「……わかさん」
邪心に囚われ、間接的に私が殺めた友の名を呟く。
友が矢に射抜かれ、命を落としたその日から、私が発する言葉を逆転させる力が宿った。
いわば私の能力は、友からの呪縛とも言える。
私が唆しさえしなければ、彼は生き永らえ、いずれは高天原の神々に反旗を翻していただろう。
私はただ、彼を止めたかった。友として。
だから高天原の使者を射抜かせ、高天原の神々にお灸を据えて貰おうと画策した。
だが、あの時の私は、高天原の神々が邪心に囚われ、私利私欲の為に神にあだなす者にかける情けなどないことを、理解できていなかった。
結果、私は唯一とも言える友を失ってしまった。
それからだ。能力のこともあるが、他者を避けるようになったのは。
私の口は災いを招き、他者を不幸にする。そんな思いをもうしたくなかったからだ。
______なのに、この男は。
「こんなもんかサグメさんや!!」
「……自惚が過ぎるわよ」
私の展開する法陣を虱潰しに破壊していくこの男_______熊口生斗はあまつさえ私の事を友達呼ばわりしてきた。
私に友達なんて要らない。否、友達なんて作る事は出来ない。
作る資格なんて、私に持ち合わせてなんていないのだから。
そう言い聞かせてきた。
『友達に隠し事はしたくないからな』
なのに、熊口生斗は不躾に私の領域へと踏み入ってくる。
私はただ、月読命様の勅命に従っていただけだというのに。
しかし、どこか懐かしい感覚に浸っていたのも事実。
性格は『わかさん』とは似ても似つかない程かけ離れているのに、邪心に飲み込まれる前の彼と姿を重ねてしまう事がしばしばあったからだ。
この感覚は嫌いではない。なんなら一種の心地良さすら感じている。
他者と深く関わってはいけないのに、熊口生斗の腑抜けていながらも何かを成さんと奮闘する姿を見ると此方まで頬が緩んでしまう。
そんな彼も、刑期を待たずして子の異空間から抜け出そうとした。
昔脱獄を仄めかす発言をしていた時から覚悟はしていたし、彼がどう動こうと私は任を全うするだけだと自分に言い聞かせていた筈なのに。
いざその時が来た瞬間、無性に腹が立ってしまった。
「うがっ!?」
「……!」
分かっている。
これはただの八つ当たりに過ぎない。
まるで旧友を自らの手で止めなかった己を戒めるように。
何故そこまで必死になれる。
合理性に欠ける行動を取っているのは熊口生斗自身が一番理解している筈。
刑期を終えてからでも遅くないのに、何故確実な死が待つ穢土へ行こうとするのか。
『わかさん』は道を踏み外し、神々の手によって生涯を終えた。
そんな似たような状況である筈なのに、何故。
何故____
「……終わりよ」
「まだぁ!」
罠型の法陣を熊口生斗が踏み抜き、拘束用の鎖が彼を縛りつけようと迫り来る。が、彼は自身の周りの霊力の出力を最大限に高め、衝撃波を発生させる事で弾き返す事に成功。
拘束系への対処としては悪くない。しかし、自身の周りの霊力の全てを使用するそれは、一時的に無防備状態となる欠点がある。
すかさず予め準備していた高速霊弾を熊口生斗に向け射出し、彼の左肩に着弾させる。
「なっ!?」
痛みはそんなにない。
本命は付属効果である霊力阻害。これにより彼は一時的に左肩より先は霊力を使用する事ができなくなった。
周りに霊力を纏わせてカバーさせようと、攻撃力は上がらない上、掌の霊力から霊力剣を生成する彼の癖を鑑みてもこの戦いの中で慣れることはないだろう。
「!!」
一本の霊力小剣が私の頬を掠める。
……やるわね。私の高速霊弾の軌道が塞がる前に、同じく高速で射出出来る霊力剣で返してくるとは。
ならば私は一連の動きを布石にするまで。
