今日も今日とて、門の前に立つ仕事。長年やっている仕事ですが、正直退屈ですね。
「はああぁ。」
思わず欠伸が出てしまう。
そうだ!花に水をあげましょう!
私は庭に入る。庭はまだ、お嬢様が暴れた時のままで荒れている。
「はあ、修復が大変ですね〜。まあ、花達に被害がなくてよかったです。」
私は荒れた庭を見ないことにして、花に水をやる。暇で仕方が無かったので、植えてしまったのが始まり。今では私の数少ない趣味の1つになっています。
「へえ〜、こうやって見るとここも結構広いんだな。」
「お嬢様の庭なんだから、当然よ。」
「何が当然なんだよ。まあ、あの時は戦いで夢中で気が付かなかったな。って、げえ!何だこれ!?ボロボロじゃねーか!」
「それは、あなたがやたんでしょ!後でちゃんと綺麗にしておきなさいよ!」
「ええ〜。これ面倒臭そうじゃん。てか、お嬢様もやった様なもんだろ。」
「お嬢様に働かさせるつもり?最低な執事ね。」
私の耳に子供たちの声が聞こえる。見ると、昨日から働き出した執事とメイド長だ。
私がこの紅魔館に侵入を許した2人だ。
庭をウロウロする姿は、まだまだ落ち着きの無い年相応の少年。その後ろで諌める咲夜さんは正にお姉さんって感じで、まるで姉弟の様で微笑ましいですね。
「お!門番じゃん。確か紅美鈴だっけ?」
「ええ、あってますよ。よろしくお願いしますね。シャーキャさん。」
私は手を出す。彼もそれに合わせて握手をしてくれました。
「ちょっと、美鈴。遊んでいないで門番してなさいよ。」
咲夜さんが注意します。ですが、私はそれに意識を向ける事が出来なかった。手を握った瞬間から、彼が私に向かって威圧感を放って来たから。
彼の顔には勇猛な笑顔が張り付いていた。
「やっぱり、あんたも強そうだ。」
この2人は、年齢からは考えられないくらい賢く、大人びている。そして、放つ威圧感も5歳や7歳の子供が放てる様なものじゃ無い。何より戦闘技術も異常に高い。
そう、異常だ。この2人は異常なのだ。武術家として不覚を取ったのは、とても悔しい事。彼の挑発に乗り、戦いたいと武術家の私が告げる。
私が取った行動は、
「え?」
彼を抱き締める事でした。
彼らの放つ威圧感は異常で申し分も無い。でもそれは、そうしないと生きていけない環境で暮らしてきた事の証。それは、とても悲しい事。日常が地獄だったはず。今こうして、生きている事が奇跡。
「ちょっと!シャーキャも何しているのよ!遊んでるんじゃ無いわよ!」
咲夜さんが怒りながら、シャーキャさんの服を引っ張る。
おやおや。先程は姉弟だと思いましたが、訂正しないといけませんね。嫉妬している咲夜さんは可愛いですね。
私は咲夜さんも自分の腕に抱く。
「ちょ!美鈴!離しなさいよ!」
咲夜さんが顔を赤くする。顔を赤くする2人を見て少し安心する。
良かった。ちゃんと心は生きている。
私は2人を解放する。
「すいません。2人が可愛くてつい。」
「早く、門に戻りなさい!」
咲夜さんはナイフを出して、吠える。
ありゃ。少しからかいすぎましたかね。
飛んで来るナイフを躱しながら、門へ走る。
全く、2人共照れ屋さんですね。
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廊下を歩く。
「全く、あの中国は!貴方もよ、シャーキャ!顔を赤くしてんじゃ無いわよ!」
お前が言うなと言いたいが、今はそれどころでは無い。
反応出来なかった。常に気を張っていたはずなのに、抱きつかれるまで反応出来なかった。まるで、最初にあった時のやり返しをやられた様な気分だ。でも、わかった。やっぱり、あいつも只者じゃ無い。今回は咲夜を使ってあしらわれたが、次は一対一で挑もう。絶対、あいつも面白いはずだ。
それと、
「おい、咲夜。」
「.................何よ。」
こいつは一体何をそんなに怒っているんだ?もういいだろ。
「ナイフ何本持っている?」
