「はあ、はあ、はあ。」
私は倒れて動かなくなった子供を見つめる。
危なかった。あともう1発、同じ攻撃を受ければ、妖力切れで再生できない。つまり、死。
「でも、これで!」
いまだに震える手を握る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「運命を操る程度の能力」
これは、私が生まれ持った固有の能力。だが、未だに私ですら、全容を把握していない。そんな能力が私に告げた。
『今夜やって来る来訪者が、今後10年のフランドール・スカーレットの精神の安定に貢献する。』と。
私は歓喜した。495年だ。実に長い時間をかけたが、私の最愛の妹の狂気を祓う事ができなかった。
私は皆を集めた。そして、今夜来る者の邪魔はするなと告げた。
「そんなに大物な客人が来るのですか?」
美鈴が効いて来る。
「いえ、『運命』が見えたのよ。」
「なるほど。わかりました。」
美鈴は引き下がる。この紅魔館にいる者は皆、私を中心に動く。
「もちろん、咲夜もパチェもよ。」
「かしこまりました。」
「わかったわ。」
「来訪者は私自ら、相手する。何があっても手を出さないように。」
それだけを伝えると、皆部屋を出て行く。
つい2ヶ月前に咲夜を引き取った。まさか、こうも連続で『出会うべき運命』が訪れるとは思わなかった。フランのためなら、何だってする!自分の命だって捨ててもいい。私は覚悟を決めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深夜2時。私は親友のパチェの図書館に来ていた。
「レミィ。まだなの?」
「今夜来るとしか、わからないわ。完全に把握している能力じゃないもの。」
「はあ、何とも曖昧ね。」
魔法使いとしては、しっかり定義付けができないのは不快なのだろう。大きなため息をつく。
今はパチェの遠見の魔法で門の外を見ている。水晶に写し出されるのは、いつもの鬱蒼と生い茂る森。この天然の迷路とパチェの魔法の霧で、紅魔館は護られている。辿りつくには、かなりの運か、探知の魔法がなければ来れない。
しばらく、咲夜が煎れた紅茶を飲みながらぼんやり見ていたら、小さな子供が現れた。一瞬、こいつが来訪者かと思ったが、美鈴とのやり取りを見ているに、ただの迷子のようだ。
「ただの子供ね。」
「そうね。紛らわしいわ。」
だが、次の瞬間。映像から子供が消える。
「!?」
『あれ?消えた?』
水晶の先で美鈴が戸惑いの声をあげる。
「パチェ。中庭を見て。」
中庭を見る。すると、
「いたわ。この子、凄いわね。美鈴を呆気なく欺いたわね。」
親友の声が聞こえるが、気にしている場合ではない。
「パチェ。監視を続けて。咲夜、手出しは禁止よ。」
私は駆ける。そして、外にでる。
見つけた。
思わず笑みが浮かぶ。
見た目は、黒い短髪。黒いタンクトップに黒い長ズボンの5歳程度の子供。最近、引き取った咲夜よりも幼い感じだ。私は、子供の背後に回り声をかけた。
「あらあら、こんなとこに泥臭い鼠が入り込んでるじゃない。」
振り向いた男の子の顏はまさに年相応。こちらをぽかーんと純粋な目で見ている。だが、吸血鬼だとわかった瞬間に男の子の様子が変わる。
純粋な子供の顏から、肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべた。まるで、獲物を見つけたかのように。
私を獲物扱いなど、プライドが許さない。
私は、笑みを引っ込めさせようと爪を突き立てた。
だが避けられ、さらにニヤニヤする子供。
でも、所詮は人間。吸血鬼には勝てない。そう口に出した瞬間。
「うっ!」
何が起きたのか理解できなかった。突然、感じたのは恐怖。全身に纏わりつくような威圧感の奔流が、ほんの一瞬だけ、崩壊した河川の鉄砲水の如く流れ込んできたのだ。昔、唯一私が畏れたお父様のような圧倒的な魔性だ。まるで全ての生物を平等に見下ろしている捕食者のような、絶対的で恐ろしく、しかしそれでいて目を向けずにはいられない、畏怖の覇気。人間は確かそれを、畏れだとか、威厳だと称していたか。
何者だ、こいつは。
この暴圧的な威圧感。まるで、私を今にも叩き潰そうと威嚇しているかのようだ。ここまで禍々しい空気を前にして、呼吸を忘れかける。こんな重苦しい威圧を笑みを浮かべながら嗾けてくるこいつが心底恐ろしく感じた。
手並みを拝見する。手出し不要。そんなことを言っていた、数時間前の私を殴り飛ばしたくなった。
だが、誇り高き吸血鬼。人間相手に畏れを抱く事はプライドが許さない。
すぐに顏に嘲笑を浮かべる。私の方が強い!誰にも恐れなど抱かない。そんな気概で立ち向かう。
全てはフランのために!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
腕試しという名の殺し合いは、最終的に私が立っていた。運が良かった。油断していた相手の不意を突き、倒せた。
意識を失った事で、威圧感から解放される。体が震える。だが、気合いで押さえ込む。
それにしても、不思議な子供だった。不自然な体の硬さと打撃の重さ。まるで、人間では無く妖怪と闘っているようなフィジカルの強さ。背中に目が付いているかのような、体捌き。
砂を操ったり、私の体を引き寄せたり、グングニルを逸らした能力。
グングニルを逸らされたのは、初めてだった。今までこれを凌いだものは、家族以外では誰もいなかった。しかも無傷。
次戦う事になったら、果たして私は生き残れるだろうか。そんな不安が押し寄せる。
でもこれほどの戦闘能力なら、フランの相手もできるし、これから攻め入る幻想郷への即戦力になる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目覚めると、知らない洋室の天井だった。
ここは?確か、吸血鬼に意識飛ばされたんだっけ。普通ならあそこで殺されるか、血を吸われて眷属にされるか。後者か?でも、体に異常は無い。それにこのやけに豪華なベッドは一体?
