俺の部屋に合計6人いる。うち1人は今も気絶してるけど。
なんかそいつ、前も気絶してた様な気がするんだけど。まあいいか。
「ご苦労様、シャーキャ。貴方は見事試練をクリアしたわ。」
そう言うと、お嬢様が鎖の付いた懐中時計を渡してきた。
「これは?」
「貴方が本当の意味でここの執事になった証よ。」
俺は懐中時計を受け取る。ぱかっと開くと、カチッカチッと針が動いていた。
咲夜が同じ懐中時計を見せてニコッと笑っていた。
なるほど。ここの従者は皆持っている物なのか。
「貴方の傷はある程度は治したけど、完全に治るまでは、2ヶ月かかるわ。つまり、幻想郷に侵攻するまでは大人しくしておく事ね。」
2ヶ月か...........。
「わかりました。」
「さて、ここに皆が集まっているのは、貴方が無事私の対価を守ったからよ。」
「対価........。」
「生きて帰ってくる事よ。」
「........なるほど。」
「で、すでに察してると思うけど、もう一つの対価を払ってもらうわ。貴方の能力についてよ。」
やっぱり、そう来るよね〜。
参ったな。俺は怪我でまともに動けない。更に4人で囲まれてる。しかも、4人とも俺以上の手練れ。しかも、俺は彼女達に少なからず、情を抱いている。完全に詰み。
はあ〜。本当にこの状況を計算通りに運べたらとしたら本当に恐ろしいな、パチュリー様。
でも、正直ここの人達なら教えてもいいと思っている。どっちみちこの面子で念を使える可能性は、咲夜とパチュリー様だけだしね。
「............わかりました。お教えしましょう。ですから、そこの気絶している淫魔を起こしてください。」
「そうね。何回も説明するのも面倒だしね。」
そう言うと、パチュリー様は小悪魔に刺さってるナイフを抜き、起こす。
「こあ、起きなさい。」
「う、うーん。あれ?私?」
「起きたね。今から、シャーキャの能力説明あるから、静かに聞いてなさい。」
「え?何が何やら.....」
「静かにして。」
パチュリー様の怒気で小悪魔が固まる。
「は、はい。」
小悪魔が大人しくなったところで、皆が再び俺の方に向く。
「じゃあ、皆が聞ける様になったからお願い。」
「........わかりました。まず、俺は皆の様に『程度の能力』は持っていません。」
「................貴方、本当にそんな話、通じると思っているの?」
「いえ、『程度の能力』が無いだけで、何も力が無いわけでは無いです。お嬢様なら『妖怪』、パチュリー様なら『魔法使い』と言った感じで、俺は『念能力者』という括りです。」
「念能力者?聞いた事が無いわね。パチェはどう?」
「.............私も聞いた事が無いわ。」
「でしょうね。こちらの念能力者のトップもそちらの幻想側には、情報を漏らしていない様ですし。」
「幻想側?」
「ええ。妖怪やそれにまつわる魔法使い、超能力者などを総称で幻想側と念能力者のトップでは、呼んでいます。」
「トップという事は、念能力者側もトップ以外はこちらの事は知らないって事かしら。」
「その通りですね。実際、お互いが接触する場面が普通は無いですからね。念能力者は裏社会と言っても、政治・経済と言った人間社会の裏側に暗躍する諜報員ですからね。」
「じゃあ、なんでシャーキャは私を見ても、すぐに冷静に対処できたの?」
「俺はお嬢様と出会う前に、妖怪やエクソシスト、人工超能力者、魔法使いと出会い、戦闘していました。この接触自体もお嬢様の能力の影響の可能性がありますが。」
「なるほどね。それで貴方は、幻想側と言うトップしか知り得ない情報をなぜ知っているの?妖怪に会った所で知らなければ、ただの化け物としか思えないはずよ。」
「俺は、元々孤児で拾われた子供だったんです。拾われ、預けられた先が念能力者のトップでした。」
「なるほど。その人から妖怪の事を教わったのね。名前は?」
「アイザック・ネテロ。年齢は約1000歳。念能力者達からはネテロ会長と呼ばれています。そして、俺の育ての親ですね。」
「そんな人間が存在するなんて。」
「話が逸れましたね。念能力について話を戻します。念は人間なら、多少の才能によって習得の早さは変われど、誰でも習得できる。よって、教える者は相手を見極めなければならない。俺が念について話すと言う事は、つまりそう言う事です。」
俺は壁に手を当て、オーラを放出する。
「ふん!」
壁に大きな亀裂が走る。
「!?」
皆の顔が驚きの表情になる。
「殺人鬼や犯罪者に、念を教えればどうなるか。これを見れば一目瞭然ですよね。つまり、あなた達を信頼した上でお話しします。」
「確かに、これは凄まじい力だわ。でも、私達もこれを習得できれば、」
「残念ながら、お嬢様達に習得は不可能です。ちなみに習得可能なのは咲夜、あと可能性としてパチュリー様はあります。」
「な、なぜ?」
「それも含めて話します。まず、念とは体から溢れ出す『オーラ』と呼ばれる生命エネルギーを自在に操る能力の事。生命エネルギーは誰しもが微量ながらに持っていますが、その殆どは垂れ流しの状態になっています。先程、壁にヒビが入ったのは、オーラを放出した結果です。オーラだけでこの威力。これに拳本来の速度と重さが加わります。あれがお嬢様の感じた、拳の異様な重さです。また、オーラを身に纏う事で頑丈な鎧にする事ができます。これが、異常な硬さの秘密になっています。」