「.............600本。」
「600本!?」
一体どこにそんな数のナイフ隠してんだよ。
「別にいつも600本携帯しているわけでは無いわ。」
「まあいいや。100本ぐらい頂戴。」
「...........どうしたの?別にいいけど。」
「咲夜のナイフ投げが凄かったから、俺も投げナイフやりたいなと思ってね。ついでに投げナイフの指導してくれるなら嬉しいんだけど。」
「...................」
咲夜の部屋の前に来る。咲夜がドアを開ける。
やっぱり、怒ってる時に言っても無理か。
俺はそのまま歩く。だが、ドアが閉まる瞬間、
「お嬢様が貴方を呼んでいたわ。その後、私の部屋に来なさい。」
バタン。
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コン、コン、コン。
扉をノックする。
『入りなさい。』
中に入る。中には、吸血鬼の少女が肘をついて座っていた。
「どう?ここでの暮らしは?」
「それなりに楽しんでますよ。」
「そう、それは良かったわ。」
レミリアは紅茶を飲む。
「で、いつですか?」
「いつ?」
レミリアは眉をひそめる。
「ええ、貴方は言ったじゃないですか。俺の見たいものを見せてくれると。」
「ああ、そうね。言ってなかったわね。後、2ヶ月後にとある場所へ私達は侵攻するの。」
「とある場所?」
「ええ、名は幻想郷。そこは私達、人外が集う最後の楽園。」
「そこに俺が見たいものがあると?」
「ええ、必ず満足するはずよ。」
「そうですか。2ヶ月ですか。長いですね。まあ、都合がいいか。」
「都合がいい?」
「え?ああ、こちらの話ですよ。それで、そこに攻め入る戦力として、俺が選ばれたと言う訳ですか。」
「それもあるわね。でも、それだけじゃない。貴方をここに連れてきた訳は、貴方に試練を受けてもらうためよ。」
「試練?」
「ええ、ここの従者になる為には必ず受けてもらう試練がある。」
「俺は既にここの執事だと、お嬢様が言ったのでは?」
「そうね。私は認めたわ。でも、ここの主人はなにも私だけでは無いわ。」
どういう事だ?主人はどう見ても目の前の吸血鬼。もしかして、あの紫髪の魔術師か?
「貴方には明日、妹の相手をしてもらう。」
「お嬢様に妹がいるんですか?」
「ええ、名前はフランドール・スカーレット。彼女の遊び相手になる事が試練よ。」
「ただ遊ぶだけで、試練なのですか?」
「普通はそう思うよね。でも、彼女は狂気に取り憑かれている。つまり、遊びと言っても命懸けよ。フランは相手の命を気遣って遊ぶ事は出来ない。」
「なるほど、だから試練と。」
なるほどね。吸血鬼が命を気遣わずに、力を振り撒かれたら、大抵の奴は死んでしまう。何よりやばいのは、レミリアが命懸けだと言った事。レミリアをもってして命懸けと言わしめるほどの狂気。
でも、これは最高の暇潰しかもしれない。レミリア級ともう一度戦える。
内心、笑みを浮かべるが、面に出さない。
「もし、遊びで殺してしまってもいいですか?」
瞬間、
ゾッ
部屋の温度が急激に落ちた様な感覚に陥った。肘をついていた机にヒビが入る。妖力の本流で、周りの家具が揺れる。
「そんな事してみろ。今度こそ、息の根を止めるぞ。小僧。」
俺はレミリアの圧倒的な威圧感に晒される。
この威圧感。ああ、やっぱりあんたは最高だ。これなら妹を殺して、その後にレミリアと殺し合えば、2度美味しいのでは?..................ああ、いけない。幻想郷を見るんだった。それまでは我慢しなきゃ。
と以前の俺なら考えていたのだろうな。
ここに来て2日だが、よくわかった。ここにいる連中は、何を大切にするかが違うだけで、みな優しい。あまり話していない紫髪の女もきっとそうだろう。
こりゃぁ、ある意味失望だな。咲夜の話を聞いてよくわかった。俺がどれだけ恵まれていたか。本当にこいつら悪魔なのか?