嫌な予感がする。ここはもしかしたら、あの館か?
今この部屋には、誰もいない。抜け出せるか?
「円」を貼る。扉に近づく人影4人。すかさず「絶」で気配を断ち、天井に張り付く。
扉が開かれる。
「あれ?いないわよ。パチェ、どうなってるの?」
「おかしいわね。起きたはずなのだけど。」
「逃げ出したかもしれないわね。パチェ、追跡魔法お願い。」
パジャマのような服を着た、紫髪の女が水晶を手に取る。
「あ。」
不味い。嫌な予感がする。
「見つかったパチェ。」
「ええ、真上。」
全員が天井を見る。
ですよねー。
目が合う。
「.....................」
何とも言えない空気が漂う。
「こほん。目覚めたようね。ようこそ紅魔館へ。」
無駄に踏ん反り返って言う。
「........................」
「な、何か言いなさいよ。」
焦るように吸血鬼は言う。
戦った時のような威圧感は無い。今は10歳ぐらいの子供が背伸びしているような感じだ。
「本当にあの時の吸血鬼か?」
「ええ。自己紹介がまだだったわね。私は、スカーレットデビルの異名を持つ誇り高き吸血鬼、レミリア・スカーレットよ。」
腰に手を当てて、えっへんと言いたげに踏ん反り返る。
「こっちは私の親友のパチェ。」
「パチュリー・ノーレッジよ。」
「こっちがメイドの十六夜咲夜。門番の紅美鈴。」
「で?自己紹介して一体何なの?暇つぶしで吸血鬼を殺しに来た俺をわざわざ、助けてどうするつもりなんだ?」
「本当に礼儀がなって無いわね。」
レミリアがキレかかる。
「ああ!?もう一回やるか!?」
俺はオーラを出して威嚇する。が、次の瞬間。
「!?」
俺の首にナイフが突き立てられていた。
どうやって、移動した?気を抜いた瞬間なんて無い。敵地で気を抜くなんて、自殺行為だ。でも、知覚した頃には首にナイフが有った。
後ろに視線を送ると、銀髪のメイド........確か十六夜咲夜だっけ?が体を震わせながら、睨みつけていた。
念能力者では無いな。可能性が高いのは、「程度の能力」か。それにあのパチュリーとか言う魔術師も強そうだ。スルーした門番もかなりの使い手。
内心笑みを浮かべる。
「レミィ。喧嘩しに来たわけじゃ無いでしょ。あなたも抑えなさい。」
「っち。まあいいわ。」
「............わかったよ。」
俺がオーラを引っ込めると、ナイフがしまわれる。よく見ると、顏中に汗が浮かんでいた。
まあ、念能力者じゃ無い奴が、こんな至近距離で念を受けて平気な訳無いよな。
「こっちは名乗ったわ。あなたは何て名前なの?」
「..................シャーキャだ。」
「シャーキャね。よろしく、シャーキャ。」
レミリアが手を差し出す。
何だ?どう言うつもりだ?
「..............なぜ、こんなに馴れ馴れしいんだ?」
「そう言えば、言って無かったわね。あなたこれからここで働くの。」
「..........は?」
何言ってやがる、このクソガキお嬢は。
「何でそうなる。」
「それは、私が決めたからよ。」
さも当然のように言いやがって。
「あなたも諦めなさい。こうなったら、嫌でも言うこと聞かないわよ。」
「何なら無理やりでも、断ってやろうか?」
「4対1で勝てるつもりなの?あなた、レミィの相手で精一杯じゃ無い。」
「.....................」
「そう言えばシャーキャ、苗字は無いの?」
「無い。シャーキャは育ての親に付けられた。そいつが、実際の親では無いから付けないとか、変なこだわりで付けられなかった。」
「なら、十六夜シャーキャで決まりね。今度こそよろしく。これからあなたは私達の家族よ。」
「だから、何で?」
「私が気に入ったからよ。」
「...................」
.......................
「俺は縛られるのは、嫌だ。新たなモノを見たくて、育ての親から離れて旅をしてるんだ。」
「なら、ちょうどいいわ。これから、貴方が見たがっている新たなモノを提供できるわ。」
「................それは、本当か?」
「もちろん。」
「............わかったよ。よろしく、いや、よろしくお願いします、お嬢様。」