扉のしまる音が俺の背後でした。意識を背後で別れた咲夜から部屋の中へと切り替える。ベッドを始め、たくさんの絵本が収められた本棚や、大小多様なぬいぐるみを積み上げた山々が、自然の光が差し込まない無機質なこの部屋を精一杯愛くるしく飾っていて、この部屋の主人の無垢さを際立たせている。西洋の屋敷なら、よくある一部屋なのにすさまじく広い部屋。
本当に暴れることを想定して作られたとしているのならば、これだけの広さが必要ということなのだろうか?
暴れ始められたら、さぞ楽しいだろうな。
「あはぁ、こんなところでどうしたの?」
声の主はだだっ広い地下室の中央近くの床に座り、俺に背を向けていた赤い服に金髪の少女。
扉の開閉音で入室に気が付いたのか、コテンと背中を倒し仰向けの姿勢で頭だけをこちらに向けていた。その姿に俺は、ひっくり返ったぱんだみたいだと思った。首が疲れるのか、寝返りを一度うちこちらに体を向けて少女が立ち上がった。
すると、少女の背中に翼がついているのが分かった。お嬢様のコウモリの様な翼とは違い、骨組みに宝石が垂れ下がっているような奇妙な形をした翼。少女の動きに合わせ、翼につく宝石がキラキラと光を反射する。
その姿は落ち着きのない子供の様だ。しかし、部屋に入ってから微かにする鉄錆の臭いが、目の前の光景をひどく歪な物へと変えていた。血の跡はどこにも見られない事から、部屋自体に染みついたものなのだろう。それほどまでにこの部屋は血を吸っている。
その事実が、俺の目の前に立つ少女が、見た目通りの可愛らしい子供ではないと声高に訴えていた。
これは、想像以上にやばいかも。
冷汗が流れる。
「初めてまして、シャーキャと申します。ここで働く事になった執事です。今日は顔合わせを兼ねて、妹様のお相手を僭越ながらさせていただきます。」
「お姉さまに言われて来たのね。わたしはフランドール・スカーレット。うふふ、ならわたしと遊んでくれるのね」
引きちぎられたぬいぐるみを片手に歓喜を表す少女。言葉や仕草は微笑ましく癒されそうなものなのに、俺は心地良い寒気を感じた。感じるプレッシャーはお嬢様を超えるかもしれないと。いや、お嬢様には理性があり、妹には無いのだから、お嬢様を超えるのは当然なのかもしれない。
「ええ、お嬢様にそう申し付けられておりますので。」
「ふふーん、暇で暇で死にそうだったんだぁ。」
無邪気に微笑む少女の顔に、死の予感が頭を過ぎ去った。だが、話は出来そうな雰囲気に俺は戸惑う。
話ではもっと猛獣の様なものを想像したんだけど、思った以上に話せるな。部屋の不気味さと目の前の少女の無垢さが合わない。お嬢様の妹かと疑うほどの稚気さ。
「じゃあ!早速遊ぼうよ!」
「何して遊びましょう?」
「うーんとね。しりとりしよ。」
「いいですよ。」
「じゃあ、フランドールの『る』で!」
「『る』ですか。では、ルーレット。」
「『と』か〜。トカゲ!」
今のところただの子供だな。
「妹様は、いつもここにいるのですか?」
「ん..........」
少女は熊のぬいぐるみを抱きしめる。
「……お姉様が『外は危険だから』って言ってね、あんまり出してくれないの。」
それは建前だろう、と俺は確信に近く思う。さしずめ、他でもない妹自身が危険な存在だから不用意に外に出したくない、というのが真実のはずだ。
わかっている。妥当な判断だ。狂気による被害を最小限に抑えるためには避けようのない。だが、
「.......寂しいとは思ったことないんですか?」
更にぬいぐるみを抱きしめる。
おいおい、それ以上やったら破裂しちまうぞ。
「あのね、何年か前にね、我慢できなくなって、こっそり外に抜け出したことがあったの。そしたらすぐにお姉様たちに連れ戻されて、すごくすごく怒られちゃった。どうして言った通りに大人しくできないの、って。」
一瞬、少女の面差しに沈んだ影が差す。しかしすぐに慌てた様子で取り繕って、精一杯の笑顔を咲かせた。
「あっ、でも今は寂しくないよ! こうしてシャーキャとお話してるんだもの!」
「それは、光栄です。」
ふと、少女が手を伸ばして来て俺の頭を撫で始めた。
「シャーキャって、小さいね。」
「まだ、5歳ですからね。」
「じゃあ、わたしがお姉ちゃんだね。」
「そうかもしれませんね。」
そう言う少女の顔は実に寂しそうだ。
「では、妹様。俺と友達になりませんか?」
「え?」
驚いた表情を見せる少女に微笑みかける。
