ぼっちは語れない   作:苺ノ恵

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前回の更新では失礼致しました。

深く反省するとともに、今作を真面目に書きました。

それではどうぞ


お正月番外編:姉妹兄妹

 

 

 

それは、少女と少年が出会う数か月前の話。

 

世間は師走の月を駆け抜け、新たな年への歩みを着々と進めていた。

 

束の間の休息を得た日本国民は、各々自宅での休息を満喫する。

 

こたつにみかん。

 

紅白にガ〇使。

 

年越しそばに舌鼓を打ち、時刻は23:59

 

某アイドルグループの年越しライブの中継がテレビから聞こえて来る中、彼女らは闘っていた。

 

これは、受験勉強という、地獄の日々を駆け抜けた少年少女の記録である。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

紙面に黒線が刻まれる。

 

一定のリズムで引かれたグラフに、斜線を落とす。

 

描き出された数式は、この世の真理を漫然と法則に置き換える。

 

まるで、解が導き出されるまでの過程を予知していたかのように、淀みなく動かされる手はまさしく神速。

 

ボロボロになった参考書は一瞬で目的のページを開示する。

 

その行為が、学習ではなく確認だと理解するには、その紙の束を見るに明らかであった。

 

赤い閃光のような円が迸る。

 

飾りのように添えられたそれは、その頭脳が真理を導き出したことに他ならない。

 

続いて取り出した人類史の原典に目を通す。

 

過去から現在に至るまでの過程を遡行する。

 

それは確認というには淡泊すぎる、好奇心のような色が彼女の瞳に宿る。

 

そして____

 

 

 

「くー…くー…………ふがっ!!?」

 

 

 

___突然、訪れた落下音。

 

集中力を切らされたことに苛立ちを感じた少女、【小鳥遊ひまり】は今しがた雑音の原因となった人物に視線を向ける。

 

「あいったー…脱臼した、もうだめだ~。ペンが持てない~」

 

今時、大根役者でもしないような芝居がかった演技で肩を抑えながら立ち上がる少女は【小鳥遊ひかり】。

 

現在、大晦日も過ぎ正月になった深夜、二人は高校受験に向けて勉強していた。

 

いや、勉強しているというと語弊があるだろう。

 

有体に言うと姉のひかりは____

 

「…で?さっき言ったところ覚えたの?」

 

「ん?さっきのところ?」

 

「三角関数」

 

「………ああ、シンコスタンのこと?」

 

「しん…なんて?」

 

「シンコスタン」

 

_______勉強の仕方を知らない。

 

 

「…もしかしなくてもこれのこと?」

 

 ひまりがノートの端に端正な書体で書いたのはSin、Cos、Tanの三つ。

 

 中学三年を経験すれば、意味は分からずとも誰でも知っているであろう数学の基礎。

 

 だが悲しいかな。

 

 姉には難しい話だったようだ。

 

「それそれ、シンコスタン!…でも、可笑しくない?何で数学の教科書に外国人の名前があるの?」

 

「可笑しいのはお姉ちゃんの残念な頭でしょ…。…私、もう寝る」

 

「ああ、待って!!寝てたのは謝るから待って!!お願い!」

 

 妹に縋りつく姉。

 

 遂には両手を合わせ拝みこむ始末。

 

 このままでは土下座までされかねないと感じたひまりは、姉を諭すように話し始める。

 

「…点数足りなくて高校入れないかもしれないから何とかしてって泣きついてきたのお姉ちゃんだよね?何で今一番勉強しなくちゃいけない人が寝てるわけ?」

 

「それは…あれだよ、寝る子は育つって言うじゃん!」

 

「脳みそを育ててから出直してきなよ」

 

「ううう…!!」

 

 頭を抱える姉。

 

 ひまりはそんな姉を余所に参考書などを片付け始める。

 

「ほら、お姉ちゃんも手伝って」

 

「でも、勉強しないと…」

 

 渋るひかり。

 

 いつもは「明日やるから今はいい」というズボラな姉がここまでやると言っているのだ。

 

 ひまりはその思いに答えてあげたかったが如何せん時刻が悪かった。

 

「お姉ちゃんただでさえ勉強苦手なんだから、集中できない時にやってもあんまり効果ないよ。寧ろ寝不足で体調壊すかもだから今日はおしまいです」

 