「はあ、お嬢様の気持ちはよくわかりました。こちらは妹様のご機嫌を取り、文字通り妹様の遊び相手になる。それでよろしいですか?」
「ええ、わかればいいのよ。」
お嬢様の妖力が収まる。
決定的だな。レミリア・スカーレットの弱点。
「失礼します。」
ガチャ。
部屋から出る。
2日前のお嬢様が放つプレッシャーは、大妖怪としての余裕に満ちたものだった。
だが先程のあれは、余裕などどこにも感じる事は出来なかった。普通に妹を心配する姉の姿だった。
俺は咲夜の部屋を目指す。
今回の試練は、妹の遊び相手。お嬢様の妹は狂気を抱えている。こちらの命は一切気にしないが、こちらは妹の命に気を配りながら、身を守らなければならない。仮に妹という事でお嬢様より弱いと仮定しても、お嬢様を倒すよりも難易度が更に高くなる。
いいだろう。やってやるぜ。ある意味退屈しないで、2ヶ月過ごせそうだ。
俺だけが命懸けというのも悪く無いかもしれない。
旅に出てからというもの、幾度もの死線を潜った俺は、命懸けの状況を楽しむ癖がついてしまった様だ。
咲夜の部屋の前に着く。
「あの〜すいません。」
扉をノックしようとしたら、横から声がかかる。
赤い髪に背中と頭に小さなコウモリのような羽を生やした女が俺の横に現れた。
「何の用?俺は今、機嫌が............」
「どうしました?」
「..........いや、なんでもない。」
「申し遅れました。私、パチュリー様の元で司書をやっております、小悪魔という者です。」
パチュリーって、あの女か。
「シャーキャだ。よろしく。」
「はい。よろしくお願いします。で、要件はパチュリー様が貴方を呼んでいますので、ご案内しに来ました。咲夜さんも大図書館にいます。」
俺は部屋の中の気配を探る。
確かに中には人がいない様だな。
「じゃ、いいよ。案内して。」
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「はいここです。」
結構地下に降りるんだな。途中で別れ道があったけどその奥に行けば、お嬢様の妹がいる部屋なんだろうな。
部屋に入る。
おお!まじで大図書館って感じだな。デケェ。一体、何冊の本がここにあるんだ?
俺が大図書館の迫力に圧倒されていると、
「どうですか、ここは?ここの図書館には、世界のありとあらゆる本がありますよ。もちろん魔道書などもあります。少し、見て行きますか?」
「そうだな。少し見てみようかな。」
「わかりました。パチュリー様と咲夜さんにも伝えておきます。何かあれば、お呼び下さい。」
「わかった。」
俺は本を物色していく。
まじでなんでも有るな。絵本、歴史書、小説、伝記、聖書、旅のガイドブック、量子論の論文、犬猫の本、オーケストラの楽譜、漫画、雑誌、新聞。
こんな物をどうやって集めたのか?しかも、バラバラ。本なら本当に何でも有りって感じだな。
ん?これは?
物色していると、一際目を惹く本があった。何か特別な表紙でもない。ただ、不思議と目で追ってしまう。そんな感じの本だった。
俺は好奇心の赴くままに手に取る。
本当に何の特徴もない表紙。
中を開く。
「え?」
中は真っ白。何も書いていない。
何でこんな分厚くて何も書いて無いんだ?
と、次の瞬間、
「あっつ!」
本が熱を持つ。思わず本を手離してしまう。地面に落ちた本から光が溢れ、本を中心に幾何学的な模様が浮かぶ。
何だこれ?明らかに魔術か何かの本だろ。
眩い光が一際輝き、俺は目を閉じる。
「っ!」
光が落ち着く。俺は目を開ける。
「なっ!」
視線の先には、巨大な翼を生やした狼がこちらを睨みつけていた。
何だこいつ?もしかして、この本から出て来たのか?