乙女の顔に傷を付けた代償は大きいという事を思い知らせねば。
「また厄介なもんを展開したな! サグメさん!」
「……厄介で済まされるかしら」
無数の法陣を動かし、私と熊口生斗を囲んで球体の結界を展開する。
御札での結界では剥がされるか御札内の霊力が尽きれば効力を失うが、法陣での結界ではあれば霊力を流し続ける限り結界が消えることはない。
そして御札よりも大きな利点は、結界として機能しながら術式と弾幕を張れることだ。
球体の中を覆い尽くすレーザー弾。
結界として用いた法陣の術式は二つ。レーザー弾の射出と霊弾の反射。
つまり、無限に生成されるレーザー弾が反射し続け、終わることのない弾幕群で相手を絶望に叩き落とす無慈悲の結界である。
勿論術者である私の周りには反射法陣を展開している為、自爆することもない。
この密度では私を視界で捉えることもできなければ、先のようなレーザー弾を射出したところで反射するだけで自身の首を絞めるだけとなる。
「……やはりそうくるか」
レーザー弾からの情報から、あの六本の霊力剣で処理しつつ、結界外へ出ようとしているようだ。
その判断は正しい。密度が薄いこの段階であれば、左手が使えない今の状況でも対処は可能。それに法陣は物理攻撃に弱く、私の法陣でも鉄筋コンクリート程の強度しかない為、今の彼なら余裕で破壊できるレベルだろう。
普通なら数秒で身動き取ることすら許されなくなるこの絶技も、彼にとっては厄介程度と評した理由がよく分かる。
しかしながら、私が物理攻撃に弱いという弱点を布石にしているところまでは予測しているのだろうか。
「そんなの無しだろ!?」
難なく法陣の一つを破壊し、外へと脱出した熊口生斗が目にした先は、更に展開された法陣の結界であった。
そしてその法陣は内側の結界とは異なり、結界内の生物に対し霊力阻害の効果を持つため、熊口生斗は敢えなく結界の底へと突き落とされる。
霊力操作の阻害を受けてはいるが霊力自体が使え無くなるわけではないし、たかが100mそこらから落ちても死にはしないだろう。
内側の結界はレーザー弾の包囲網。外側の結界は霊力をまともに使用できなくなる空間。
そして破壊された法陣と複数箇所に敢えて穴を開けた箇所から漏れ出すレーザー弾。
結界の亀裂により、私にも多少霊力阻害の影響を受けているが、内側の結界内にいる分には支障はない。
さあ、漏れ出すレーザー弾の猛威に、君はどう対処する。
「(霊力剣すらまともに出せない! )……あまり使いたくは無かったが」
「(あれは……)」
自らの親指の皮を噛みちぎり、足元にある私の法陣に新たな紋様を描き出す。
霊力で法陣を作り出せなくとも、物体に流し込むぐらいのことは可能。彼がしようとしているのは______
「じゃあなサグメさん!」
_______術返し。
私の法陣に刻まれた術式を、自身の血で新たな紋様を描き術式を上書きする高等技術。
これは私は教えていない。
恐らく法陣の基礎知識を教わる中で、自身で試行錯誤し身に付けたもの。
……本当に君ってやつは、教え甲斐のある咎人ね。
私の二重結界を破り、見事脱出することに成功する熊口生斗。
しかし、まだ私の手は緩めない。
二重結界を解き、内側の結界内に蓄積されたレーザー弾幕を開放する。
ただでさえ淡い光に包まれた無の空間が、眩い光線群に包み込まれていく。
都市部一帯を無に帰すには十分な威力を誇る拡散弾。
この異空間破壊される対象が無いからこそ出来る無制限の
月へ連行される前の熊口生斗であればまず捌き切れる代物ではなかった。
だが_______
「……流石」
光柱の雨が辺り一体を覆い尽くした地上は、空間特有の淡い光と霧散していった霊力の粒子が混ざり合い、黄金の庭を作り出している。
