「えー、この度は助けていただいてありがとうございます。私、キャスターでございます」
とりあえずサングラスと帽子は外した上で土下座しながら挨拶してます。最初は飛び出た目に驚かれたけど、今は問題ない。え?プライドなんてもんは海魔に食わせたよ。ひとまず葵さんは自害を命じるのをやめてくれた。誠意は伝わるんだね。
いやあ、本当にあの時はビビったね。確かにこの人の立場考えたらトッキーのためにそうするだろうけど、間髪いれずにやろうとするなんて思ってなかった。優雅なんてそんなちゃちぃもんじゃねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
ちなみに俺の新しいマスター、遠坂葵は礼呪のついている右手を構えたまま此方をじっと見ている。綺麗な女の人にここまで睨まれると感じ……ゲフンゲフン。
少し間があって、葵さんは俺に問いかけてきた。
「……な、なんで私を殺さないんですか?」
「はい?」
え、いや、何言ってんのこの人?殺す理由なんてないし、寧ろ契約してくれて大助かりなんだけど。
……あー、そういう事か。俺を自害させるために礼呪を使用しかけたからキレて殺しにくるのではないかと思っているんだろうね。
恐らく葵さんには、もう俺のステータスが見えてる筈だ。ジル・ド・レェの属性は混沌・悪だ。こんな属性を持つ奴は残虐な狂人くらいだろう。仮面被ったチェーンソーを振り回す人とかもきっとこの部類だね、多分。でもあの人、英霊の部類に入るの?まあ、そんなどうでもいいことは置いておいて、俺は旦那本人じゃないから精神がオカシイとかはないわけだ。
「大丈夫ですよ、人それぞれ色々な事情をかかえてるのは分かってますし、怒ってませんよ。寧ろこちらはマスターを探していて危うく消えかけていたんですから、私にとって貴女の存在は天の救いにも等しいものです」
奥義、旦那スマイル。
葵さんはポカンとしている。あれ、発動タイミングミスった?そう思ってワタワタと挙動不審になっているとクスクス笑われた。なんでや!
「ご、ごめんなさい。英霊で、属性が混沌・悪だからどんな人なのかと思ったのだけれど、至って普通のいい人なんですね」
まあ精神は一般人ですしおすし。まあ言っても信じないだろうし言わないのが賢明だよね。
「英霊であろうと元は人間です。まあ、変な人もいますけれど私はちょっと特殊で、一般常識はしっかりしてます。まあ、混沌・悪が何を言っているんだという指摘は無しでお願い致します」
「ええ、分かりました」
クスクスと笑われているが、可愛いから全て許せる!とりあえず俺は霊体化出来ないことを伝えると、禅城の家には友人ってことで連絡を入れてくれるそうです。ありがたやありがたや。
さて、これからの方針を考えなければ。
俺には原作知識がある。普通のオリ主はこれを活かして聖杯戦争を生き延びるだろう。しかし、今回の俺に関してはこれは殆ど意味をなさないものだ。確かに真名や宝具、各マスターやその大体の潜伏位置が分かるのは大きい。だがしかし俺は戦術以前に、前提条件の"サーヴァントとまともに戦える"という項目を満たしていないのだ。
セイバー
騎士王、アルトリア・ペンドラゴン
宝具は
アーチャー
英雄王、ギルガメッシュ
宝具は
ランサー
輝く貌、ディルムッド・オディナ
宝具は
ライダー
征服王、イスカンダル
宝具は
バーサーカー
湖の騎士、ランスロット
宝具は
アサシン?あいつらは征服王が何とかしてくれるでしょ。
それとなんでランスロットの宝具が
まあ、こんな知名度も戦力も化け物揃いの連中がいるのだ。対して俺はサーヴァント中最弱と言われるキャスターで、唯一の戦闘方法が海魔による物量作戦のみ。ハッキリ言って俺一人じゃ勝ち目なんて無い。
更に肝心のストーリーの方は絶望的だ。何故ならFate/Zeroの前半は殆どキャスター絡みの残虐な事件が主な内容だからだ。当然俺はそんな残虐な事件は起こす気無いため当然原作崩壊が起きる。というか原作通りに行くと俺、聖剣ぶっぱされて死んじゃうし。
というか葵さんくらいしか死亡フラグじゃない人っていなくない?世界はこんな筈じゃないことばっかりだね。クソが。
一番の得策は表舞台に出ずに、ひたすら隠れていることだろう。この目でセイバーとかライダーとか見てみたいけど、死にたくは無いから出ない。幸い、今回の英霊達は普通のサーヴァントよりも霊格みたいなものが高かった筈。だから聖杯が満たされやすくなっている。その証拠にアーチャーが残っていたのに根源への穴が開いていた。
霊格低いだろうし、俺が抜けても多分穴は開くだろう。
……ちょっと待て、今まで慌てていたから考える暇もなかったけど、受肉とか無理じゃね?"あのギルガメッシュですら性格に影響が出た"んだ。かのアーサー王は自我を保てずに黒化したのにただの大学生である俺なんか一瞬で飲まれてしまうに決まっている。
生き残ることについて悩んでいたのに、例え俺だけが勝ち残っても俺は決して生き残れないことが分かってしまった。
クソゲーもいいところだぜこの野郎。BAD ENDが確定してる物語なんて誰が見るんだよ。そんなもんは外道神父にでも喰わせてろって話だ。
「どうかしましたか?凄く苦しそうな顔をしてましたけれど……」
ふと、葵さんが俺の貌を覗き込んで来た。かわいい。
というかそんなにひどい顔していたのか。ただでさえ桜を養子に出したり、旦那さんが聖杯戦争してるからストレス溜まってるのにこれ以上心配かけちゃいけないよな。俺は大丈夫ですと伝えて再び歩き始める。
そして俺は思い至った。
いや、思い至ってしまった
どうせ死ぬんなら好き放題やっていいんじゃね?と。
多分次から主人公は好き勝手やると思いますw