「目覚めよ」
「………」
なんだ?
誰かの声が聞こえる…。
声の高さ的には男…老人か?
「目覚めよ、比企谷八幡」
「………」
「目覚めるのだ。比企谷八幡。覚醒の時は来た」
あー…これはあれだ。
あのパターンか。
…折角だ。
もう少し様子を見ておこう。
「………」
「目覚めよ」
「………」
「めざm……」
「………」
「めz…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「………あのー…ちょっとだけ目覚めて頂くわけにはいきませんでしょうか?」
「………」
「私にも羞恥心というものはありまして…お休みのところ大変申し訳ないのですが…」
「………」
「こ、これ以上『………』を乱用されると私共と致しましても…」
待て待て待て!!
ちょっと待て!!!
「謙虚か!!!そしてメタい発言はやめろ!!後で困るのは作s(自重)」
「おお、ようやく目覚めてくれたな。八幡や、ワシは嬉しいぞ。ほれ、飴ちゃん食べるか?」
「田舎の爺さんか!」
目を覚ました俺の目の前にいたのは、見覚えのない爺さんだった。
よくRPGで主人公が修行する時に登場してくる仙人みたいな、あんな感じの爺さん。
とりあえず俺は、胸の内にしまっていた不満をぶつけてみる。
「百歩譲ってメタ発言は許してやる…。でもな、そうじゃないだろ?何仙人みたいな顔しといて、孫に会えたジジイみたいに喜んでんだ?今のはどう考えても〇魂の流れだっただろ?必殺技を教えたくて具現化した迷惑極まりない木刀の爺さんのアレだろ?何が『私共と致しましても…』だ?そこは『目覚めろっつってんだろうがあああああああ!!!』だろ?何のために俺が沈黙を貫いていたと思ってんだ?」
「疲れてるのかな…と」
「良い奴かよ!」
なんか勝手にパロしようとしてた俺が恥ずかしくなってきたわ…
「どうしたのじゃ八幡や?何やらキャラがブレブレじゃぞ?」
「頼むからその顔でキャラがブレてるとか言わないでくれ…」
ツッコミどころが多すぎて疲れる…。
「…というか…ここどこだよ?」
「ここはお主の深層心理が生み出した空間じゃ」
「深層心理…つまりは夢の中ってことか」
「大雑把に言えばそうなるな」
真っ暗なとこで何も無いな。
ビルとかあったらテンション上がるのに。
斬月のおっさんとかいないかな?
「その俺の夢の中に出てきてる爺さんは?」
「ワシか?ワシはお主の守護霊じゃよ」
「…守護霊?」
「ああ。お主に害が及ばないよう、人寄けの結界を張ったりしてな」
「おい、くそジジイ。ちょっと待てやコラ」
目の前のジジイはまさかの『ぼっち製造機』だった。
お前が原因か?
諸悪の根源なのか?
「まあ、結界を張り続けるというのは正直疲れるもんで、ここ十年はサボっておったんじゃが…ワシの心配もどうやら杞憂だったようじゃのう…」
「何決め顔で『立派になったな…』みたいな空気だしてんの?…つーか、俺がぼっち体質なのは生まれつきなのかよ…」
「そうじゃ。わしの結界の効力を大幅に上回るその力。まさに天性の才能ぞ」
「こんなにも褒められて悲しくなったのは生まれて初めてだな…」
やばい。
もう斬月のおっさんなんてどうでもいいから早く帰りたい…。
帰って小町とプリキ〇ア観たい…。
「そんなことよりも八幡よ。ワシはお主に謝らなければならないことがある」
「寧ろ謝らなければならないことしかしてないだろ?」
「ワシは本来、人間に干渉してはならない存在なんじゃ」
「…どういうことだ?」
「【伝承の依り代】…お主たちの言葉では亜人と言ったな?…八幡よ。亜人であるお主の能力で凡人と異なることはなんじゃ?」
「………霊感が強いこと…か?」
「うむ。詳しく言えば【蒼炎の羅針盤】…お主は霊体となった人間達の道標となる存在だ。必然、凡人には見えざる者を視認し、聴こえざるものを聞く、そのための耐性がある。つまり、霊の力に順応しておる」
「…普段から高度の高い地域で生活する人間は、山登りをしても高山病になりにくいってことか?」
どうでもいいけどヤマノ〇スメっていいよな。
「その考えで相違ない」
「…つーことは…爺さんが結界を張るのは…」
「ああ。ワシの霊圧に中てられた人間は少なからず身体に異常をきたす。結界はそのためのものじゃ。…まさか、お主がワシを完全に憑依させられる器まで大成するとは思いもしなんだがな」
「…理屈は分かった。だが、だからこそ分からないな…爺さん。…爺さんは何故俺に干渉してきた?」
「………」
「俺たちの世界に干渉することで起こるリスクをアンタは知っていたはずだ。幸いにも何事も無かったようだがそれはあくまでも結果論だ。俺はアンタの選択した行動を肯定しようとはとても思えない…。それでも、そうせざるを得なかったのは何故だ?」
あれ?なんかシリアス?なんでシリアス展開?