「ここで会ったのもなにかの縁。妹様さえよければ、是非。」
「っ、本当!? 本当に友達になってくれるの!?」
よほど意外な提案だったのだろうか。少女は驚きと期待で目をまんまるにして詰め寄ってきた。
「嘘じゃ、嘘じゃないよね!?」
「もちろんですとも。嘘でこんなことは言いません。」
「そ、そっか......。そっかぁ......。」
夢見心地で呟きながら、頬をほんのりと赤くして、くすぐったそうに身動ぎをした。
このまま何事もないのは、正直肩透かしだけどこれも悪くないね。
「じゃあ、よろしく、シャーキャ!」
「ええ、よろしくお願いします、妹様。」
「え、えへへ......。」
正直、油断していた。
「じゃ、じゃあ、一緒に遊ぼうよ!しりとりじゃなくて!」
「そうですね。なにして遊びましょうか?」
「じゃあ、お人形遊びがいいな!」
「はい、わかりました。では、どの人形にしますか?その熊のぬいぐるみにしますか?」
「......私は、“あなた”だよ。」
衝撃。唐突に視界がブラックアウトする。一瞬で平衡感覚が消失し、外界から得られる情報がなに一つとしてわからなくなって、気がついたら倒れていた。
始めはそのことすらわからなかった。床の固さと冷たさが直接肌を伝い、浮かび上がるような感覚を伴って意識が戻って初めて、うつ伏せで倒せていることを知った。それからすぐに腹部の激痛を認識し、未だ覚醒し切らない頭の中で、腹部を打ったのか、とぼんやり思う。貫通しなかったのは、奇跡的に「堅」が間に合ったから。
「......カハッ」
やっとのことで体が反応し、呼吸をしなければと肺が伸縮して、めいっぱいの空気を取り込んだ。
今気を失えば、全てが終わりだ。
「どうしたの、シャーキャ?早く立って、続き、しようよ。」
声。それが少女の声だと認識するまで、一呼吸以上の時間を要した。幼さにあふれた花びらのような声ではない。奥底で渦巻く黒い狂気を抑えられずに興奮した、けれどぞっとするほどに冷たい声。腕を杖にして体を起こせば、少女の笑う姿が見えた。狂気で歪んだ三日月を描く、その笑顔。
「........あのね、前にも同じことを言ってくれた人はたくさんいたよ。でもみんな、みーんな、一緒に遊んでみるとすぐに壊れちゃったの。動かなくなっちゃったの。嘘つきばっかりだったの。ねえ、ねえねえねえ、シャーキャはどう?」
ねえ、ねえ。目をギラギラ光らせて繰り返す少女を見て、俺は悟った。どうして自分がこうなっているのか。少女が一体なにをしたのか。そしてなにをしようとしているのか。人形遊び。その言葉が意味するところを俺は文字通りに捉えていたけれど、間違いだった。少女の望む“人形遊び”。それすなわち、
「シャーキャが嘘つきじゃないなら、壊れずに最後まで遊んでくれるよね!!」
ーー人形は俺自身ーー
クックック。
いいねぇ。最近、ここの居心地の良さに平和ボケしてたけど、やっぱり妖怪はこうでなくては。
俺は大きく笑みを浮かべる。
だけど、まず聞いておかないといけない事がある。
「その質問に答える前に、こちらから質問します。貴女は、
問いかければ、狂気の笑みを浮かべていた少女の目が大きく見開かれる。だが、すぐに殺意に満ちた笑顔を見せる。
「そうねぇ。わたしはフランドール・スカーレットよ。よろしくね、シャーキャ。」
「ええ、よろしくお願いします。フラン様。」
俺は一礼する。
「では、質問に答えましょう。正直に申しますと、鈍ってたと言うのが1番しっくり来るところかと思います。」
「あら、そうなの?でもいいんだよ。壊れずに最後まで遊んでくれれば、いいんだから。」
立ち上がる。大丈夫だ。既に痛みは消えている。四肢も動く。なにも問題はありはしない。
一度大きく深呼吸し、俺は構えた。
『
全身を紫色のオーラが包み込む。
「言っとくけど、手加減しないからね!」
「それは、こちらこそ!」
「さあ、踊りましょう?……リードしてくださいますか?」
「ええ、共に
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鮮血が舞う。
砕けた床が礫となり飛び散る。
無数のぬいぐるみが爆散する。
そんな部屋に笑い声が響き渡る。
「ハハハハハハハハハ!」
「アハハハハハハハハ!」
奇声をあげ、2人の少年少女が命を削りあっていた。2人はお互いを真っ赤に染め上げる。