「グラアアァ!」
狼が飛びかかる。
頭の整理ができていない俺は、とりあえずオーラを手に集中して狼を殴った。
「ギャアアアアァ!」
吹っ飛ばされた狼は、青い炎を纏って消え去った。
は?何だ今の?呆気無いな。
しばらく放心していたが、だんだんと思考が落ち着く。
これが仮に魔術の本だとして、この大図書館に有るってのも納得できる。でも、こんな誰でも触れる場所に普通有るか?しかも、俺の身長に合わせたかの様に。
俺は本棚の間を歩く。
やっぱりな。
俺は気付く。本棚の下から2番目の俺の身長にぴったりの高さに、不思議な感覚を感じる本が並んでいる。これは、俺を狙った罠。犯人は、ここに俺が来ている事を知っている奴。咲夜かパチュリーか小悪魔。あたりだな。咲夜はそんな事をする奴じゃない。小悪魔も案内してもらう際はそんな素振りはなかった。パチュリーはそもそも殆ど面識が無い。可能性として高いのはパチュリー。って、とこか。
いや、もっと簡単な方法があった!
俺は咄嗟に「円」を貼る。瞬間、
俺の左後方、様子を伺う様に覗き見る人影。
俺は「絶」を使い。間合いを詰める。
相手はこちらが迫ってる事に気が付かない。そして、真後ろについた。
「ふふふ。いつも人が驚く様は愉快ですね。あの澄ました顔が、恐怖に染まる瞬間はさぞ愉快な事でしょうね。そういえば、彼はどこに行ったのでしょうか?」
「俺ならここだぜ。」
「え?」
俺は小悪魔の左手を掴み、こちらに体を向けさせて床に押し倒す。そして、ありったけの「念」を飛ばす。
「ひゃああああああああっ!!?」
ガタガタと振るえながら、俺を凝視する小悪魔。
「よう。あんたなのか?さっきの奴の下手人は?」
小悪魔は歯の根が合わず、ガチガチと雑音を鳴らすのみ。
「淫魔風情が調子に乗ってるんじゃねーよ。ここいらで、俺とお前の関係をはっきりさせた方がいいか?」
「やめなさい、シャーキャ。」
声をかけられ「念」を抑える。小悪魔から離れ、振り向くと紫髪の女が立っていた。
「何ですか、パチュリー様。今取り込み中なので。」
「うちの小悪魔が迷惑かけたわね。ごめんなさい。悪魔だから悪戯したくなっただけなのよ。許してあげて。」
「はあ。もういいですよ。こいつも気絶してしまったみたいですし。」
「そう。じゃあ、ついて来て。」
俺はパチュリーについて行く。
「あのまま放っておいていいのですか?」
「いいのよ。相手を見極める事ができなかったのだから、いい罰よ。」
「そうですか。ところで、この本はパチュリー様が集めたのですか?」
「始めのうちはね。いつしか、この大図書館自体が魔術特性を持ってしまって。世界のどこかで本が作られれば、自動的に本棚に複製されて入ってくるのよ。」
「つまり、今この瞬間も本が増えてるって事ですね。」
「概ねその通りだわ。」
「パチュリー様は魔術師なんですか?」
「ええそうよ。でも、その呼び名は好きじゃ無いわ。魔法使いと呼んで。」
「わかりました。」
全く隙がないな。別にパチュリーが警戒しているとかではない。ただ歩いてるだけだ。美鈴や咲夜の様な戦闘技術も卓越している様子は無い。むしろ身体能力はさっきの小悪魔よりも下。なのに全く隙が無いと直感が告げる。
俺は笑みを浮かべ、オーラを纏う。
「はあ、まるで血に飢えた獣ね。」
この紅魔館で唯一、俺の「念」を受けて動じなかった奴だ。武術家の美鈴よりも己を律する力が1番強いのは、この女かもしれないな。
そもそも、精孔が有るのにオーラが出ていないのが不思議だ。体内を巡るオーラの流れは感じれる。人間なのか、妖怪なのかわからない。
「貴方、命の恩人に手をあげるつもりなの?」
「命の恩人?」
「レミィとの戦闘後に貴方を治療したのは私よ。」
そういや、骨折した腕や切り裂かれた傷が治っていたな。
「そうでしたか。ありがとうございます。」
仕方ない。
オーラを引っ込める。
そして、図書館の中央部に到着する。そこには咲夜もいた。
「咲夜もこっちに来てたんだ。」
「小悪魔にシャーキャがこっちにいるって聞いてついでだから、私もこっちに来てたのよ。それより、貴方こそどこにいたのよ。」
「いや、ちょっと本を物色してただけ。」
小悪魔か。まさか、咲夜にも何かするつもりだったのか?
