鋼の心   作:モン太

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それぞれの紅茶の味

「ふん!」

 

32cm。

 

「練」でオーラを循環させ練る。増幅したオーラを掌から一気に放出する。

 

「ふん!」

 

32cm。

 

もう一度

 

ガチャ。

 

部屋の扉が開く。銀髪のメイドが入って来る。

 

「シャーキャ。起きてる?..........何してるの?」

 

「ん?逆立ち。」

 

「.......まあいいわ。貴方の服を用意したから着替えておきなさい。着替えたら、キッチンに来て。」

 

「りょーかい。」

 

ガチャ。

 

咲夜が出て行く。

 

渡された服は、スーツ。執事服ってやつか。

 

カッターシャツ、黒のズボン、黒ネクタイ、グレーのベスト、黒ロングスーツ、黒ソックス、革靴。

 

きっつ。こんな締め付けてくるような服は着たことが無いからな〜。逆に動き易いか。

 

「練」を行う。そのまま「纏」へと繋げ、「堅」。そして、「流」から右手への「凝」。

 

服装が変わっても、コンディションは問題ないな。

 

じゃあ、キッチンに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「来たわね。私が貴方の教育係になった、十六夜咲夜よ。改めてよろしくね。」

 

「............シャーキャだ。」

 

「じゃあ、早速。この仕事で1番大切な事はお嬢様に紅茶をお出しする事よ。」

 

「ふーん。」

 

「今から入れるから、しっかり見てなさい。」

 

お皿にカップを置いて、ポットから琥珀色の液体が湯気を立てて入れられる。あまりこういうのは知らないが、動作の1つ1つが洗練されているのがわかる。

 

「わかったかしら?」

 

「ああ。」

 

どうやら俺はこいつを、見誤ってたかもしれない。

 

「味も覚えてもらうわ。いつでもお嬢様の好みで淹れれるようにね。」

 

咲夜は俺にカップを差し出す。俺はそれを手に取り、口をつける。

 

美味い。

 

俺の心に浮かんだシンプルな感想だ。香りもよく引き立っている。紅茶は普段飲まないから、わからないが、素人の俺でもこれは別格だとわかった。

 

極め付けは、咲夜の入れた紅茶やカップ、ポットからオーラが僅かに出ている事だ。

 

それだけ、この仕事に誇りと情熱を持っている証でもある。

 

「美味いな。」

 

「そう、ありがとう。」

 

素っ気無いやり取りだが、咲夜から喜びの感情が出ているは明らか。俺も向き合ってみるか。

 

「じゃあ、俺も淹れてみるよ。」

 

俺も咲夜の真似をして淹れる。味の甘さ加減も覚えた。俺は「練」を少し行う。

 

「どう?」

 

「まだまだぎこちないけど、初めにしては及第点ね。」

 

「っそ。」

 

「味は.............あら、こちらは完璧ね。」

 

「まあ、手品使ったしな。」

 

「手品?」

 

「ああ、手品だ。タネは明かさないけど。」

 

「ふふ。わかったわ。じゃあ、次は掃除ね...............」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

咲夜から一通り仕事を教えられ、館のロビーに来るように言われた。

 

ロビーに降りて来ると、無数の人影があった。...............いや、人じゃ無かった。みんな背中から羽を生やした子供達だった。

 

明らかに人間じゃ無い。オーラも出ていないしな。むしろ、ここに来てオーラを確認できたのは咲夜だけだ。

 

俺が降りると無数の視線が突き刺さる。そのほとんどが好奇心と僅かな恐怖。恐怖はまだわかる。自分達の主人と壮絶な殺し合いをしていた張本人がいるのだから。しかし、そんなやつに好奇心を向けるってのは、どういう事だ?こいつらも俺と戦いたいとか?正直そんなに強そうに見えないんだよな。

 

「揃ったわね。みんな注目。」

 

全員の視線が咲夜に向く。

 

「みんなに集まってもらったのは、今日から一緒に働く仲間が増えました。」

 