「なるほどね。でも、オーラなんてもの全然見えないのだけど。」
「ええ。オーラは念能力者にしか見えません。オーラは全身の精孔と言う穴から出ています。また、妖怪には精孔も体内を流れるオーラもありません。」
「なるほどね。だから、私じゃ習得できない訳ね。」
「私には、可能性があるってどう言う事?」
「パチュリー様は、垂れ流しのオーラは見えません。しかし、体内のオーラは感じれます。つまり精孔はあるが、完全に塞がっている。オーラを断つ技術は存在しますが、パチュリー様は念能力者ではない。だから、わからない。なぜ、その様な事になっているのか。」
「多分、それは私が元人間だからよ。」
「元人間?」
「『捨食の法』と『捨虫の法』を覚えた魔術師は、種族が人間から魔法使いに変わるわ。成長が止まり、食事を取らなくても死ぬ事はない。また、不老不死になるわ。でも、完全な不老不死ではないから、攻撃を受ければ死ぬわ。」
「..............その話だと、おそらく人間だった頃の名残として精孔が残っていると言った所でしょうね。ちなみに念能力者も常人と比べ、若さを保ち長生きしやすいです。1000歳の会長がいい例ですね。」
「大体、わかってきたわ。念能力者も人間なら、別種の魔法使いと思っていればいいのかしらね。でも、霊力や魔力は感じる事ができるけど、オーラは見えないのでしょう?一見、普通の人間でも油断ならないわね。」
「オーラは、念能力者でなくても感じる事はできますよ。」
俺は「練」を行う。
「どうですか?」
「...............圧迫感を感じるわ。」
「それがオーラです。今は敵意無しで念を飛ばしていますが、害意をもって念を飛ばすと、」
再び「練」を行う。
お嬢様達の顔色が変わり、全員俺から距離を取る。
俺はオーラを納める。
「落ち着いて下さい。本当に戦う気はありませんよ。」
「え、ええ。今のが敵意をもった『念』?」
「そうです。皆さんも時々感じていた威圧感の正体です。戦闘の場合は『闘争心』がオーラに乗りますから、大体はこの様な威圧感を感じると思います。この威圧感が念能力者の見極めになると思います。」
「わかったわ。参考にするわ。」
「以上で能力の説明は終わりです。」
「ちょっと待って。貴方が砂鉄を操ったり、レミィを引き寄せたりした能力は何なの?」
お嬢様では無く、パチュリー様がそれを聞いてくるとは。
だとしたら、フラン様との戦闘も見られていたかも。
それに誰もパチュリー様の言葉に疑問を呈さないなら、皆がパチュリー様が何かしらの覗き見の能力、おそらく魔法を使える事を知っている事になるな。
「パチュリー様。貴方は魔法の1から10を全て他人に教えるのですか?同じ魔法使いでも教える事はないでしょう?」
「...........確かに。悪かったわ。」
「私は一応、念能力者に出くわした時の最低限、自衛できるぐらいの情報は教えました。これで対価としては、十分だと思いますが。」
「わかった。これで手打ちにしましょう。」
そう言うと、お嬢様達は出て行こうとする。
「パチュリー様は残っていただけないでしょうか?」
「ん?いいけど。」
「咲夜。悪いけど、お嬢様と一緒に出て行ってくれ。」
「..........わかったわ。」
お嬢様達は出て行く。部屋に残ったのは俺とパチュリー様のみ。
「パチュリー様にお聞きしたい事があります。」
「どうしたの?対価はもう十分よ。」
「いえ、これは別件です。パチュリー様。なぜ貴方は、お嬢様との戦闘を知ってるのでしょうか?」
「ん?ああ、これね。」
そう言うと手に水晶を出現させる。
「これに遠見の魔法で、見る事ができるのよ。」
「................」
俺は簡単に教えてきたパチュリー様に戸惑う。
誤魔化されるかと思ったんだけど、簡単に教えてくれたな。
俺は念を飛ばす。
「!?」
パチュリー様の体が一瞬強張る。
「フラン様との戦闘も見ていましたか?」
「........べ、別に、」
「誤魔化さないで、答えて下さい。先程いいまいしたよね。念能力には、まだ俺が言っていない力もあると。」
「...............見ていたわ。」
その言葉を聞き、俺はオーラを引っ込める。
「............どういうつもり?貴方は口封じでも考えてたんじゃないの?」
「いえ、別に覗き見る事自体は咎めるつもりはありません。パチュリー様が黙っていれば、わかりませんし。でも、それで何か悪企みはしないで下さいという忠告をしたかっただけです。失礼しました。」
「そ、そう。」
「要件は以上です。ご無礼、申し訳ありませんでした。」
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シャーキャの部屋を出る。
シャーキャの念に当てられて、体が震える。原理がわかっても、これはなかなか堪えるわね。
先程の詰問でシャーキャに対する考えが少し変わった。
ーーあんたは彼を恐れすぎよ。ーー
確かにレミィの言葉通りかもしれない。あの威圧感と、戦闘中の狂気に支配されたかの様な笑みで惑わされてたかもしれない。
さっきの釘刺しもそうだけど。戦闘前の妹様の情報収集に余念が無かった。あの慎重さは、レミィとの戦闘での彼では考えられない。
無謀とも思える戦闘。これも、自身が信頼する鎧を纏いながらの戦闘なら見方も変わる。
そして、慎重すぎる情報収集と忠告。
意外と彼は臆病な性格なのかも。