「………分かった…」

 

 納得いかないと言わんばかりに表情を曇らせたひかりは、妹に倣って片づけを始める。

 

 その後、片づけを終え部屋のベットに腰掛けていたひかりに、妹のひまりがココアの入ったマグカップを渡す。

 

「ありがと」

 

「どういたしまして。ちゃんと歯磨きしなよ」

 

 隣に座るひまり。

 

 先ほどの忠告に苦笑いしながらココアを舐めるように飲むひかり。

 

「も、もちろん」

 

「しない気だったな…」

 

 そこから姉妹で他愛のない会話をする。

 

 友達はどこの高校に行くとか、今までラブラブだったカップルが別れたとか、担任の先生が実はヅラだったとか、そんな話。

 

 カップの中身が半分減った頃、ひまりが訊ねる。

 

「…お姉ちゃん、明日は空いてる?」

 

「ん?明日?明日はみんなで初詣だよね?」

 

「うん。その後はどうするの?友達と境内をまわるの?」

 

「うーん…今のとこ予定は無いかな。みんな帰って勉強するって言ってたし……ハア…」

 

 勉強という単語を発した瞬間、目に見えて元気のなくなるひかり。

 

 周りが頑張っているだけに、自分も頑張らないといけない。

 

 そんな、目に見えない息苦しさが今のひかりの重荷になっているように思えた。

 

「じゃあさ、お参りした後ちょっと付き合ってよ」

 

「んー?いいけど、どっか行くの?」

 

 ひまりはココアを飲み干すと、既に飲み終えていた姉のカップを持って、腰掛けていたベットから立ち上がる。

 

「内緒。でも、そんなに時間は取らせないから。勉強しないと、だしね?」

 

「うっ…!」

 

「まあ、明日の…ってもう今日か。8時間後のお楽しみってことで。おやすみ、お姉ちゃん」

 

「うん、おやすみー」

 

 微睡みかけていたひかりがベットに潜り込もうとした時、退出しようとしていたひまりは振り返って、思い出したように付け足す。

 

「あ、冗談抜きで歯磨きしといてね?お砂糖入ってたから、このココア」

 

「…おや…すみ…」

 

「…虫歯になっても知らないよ?」

 

「歯…磨いてくる…」

 

「はい、どうぞお先に。あっ、階段から落ちないでよ?」

 

「はいはーい」

 

「…ホントに分かってんのかな?」

 

 案の定、聞こえてきた階段を踏み外した音。

 

 幸いにも残り一段のところだったようで大事は無いらしい。

 

 当の本人は寝ぼけてて気がついてないようだ。

 

「__ひまり?まだ起きてたのか?それに今の音は?」

 

 左を向くと、奥の部屋のドアから父が顔を覗かせていた。

 

「ああ、ごめんねお父さん。お姉ちゃんとココア飲んでたから歯磨きに行かせたんだけど…お姉ちゃん寝ぼけてるっぽい」

 

 すると、父は安心したように頷くと口を開く。

 

「そうか、あまり夜更かしはするなよ?勉強も大切だけど、身体が一番だからな?」

 

「うん、分かってるよ。…まあ、お姉ちゃんはそんなこと言ってる場合じゃないと思うけど…。どうして高校のレベル下げないのかな?」

 

 本来ひかりは別の高校を志望していた。

 

 それが最近になって急に、ひまりの志望していた高校に行きたいと言い始めていた。

 

「あれ?ひかりに聞いて無いのか?」

 

「え…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 時刻は午前10時30分。

 

 流石はお正月とでも言うべきか。

 

 境内は神社へのお参りに来た人で溢れかえっていた。

 

 既にお参りを終えた小鳥遊姉妹はある場所に向かって移動しているところである。

 

「うわ、人すご…」

 

「うん。一番ピークの時だからね」

 

「ピーク?」

 

 ひかりが歩きづらさに眉を顰めながらひまりのピークという単語に疑問を現す。

 

 因みに、双子の少女が色違いでお揃いの着物を身に纏って、二人歩いている。

 

 何人かの男性が見惚れるように二人の姿を目で追っていたことなど、当の二人は気付きもしなかった。

 

「うん、夏祭りの時ここで自治会のお手伝いしたでしょ?その時聞いたんだけど、人って昼食前にこういう場所に集まることが多いんだって。_あ、すみません」

 

