1ヶ月後。
俺は「浮き手」をしていた。
「ふん!」
40cm。
俺が目標としてた40cmをクリア。これで放出系の修行は終わったな。この1ヶ月間、夜は「纏」日中は「燃」の瞑想と新たな「発」の開発に費やしてたからな。
この「発」はとても強力で制約も大きいけど、できれば一生使う事がない方が、いい能力だな。
ガチャ
「ちょっと!何してるのよ!」
咲夜が中に入ってくる。
だから何で「浮き手」してたら来るんだよ。
咲夜は俺が逆立ちしている姿を見ると、大声で叫んで俺に駆け寄ってくる。
「逆立ちだけど。」
「怪我は大丈夫なの?」
「ああ、治ったよ。この通り。」
俺は上着を脱いで、包帯を取る。
「...........どんな体してるのよ、あなた。」
まあ、「纏」で自己治癒力の強化と「絶」で回復したのが大きいかもな。
「まあいいわ。貴方が治ったら、連れて来るようにパチュリー様に言われているのだけど。」
「ん?パチュリー様?」
パチュリー様が? 一体なんの用事だろう?
「まあいいよ。」
「じゃあ、行きましょうか。」
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「あら、もう治ったの。相変わらず人間離れしているわね。」
大図書館に来ると、パチュリー様が本から顔を上げ、声をかけてくる。その顔には普段かけていない眼鏡をかけている。
眼鏡?確か、普段本を読んでいる時も眼鏡なんて、かけてるとこは見た事無いんだけど。
「............なるほどね。」
パチュリー様は俺達を見て、1人納得する。
「どうしたのですか?」
「まあ、あとで教えるわ。まずは咲夜。ちょっとこれをかけてみて。」
そう言うとパチュリー様は、咲夜に眼鏡を渡す。
「では、失礼します。」
咲夜が眼鏡をかける。
..........意外と眼鏡似合うんだな。まあ、パチュリー様や咲夜は、見た目も知的な感じだから似合うのかもな。
「あれ?これは度が入ってないのですか?」
「ええ、伊達眼鏡よ。ある特性を除けばね。」
「特性?」
「そう。咲夜、試しにシャーキャを見てみなさい。」
咲夜は俺の方を見てくる。
すると、咲夜は目を見開いて眼鏡を触った。
「こ、これは、一体?」
「.........どうやら成功したみたいね。」
「俺もそれかけていいですか?」
「いいわよ。」
俺は眼鏡をかけてみる。
特に変わった様子は無い。
「まあ、貴方は普段から見えてるから気が付かないんでしょう。」
「気が付かない?」
「そうよ。咲夜、何が見えたかしら?」
「シャーキャが白い透明の膜のような物を纏っています。」
!?
それって!
「..............パチュリー様。まさか、」
「ええ、ちょっと作ってみたの。良い出来でしょう?」
「.............オーラが見える眼鏡。どうやって作ったんです?」
「特に難しい事はしていないわ。ただ、ひたすらレミィや美鈴には見えなくて、咲夜からは『何か』が見える、そんなレンズの材質を色々変えて試行錯誤した結果よ。」
「...................」
難しい事はしていない?そんな訳無いだろ。そんな物が簡単にできるなら、とっくの昔に念能力者の間で出回ってるに決まってる。
「と、言う訳だからシャーキャ。美鈴と組手でもしてくれないかしら。」
思わずジト目になる。
それはつまり、俺がその眼鏡の実験台になれと言う事か。
でも、美鈴との手合わせなら願ったり叶ったりだな。
「良いですよ。」
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中庭に出てきた。そこにはお嬢様も来ているようで俺に話しかけてくる。
「もう、怪我治ったの?」
「はい。ご覧の通りです。」
俺は腕を回す。
「馬鹿げた回復力ね。」
「それは吸血鬼であるお嬢様に言われたく無いです。」
「ふふふ。それもそうね。」
お嬢様が胸を張って、踏ん反り返る。
「それでパチェ、どうだった?」
「成功ね。ほら。」
パチュリー様は眼鏡をお嬢様に渡す。
お嬢様は眼鏡をかけて、俺や美鈴と咲夜を見る。
「なるほどね。確かに美鈴にはオーラとか出ていないわね。それに咲夜とシャーキャを見れば、確かに垂れ流しってのもよく分かるわね。具体的に言うと、咲夜は本当にうっすら湯気が立ち昇ってる感じね。」
「では、早速やりますか。」
美鈴が庭の中心に行く。俺も彼女について行く。
美鈴は全身を脱力して、左手を前に、右手を腰に添えて構える。
俺は観戦者の様子を見てから、構えようとするが、
え?
いつの間にか、眼鏡を全員がかけていた。
いつの間に2つも作ったんだよ!あの魔法使い絶対おかしいだろ!