「それより、貴方を呼んだのは明日の事についてよ。」
パチュリーの言葉で咲夜の表情に影がさす。
なるほど、咲夜も妹の世話をやった事が有るのか。
「レミィからは、どれだけの事を聞いた?」
「妹様の世話をしろと。その妹様はじゃじゃ馬だから命懸けになるってぐらいですね。」
「まあ、殆どね。じゃあ、私からは彼女の能力についてよ。」
「能力?」
「ええ、彼女は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を所持しているわ。」
それは程度で済む能力なのか?
「全ての物質には『目』という最も緊張している部分があり、そこを攻撃することで対象を破壊する事ができるというもの。正に一撃必殺の能力でよ。更に彼女はその『目』を自分の手の中に移動させることができ、手を握り締めて『目』を壊せば無条件で対象を破壊できる。『目』を手元に移動させる条件は、対象を視界に入れる事。」
「つまり視界に入らないか、手を握る動作に入ったら、阻止する。この2つが能力から逃れる方法。」
「本当、そういう事はよく頭が回るわね。」
「滅相もございません。」
「褒めて無いわよ。」
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力か。制約は、視界に入れる事。「目」を掌に移動させる事。「目」を握り潰す事。
能力の強力さに対して、制約が軽すぎる。これが「程度の能力」。そういえば、咲夜の時間を操る程度の能力も特に制約の話は無かった。
今更ながら、超能力者ってかなりヤバイ奴らだったんじゃ。そういや、じーさんも「制約と誓約」は基本無いって話してたような...................イスタンブールでは、よく無事でいられたな。
「彼女の部屋はそんなに広く無いから、視界に入れないは無理。だから、全力で阻止する事をオススメするわ。」
「わかりました。それにしても凄まじい能力ですね。」
「何を言ってるの。レミィや咲夜だってかなりの能力じゃない。」
ん?
「お嬢様も能力を持っているのですか?」
「そうよ。知らなかったの?レミィは『運命を操る程度の能力』を持っているわ。」
そんな能力が。なんてずるい能力だ。あの時生き残ったのも幸運かもしれないな。いや、待てよ。そうなると、お嬢様が俺を執事にしたのには、別の思惑があったんじゃないか?お嬢様は俺にまだ隠している事がある。何故なら、あの出会いは偶然では無く、必然だったという事になるから。お嬢様は俺がここに来る事を知っていた可能性が高い。
あ!そういえば、何故ここの奴らは主人が襲われているのに誰も加勢しなかったんだ?
.................考えられる可能性は3つ。
1つは俺達の戦いが激しくて、入り込む余地が無かった。でも、美鈴の身体能力なら加勢は可能。門番という1番近くで見ていたであろう役職が、加勢に来ないは不自然。
2つ目は、単純に気が付かなかった。もしくは別の用事があり、そちらを優先していた。でも、これもおかしい。あれだけ派手に暴れたんだ。気が付かない訳が無い。主人の命よりも大事な用事も普通は無い。
3つ目は、お嬢様が手出しするのを禁じた場合。これが1番可能性が高い。咲夜の忠誠心を見ればわかる。仮にお嬢様が命を落とす事になっても、お嬢様の命令なら必ず聞く。多分、これだろう。
そうなるとあの戦いは、予めこちらが来る事を予測されて、従者達には手出しさせなかった。そして、俺を従者にした。きっとそこにお嬢様の本当の目的があるのだろう。
こちらは命懸けの全力で戦っていたのに対し、お嬢様は本当にただ俺の実力を測っていただけ。もちろん向こうも命懸けだった事に変わりはない。だが、予め命は落とさないとわかっていたなら................
クッソ!舐めやがって!.................いや、それよりもこの推測が正しければ、咲夜がお嬢様と出会ったのも必然なのか?本当に咲夜が神を憎んでいた事を眼を見ただけでわかったのか?能力で先読みしていただけじゃないのか?咲夜だけじゃない。美鈴やパチュリーもどうやってここで住む事になったのか?経緯がわかれば、さらに真相に近づけるのでは?
