ぼっちは語れない   作:苺ノ恵

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第五話:燻ぶる熱

 

 

 

 ベットの軋む音が響き渡る。

 

 そっと頬を撫でる手は、少し冷たくて、どうしようもなく華奢で。

 

 彼女が少し動くたびに香る、仄かな甘さが、少しずつ理性を溶かしていく。

 

 身を捩り、震えるこの手を、彼女は逃がしてなどくれない。

 

 溺れる___

 

 溺れてしまう___

 

 心地良い倦怠感は、やがてその行為を肯定し、その時間が決して夢や幻などではないのだと、吐息のようにそっと囁いてくる。

 

 壁際に架けられた二つの針は、狂ったかのように同じ場所を差し続ける。

 

 導かれた先のその最果ては、もうすぐそこまで近づいていた____

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、突然ですが私は今どこにいるのでしょうか?

 

 …はい!!正解は…『保健室』です!!

 

 では、私は何故、保健室にいるのでしょうか?

 

 ふむふむ…。「どこか怪我をしたから?」

 

 なるほど、シンプル且つオーソドックスな解答ですね。

 

 あなたのつまらない人間性がそのまま解答に表れている素晴らしい答えです。

 

 ですが残念!!

 

 私はどこも怪我などしてません!!

 

 …あれ?じゃあ、残念じゃないのかな?

 

 怪我が無くて良かったです!!(※????)

 

 …おっとすみません、次の解答ですね!

 

 どれどれ…?「保健室に用事があったから?」

 

 おお!!これは惜しい!!非常に惜しい解答です!!

 

 ひとつ前の解答者に聞かせてやりたい解答ですね!!

 

 でも、残念ながら私は特に保健室へ用事があったわけではないのです。

 

 さあ、誰がこの難問を解くのか?

 

 果たして正解者は現れるのでしょうか?

 

 ………んーーー…。

 

 どうやら今回の問題は少々、難易度が高かったようですね。

 

 __ということで、模範解答です。

 

【小鳥遊ひかりが高橋先生のいる生物準備室に赴いたところ、突然準備室の扉が騒音をたてた。それに驚いた小鳥遊ひかりは、高橋先生の安否確認のため、その重い扉を開いた。中から現れたのは企比谷八幡という、小鳥遊ひかりと同学年の男子生徒だった。その際、不慮の事故により企比谷八幡は小鳥遊ひかりに蹴殺…暴行を加えられ、意識を失う。高橋先生によって企比谷八幡は保健室へと搬送され、小鳥遊ひかりもこれに同行。そして、小鳥遊ひかりは職員会議ため席を外した高橋先生と保健室の先生の代わりに、企比谷八幡の当直を行っていた。___反省文を書かされながら…】

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう…ダメだあ…。昨日観たクイズ番組が邪魔するよ~…。」

 

 私はぐったりと、散歩に疲れ歩くことをやめた老犬のように、机へと上体を預けた。

 

 病院とよく似た室内に漂う消毒液の香りは、私の苦手な採血注射の光景を想起させ、なんとも言えない居心地の悪さを感じさせる。

 

 そのこともあってか、元々作文が…誣いては机に向かうことが不得手な私は、白紙の原稿用紙を前に途方もない絶望感を感じ、脳が活動限界に達していた。

 

 その証拠に、昨晩観たクイズ番組が頭の中を侵食し始めている。

 

「400字以上なんて拷問だよ、拷問。人がやっていいことじゃないって…」

 

 小説家の人たちはこんなにも過酷な作業を仕事にしているのだから、変人としか思えない。

 

 …何故だろう。

 

 なんだかこの後、私はひどい目にあわされるような気がする。

 

 今のうちに謝っといた方がいいのかな…?

