鋼の心   作:モン太

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記憶の懐中時計

「はい、レミィ。」

 

「ありがとう、パチェ。」

 

パチェから、例の眼鏡を受け取る。

 

今、美鈴とシャーキャが向かい合っている。眼鏡からは、シャーキャが全身から白い湯気の様なオーラを滾らせている。

 

今回の手合わせは、眼鏡のテスト。これを使って、私の戦闘とフランの戦闘を見る事が本当の目的。だから、もうこの時点で眼鏡のテストはクリア。一応、体裁としての組手と言う事になる。

 

私の視線の先には、臨戦態勢に入る両者。次の瞬間、美鈴の目の前に急接近するシャーキャ。

 

右拳にオーラが集中しているわね。ただの鎧って訳じゃなくて、固めたい箇所に集中させる事もできる訳ね。

 

それにしても、意外とシャーキャが押されてるわね。病み上がりのせいかもしれないけど。

 

でもシャーキャって、もっと猛獣の様な戦いをする子だと思っていたのだけど。美鈴の戦闘スタイルは相手の呼吸に合わせて、無意識にできる「隙」を突く古武術。猛獣の様な突進戦法のシャーキャなら「隙」が発生しにくく、そこまで苦戦しないはずなんだけど。

 

フランの様な狂気的な笑みを浮かべる事も多いからその様に見ていたのだけど、実はかなりの慎重派なのかしら?

 

美鈴が「隙」を突けるという事は、あの笑みの裏で思考を巡らしているという事だろうし。

 

何か化けの皮が剥がれる様な感覚をシャーキャに覚える。

 

すると、咲夜がシャーキャと美鈴の間に入って組手を止める。

 

まあ病み上がりだし、美鈴の蹴りを生身で受けてしまっているのは不味いわね。

 

「パチェ、今からあれを見る事はできる?」

 

「ええ、大丈夫だわ。行きましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「さて、この眼鏡も使えるようだし、早速観てみようかしら。」

 

「わかったわ。」

 

パチェが水晶に手を翳すと、私とシャーキャの戦闘の様子が写し出される。

 

「あれ?」

 

戦闘開始早々に、私はおかしな点に気付く。

 

「パチェ、オーラって白い湯気の様なものに見えたわよね?」

 

「ええ、私にもそう見えたわ。でも、この映像では紫色ね。」

 

紫色のオーラを纏ったシャーキャは、私に近付き殴る。私は腕が折れながらもガードに成功する。

 

「この時は驚いたわ。まさか、こんな子供が私の腕を折ってくるんだもの。」

 

「ええ、でも今はそれより、」

 

「わかっているわよ。シャーキャに殴られた瞬間に紫色のオーラが私にも着いたね。」

 

しばらく、様子を見るが変化は無し。だが、私が弾幕を放ち、シャーキャが躱した時に変化が訪れる。

 

シャーキャの周りの地面も紫色に変化する。そのまま砂鉄が地面から、噴き出す。

 

「あの砂鉄を操る力は、シャーキャの念能力の説明でも解明できなかったけど、この紫色のオーラが何か関係があるのかしら?」

 

「まだなんとも言えないわ。関わりはあるでしょうけどね。」

 

そして、私の体を覆っていたオーラが紫色から青色に変わり、砂鉄のオーラが赤色に変わる。

 

すると、砂鉄は生きているかの様に私を追尾する。

 

「色が変わったわね。追尾するのに関係があるのかしら?」

 

「わからないけど、シャーキャの言っていたこれ以上は教えられないと言う部分が、正にこれなんでしょうね。」

 

「なるほどね。この砂鉄の槍も、今だから前3つはブラフってわかるけど、こうやって見ると露骨にオーラ量が違うわね。」

 

「おそらく彼は、私達で言う妖力や魔力がどういった物かを説明しただけだと思うわ。」

 

場面はグングニルを投げる瞬間。グングニルとシャーキャが赤いオーラを纏う様子が確認される。

 

「赤色同士は逸れるのね。」

 

「.............まるで、磁石みたいね。」

 

「磁石?」

 

「そう。赤と青は引かれあい、赤同士は反発しあう。そして、紫色は中性。磁石かどうかはわからないけど、性質が似ていると思わない?」

 

「.............確かに。なら、このままフランの映像もお願い。」

 

ドスン!

 

唐突に館が揺れる。

 

「ん?敵襲かしら?」

 

「ちょっと見てみるわ。」

 

パチェが水晶を注意深く見つめる。

 

「はあ〜。」

 

「どうしたの?」

 

「敵襲ではないわ。ただの喧嘩よ。」

 

「また、あの2人は喧嘩してるの?咲夜は結構大人しい性格だと思ってたのだけど。」

 

「咲夜も彼といる時は、結構年相応になるわよ。」

 

「それだけ、咲夜の心が生き返ってきているって事かしら。」

 

「親心としても嬉しい?」

 

「...........まあね。」

 

「じゃあ、少し待ってて。」

 

そう言うとパチェは、小悪魔と念話し始める。

 

「これで良し。じゃあ、続きを見ましょうか。」

 