でも、おそらく万能の能力ではないはず。本当に文字通りなら、この世全てを自分の思い通りにできるのだから。
「パチュリー様も何か能力を持っているのですか?」
「私?火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力を持っているわ。」
「何ですか?その能力は?」
「まあ、簡単にいうと様々な魔法が使えると思っていればいいわ。」
「なるほど。魔法使いとして一級品の実力があるんですね。」
「当然よ。そこらの魔術師と同じだと思わない事ね。」
へぇ。
「そんなパチュリー様は何故お嬢様と友人になられたのですか?」
「そうねぇ。確か100年以上も前の事だけど、当時魔女狩りに捕まりかけて、ここに逃げ込んだのが始まりだったわ。あとは気付いたらレミィと友人になり、ここに住んでたわ。」
なるほど。だいたいわかって来た。あとは美鈴に聞けて予想通りならOKだな。そのためにも、明日の妹とのやりとりを生き残らないとな。
「今の話で私が魔法使いとして、誇りを持っている事は理解できたかしら?」
「はい。なんとなくですが。」
「魔法使いは等価交換の法則を重んじるわ。タダ程、怖い物は無いもの。.............私は貴方の傷を癒した。だから、その対価を要求するわ。」
「なるほど。等価交換ですか。で、何を要求するのですか?」
「貴方の能力を皆に教える事。」
空気が固まるような感覚に陥った。正確には俺の中で時間が止まった。
じーさんの言葉を思い出す。
『能力を簡単に教えるでないぞ。』
念能力者なら常識。だが、幻想に関わる奴らの考え方は違う。結構簡単に能力を教える奴が多い。それどころか、誇示する奴もいる。彼らは自身の能力に自身と誇りを持っている。その誇りが強さの源なのだろう。
念能力者は、まず情報戦が主体だ。情報戦だけで戦いが終わる事も多い。能力に誇りを持っていても、それは自分の中にとどめるもの。決して、相手に見せびらかすものではない。「制約と誓約」も自分に課すルールだ。
さらに念能力は教えれば、誰でも使える能力。故に相手を選ばなければならない。人間の咲夜ならともかく、妖怪や魔法使いに念能力を教えるべきじゃない。
だが、既に俺の傷は治された後だ。しかも、パチュリーの話の流れで、俺が拒否しても納得はしてくれないはず。
パチュリーは机の本を広げ読み始める。
「後、妹様の能力の対価もあるのだけれど、」
これ以上何を要求するんだ?
額から汗が流れる。焦りが思考を鈍らせる。いつもの余裕が無くなる。
読んでいる本が邪魔で顔が見えない。表情からの情報が遮断されている。
「そうねぇ、」
ゴクリ
額の汗が顎を伝って、絨毯に落ちる。緊張で体がこわばる。
「貴方が生きて帰って来る事。」
「え?」
「その時に能力の説明もすればいいわ。」
「.....................」
本から顔を上げないパチュリー。
「生きてないと聞いても意味ないからね。」
なるほど。やっぱり、この女もそうなのか。
この館の住人は悪魔の館と呼ばれながらも、その実、どこまでも人間臭い甘さを持った連中が集う場所って訳か。
「ありがとうございます。」
「等価交換でお礼を言われるなんて初めてだわ。」
いつまでも本を見続けるパチュリー様。この人も相当強情な人だな。
もっとわかりやすい形で応援してくれればいいものを。100年以上は生きてるんだろうけど、それだけの人生経験をしているのに素直じゃないってな〜。
「では、失礼しました。」
俺は図書館を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バタン。
扉が閉まる。
私は本を閉じる。背中を流れる汗が私の体を震わせる。
話の流れでつい、レミィの能力を話してしまった事を後悔していた。
本当に頭が良く回る子だわ。
おそらく、私が能力名を言っただけで、レミィの本質の9割を看破したはず。
私が能力の説明を要求しても難色を示した。彼が強硬策に出られる前に話を逸らす事には成功したけど。
レミィ、貴女は本当に彼を律する事ができるの?今はできても後5年、10年成長すればどうなるか。想像に難くないわ。
いくら妹のためとはいえ、彼をここに連れて来たのは間違いだったのではないのかしら。
明日彼は生き残れるのか?
レミィとしては上手くやって欲しいのでしょう。でも、レミィの友人としては、ここで倒れてくれた方がいいと思っている。
もし生き残った場合は、さっき私がやったみたいに優しさで対話していくしかない。力で縛られないなら、「繋がり」という鎖で雁字搦めにするしかない。