 

 思考が明後日の方向に飛び立ち始めた私は、気分転換のため席を立ちその場をウロウロする。

 

 チラチラと視界の端に真っ白な原稿用紙が見えるが気にしないようにした。

 

 それから少しして、私はゲームアプリのスタミナ全快通知を受けて、スマホを取り出す。

 

 ついでに時計を見ると私が反省文を書き始めて(一文字も書けてない…)10分が経過していた。

 

 先生の話では会議は三十分くらいで終わるという話だからあと20分で400字を埋めないといけないのですが…

 

「うん。無理」

 

 私は持ち前のずぼらさを遺憾なく発揮して敵前逃亡を決め込む。

 

 __ここで私はあることを思いつく。

 

(学校のベットで寝ながらゲームとか最高じゃない?)

 

 私はウキウキとした表情で空いているベットへ向かう。

 

 すると、カーテンの隙間からヒッキーくんの顔が見えた。

 

 今更ながらに私は、同い年の男の子と保健室に二人きりなのだという現状を理解した。

 

 何もないと分かってはいるのだが、私だって健全な女子高生だ。

 

 異性のことに全く興味がないと言ったら嘘になる。

 

 寧ろ気になるし、その辺りのことについては最近特に、敏感になってきていると自分でも思う。

 

 だから、私が今こうして彼の頬に手を置き、顔を覗き込むように見ているのは、ただの好奇心であって、決して好意からくるものではない。

 

 そう、これは観察。

 

 怪我をさせてしまったヒッキーくんの様子を見守るのが、今の私に託された重要な義務なのだ。

 

 ベットの淵に片膝を立てると、内蔵されたバネが伸縮して心地よい抵抗を反発させる。

 

(うわー…凄いふかふかする!ここでお昼寝とかしたらサイコーじゃん!!)

 

 私が体重をかけると、ベットはその分だけ私を押し上げようとしてくる。

 

 それが楽しくて、ついつい遊んでしまう。

 

 でも、あまり動かすとヒッキーくんを起こしちゃうかもしれないから、それ以上は我慢した。

 

 それでも、多少の振動が影響したのか、ヒッキーくんの前髪がさらりと横に流れ、彼の顔立ちがよく窺えるような状態になった。

 

(………あれ?何だろう?…目を瞑ってたら………もしかして、ヒッキーくんって結構かっこいい?)

 

 あまりの目の腐り加減に驚いていたが、それさえなければ彼の顔立ちは普通に私のタイプだった。

 

 目が腐ってる…それさえなければね!!

 

 大事なことなので二回いいました!!

 

 なんとなくそれ以上、彼の顔を見るのが恥ずかしくなった私は、視線を下におろす。

 

 すると、お腹の辺りに置かれたヒッキーくんの左手が目に入る。

 

 ちょっとした出来心で、その手に触れてみる。

 

「おっきい…(ごつごつしててちょっぴりかたい…でも、意外と細長い)…男の子のってこんな感じなんだ…」

 

 自然に口をついた感想だった。

 

 その時だった____

 

 

「…………………………ぁ」

 

  

 私への最大の試練が立ち塞がったのは。

 

 先生が戻ってくるまでの時間は残り15分。

 

 私は一人、葛藤していた。

 

 私は果たして、耐えることができるのか。

 

 この下腹部を疼かせる熱の燻ぶりを________

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、買い溜めていた小説を読むことに夢中になり、この作品の執筆をすっかり忘れていた九条明日香です(土下座)

全く関係のない話ですが、今回の電撃文庫・大賞作品は私の世界観を一変するような、途轍もない作品でした。

緻密な設定にキャラの葛藤や願い。

理想の儚さと現実の過酷さ。

時間を忘れて没頭させられるとはこういう作品のことをいうんだなと思いました。


閑話休題


さて、第五話では何やらひかりちゃんが不審な動きを見せていますね。

(執筆者を変人呼ばわりするようなヒロインには、灸を据える必要がありますね…ニヤリ)

恋人同士が互いのことを想えるように、亜人には亜人にだけ通じる何かがあるのかもしれませんね。

次回も引き続き、二人には青春してもらおうと思います。

__果たしてぼっちは語れるのだろうか?

今回も読んでくれてありがとう。

感想待ってます。

それではまたの機会に
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