東方生還記録   作:エゾ末

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今回短めです。


弐拾壱話 百余年の時を経て

 

 

 おれにとっての友達の定義とは、そんなに大層なものではない。

 紆余曲折があろうがなかろうが関係ない。

 ただおれが友達になりたいと思ったかどうかだ。

 それはおれ以外でも他の人間にも大体当てはまるものだろう。

 友達が困っていたら助けるし、余りにも度の越した悪行を働かない限り見捨てることもない。

 これまで色んな人や妖怪、幽霊に神様達と関わってきた。

 今友達と呼べるのは殆どが人外だが、それも悪いと感じたことはない。

 何故なら気が合うから。

 サグメさんもその一人。あの人はツクヨミ様の命令でおれとの会話に仕方なく付き合ってくれているのは知っていた。慣れない機器を使い、会話のレベルをおれに合わせて、毎日。

 仕事熱心だと思う。一日に一度、他の業務も兼務しながらおれに付き合ってくれている。

 それが仕事であったとしても、おれは友達でありたいと思ってしまった。それが一方的な感情であったとしてもだ。

 

 だからおれの心情を正直に話した。

 それがおれにとって不利になるものだとしても、話さざるを得なかった。

 昔のおれならそんなリスク、友達相手だとしても取らなかっだろう。

 ほんと、(誰かさん)と一緒にいたからか意外とおれの中でも色々変わってしまうもんなんだな。適当な嘘はつけても、大事なことで隠し事ができなくなってしまった。

 

 恐らくツクヨミ様にもおれが月から出たいという話は伝わってしまうだろう。

 おれの為に色々と動いてくれていたのに、あの御方や依姫達には申し訳ないという気持ちもある。

 だが、やるなら早い方が良い。もしそれが原因で月に帰れなくなったとしても、大丈夫。おれは厚顔無恥だから、会いたくなったらまた性懲りも無く行ってやるさ。妖怪の山だってそうしてきたんだ。生まれ変わった後のおれがどう思うかは分からないが、きっと前世のおれに悪態つきながらもまた月に行ってくれるだろう。

 

 

「はあ、はあ」

 

「……『その程度の実力でよく綿津見大神と張り合えたわね』」

 

 

 地に伏し、額の汗を拭うこともままならず、地面を濡らすことしかできないおれを見下ろすのは、本を片手に持ったサグメさん。

 終始読書をしながら片手間におれの行動を封殺し続け、見事おれの自尊心を粉々に砕いてきた。

 

 

「……月の賢者って皆サグメさんレベルなの?」

 

「『ええ、私自身戦闘に特化しているわけではないし。恐らく月の賢者の中で最も知識と戦闘技術に長けていたのは八意永琳ではないかしら』」

 

 

 まじかよ永琳さん。あの人そんなに強かったのか。

 こりゃ輝夜姫を逃す時、無理にでしゃばる必要微塵も無かった可能性が出てきたぞ。

 

 

「『それよりも、早くこの空間からでて食事を取りなさい』」

 

「もうちょっと休ませてくれぇ」

 

「『此処にいたら疲労が取れないから言っている』」

 

 

 ご覧の通り、最近はサグメさんや依姫が毒抜きの直前に稽古つけてくれるようになった。

 正直脱走の恐れが増す修行は今後許されないかと懸念していたが、相も変わらずサグメさんは色々アドバイスをしてくれる。

 おれ一人じゃ何もできないと確信しているが故か、脱走する危険性よりもツクヨミ様の命令を優先しているが故か。サグメさんの真意は分からない。だが、今のこの環境をおれは甘えて教授する。理由がどうであれ、いずれ帰るその日に、少しでも()()()を上げるため、この修行は必要不可欠なのだから。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「最近サグメさん遠慮なくなってきたよな」

 

「『50年も経てば流石に他人とは呼べないでしょう』」

 

「友達ってことで差し支えないか?」

 

ピッ「……君は咎人で私は監視者。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 こんな問答を飽きもせず幾度と繰り返して早50年。健康志向に偏った野菜料理を口に運びつつ、おれは未だにサグメさんから友達認定を貰えていなかった。

 別にこだわる必要性はないが、何分話すことが尽きてしまったから仕方ない。あの異空間では新しい発見が殆どないから話題をつくることも難しいし、今までの旅の思い出話も流石に50年も経てば底をつくものだ。今では専ら修行の話か友達云々の話がメインで、たまに持ってきてくれる本の話題をするぐらいだ。

 