なるほど、俺の紹介か。

 

「じゃあ、適当に挨拶して。」

 

「シャーキャです。よろしくお願いします。」

 

適当に挨拶する。

 

「............本当に適当ね。」

 

悪かったね。

 

「じゃあ、各自持ち場に着いて。解散。」

 

本当にこれだけのために集めたのかよ。律儀だな。

 

「彼女達妖精は、好奇心旺盛だから気を付けることね。」

 

「どういうことだ?」

 

「まあ、付き合えばわかるわ。」

 

すると、妖精達が俺の元に集まって来る。

 

「ねえねえ、どこから来たの?」

 

「えーと、ネp「何歳?何歳?」あ?だかr「好きな食べ物は?」ちょっ「好きな物は?」

 

好奇心旺盛ってこういう事か!?

 

俺が妖精達の質問責めにあたふたしていると、花瓶が飛んで来た。

 

「っと。あぶねぇ。」

 

飛んで来た方向を見ると、クスクス笑っている妖精3匹。目が合った瞬間にゲラゲラ笑いながら走り去る。

 

クックック。ここまでコケにされた事は今まで無かったぜ。

 

また、花瓶が飛んで来る。

 

「クックック。テメェら、ただじゃすまさねぇぞ!オラァ!」

 

一気に加速。妖精達を追いかける。その間にもピアノ線のトラップなどが仕掛けられていた。

 

これ、普通の人間じゃ洒落にならないトラップじゃねーか!

 

「逃げんな!待ちやがれ!」

 

「バーカ!バーカ!」

 

ぜってー許さねぇ!

 

さらに加速した瞬間、

 

「落ち着きなさい。」

 

「グエェ!」

 

いきなり、襟を掴まれた。勢い付いていたところでいきなり、止められた俺はカエルの鳴き声のような声を上がる。

 

「何すんだよ!」

 

「それは、こっちの台詞よ。遊んでないで、仕事しなさい。」

 

「俺はあいつらぶっ飛ばさないと気が済まないんだよ!」

 

「いいから、仕事しなさい。年上の言うことも聞けないの?本当に子供ね。」

 

「たったの2歳年上なんて、この館では意味無いよね〜。数百年生きてる奴らばっかりだし。」

 

「2歳でも、私の方がお姉さんなの!それにメイド長なのよ!いいから言うことを聞きなさいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ、あの2人のやり取りを見てると頭が痛くなるわね。」

 

「そうですか?私は微笑ましいと思いますけどね。」

 

「それは、あなたが直接会っていないからよ。」

 

私は思わずため息が出る。水晶から映し出される光景。少し背の高い女の子がお姉さん風を吹かせ、それに反発する男の子と言う絵が映し出されていた。

 

「確かにお嬢様と殴り合えるなんて恐ろしいですけど、ああやって喧嘩している様は、年相応の子供が喧嘩しているみたいで可愛いじゃ無いですか。」

 

「まあ、確かにそうだけど。」

 

「咲夜さんも良かったです!人間は咲夜さんだけでしたから、同じ人間で歳が近いから友達になれればいいですね。」

 

「はあ、こあ。そんなこと言えるのは今の内よ。彼の威圧感を体感したら、そんな生易しいこと言えなくなるわよ。あの威圧感は大妖怪でもなかなか出せない。それを5歳の人間が出せるなんて、異常よ。おそらく、何らかの能力が働いているでしょうね。なんの能力かわからないけどね。彼からは、霊力も魔力も感じなかった。でも、レミィと殴り合ったり、砂鉄を操ったりなんてできてるのは、絶対能力に関係があるわ。」

 

とはいえ、彼がここに馴染むには、咲夜がカギでしょうね。彼女も、ここに来てまだ2ヶ月。同じ人間がいなくて、疎外感も感じていたでしょうし、結局お互いが上手くやれるかが、カギでしょうね。

 

「レミィも馬鹿よね。いくら運命で死なないってわかっていても、あんな化け物相手に手出しするなとか、魔法使いの私には信じられないわ。」

 

「パチュリー様は優しいですね。」

 

「はあ、今の話聞いてたのかしら。私はレミィを馬鹿だって言ったのよ。」

 

「ふふふ。そう言うことにしておきます。」

 

全く、こいつも頭を悩ませてくれるわね。

 

「でも、その前に試練をクリアしないといけませんね。」

 

レミィの試練ね..................

