――――――近づくな化け物‼
今にも殺そうとする大人が殺意とナイフを向ける。
――――――あの子に触っちゃうだけで死んじゃうんだって。
――――――なんで、こんな子がいるんだろうね。死んじゃえ!
躊躇を知らない子供たちが、俺を的に石を投げる。痛い痛いというと、いっそう激しくなる。
――――――死ね。
ただ一言、その一言だけが一番、子供の俺の心を抉る。死にたい。頭の中はその言葉だけで埋め尽くされていた。暗闇の中で一人、体育座りで俯く。他人なんかどうでもいいけど、ここまで心を削られると、さすがに死にたくもなる。
――――――大丈夫?
一人しかいないはずの世界に、俺以外の声が聞こえてくる。俯いていた顔を上げ、その声の主を見る。青い髪の可愛らしい少女が立っていた。体をぴったりと覆う黒衣を纏い、俺を見つめている。
「……誰」
――――――私は静謐のハサン。あなたの持つ【妄想毒身】の持ち主。
「……そう。キミも大変だったんだね。猛毒の体。触れたらその人は死ぬ」
他愛のない会話を続け、ハサンと仲良くなった。所謂友達という存在が初めてできたのだった。
その瞬間、目が覚めた。近くに温かさを感じる。その方向を見ると、銀髪の少女が俺を抱き枕にして、スヤスヤと眠っていたのだった。
「……今のうちに、ハサンから聞いたことを整理しておこうか」
体感時間数分の中で、ハサンには様々なことを教えてもらうことが出来た。まず一つ目。銀髪の少女が俺に触れても大丈夫な理由は彼女の中にいる存在のおかげらしい。
ハサン曰く、白龍皇は昔神すら恐れる猛毒を使うことが出来ていたようで、そのおかげで幻想種すらも殺すことが出来る猛毒の体に触れても死ぬことはないらしい。
二つ目。普通に俺に触ることが出来る人間が存在しているということ。どこにいるかもわからないが、きっと見つけることが出来るということだった。
この二点でハサンから聞いた話。安心したように顔を緩ませながら眠る、少女を撫でる。
「……こうやって触れても死なない人に出会えるなんてね。思ってもみなかった」
目を閉じている少女に嫌悪感は抱かない。気持ち悪いという感情さえわかない。俺に触れても死なない、殺意を向けないというだけにも関わらず、心の奥に嬉しいという感情が芽生えつつある。
「……不思議なものだ。感情を表に出すことがあるなんて。それも、見られるだなんてね」
ま、悪くはないかもね。寝たふりをしているんだろうけど、寝息や頭を撫でた時の微かな表情の変化ですぐにわかるものだ。人の顔色をうかがいながら、最初は過ごしていたんだからね。
「……ん。もう一度寝るかな」
目をつぶり、寝息を立て始めた。
一誠が眠りについた後、一人の少女が隣で顔を真っ赤にして必死に何かに耐えていた。
「(あ、頭を撫でられた。寝る前までの拒絶の視線じゃなくて、優しい、優しい目でだよぉ‼私が起きていることにも気づいているみたいだし…は、恥ずかしいよぉ)」
紅い顔を必死で手で隠し、なだめようとする。指の隙間から一誠を見ると、さら顔が赤くなる。本人は気づいていないが、頭からは湯気のようなものが出ているほどだった。
「…明日から、まともに顔を見られないかも」
原因である一誠を少し睨む。その視線に気が付いたのかはわからないが、視線を向けると同時に、寝かえりをうった一誠と向き合う形になる。
「ひゃう‼」
普段出さないような声を上げるが、一誠を起こさないように口元を手で覆う。
(おもに自業自得だが)ヴァーリは眠れない夜を過ごした。