 黒い服装の同世代の男の子に肩をぶつけてしまい謝るひまり。

 

 丁度、別の女の子にぶつかったらしいひかりがその子に謝罪を終え、珍しくひまりの言葉に首肯する。

 

「ごめんなさーい!__あ、それ分かる気がする。ショッピングに行った時もランチ前は凄い人多いもんね?」

 

「そう。人って良くも悪くも効率を重視するから、それが決まりを良く守る日本人なら、行動に一定の法則性が出てしまうのは仕方のないことなんだよね」

 

「う、うん。そうだよねー」

 

「分かんないなら分からないって言ってよ。そういうの面倒だから」

 

「お姉ちゃん、ひまりに彼氏さんができるか心配だよ」

 

「人のこと言えないでしょ。お姉ちゃんだってキスさえしたことないんだし」

 

「きっ…!!」

 

「ほら、赤くならないの。その無駄に純粋なのどうにかしたほうがいいと思うよ?」

 

「べ、別に~き、き、キスくらい?余裕だから?」

 

「疑問形じゃん。___ほら、着いたよ」

 

「え?…おおおおお!なんか木の板がいっぱい!何これ?」

 

「絵馬だよ。ここにお願い事とか夢とか書くと、願いが叶うかもしれないっていう…まあ願掛けみたなものかな。ここでお願い事書けば叶うかもよ?」

 

「へー、そうなんだ。面白そう!絵とかも書いていいんだ」

 

 ひかりが既に願い事の書かれた沢山の絵馬を見ながら訊ねる。

 

「そう。だから自由に書いてみて」

 

 そうして、担当の人に絵馬を受け取った二人は思い思いの願い事を書く。

 

 ひまりは楽しそうに何かの絵を描いている姉を見ながら昨夜のことを思い出す。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 姉が志望校を変えたのは、仲の良かった友達が行くからだとひまりは聞いていた。

 

 そんな風に進路を決めるのはどうかと思ったが、友人という存在を知らないひまりにその判断をどうこう言う資格はないと、その時は姉の意思を尊重していた。

 

『そうか。…まあ、ひかりはそういうことを面と向かって言いたがる子じゃないからな…』

 

『?何か別の理由があるの?』

 

『そうだねえ…。ひかりは多分、もう暫くは、ひまりのお姉ちゃんでいたいんだと思うよ』

 

『…何それ?』

 

『すまん、これ以上言うと父さんがひかりに叱られてしまう』

 

『ふーん…。まあ、お姉ちゃんの考えるようなことは大体、想像着くけどね』

 

『ひまりはそれをお節介だって思うかい?』

 

『…どうだろ。ただ、…』

 

『ただ?』

 

『そういうのは…ちょっと恥ずかしい』

 

『ハハ、そうだね』

 

『お父さんもそうだったの?』

 

『父さんかい?いや、少なくともひかりやひまりみたいな感じじゃあ無かったかな』

 

『おじさんと仲悪いの?』

 

『いや、そういうことでもなくて…すまん、上手く言えない』

 

『そっか』

 

『…ひまり』

 

『何?』

 

『父さんはひまりの生き方、カッコいいって思うぞ』

 

『………』

 

『でもいつかは、一人では超えられない壁にぶつかることになる』

 

『……うん』

 

 

『だから、そんな時はお姉ちゃんを頼りなさい』

 

『…不安しかないんだけど?』

 

『それは仕方がない。ひかりがお姉ちゃんなんだから』

 

『お父さん酷い』

 

『それでもひかりだけにしかない良さもあるんだ。だからっていうわけじゃないが…お姉ちゃんのお節介にもう少しだけ付き合ってくれないか?』

 

『_______』

 

 答えは決まっていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよし!…ねえ、ひまり。なんで願い事見たらダメなの?」

 

「知り合いに見られると効力が薄れるって本で読んだから」

 

「そうなの!?だから裏向きなんだ。…でもみんな表だよ?」

 

「無知が招いた悲劇ね」

 

「…なんかひまり変じゃない?」

 

「気のせい気のせい。___それで、どう?気分転換になった?」

 

 姉が浮かべる向日葵のような笑顔。

 

 どうやら、色々な人の願いに触れて、何か吹っ切れたらしい。

 

「うん、また来年も絵馬やりたい!」

 