その中心には原型を辛うじて留めた霊力剣を携えた熊口生斗が立っていた。
「はぁ、はぁ……どうだ。サグメさん」
「……ぎりぎり及第点」
片翼を靡かせ、黄金の粒子を舞い散らせながら地上にいる彼の前へ降り立つ。
……左手の霊力阻害の効果は切れていたみたいね。
正直、ここまで苦戦を強いられるのは想定外だ。
隠し玉を複数持っていた上に、この百余年で私の思考パターンを研究されている。
だが、この
それは私の思考パターンをある程度分かっていたから、彼は反撃をせず、私が降り立つのを静観していたのだ。
「法陣も、霊力操作も、霊力増強も全て、サグメさん。あんたが教えてくれなけれりゃここまで扱うことは出来なかっただろうな」
「……私は少し、教えた事を後悔している」
人間の枠に収まる限り、ここまで苦戦する事はないだろうと高を括っていた。
だが、今の熊口生斗は私の知る限り人間の到達点と言っても差し支えないほどの域にいる。
穢土でならば同じ人間に対して苦戦する事はまず無いだろう。
「改めて言う。おれは穢土に帰るぞ」
「……ならば私の返答も変わる事はないのは君も理解している筈」
「ああ、知ってるよ。
…………なら態々意思の確認を取る必要は無かったでしょうに。
「終わらせようぜ、師匠」
「……ええ。私もそろそろ肩が凝ってきたところよ」
「それはあんたがずっと顔に手を当ててるからだろ」
霊力剣を修復し、霞の構えを取る熊口生斗。
あの六本の霊力剣を十分に発揮できる距離からは離れており、接近を許さないのが前提条件。
なら何故上空からの遠距離攻撃に徹さず、態々降り立ったのか。
それは霊力消費量に対して彼に有効打を与えられない事が判明したからに他ならない。
大技に大技を重ね掛けし、得られたダメージはごく僅か。
この異空間では体力、霊力ともに回復するには多大な時間を要する上、私の霊力量も
神力を開放すれば是非もないが、あれは個に対して使用する代物ではなく、高天原からの承認が必要となる。
高天原まで声の届かない今この場では、人の器で使用できる霊力のみで戦わざるを得ない。
_____兎にも角にも、遠距離ではジリ貧である為、レンジを狭める必要があったのだ。
それに、お互い長期戦は望んでいない筈だ。
彼には待たせている者がいるでしょうから。だからと言って負けてあげる道理はないけれど。
この戦いにおいて、私は一切の手を抜かない。
それが彼へ送る最大の礼儀だから。
「!!」
熊口生斗が六本の霊力剣と共に肉薄してくる。
百余年の中で幾度となくあったこの攻防。
生半可な拘束ではあの六本の霊力剣で阻まれ、距離を縮められる。
ならば_____
「(これは……!)」
地面一帯を私の霊力で満たしていく。
熊口生斗は危険を察知し、低空飛行に移行するが、片脚を霊力線に捕まり動きを止める。
宙に浮かぶ霊力剣が霊力線を斬ろうとするが、地面から無限に生成され続ける霊力線に絡まっていき次第に身動きが取れなくなっていく。
私が地面に展開したのは捕縛型の法陣。地上からではただ霊力を満たしているようにしか見えないよう細工もしてある。
法陣に触れれば霊力を扱えない無気力状態となり、近場にいる者を霊力線で引き寄せる付属効果も乗せているため、低空飛行を選択した熊口生斗の策略を上回った結果となる。
されども、これぐらいでは止まる事はないだろう。
「法陣はもう飽きただろ」
法陣の細工を見破り、携えていた霊力剣を地面に突き立てる熊口生斗。
この空間において地面に突き刺さる事はないというのに、それでも尚直立を保った霊力剣から流れ込んでくる霊力によって法陣が瓦解していく。
「……封殺」
法陣に流れる霊力を辿って私の手の甲に術印が刻まれる。