俺は自分が自分で作り出した場の空気に混乱していた。
すると爺さんもそれに呼応するかのように、体を震わせながら顔を俯かせる。
爺さんノリいいな…。
「…天界が暇だったから」
「…………………は?」
違った。
こいつはただのバカだ。
あまりの期待外れな返答に思わず間抜けな声出しちまったじゃねえか…。
「暇だったんじゃよ。天界は…。」
言い方変えても意味は同じだからね?
…聴こえてたけどもう一度だけ、敢えて言わせてくれ…せーの
「は?」
「だって向こうにいるのジジイやババアばっかだし」
お前もジジイだろうが。
「天に召されてきてくれた若い娘たちはすぐに転生させて現界に送らないと
驚愕の事実。
悲報:俺たちの輪廻転生の管理はお役所仕事だった件について
「それに、エロいことなんて一つもないんだもん…」
「分かった。分かったからもう黙れエロジジイ」
もうボケが多すぎて処理しきれないから。
お腹一杯だから…。
「そんなワシが癒しを求めて現界に降り、JKやOLを舐めまわすように観察することのなにが悪い!!」
「お前の思想と行動の全てだよ」
逆に俺はお前の悪くない点を聞いてみたい。
「くう…誤算じゃった…。せめて…せめて…もっとイケメンの男に憑依していれば…!!」
「よし、死にたいんだなクソジジイ。今すぐ天まで昇れるブランコ作ってやるよ」
ネクタイを外してジジイの首を絞めにかかる。
が、老人とは思えないほどの軽やかな動きで躱される。
「冗談が通じない男じゃな、八幡よ」
「…はあ…」
なんだこの夢…。
早く覚めてくんねえかなあ…。
俺は溜め息を吐いて天を仰いた。
◇◇◇
ひとしきり叫んで落ち着きを取り戻した私は、今度は別の意味で焦っていた。
「せ、先生どうしよ!私、殺人犯になっちゃうの!?手錠掛けられちゃうの!!?」
「まずは比企谷の心配してやれよ…。それと、人のことを勝手に死亡扱いするな」
感情に任せて暴力を振るってしまったことについてだ。
ついさっき思い出したが、彼は数日前に事故に遭ったばかりなんだった…。
怪我をしている人の、それもよりによって顔面に蹴りを入れてしまうなんて…。
私は最悪の状況が頭に過って顔が真っ青になる。
呆然と立ち尽くす私を余所に、先生が彼の介抱を始める。
「おーい、比k…っと、頭を揺らすわけにはいかないか…。…脈もあるし、呼吸も安定している。瞳孔は…目が腐っててよく分からんが、命に別状はないだろう」
「え?なんか先生、お医者さんみたい…」
先生は比k……ヒキ…………ヒッキーくんをお姫様抱っこすると廊下のほうに歩きだす。
「まあ、これでも生物学を教えてる身だからな。…よっと…それじゃあ、俺は比企谷を保健室に連れてくから、ひかりはここで待っててくれ」
「え?」
「理由が理由とはいえ、暴力はな?」
「………はい…」
「比企谷は大丈夫だから心配するな。そこまで大事のことじゃあない。」
先生はそう言い残すと踵を返して歩き始める。
「十分くらいで戻るから大人しくしt___」
「先生っっ!!!」
「っ!?」
私は先生を呼び止める。
そして______
◇◇◇
「!!!!?」
「ん?どうかしたのか、八幡?」
「いや…何でもない…」
「?そうか」
…なんか妙に寒気がする。
まるで分厚い筋肉が体にまとわりついているような感覚だ…。
俺が得体のしれない恐怖と戦っていると、爺さんは真剣な面持ちで話し始める。
「…それで謝りたいことというのは先日の事故についてじゃ」
寒気が収まった。
というより、意識が逸れたっていう感じか?