心の中でツッコミをしつつ、俺も腰を落として構える。
「なあ、美鈴。お嬢様達はあんな感じだけど、それ抜きで本気でやらない?」
俺は美鈴に念を飛ばして、挑発する。
美鈴はニヤリと笑う。
「ええ、私もそうしたいと思っていました。」
なら決まりだな。
俺は「練」でオーラを解放。殺気の念を美鈴に飛ばす。
美鈴の表情が険しいものになり、身体が強張る。
それを確認した俺は、足にオーラを集中。「隠」で気配を断ち、美鈴の懐に潜り込む。
そのまま、右拳にオーラを集中させてアッパーを顎めがけて放つ。
「!?」
ギリギリで反応した美鈴は、右手で俺の右拳を弾く。そして、俺の腹目掛けて右膝蹴りを放ってくる。
俺は左肘にオーラを集中させガードする。
ガードは成功し、再び距離を取る。
「ちっ」
やっぱ、只者じゃねーな。念能力の事を教えてしまってるから、不意打ちが効きにくな。
「能力だと知っていても、その威圧感は堪えますね。」
「あんたも十分化け物だな。あれ反応するなんて。」
「あれくらい、武術を嗜むのであれば反応できないといけませんからね。」
確かにそうかもしれないけど、美鈴の場合は妖怪の身体能力付きだよな。
「今度はこっちから行きます。」
わざわざそんな事言ってくるなんて、律儀だな。
そんな事を思っていると、既に美鈴が俺の目の前まで来ており、右足を振り抜いていた。
「がっ!」
殆どオーラでガードしていないため、美鈴の蹴りが俺の脳をダイレクトに揺さぶられる。
どういう事だ?常に警戒していたはず。なのに反応できなかった。前にもこんな事があったな。何かの能力か?それともこれも武術って事なのか?
俺はなんとか体勢立て直し、着地する。
しかし、既に美鈴が俺の背後で正拳突きを放っていた。
今度はオーラを背中に集中させ、ガードに成功する。
吹っ飛ばされるが、即座に着地して美鈴に視線を向ける。美鈴は俺に向かって走って来ていた。
「このヤロウ!」
俺は思いっきり地面を殴り、土煙をあげる。
即座に「隠」で隠れ、美鈴の背後を取る。
お返しだ!
「硬」で強化した拳を美鈴に御見舞いする。
だが、又しても美鈴はギリギリでガードする。しかし、
ゴキィ!
美鈴の右腕を砕く手応えを感じる。
ガードされたか、でも右腕はバキバキだな。
美鈴は距離を取る。見ると右腕は完全に折れ、だらりとぶら下がっていた。
これで少しは、!?
「ゴフッ!」
俺の口から血が噴き出る。そして、左横腹に激痛が走る。痛みに耐えられず、膝が付く。
まさか、ガードの瞬間に反撃されたのか?
誤算だな。手強いなんてレベルじゃない。こちらのペースを悉く乱してきやがる。
相手の呼吸が掴めない。俺の呼吸が乱される。まるで、じーさんを相手にしているかのようだ。
「円」と「凝」を使う。これで謎の不意打ちに対応する。
「大丈夫ですか?かなり血が出てますが、もうやめておきますか?」
「いや〜正直舐めてたわ。悪かった。...............でも、俺はまだやれるぜ!」
俺はありったけの念を美鈴を飛ばして挑発する。
「なら行きま.........」
「ちょっと待って!」
突然俺の目の前に咲夜が現れる。咲夜は美鈴の方を向き、腕を広げて美鈴を止める。
咲夜!?
「もう実験は済んだから終了よ。」
「あ、本当ですか。じゃあ終わりですね。」
そう言うとそそくさと立ち去る美鈴。
「は?ちょっと待てよ!まだ終わって無いだろ!」
「何言ってるの?眼鏡のテストが、できたんだから終了よ。」
「そんなの関係ねえy........」
パチン
咲夜が指を鳴らした瞬間、俺の部屋に移動していた。
「........どういうつもりだ?」
「どうもこうも、あなたボロボロじゃない。」
「別に。かすり傷だし。」
「私はこの眼鏡で見てたのよ。あなた、美鈴の攻撃を2回も生身で受けてたじゃない。」
「でも、生きてるし。」
「それは、美鈴が手加減してくれたからでしょ。普通なら死んでるわ。」
それを聞いた俺は、更に苛立ちを覚える。
「うるせー!いいから元に戻せよ!」
「だから、怪我してるじゃない。」
頭に血が上っていく。
「平気だって言ってるだろ!」
「死んじゃうかもしれないでしょ!」
「お前には関係無いだろ!!」
................................................
...................................
「........................」
空気が凍り付いたかの様に静まり返る。
咲夜が俯き肩を震わせる。
歯を食いしばり、手を強く握りしめている。
そして次の瞬間、
「あんたなんか、もう知らない!この馬鹿!」
バタン
「...................」
そう叫ぶと咲夜はドアを叩きつける様に閉めて、出て行った。
チクショウ..........チクショウ.......
「クッソー!」
俺は床を思いっきり殴りつけた。