この印は術式封じの類だが、法陣のみに限定することによって出力を上げている。
それでも数秒あれば解除は出来るけれど_____
「……(猶予は与えてくれないか)」
熊口生斗が複数の剣型霊弾を此方に向け射出する。
私が解除に時間を掛けられないよう畳み掛けるようね。
うち数個は爆散霊弾を混ぜている質の悪い拡散弾幕。
爆散霊弾は形を変形させると威力が落ちる上、その特性上通常弾より速度が遅い為、見分ける事は容易。
爆散に注意しながら最小限の動きで回避しつつ、通過していく霊力剣の一本を右手で掴み、熊口生斗に向け投げ返す。
「うおっ」
投擲された霊力剣が何重にも分裂したことに彼は驚愕しながらも、六本の霊力剣で難なくいなしていく。
だが、これだけで終わると思われては困る。
「まじか!」
「……やるわね」
熊口生斗が六本の手数を有しているならば、私はニ十本の霊力剣で対抗する。
弾かれていく霊力剣を操作し、彼の周囲を囲い込む。
手数は此方が上。
だと言うのに、私の霊力剣は熊口生斗まで届く気配がない。
それはつまり、剣術に関してはあちらが数段上手である証明を意味していた。
「……っ」
予め動作を決めて動かすのではなく、全てを手動で動かした反動か、鋭い痛みが脳を通過する。
……これで理解出来た。
私が態々このような手に出たのには理由がある。
あの六本の霊力剣の動きには規則性____型がある。
上下左右近接遠距離凡ゆる攻撃に対し、六本其々の対処法を持ち、霊力剣の周囲に展開された淡い霊力膜の反応に応じて対処にあたっている。
型は彼の剣術に裏付けされた洗練さを誇っているが、来る型が判れば突破も容易。
だが、狙いが彼方に露呈すれば修正される可能性がある。
穴を突くのは、熊口生斗を確実に無力化出来ると確信した時。
「!!」
「ちょっとは緩めてくれると助かるんだけど!」
二十の霊力剣を遠距離操作の動線としていた霊力線への供給出力を上げ、霊力剣からレーザーが射出される。
――50m
傘型の霊力障壁を展開し、回転させることによってレーザーを屈折させていく熊口生斗。
霊力剣以外にも即座に形を生成出来るようになっていたのね。
――35m
油断すれば即座に詰められる距離まで侵入を許してしまった。
まずい。勝ち筋を彼に与えるつもりは毛頭なかったが、彼の牙が私の喉元に届くのに現実味が帯びてきた。
――30m
「ぐっ!!」
レーザーにより視界を誘導した甲斐もあり、地面に配置していた御札の一つを熊口生斗は踏み抜く。
脱力感により生成していた霊力剣が維持出来ず消失させてしまう彼に、後方からレーザーが襲い掛かる。
地雷として地面に貼り付けていたのはこれまで幾度となく展開していた封印の札。
破れれば回路が途切れ効力を失うが、霊力を込めればその分量に応じて発動できる点で優秀な代物だ。作成するのに時間が掛かるのが難点だが、月の都では生成する技術は確立されている為、護身用として携えるのが一般化されている。
破られない限り、込められた霊力が消費されるまで効力を発揮し続けるが、相手が強者であればあるほど消費される霊力は甚大であり、熊口生斗に対しても数秒が限界な上、その間に止めをさせるほどの隙は作る事はできない。
それでも、少しの硬直があれば上々。
私に掛けられた術印を解除するには十分過ぎる。
「くっそ!!」
後方から迫り来るレーザー群を封印札が焼け落ちると同時に生成した霊力剣で跳ね除ける熊口生斗。
警戒していたとしても、私に背後を見せる事になった君は悪手を取ったと言わざるを得ない。
私の前に展開した法陣から神々しく輝く弓矢が生成される。
親友を失ったきっかけとなった光の矢。
邪の心を撃ち抜く浄化の矢であり、今私の出せる最大火力である。