 ある意味修行をする中では適した環境ではある。おかげで今のおれは以前より明らかに強くなった。

 瞬間把握能力の向上、霊力操作の応用に月で得た新たな剣術。

 今なら命ブースト二つ分のおれを余裕で打ち倒せるぐらいにはなったんじゃないだろうか。思考力を強化できたからか、爆散霊弾もかなりの数出せるようになったし。

 そんなおれを軽く遇らう月の賢者ことサグメさんは本当の化け物です。誇張無しで。

 とにかく知識がえげつない。毎度おれが思い付かないような戦術で虚をついてきて、やりたい事を何一つとしてさせてもらえない。

 

 先の戦闘を振り返ってみよう。

 模擬戦が開始されると同時におれはサグメさんに対し肉薄する。

 対するサグメさんは本を見ているふりをしつつ、左手をわざとらしく上げて掌に霊弾を生成。本への視線と左手からの霊弾の二重の視線誘導をブラフにして、身体裏に待機させた霊弾を数発おれへ射撃。

 それをおれは霊力障壁で受け、その上部に体を乗り出して距離を詰めようとしたところ、いつの間に霊力線が脚に絡みついていたため動きを阻害されてしまう。

 それでも、ここまではおれでも対処できるレベルではあった。しかし、対処するという考えへと至っていた時点でおれはサグメさんの術中に嵌っていたのだ。

 霊力線を自身の身体を傷つけることなく斬り払ったおれは、出鼻を挫かれたため一旦距離を取ろうとする。しかし、背後に霊力障壁が立ち塞がった為後退する事ができなかった。恐らく、最初に霊力障壁によって霧散した霊弾の粒子を操作して薄い壁を生成したのだろう。

 一瞬の動揺。その有り余る隙へ放たれるはサグメさんが左手に溜めに溜めていた霊弾。

 多少まだ距離があった為、爆散霊弾で対処しようとしたおれの考えを読んでいた彼女は強力な一撃ではなく、触れられれば拡散する霊弾___所謂起爆剤を生成していた為、想定を超えた爆発が起こってしまい、その爆風におれは巻き込まれてしまった。

 なんとか身体の霊力を強化して事なきを得たが、爆発により発生した煙幕から蜂の巣にされてゲームセット。

 

 この間なんと15秒。いくら思考力が強化されたとはいえ、想定外かつ対処必須な行動を取らされ続ければ対処を、誤るのも必至。

 恐らくサグメさんは煙幕からの弾幕をも布石にした攻撃をまだ備えていただろうし。

 あまりにも戦闘IQが高過ぎる。

 油断を誘うように本を読み視線を注目させ、安直な肉薄を誘導。あからさまに左手に霊弾を生成させて注意を引かせて背後に生成した霊弾を射撃。それすらも視線誘導であり本命は足元から這わせていた霊力線で拘束。防御された霊弾の粒子も拘束により出来た隙を利用し障壁を生成。ブラフであった左手の霊弾を敢えて撃墜させ、煙幕を作り出しフィニッシュの高密度弾幕。

 どの行動もブラフ、本命、布石の役割を二つ以上担っており、無駄が無く洗練されていた。

 たった15秒の戦闘でこれだけの知見が得られる。それだけにサグメさんの戦闘技術は常軌を逸しているのだが、そんな彼女よりも永琳さんは戦闘技術に長けているらしいのだから末恐ろしい。

 

 まだまだ、おれには足りないものが多過ぎる。

 個人のみではない。()()()()()には、力と技術が必要だ。これまでの命の水増しを失った今、少しでも多くをサグメさんから盗み、穢土へと帰ってみせる。

 それが今のおれの目標だ。

 

 

「サグメさんや、少し休んだらまた模擬戦申し込んでもいいか?」

 

「……『寿命が減るのを厭わないのであれば、幾らでも』」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ーーー

 

 百余年の年月が過ぎ、穢土で言う満月を迎えた今日。

 何億年もの時を経て浄土を築いてきた月の都。

 そんな月の都を象徴する広大な湖が映すし出すは、美しくも残酷な地球。

 

 地球を映し出す水鏡。水面に揺れる地球が次第に穢れに侵されていくように黒く塗り潰されていく。

 そして漆黒に包まれた地球から現れたるは______

 

 

「さあ、月の都を妖怪の桃源郷としましょう」

 

 

 穢れから逃れる為移住を決意した人々が住まうこの浄土に、今宵は穢土の狂刃が襲い掛かる。

 

 

 

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