少女が頬が切り裂かれる。少年が胸が切り裂かれる。少女が腕が切り裂かれる。少年が背中を切り裂かれる。少女が腹を貫かれる。
少女が距離を取る。そして、すかさず。 無数の白がシャーキャの視界を潰す。
人一人がようやく滑り込めるかどうかの僅かな隙間。だが、「円」で感知しているシャーキャは素早く、体を潜りこませる。
「大丈夫?危なかったね。」
言葉に反してシャーキャを気遣う色はない。むしろ嘲笑うかのような声だった。
「いえいえ、この程度まだまだですよ。さあ!時間はたっぷりあります。もっと楽しみましょう!フラン様!」
「ふふふ。そうだね。」
くすくすささやく。
おかしくてたまらないといった体で、少女が笑っている。
鮮紅色の双眸が、強く弓を描いている。
シャーキャが身構えて、一刻。少女は天高く右腕を掲げ、三日月みたいに大きく笑って。
「......ほら!!」
腕を振るうと同時、シャーキャの視界を、再度無数の白が埋め尽くした。
あの時、レミリアが見せた弾幕とは、まるで桁が違った。思わず圧倒されるほどの物量。それ以外の物が視界に映り込まなくなるほどの密度。咄嗟に距離を取っても一瞬と待たずに詰められてしまうほどの速度。天より降り注ぐその姿はまさに滝の如く。なにからなにまで違いすぎる。
シャーキャは確信する。
(やはり、お嬢様には手加減されてたか。)
だが、余計な事を考える余裕などシャーキャには無い。全力で回避する。
「ああ、もう躱せるようになったのね!さすがシャーキャ!」
気がついた時には視界から白が消えていて、フランが興奮した様子ではしゃぎ声を上げていた。まだ回避しようと動き続けていたシャーキャの体が思わずその場でたたらを踏む。
(ひゃあ〜。きつい。休憩できね〜。)
「じゃあ、次は違うの!いっくよー!」
次の世界は赤だった。先ほどの白よりも疎らで隙間が大きいものの、その分速い。
だが、それもシャーキャは回避する。
「一回で躱しちゃうんだ……すごいね、上手だよ!」
「ありがとうございます。」
(いい感じだね〜。まだ、防御の奥の手を使わなくても躱せる。しんどいけどね。)
「フラン様ばかりでは、退屈でしょう?俺からも弾幕をプレゼントしますよ!」
シャーキャは周りの瓦礫に磁力を与える。N極を与えた。そして、フランにS極を与える。瓦礫に赤いオーラ、フランに青いオーラが纒われる。
「さあ!受け取ってください!」
「キャハ!」
瓦礫はフランに向かって飛んでいく。それをフランは事も無げにかわす。しかし、躱したはずの瓦礫は再び、フランに向かって飛んで来る。
「あ、そうそう。」
シャーキャは獰猛な笑みを浮かべる。
「そいつらは、何処までも追いかけていきますよ。」
「そうなのー?なぁら...」
フランは無数の弾幕を放ち、瓦礫を砕く。
(さすが姉妹。対象方が全く同じとはね。でも、背中を向けるのは良くないね。)
瓦礫を砕いたフランはすぐさまシャーキャに体を向ける。しかし、シャーキャは既にフランの目の前まで肉迫しており、足を振り上げていた。
「ヒャッハー!」
「あうっ!?」
踵落とし。肉を圧する低音、肺から吐き出されるフランの悲鳴、そして大気が震える衝撃をその場に残して彼女の体が吹き飛ぶ。完全に宙に放られ慣性のまま落下し、微塵もその勢いを殺すことなくぬいぐるみの山へと突っ込んでいった。
「あははははは!すごい!すごいよシャーキャ!」
崩れたぬいぐるみの山を押し退け、フランは再び飛鷹した。
まったく痛みを感じていないわけではないはずなのに、フランはとてもとても嬉しそうに笑っていた。血のような双眸が、強く不気味な光を放っていた。自分と互角に戦える相手の存在に、狂気が昂ぶっているのだ。
だが、シャーキャに動揺は見られない。先程から同じように何度も立ち上がって来る様を見ているからである。
(お嬢様と戦った経験があるからわかるけど、吸血鬼って本当に不死性が高いな。)
「もっと、もっとやってみせてよ!」
振るわれる腕、放たれる白と赤の弾幕。圧倒的な密度と速度を以て襲い掛かるそれに、しかしシャーキャは冷静。淀みなく躱す。オーラで強化した腕を振るって弾き飛ばす。そして弾幕の斉射が途切れた瞬間、再度加速し、フランとの距離を一気に詰める。弾幕が途切れたら動く。単純で読みやすい攻めだと、シャーキャ自身も理解していた。故に気づく。肉薄されたフランが、静かに己の笑みを深めたのを。
シャーキャの背筋を悪寒が駆け抜ける。一層強大に膨れ上がったフランの妖力。
(来るか。奥の手!)