「そっか。…じゃあ、帰って勉強しますか」

 

「…よし!頑張る!!」

 

「オッケー、付き合うよ」

 

 境内の入り口にある鳥居をくぐる際、ふと立ち止まったひまりは独り言のように呟く。

 

 

 

 

「ありがとね。お姉ちゃん___大好きだよ」

 

 

 

 

「ん?何か言った?」

 

 振り返ったひかりに追いつきながら、ひまりは悪戯っ子の顔をしながら話す。

 

「どの科目からやろうかなって聞いたんだよ」

 

「お、お手柔らかに…」

 

「やだね」

 

 その後、ひまりの神がかり的な指導の結果、見事二人揃って高校に入学することになるのだが、ひまりがその未来を見るにはまだまだ地獄の日々を過ごす必要があるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃんのお節介にもう少しだけ付き合ってくれないか?』

 

 そんなの、返す言葉なんて決まってる。

 

『やだね』

 

 力一杯の笑顔できっぱりと。

 

 お節介を焼くのは私だけで十分。

 

 簡単に思惑通りになると思うなよ?

 

 そんな、姉からの優しさと思いに、嬉しさと悪戯心が拭えないひまりは、絵馬に書く願い事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「__ねえねえ、お兄ちゃん。さっきの人凄い金髪だったね。海外の人かな?」

 

「ああ、すまん小町。お兄ちゃんそれどころじゃなかった」

 

「知ってる。金髪の人の隣にいた子にぶつかってオドオドしてたもんね。これだからごみいちゃんは」

 

「やっぱ正月は出歩くもんじゃないな…」

 

「いや、お兄ちゃんの場合常に家の中じゃん」

 

「おい、人のことを引きこもりみたいにいうな」

 

「…お兄ちゃんの夢は?」

 

「専業主夫」

 

「引きこもりじゃん。ヒモじゃん。ごみいちゃんじゃん」

 

「だから引きこもりじゃない」

 

「…ヒモは否定しないの?」

 

「なれたらいいな。なる気はないが」

 

「ま、そうだよね。お兄ちゃんだもん」

 

「そういうこった」

 

「__あ、お兄ちゃんこれ」

 

「絵馬か…何で何も書いてないんだこの二枚」

 

「違うよお兄ちゃん。これ裏返ってるだけだって。ほいっ…よし、これでオッケー………おお…!」

 

「…今時こんなこと書く人間がいたんだな」

 

「お兄ちゃん、なんだかじじ臭いよ?小町はいいと思うなあ。こういうの」

 

「…よし。なら俺の願いはこうだな。【俺と小町がずっと一緒に居られますように】…今の八幡的に超ポイント高い」

 

「あーはいはい。高い高い」

 

「辛辣すぎる…」

 

 そんな心傷の兄を余所に小町は思った。

 

 この願い事はきっと、さっきぶつかった二人が書いたものだと。

 

「【妹が笑顔でいられますように】【姉さんの願いが叶いますように…望みは薄いけど】___か。妹さんは若干、捻デレさんかな?」

 

「おーい小町。そろそろ行くぞ?人が多くて死にそうだ…」

 

「心配しなくてもお兄ちゃんの目はもう死んでるよ」

 

「新年早々、俺の妹が酷い件について…」

 

 こうして、とある目の腐った兄も、双子の姉妹と同じ高校に入学することになる。

 

 また数学で、入学者史上最低点をマークすることになるなど、この時の彼には____分り切っていたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。

あまり仲の良くない親戚の子にお年玉をあげるべきか悩んでいる九条明日香です。

今年ものんびりハチャメチャにやっていきたいと思っているのでよろしくお願いします。

さて、遂に着ました第二の妹キャラ。

ひまりちゃんは私の中ではとても賢いイメージで、賢いがゆえに周囲と一線弾いているような印象をもってこの番外編を書きました。

それでも、なんだかんだで仲のいい姉妹の形は尊いですね。

今年はどんな年になるのでしょうか?

恐らく去年よりも波乱に満ちた年になることかと思います。

受験生の皆様がご自身の夢を叶えられるようネットの片隅で駄文を書きながら、密かに応援しております。

次回の更新は二月下旬の予定です。

今回も読んでくれてありがとう。

意見・感想待ってます。

それではまたの機会に


happy new year!!
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