辺りに被害の出る類のものではなく、熊口生斗が繰り出したような次元を割く斬撃と似た一点特化型の秘技であるそれは、光速にも関わらず無音で衝撃もなく、直撃した相手すら何をされたか認知することもできない。
まず認知してからの回避は不可能。
私はこれまで
私を超えようとするならば、この程度の試練_____退けてみなさい、熊口生斗。
「!!」
限界まで引き延ばされた弓の弦が今、解き放たれる。
退けなければ絶命は免れない。
これで散ればそれまで。そもそも脱獄者相手にかけてやる情けなど無いのだから。
それでも私には、熊口生斗に対して不思議にも確信に似た感情が胸の奥底から感じ取っていた。
……きっと君は________
「やっと、たどり着いた」
――10m。
この試練を、乗り越えられる。
「……なるほど」
爆散霊弾。
足裏に生成した爆散霊弾を四層式にしたことにより、加速をしながらの方向転換を可能とした。
正直私の光の矢が放たれるタイミングとの噛み合いが良かった節はあった。だが、死角からの光速の矢を避けたのも事実。それに私が弾幕を展開した場合でも対応出来るよう四層式にしたのだろう。凡ゆる状況を確かめつつ私との距離を詰める手段としては及第点とも言える。
……良いでしょう。
10m。君の本領が発揮出来る射程距離としては十分過ぎる。
そして私が唯一、
「ありがとな、サグメさん」
「……何が」
「おれに付き合ってくれて」
付き合うも何も……何度も同じ問答をしたと思うが、私は職務を全うしているだけ。
礼を言われる謂れはない。
……まあ、逆に職務怠慢と言われたら否定はできないけれど。
「……来なさい」
顔に当てていた手を下ろし、両手に霊力で生成した短剣を携える。
得物を扱うのは不得手だが、素手で臨むのは彼と相対する上では自殺行為に等しい所業。
先の戦いで彼の衣服を全損させた実績を持つこの短剣がこの戦いにおいて相応しいだろう。
「「!!」」
熊口生斗の姿が揺らいだと同時に、霊力剣が眼前まで迫りくる。
それを首を傾けて躱しながら、既に私の懐まで潜り込み、逆袈裟の構えで斬り掛かろうとしていた彼の剣戟を短剣で受ける。
霊力感知を撹乱する為に人型の残穢を複数配置し、其々が私を仕留めようとする動きをしている為、目視での対処を余儀なくされている。
_____それにこれだ。
「……くっ」
六本の霊力剣が縦横無尽に私を切り裂かんと襲い掛かる。
解析によりある程度剣筋の予測は出来るようになったとはいえ、小型の霊力障壁で防御しつつ本体の剣戟にも対処しないといけないのは骨が折れる。
「っづ!」
「……!!」
防御していた短剣のリーチを伸ばし、熊口生斗の肩を掠める。
防御に徹するのは悪手。短剣を伸縮させつつ枝分かれさせ、相手にリーチの誤認を誘発させ続ける。
判断を間違えれば怪我では済まされないこの状況下では六本の霊力剣の操作のランダム性が制限される。
幾らオート操作とはいえ、脳のリソースの大半を自身以外に使うその技は、本体に危機が迫った時に無意識のうちに防御の型に限定されるからだ。
それが合理的に危険を排除する必殺の型であろうと_______私はこの戦いで、幾度となくそれを見ている。
「……終わ_____!!?」
其々の霊力剣が振り下ろされる軌道に、霊力障壁を展開し剣戟を制止させる。
私と熊口生斗の間に生まれた刹那の隙間。
何にも邪魔をされず、彼と私の純粋な剣戟を交える瞬間が今訪れた_____かに見えた。
私の腹部に、一本の霊力剣が食い込んでいる。
熊口生斗が携えている霊力剣ではない。六本のうち、9時の方向から向ってきていた一本が霊力障壁を潜り抜けていたのだ。
私が……読み違えた? _____いや、違う!!