俺は一つ息を吐いてから、口を開く。
「…あれもジジイが絡んでんのか?」
「でなければお主の前に姿を現すことはなかっただろうな。…八幡や。本来ならお主はあの時、死んでおったはずなんじゃ」
「………」
「何か心当たりがあるようじゃの?」
ああ、確かにあの時俺は右足に強い衝撃を感じた。
でも、車と接触したのは
脊髄が損傷していたら俺は間違いなく車いす生活を送るはめになっていたはずだ。
それが何故か足の小指だけの犠牲で済んでいる。
事故当時の記憶が曖昧であることを差し引いてもなお残るその違和感に、俺は人知れず悩んでいたのだが…今の話で納得がいった。
「ジジイの仕業だったのか」
「仕業…か。そう言われるのも当然かもしれんな。ワシは利己的な理由でお主の運命を捻じ曲げてしまったのだから」
爺さんが唇を噛む。
滲んだ血は、爺さんの長い銀色の髭を赤く染めていく。
俺にはそれが、爺さんの血涙のように思えた。
「…別に、あれに関してはジジイが謝る筋は無いだろ」
だからというわけではないが、どうにもこのジジイを責める気にはなれなかった。
「………」
「寧ろ俺が礼を言うべきところだろ?どんな理由であれ、死ぬはずだった俺を生かしてくれたんだからな…」
柄にもなく、礼を言ったりなんかして。
…ったく。
俺はシリアスが苦手なんだよ。
まるで、そんな俺の心の声が聞こえていたかのようにジジイは____
______不穏な単語を口にする。
「八幡…!やはり、お主を隠れ蓑に選んだのは間違いではなかった…」
「ん?隠れ蓑?」
「お前に死なれるとワシが困るからの。最近は特に捜査隊の動きも活発化しておるし」
「おい、なんだその捜査隊って?初耳なんだけど?それに、何故俺が死ぬとジジイが困る?」
「ワシが本気を出せば完全に車との衝突を避けることもできたんじゃが…それだと、慰謝料と治療費を取り損ねるからな。ワシからのささやかな礼だと思ってくれ」
「それについては全面的に感謝する」
やはり金は力だな。
今の言葉で俺の心は清らかになった。
まさに【マネー伊豆パワー】
やべっ、誤字った。
「____では、謝罪も済んだことじゃ。そろそろお前を向こう側に返すとしよう」
悲報:なんかジジイが勝手に話を締めにかかっている件について。
「いや、許してないからね?事故の件については感謝してるけど、お前の言動を含めてその他もろもろのことは赦してないからね?俺」
「さらばだ八幡」
「おいこら耄碌ジジイ!!都合のいい時だけ老人キャラになってんじゃねえよ!!」
おい、なんか手足の先からゆっくり消えてってるぞ!?
あれだな。
これから星人と闘いにいく黒タイツの戦士みたいだな。
俺がステルス機能使ったら絶対最強だろ?
「補足しておくと、今回ワシと話した記憶は秘密保持のために爆破させてもらうから心配するな」
は!?爆破!!?
「心配するわ!!?せめて消去って言え!!人の記憶勝手に爆破してんじゃねえよ!!」
「では最後に一言…願わくば八幡よ___」
「あ?」
この期に及んで願い事だと?
「_____またJKの〇ンティーを拝ませてくれ」
「くたばれクソジジイ」
そして俺の視界は光に包まれた
マジで何なんだよこの夢…________
◇◇◇
暗闇に一人となった老人は、懐から一枚の写真を取り出す。
そこには、幼い頃の八幡と同世代の子たちが浮かべる満開の笑顔があった。
「八幡よ…、お主はいつだって己の魂に従って生きてきた。人の好意に怯え、張りぼての関係を拒み、それでも助けを求めることはせず、1人傷だらけになりながらも懸命に生きてきた。…八幡、お主は強い。お主は何も間違ってなどおらん…。なぜならお主は____」
「お主は『本物』なのだからな………」
写真に一滴の滴が落ちる。
色が滲み輪郭がぼやける。
老人はただただその様子をじっと眺めていた。
これまでと同じように。
ただ、ずっと___________
皆さんハッピーバレンタイン!!
どうも、カップケーキとクッキーを思い切り焦がしてしまった九条明日香です(涙)
更新が遅れてすみませんでした!!
ここ数日は忙しかったもので…
その代わり、いつもより文章量割増しで書きました。
内容の薄さには触れないでください(土下座)
さて、第四話では謎の老人キャラが登場しましたね。
詳しくは言えませんが、どうやら八幡の亜人としての性質に関わりのある人物のようです…!
今後の展開をどうしようか、私自身楽しみです!←ノープランなだけ(涙)
次回はそろそろ八幡くんに青春してもらおうかと思ってます。
亜人(ぼっち)の青春(語り)に刮目せよ!!
今回も読んでくれてありがとう。
感想待ってます。
それではまたの機会に
(焦げたクッキーを頬張りながら…)