 

「レミィの試練をクリアしたのは、咲夜ただ1人よ。成功の確率は限りなく低いわ。でも、レミィと互角に渡り合える実力。何よりレミィが見た運命に出てきたってのもあるから、期待は持てるかもしれないわね。」

 

「こあ。彼がレミィに試練を言い渡されたら、私の所に来るように伝えておいて。」

 

「かしこまりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数少ない窓からの景色。そこから朝日を眺める。1日の終わりだ。この館の主人が吸血鬼だから、昼夜逆転の生活になった。

 

正直きついかと思ったが、それ程でも無かった。俺がいつも戦闘するのは、イラクでの念能力者以外全て、夜だったからね。旅に出てからは、夜の行動が結構多かった。

 

まあ、別に何でもいいや。

 

俺は自室でいつもの「浮き手」をしていた。

 

ガチャ。

 

そんな気はしてた。なんで「浮き手」してると、人が来るんかね〜。

 

入ってきたのは案の定、銀髪のメイド長の十六夜咲夜だった。咲夜は目を見開いてフリーズしている。

 

俺は「浮き手」の状態から着地する。

 

「なんでいつも逆立ちしてるのよ。」

 

「いいだろ、俺の勝手だし。で、何しに来たんだよ?」

 

「用が無いと来たらいけないのかしら?」

 

こいつ、いちいち上から目線で物を言いやがって!

 

咲夜はポットとティーセットを出した。そして、俺が呆然と見ている間に、2人分の紅茶が用意されていた。

 

まさか.............

 

「ほら、座りなさい。私からの餞別よ。今日はご苦労さん。」

 

「......................」

 

とりあえず、座るか。

 

俺は警戒しながら座り、紅茶を飲む。

 

むふ。毒の類は入れていないようだな。

 

俺の様子を見た咲夜は、

 

「はあ、私って本当に信用されていないのね。」

 

「当たり前だろ。まだ、1日しか顔を合わせていないんだぞ。まあ、俺は毒効かないんだけどね。」

 

「へえ、面白い体質ね。いや、能力かしら?」

 

「体質の方だね。俺は毒の環境で産まれているから。」

 

「毒の環境?」

 

「そう、毒の環境。ハラブジャは知ってるか?」

 

「ハラブジャ?知らないわね。」

 

「まあ、そんなに有名じゃ無いからね。最近外に情報が出始めたばかりだし。...............なら、イラクならわかるだろ?」

 

「ええ、いつもテロが起きてる国ね。最近も首都で爆破テロがあったらしいわね。」

 

っげ!それって、絶対俺が戦闘した時のやつじゃん。

 

俺は内心、自分がした所業に焦るが、顔に出さずに続ける。

 

「そう、その国。その国の小さな村ね。んで、5年前はイラク・イラン戦争の真っ只中。当時のイラク軍は毒ガスの実験を行う為に、ハラブジャに毒ガスを撒いたんだ。口実は、ハラブジャの住人がイランに情報を渡した容疑があるってね。で、その報復としてハラブジャは、毒ガスに汚染された訳。」

 

「なるほどね。本当にどいつもこいつもロクでもないわね。」

 

「まあ、その辺の感想はお好きにどうぞ。で、実験で撒いた毒ガスだ。もちろんデータを持ち帰る必要がある。2日後に調査しに村に浸入する者達がいた。誰だと思う?」

 

「そんなのイラク軍に決まってるでしょ。」

 

