ばす。

 

 

「んで、誰だよ」

 

 

 霊力剣に挟まったままの残骸を捨て、僧兵に問い掛ける生斗。

 飛び蹴りにより尻餅をついた僧兵は、柄を失った脇差を捨て、骨にヒビの入った左手の具合を確かめた後に何も言わず立ち上がる。

 

 

「……」

 

「狡いか? おれはお前と同じ土俵で戦うなんて一言も言ってないぞ」

 

 

 先の出来事に何か言いたげな僧兵に、生斗は淡々と答える。

 

 

「そもそもそこまで霊力制限したらまともに戦えるわけないだろ。一般人ですら微量の霊力を無意識下で使用してるぐらいには身体と密接に関係してるのに」

 

 

 生斗の発言したとおり、霊力を制限すれば身体能力のバフだけでなく、普段の動作にすら違和感が生じるため、刹那の判断力を要される接近戦においては致命的となる。しかも相手は霊力を惜しみなく使用してくるこの状況。誰がどう見ても悪手でしかない。

 

 

「……」

 

「(それでも、やるのね)はいはい」

 

 

 無言を貫き、片手で打刀を構える僧兵。

 その姿を見て生斗は呆れを覚えながらも、霊力剣を一本に減らし、抜刀の構えを取る。

 

 

「言っておくが、こっちは色々使わせてもらうぞ。ついさっき師匠から知見を得たばかりだからな」

 

「____!」

 

 

 先手を取られまいと肉薄する僧兵。

 その速度は霊力を制限しているというには余りにも常軌を逸しており、瞬く間に生斗の間合いにまで接近する。

 

 

「っ!」

 

「まともにやり合うわけないだろう」

 

 

 だが、事前に張り巡らせていた霊力線に足を絡められ、その隙に生斗は距離を取る。

 霊力制限にはもう一つ、致命的なデメリットがある。

 身体能力の間接的な低下だけではなく、相手方の霊力の流れを感じる事が出来来ないのだ。

結果はご覧の通り先の霊力線ですら引っかかる始末。その事実を確かめる為に敢えて霊力使いが感知が出来るレベルに張り巡らせ、結果を元に生斗はそのデメリットを確信した。

 

 

「もうやめよう。おれは別にいたぶるのが____」

 

「!!」

 

 

 張り巡らせた霊力線を無作為に打刀で斬り払う僧兵。

 その鮮やかかつ神憑り的な速さの剣戟に、生斗は眼を見開く。

 

 斬り終えた後、数秒後に遅れて風切音が異空間に響き渡る。

 

 

「(霊力制限してそれかよ……)」

 

 

 生斗の見解からして、相手が霊力を制限している限り敗けることはない。それは今の剣戟を見た後でも覆らない事実。

 だが、今の生斗の感情は言い表し難い状況へと陥っていた。

 

 それは見覚えのある剣戟をする僧兵への違和感の他に、妖忌との修行により鍛え抜いた剣戟が、眼の前の達人に通用するのかという好奇心。

 

 

「(止めろ、今までのように命を軽く扱うな!)」

 

 

 剣術のみでの戦いに身を投じようとする身体に喝を入れ、霊力剣を無数に展開する。

 

 

「っ!!」

 

 

 大小様々な長さの霊力剣を、不規則な速度で僧兵へと放つ。

 初見で躱すには困難を極める難易度の密度と速度。

 だが、剣の弾幕は僧兵の横を通過するとともに粉々に砕け散っていく。

 

 振るう右腕はもはや残像すら残さない。

 迫りくる霊力剣の刀身の腹を的確に、そして何重にも打刀で打ち砕き、己が剣戟が最強だと誇示している。

 

 

「う゛っ」

 

 

 しかし、霊力剣形をした爆散霊弾を斬り抜いた事により小規模の爆発が起こる。

 超スピードの剣戟が功を奏してか僧兵はなんとか反応が間に合い、頭を庇うように防御姿勢を取り、爆風により後方へと吹き飛ばされる。

 

 

「……なにやってんだ」

 

 

 生斗はそんな相手の姿を見て、自身を戒める。

 霊力の変化を見極められない相手に、速度の遅い爆散霊弾を紛れ込ませる為の小細工を図るため、大小様々な霊力剣に速度も疎らにしていた。

 霊力を制限している相手には過剰過ぎる。まるで目隠しをした相手に投擲をするが如き所業。それが例え相手が自ら課した状況とはいえ、生斗の気が済まなかったのだ。

 

 

「……」

 

「!! お前っ____」

 

 

 僧兵の裹頭の一部が破け、地毛であろう薄紫色の髪が露出、衣服も一部が焼け落ち華奢な腕が生斗の眼に映る。

 

 その姿を見て、生斗は口を詰まらせる。

 厚着をしていたため不明であった僧兵の性別が女性だという事実に対してではない。

 彼女の動作、剣戟、そしてその髪色に見覚えがあったからだ。

 

 

「依姫、か……?」

 

 

 最初から違和感しかなかった。

 霊力を制限しているのも、素顔を隠し話すことさえ拒否していた事も、顔見知りだったが故の秘匿であったのだ。

 では何故、彼女は自身を秘匿しようとしたのか。

 現段階でその謎を解明する術はなく、相対する生斗でさえ頭を悩ませていた。

 