「!!」
既に霊力障壁を破壊し、他の霊力剣と共に振りかぶろうとしていた熊口生斗を目視し、私は自身が纏っていた霊力を衝撃波として使用し、一時的に彼と霊力剣を弾き飛ばす。
あの一撃、私が仕掛けるタイミングに合わせてオート操作から手動へと切り替えたのは考え難い。
恐らく熊口生斗は、近接戦になった段階で六本のうち一本を常に手動で運用していた。
……いや、そんな事はこの際どうでもいい。
状況は一気に彼方へ傾いてしまった。
全身から嫌な汗が滲み出てくる。
刃先は潰されていたとはいえ、鋼鉄を意図も容易く切り裂ける威力を持つ剣戟を諸に受けたのだ。
下半身と分離されていないのが不思議なレベルの威力。吹き飛ばしたことによって一時の休息が訪れれば幸いだが_____
「へばる玉かよ!!」
「……!! 煩い!」
既に目と鼻の先まで肉薄してきていた熊口生斗に小剣で応対する。
周りに法陣を展開して私の動きの隙間を縫ってレーザー弾が熊口生斗に向け放たれるが六本の霊力剣で対処される。が、相手の手数を減らせるのであれば上々。
まだ私には手が、ある。
「(流石サグメさん、グロッキーな顔して攻撃の手が緩まるどころか増しまくってる!!)うぉおお!!」
「っっ!!!」
視覚内に映る法陣と私に集中を割いてる間に、待機させていた二十の霊力剣を背後を見せる熊口生斗に向け放たれる。
霊力剣は見事熊口生斗の左肩を貫き、他も身体中に生傷を作り出していく。
なのに、止まらない。
「なんで_____」
捨て身の特攻。
ここにきて背後からの攻撃への対処を致命傷にならない程度で放棄していたのだ。
良く言えば超前傾攻勢に彼は出ている。
そんな無理心中覚悟と言わん気な姿に、思わず動揺した私は彼の顔に視線を向ける。
そこには_____まるで友達と戯れているような、無邪気な笑みを浮かべる彼の姿が映っていた。
「「!!!」」
手数は私の方が上の筈なのに、押されている。
分かっていた。この距離まで近付かれた時点で結果は見えている。
だけれど、眼前にその結末が、より明確に見えてくると、何故か私に宿ることのなかった闘志が溢れ出てくるのを感じる。
……偶には流れに呑まれるのも悪くない、か。
「熊口、生斗!!」
久しぶりに腹の奥底からでたのは、彼の名前。
霊力剣を操る為に足元に這わせていた霊力線の軌道上から霊弾を放つ。
前方は私の剣戟と法陣から放たれるレーザー弾。そこに足元から霊弾、背後には敢えて射出を遅らせていた霊力剣が熊口生斗に襲い掛かる。
どうする、熊口生斗。
どれか一つでも対処が遅れれば致命傷は免れない。
そしてこの猛攻は、君の手数を優に超えている。
これが最後だ。
超えてみろ、熊口生斗。
そしてどうか________
_______悔いのないよう、生き抜いてくれ。
「合格、って事でいいか?」
大の字に倒れ伏す私が見上げる先には、首元に霊力剣を突き立てる熊口生斗の姿があった。
「……」
……私が足元から放った霊弾を推進力に上に跳んだのか。
そこから空中で爆散霊弾による高速肉薄で私に突撃した、と。私が保険と床に巡らせていた法陣を同時に生成していた爆散霊弾で封殺しながら。
本当に、接近戦は嫌になる。
普段のレンジならまず対処が遅れる事はなかった攻勢も、それが眼前となると、突如として姿を消したと錯覚してしまった。
でもまあ、これは。
_____認めざるを得ないでしょう。
「……ふふ_____君の勝ちよ、熊口生斗」
任務を失敗したにも関わらず、私は滲み出る感情を抑えきれず、笑った。
だってそうでしょう。
百余年一緒にいた弟子が、立派に芽吹かせたのだから。