映像が切り替わる。フランとシャーキャの戦闘だ。

 

フランと遊んでいたシャーキャが突然吹っ飛ばされるシーン。吹っ飛ばされる瞬間、シャーキャの全身をオーラが包んでガードする様子がわかる。

 

「別に水晶越しでも基本は白いのね。」

 

「紫色のオーラは水晶が影響している訳では無さそうね。」

 

そして、シャーキャのオーラが紫色に変わる。

 

「やっぱり、何かしているわね。」

 

「ええ。しかも、今度は触れずに相手にオーラを着けているわね。」

 

「正直、話を聞いてた時は念能力なんて妖怪からすれば、ただの鎧だと思っていたわ。でも、目に見えないってのは厄介だわ。知らない間にあんな得体のしれないオーラを着けられていたなんて。」

 

「.................」

 

「どうしたの、パチェ?」

 

(レミィと戦っている時よりも、距離をとって戦っている様な気がする。妹様の攻撃が弾幕攻撃ばかりであるから、間違い無いはず。「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」を知っている彼なら、寧ろ接近しないと手を握る動作を防ぎにくくなる筈なのに。)

 

「なんでも無いわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しばらく放心していた俺は、懐から懐中時計を取り出す。

 

その時計は短針は無く、長針しかない。そして、針は12時の位置で停止している。

 

そして、懐中時計は空気に溶けるかのように消える。

 

すると、俺の肉体の傷が瞬時に塞がる。

 

記憶の懐中時計(リバースタイマー)

 

系統は具現化系。能力は生体情報の巻き戻し。

 

発動条件は、懐中時計の具現化を解く事。

 

制約は

①1時間前にしか帰れない。32分前などの指定は不可能。

②生体情報は全てリセットされる。つまり、プラスの恩恵も消される。例えば、修行した後にこの能力を使えば、修行の成果も消えてしまう。

③リセットは生体情報のみに限られる。

④連続の使用はできない。具現化から1時間のインターバルが必要。

⑤時計から半径2メートルが効果範囲。

⑥効果対象は1人。時計により近い方が効果対象。同じ距離ならランダム。

⑦手元から離れた時計は24時間しか具現化を維持できない。

⑧具現化した時計は1個しかこの世に存在できない。2個以上は同時に具現化できない。

⑨持ち主が死ねば、具現化は解かれる。

⑩持ち主が死んでも、死後の念として強化する事はできない。

 

この能力は、フラン様との戦闘経験と懐中時計をお嬢様から貰った事をきっかけに考えた能力だ。

 

オーラで守っていても、即死する様な攻撃。しかも、相手は制限も無しに使って来る。そんな相手と戦う為に必要な能力。物理的な攻撃から身を守るだけで無く、事象概念に干渉する攻撃に対する防御。妖怪や魔法使いを相手にするなら、そんな能力が必要だと考えた結果だ。

 

制約の数が多いが、発動制約が具現化を解く事。つまり、一度死んでしまっても具現化が解けるから蘇る事も可能。

 

もちろん、これ程の能力を得るからには制約の数が尋常では無い。10個の制約で初めて実現できた能力だ。

 

初めての使用だが、上手く成功したようだ。さすがに死んでも発動するかは、確認しようが無いが。

 

記憶の懐中時計(リバースタイマー)

 

懐中時計を再び具現化する。それを懐に入れる。

 

ガチャ。

 

時計を仕舞って服を整えると、扉が開く。入って来たのは、救急箱を持った小悪魔だった。

 

「何しに来たんだよ。」

 

「見ればわかるじゃないですか。傷の手当てですよ。」

 

「必要ねーよ。」

 

「あれだけの怪我をしておいて、必要無い訳ないじゃないですか。」

 

「なんでそんな事がわかるんだよ。お前は庭には居なかっただろ?」

 

「そ、それは............」

 

おそらく、パチュリー様の覗き見の魔法だろう。

 

「まあいいや。俺はもう大丈夫だ。だから咲夜のところにでも行ってろよ。」

 

「そうやって、強がって咲夜さんを泣かせたんですか?」

 

「............うるせーよ。」

 

「咲夜さんがなぜ、お節介焼いたか本当はわかっているんでしょう?」

 

「..................」

 

「ふふふ。」

 

ブチッ!

 

「テメェ。ぶっ殺されたいのか?この淫魔が。」

 

「じょ、冗談ですよ。あははは。」

 

オーラを滾らせると、引きつった笑みを浮かべる小悪魔。

 

「と、とりあえず傷見せてください。」

 

こいつも本当にわかって無いな。ああ〜もう面倒臭いな。

 

俺は上着を脱いでみせる。

 

「ほれ。怪我なんかして無いだろ。」

 

「ええ!本当ですね!でも、確かに吐血するほどのダメージを受けていたような気がするんですけど。」

 

「はいはい。もういいだろ。」

 

「わかりました。」

 

小悪魔は道具を片付けて、ドアを開ける。

 

「なら、早く咲夜さんに謝らないといけませんね。」

 

そんな事を言いながら、小悪魔はドアを閉めた。

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