 

「(処刑、ではないよな……? あの刀刃が潰れてるし)」

 

「……」

 

 

 質疑に対し、僧兵は刀を生斗へと向ける。

 

 

「ああそうかい」

 

 

 答えを知りたければ己を倒して掴み取れと言わんばかりの態度に、生斗はこれ以上の質問をやめる。

 今、やるべき事は会話を交わすことではない。

 再会に対して感傷に浸ることでもない。

 親友であり、剣術の師である彼女に、剣を交えて証明するしかない。

 己が本当の熊口生斗であることを。

 

 

「(ほんと、脳筋一家め)」

 

 

 先までの近距離を戒め、遠中距離を徹底した立ち回りを放棄し、強化した霊力剣を手に取る。

 

 

「なんで素性を隠しているのかは知らない。だけど、綿月家が言葉だけで済むとは思ってなかったよ」

 

 

 先程のブラフとは違い、正真正銘迎え撃つ為の構えを取る生斗。

 稀神サグメから教わった霊力操作の応用も、ましてや霊力自体すら、今の彼等には必要ない。

 交わすのは一本の刀、一筋の意思。

 それだけで十分であった。

 

 

「!!!」

 

「ふっ!!」

 

 

 互いが瞬時に距離を詰め、霊力剣と打刀が衝突する。

 

 

『気付くのが遅いです!』

 

「!!」

 

 

 打刀から伝わる僧兵の思考。

 まるでテレパシーの如く鮮明に聞こえたそれに、生斗は内心驚愕していた。

 

 

「(そうか、これは)」

 

 

 刀は自身を映す鏡。そして使用者の気持ちは刀にまで伝わる。

 力の重心、角度、受け方、速度。

 相手が己の手の内を知っていれば尚更それは鮮明となる。

 生斗自身、妖忌との千戦の中で相手の体調や次手がある程度感じ取れるようになっているが、ここまで思考がクリアに届いてくることはなかった。

 

 だから生斗も理解した。

 己を証明するためではない。

 僧兵____綿月依姫は始めから、剣を交えることで意思の疎通を図ろうとしていたのだ。

 

 

 

『すまない、依姫』

 

『ほんとにですよ!』

 

 

 刀を幾度も交わし、生斗も返答する。

 漸く自身の意図を理解してくれた親友に若干の怒りを覚えながらも、そこには確かに嬉しさによる高揚があった。

 

 

『にしても、なんでこんな回りくどいことを?』

 

『それは……秘密です!』

 

 

 生斗の横薙ぎに対して、依姫は力強く払い除ける。

 

 

『熊口君こそ何やってたんですか!』

 

『そこら中旅してたんだよ!』

 

『嘘つかないでください!』

 

 

 依姫の逆袈裟を受け止め、鍔迫り合いとなる両者。

 二人の中では時が遅れているかのような攻防。

 

 しかし_____

 

 

「凄いわね、達人同士の剣戟」

 

「……ええ」

 

 

 いつの間にか異空間へと侵入していた豊姫とサグメが感嘆の声を漏らす。

 目にも留まらぬ剣戟。遅れて来る衝撃波に金属音。

 二人の周囲には火花が散り乱れ、時空さえも歪みを生じさせていた。

 

 

「……でも、楽しそう」

 

「ふふ、全くです」

 

 

 そんな異次元の戦闘を繰り広げているというのに、生斗と依姫は笑っていた。

 仮面は疾うに剥げ落ち、素顔を晒しても、二人にとっては道端に転がる小石の如き些細な事。

 今、両者は数億もの年月を経て、漸く再会した事に喜びを分かち合い、はしゃいでいるのだから。

 

 

 ピッ「『それにしても、何故依姫にあんな装束を?』」

 

 

 依姫に僧兵姿をさせた張本人____豊姫に対して、サグメが疑問を投げかける。

 

 

「それはですね。あの子シャイだから、久々の親友との再会でろくに顔を合わせて話せなさそうだったのでウチにあったお面と装束を貸してあげたんです」

 

「『思いっきり空回りしていたけど』」

 

「ふふ、人生は上手くいかないものですよ?」

 

「『絶対面白がってやっただろうに』」

 

「でもほら」

 

 

 豊姫の指差す先の二人は、もはや互いしか見えていない。

 面と話すことさえ出来なかった依姫が、今では生斗と目を離すどころか、本物であることを、現実である事を、一つ一つを噛み締めるように釘付けとなっている。

 

 

「結果オーライってことで♪」

 

「……はあ」ピッ

 

 

 豊姫の悪戯心に呆れつつ、サグメは顔に手を当てる。

 けれども、二人の無邪気に戯れている姿に目をやり、自然と笑みが溢れる。

 

 

「……親友、か」

 

 

 どこか儚げに、親友という単語を呟くサグメ。

 それが何を意味していたのかは、サグメ自身判っていない。

 それが判明するのは、もう少し未来になるだろう____

 

 

 

 

 

 _____そう。『八雲紫』らが率いる妖怪軍団による、()()()が発生する百余年後である。

 

 

 

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