「レーヴァテイン!」
黒い悪魔の尻尾の様なものを取り出し、瞬く間に深紅が包み込み、巨大な炎の刃を成した。
(誘われた!)
肉薄したシャーキャは、既にあの炎剣の間合いに入ってしまっている。しかも体は走る中で前傾になっているから、今更停止も後退も利きはしない。薙ぎ払うようにして振るわれた炎の軌道は、確実にシャーキャを横一直線に両断する。
しかしシャーキャとて、こうなるのを予想していなかったわけではない。むしろ、迎撃される様に逆に誘った様なものだった。故に圧倒的な熱量で迫り来る炎剣を前にしても、焦りなく体は動く。
跳躍する。縦に体を回して、炎剣を、そしてフランの頭上を飛び越えた。
「逃がさないよ!」
フランの反応は速かった。横に薙いだ炎剣の勢いをそのままに背後へ回転し、刃の動きを止めることなく、円を描く軌道で頭上を薙ぎ払う。
その刹那には、既にシャーキャの体は刃の間合いから外れていた。だが蛇のようにうごめくその炎は別だ。顎門を開き、未だ宙を飛ぶシャーキャを丸呑みにしようと迫ってくる。
対しシャーキャは、咲夜から渡されたナイフを取り出す。「周」でナイフをオーラで包み、強化する。炎の大剣と打ち合う為の強化だ。
「シャアア!」
激突する。オーラで強化されたナイフは、大剣の圧力に折れる事も無く、また炎の熱に溶ける事も無く、迫るレーヴァテインを相殺した。
打ち寄せる熱風に体勢を崩されそうになりながらも、シャーキャは着地。だが、まだ気は緩めない。
フランが突っ込んでくる。
(フラン様の短所はお嬢様に比べ、直接的な攻撃が多く躱しやすい事。長所は迷いが無く、思い切りがいい事。そして、妹様は無垢で臆病。)
「あはははははははははは!!」
喉を走る哄笑、そして構えた炎剣はともに空高く。放たれた高速の振り下ろしをシャーキャは横に跳んで躱す。
そして振り下ろされた炎剣が床を砕くと同時、天井を焼き払わんほどの火柱が立ち上がる。
「!?」
爆発が起こったと、そう錯覚させられるほどの威力だった。
その風圧に当てられながら、シャーキャが取った行動はフランへの斬り込みだった。
それを見たフランは、更に笑みを浮かべる。
「フォーオブアカインド!」
狂気の衝動は止まらない。フランが更に3人に増える。
シャーキャは更に加速する。アドレナリン全開の今のシャーキャは、思考も加速し、闘志の笑みを浮かべたまま、冷静に3人を切り裂く。
「あははははは、痛い痛い!」
「切られちゃった、傷モノにされちゃった!」
「シャーキャ、強いね!強い強い!」
「それじゃあ私も、ちょっと本気!」
四者、叫ぶ宣言は等しく。
「「「「レーヴァテイン!」」」」
等しくその手に炎を宿す。
(いいぜぇ!かかってこい!)