「ああ、イラク軍はいたがそれだけではない。敵国のイランに情報が漏れていたらしく、イランの工作員も来ていた。しかも、それだけではない。イラクに毒ガスを提供したのは、旧東ドイツ。旧東ドイツに雇われた工作員も浸入していた。」

 

「かなり大事になってるわね。歴史の表に出てこないだけで、世の中には色々な事が起きているのね。」

 

「そんなもんだろ。そもそも、今じゃ妖怪なんかその典型例だろ。................話を戻すぞ。その旧東ドイツの工作員が調査中に生後数日の乳児を発見したそうだ。側には、母親であろう女性の遺体。乳児はどういう訳か、奇跡的に生存していた。」

 

「..................まさか、」

 

「そう、そのまさか。その乳児が俺だよ。話が大分遠回りしちまったけど、これで俺が毒に強い理由がわかっただろ?」

 

「え、ええ。」

 

話の途中から、昨夜の様子がおかしい。体を震わせている。

 

次の瞬間、

 

パアンッ!

 

俺は何が起きたのか、一瞬わからなかった。ただ、左頬が痛かった。それだけだ。

 

じんじんと左頬が痛みを訴えかける。3秒かけてようやく状況を理解した。

 

「なにs!?」

 

何しやがる!っと言おうとした俺の行動は、咲夜に胸倉を掴まれた事により止められた。

 

咲夜は涙を流していた。俺は、コバルトブルーの宝石の様な瞳から流れる雫に見惚れていた。しかし、その顔に浮かぶ色は、正しく怒り一色だった。

 

「なんでそんなにヘラヘラしているの!せっかく、拾った命なんでしょ!死んでいった人達の分まで大事にしなさいよ!」

 

呆然と怒鳴られていたが、思わずかっとなる。

 

「知るかよ!そんなの!俺の生は俺の物だ!誰かに縛られるなんて、ごめんだ!俺は、俺のやりたいようにやる!それは、誰でも主張する権利があるだろ!」

 

今度は咲夜が、驚きの表情になる。

 

胸倉から手を放される。

 

「ごめんなさい。熱くなってしまったわ。」

 

「...............こちらこそ、ごめん。心配してくれたんだろ。」

 

「そ、そんなつもりは無いわ。」

 

咲夜は涙を拭って、席に着く。

 

俺も席に着く。

 

「.....................」

 

「.....................」

 

俺は紅茶を飲む。

 

「美味いな。」

 

「......................」

 

俺は今まで、自分の事だけを考えて生きてきた。それに疑問を持った事すらなかった。こいつはただ心配してくれただけだ。..................もしかすると、じーさんやノヴ、モラウにも同じ様な想いを抱いているのかもしれねーな。いや、多分そうだろうな。俺の自惚れじゃなきゃそうだろう。

 

俺は咲夜を見る。酷く、疲れた様な顔をしている。

 

なんでこんな優しい奴が、妖怪の従者なんて仕事を、それも7歳の子供がやる様な事になってるんだろう?俺も人の事言えねーけど。

 

「咲夜。」

 

「..............何よ。」

 

「ありがとう。」

 

「!?」

 

咲夜は、酷く驚いた顔で固まる。

 

「咲夜。...................おい、咲夜。」

 

「っあ。ごめんなさい。少しぼうっとしちゃったわ。」

 

「いや、いい。もうそろそろ片付けて寝よう。」

 

「そうね。そうしましょう。」

 

俺と咲夜は、ティーセットを片付ける。そのままキッチンにしまい。咲夜の部屋の前に来る。

 

「咲夜、大丈夫か?顔が赤いぞ。熱出てるんじゃね?」

 

「っえ?そう?大丈夫よ。少し疲れただけよ。」

 

「そうか、まあいいや。メイド長が風邪なんてとんだ笑い話になりそうだな。」

 

「う、うるさいわね!あなたもさっさと寝なさいよ!」

 

「はいはい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

シャーキャは気付かない。自身の過去を簡単に話してしまっている、己の変化に。

 

咲夜はまだ知らない。自身が抱いた感情の正体を。

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