「ははははははははははは!」
「あはははははははははは!」
3人のフランがシャーキャに斬りかかる。それをシャーキャは舞を舞うかのように捌き、躱し、切り刻む。
今、2人が感じている感情は快感だった。お互いが全力を相手にぶつけ合う。それでいて、お互いが倒れる事は無い。特にフランは今まで、全力をぶつければ、相手は壊れてきたのだから。自分の全力を受け止めてくれる存在。そして、自分を殺しうる存在。そんな存在と今もこうして、傷つけ合う快感。
2人は次第に惹かれ合う。
「フラン様。俺はあなたの事、大変気に入りました。俺達は似た者同士。そうは思いませんか?」
「......................」
フランの分身の2体が同時に破壊される。
「俺達、友達になりませんか?」
(彼女は、咲夜と出会う前の俺と同じ。自分が孤独である事に自覚していない。ただ力をぶつける事でしか、自分を表現する術を知らない。なら似た者同士で、ぶつかればいい。)
「いいよぉ。私達を倒せたらね!」
「じゃあ、頑張らないとですね!」
炎の剣を紙一重で躱して、すれ違いざまに一閃。3体目も撃破。
残りの本体のフランに必殺の意志を持って、視線を向けるシャーキャ。
だが、視線の先のフランは恍惚の表情を浮かべ、右手をこちらにかざしていた。
それを目にしたシャーキャの思考は、時間が限り無く圧縮され、かつ限り無く引き伸ばされた時間の中で高速で回転する。
(パチュリー様から、右手を握る動作には気をつけろと言われてたっけ。ここから、俺が跳躍して阻止するのに、コンマ7秒。握る動作は、コンマ2秒。あれ?俺死んだ?)
フランの右手が閉じられていく。死を覚悟しても、尚シャーキャの闘志は消えない。
(クソ!せっかく、ここまで来たんだ!これから沢山のモノを見るつもりだったのに。咲夜との約束も俺にはあるんだよ!)
滾る思考とは、裏腹にシャーキャは無意識の内にナイフをフランへ投げていた。しかし、それでもまだ、コンマ2秒には届かない。
だが、シャーキャの執念は自身が考えもしなかった戦法を思い付かせる。
投げナイフは布石。シャーキャとフランの間に磁力の
「
仕組みはリニアモーターカーに近いかも知れない。
そして、この磁力の
シャーキャは、磁力の道に乗る。
(元々、この技は相手を引き寄せて放つ技だったんだけど、まさか俺が相手に接近して使う事になるとはな。でも、締めがこの技ってのも、やっぱ姉妹だからかな〜。)
シャーキャの肉体は音速に達し、弾丸と化す。そして、そのまま右手にオーラを集中、「硬」を発動。その右ストレートをフランに放った。
「
シャーキャの右ストレートは、フランの腹部に直撃。フランは体をくの字に曲げ、肉体は粉々に砕け散る。
全身を切り裂かれたり、殴られたりして出た出血とフランからの返り血を浴び、真っ赤になったシャーキャは、すぐにでも気を失いそうになる。だが、過去の経験から気を緩めずに辺りを警戒していた。
すると、シャーキャの目の前で光の粒子が集まり、フランの形を模っていく。
そして、完全に復活する。だが、限界が近いのか、足取りは覚束ない。だが、着実にシャーキャに迫っていた。
警戒していたシャーキャの心境は、予想通りと言うのが第一の感想だった。
迫って来るフランに警戒は続けるが、動かないシャーキャ。正確には、全てを絞り尽くしたシャーキャには、立っているのが限界だっただけである。
フランは、ついにシャーキャの目の前にまで来た。そして、
「............認めてあげる。」
フランはシャーキャに抱きついた。
「............うん。認めてあげる。友達になろう、シャーキャ。」
「ありがとうございます、フラン様。」
これまでの凶暴性が嘘の様に落ち着いた声だった。
「.........今日はなんだか眠たくなっちゃった。だから、またいっぱい
「ええ、もちろんです。」
フランはシャーキャの頬に唇を落とす。
「おやすみ。」
「おやすみなさい、フラン様。」
そのままシャーキャに持たれたまま、眠りについた。
(妖力と魔力が切れたか。)
シャーキャは、フランをそっと抱きかかえベッドに寝かす。
シャーキャはふらふらとよろめきながら、壁に刺さっているナイフを回収、部屋をあとにした。
鉄の扉を締め、階段を上がる。
シャーキャが歩いた後は、血の道が続いていく。
階段を50段程登った時にそれは訪れた。
(あれ?)
急に足に力が入らなくなる。ガクガクと足が震え、遂に倒れてしまう。
(あれ?なんで俺、倒れてんだ?)
シャーキャは、階段の下を見る。
(うわー。これって全部、俺の血か?すげー。人間って、こんなに血が出るんだ。)
自身の惨状を見ても、シャーキャの感想はどこまでも他人事であった。
(なんだか眠たくなって来たな。.......ああ、ダメダメ。咲夜との約束もあるし。寝るならベッドで寝ないと。)
ズルズルと這い蹲りながら、前に進むが階段を5段進んだとこで完全に意識を失った。