翌朝
目覚めた俺は窓際から外を見る。
まだ怪しい奴の気配は無いな。
咲夜はまだ眠っていた。
俺も眠ってはいたが、窓側に座り「円」を貼りながら眠っていたため、あまり疲れが抜けていない。
まだ寝かせてあげたい所だが、すぐに移動しないとまずいだろう。咲夜を起こす。
「おい。起きろ」
体を揺さぶるとゆっくりと瞼が上がった。
「.......あれ?ここは?」
「起きたか。ここは俺のツテで匿ってもらってるホテルだ。」
「そう。......あれ?私?どうして.......ああ、そうか。」
1人で百面相していたが、だいたい状況が分かったらしい。
「とりあえず傷は治した。汚れたままだから、さっさとシャワーでも浴びておけ。俺は部屋の外で待ってるから、終わったら呼んでくれ。」
「あ、あの.....」
「言いたい事があるのはわかったから、後で聞いてやるよ。服はそこに置いてある奴を着ろ。じゃ後でな。」
俺は部屋を出る。
直ぐに移動したいが、1人にさせて状況を飲み込ませた方がいいだろう。あの感じだとまだ混乱しているようだからな。
俺はホテルのフロントに顔を出す。
紅茶を2カップ頼む。
紅茶は直ぐに届いたが、部屋には入れず外で俺が預かる。
しばらくして部屋から咲夜が呼ぶ声が聞こえたので中に入る。
「それは?」
「見ての通り紅茶だ。インスタントだが、落ち着く筈だ。」
紅茶をテーブルに置いて椅子に座る。咲夜も同じように座った。
「まず状況を説明するぞ。」
それから咲夜が眠ってからあった事とこれからの行動を話した。
「........わかったわ。でも、何で助けたの?」
「ん?何でってどういう事だ?」
聞くと、いきなり咲夜が立ち上がり怒鳴ってきた。
「私が貴方を攻撃した所為で、こんな状況になったのに何でこんな裏切り者を助けたのかって聞いてるのよ!」
呆気に取られたが、なんだそんな事か。
「別に深い理由はねぇよ。元々喧嘩してたのは俺の所為だった。ならこれでおあいこだ。」
そういうと、目を見開き驚いた表情をする
「そ、そんなの全然おあいこじゃ無いわよ。」
「だから深い理由は無いって。仲間なら当然助けるだろ?」
「...............」
咲夜はそのまま固まってしまった。
俺は咲夜を座らせて、頭を撫でて目線を合わせる
「何勘違いしてるかわからねぇけどよ。お前はお嬢様に忠誠を誓ってんだろ?今更エクソシストにビビる必要なんかないんだ。怖いんなら俺を頼ればいいし、俺で頼りないんならお嬢様に泣きつけばいいんだよ。」
それにお前の能力なら本気出せば、お嬢様すら殺せると思うぞ。
まあ本人は「時間を操る程度の能力」をどうにも過小評価してる感じがするが。
そう言うと咲夜は少し俯いた。前髪で目元が見えないが、そこから雫が落ちるのが見えた。
「.....ごめんなさい」
まあ見なかった事にしてあげよう。
「わかったな。ここからは常にパチュリー様の眼鏡をかけておけよ。紅魔館へは3日かかる。襲撃者にも警戒していくぞ。この際買い物なんてどうでもいいからな。」
部屋の出口に向かって歩き出す。
扉を開けていると後ろから小声で呟いてきた。
「........ありがと」
まあ聞こえなかったフリをしてあげよう。
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本気で移動すれば、一日で紅魔館には着く。だが、そのペースで移動すれば襲撃にあった時に戦う力がないだろう。
そのため3日を設定したが、思ったより早いペースで移動できていた。
咲夜は飛べる。俺はオーラを足に集中させて移動速度をあげる事ができる。
「全速力で飛べば、1日かからないならお前だけでも先に帰ればいいだろ?俺が後から追いかけるからさ。」
「2人で帰らないと意味がないでしょう。」
「だからそんな事言ってる場合じゃねぇんだよ!」
「メイド長に意見しないで!」
「あのなぁ.....」
こいつは急ぎたいのかそうじゃないのかよくわからない。
予想より早く移動できてる辺り、あのエクソシスト共にトラウマがあるんだろう。
だが、俺が最善案を言っても聞かず、俺から離れようとしない。
正直さっさと帰ってくれた方が俺としては安心できるんだが。
まあこれだけべったりなら仲直りできたって事でいいよな。そんな事どうでもいい状況だけど。
このペースで行けば2日プランでいいな。
そうして移動する事10時間。日も沈んだ事で今日のホテルに入る。
ロビーでのやり取りに首を傾げる咲夜を尻目に手続きを済ませて、部屋に入る。
「当たり前の様に相部屋なのね。デリカシーは無いのかしら。」
「何言ってんだお前。俺たちはまだ10歳にもなってないガキだろ。誰も気にしねぇよ。」
「............それもそうね。」
何だよ今の間は?
「ロビーでは随分と面倒な手続きだったわね。」
「あれは念能力者間の政治的なやり取りだ。咲夜が理解する必要は無い。というか理解されるとこちら側からもお前は命を狙われかねないぞ。」
「今も似たような状況じゃない。」
「まあな。とりあえず、シャワー浴びて来い。終わったら明日の打ち合わせするぞ。」
「覗かないでよ。」
「アホな事言ってないでさっさとしろ。」
「.........そ。」
ちょっと拗ねた顔で浴室に消えて行った。すぐにシャワーの音が聞こえてくる。
咲夜はだいぶ本調子に戻ってきたな。
咲夜に持たせている懐中時計の具現化を解く。
これで咲夜の1日の疲労がある程度無くなった筈。再び具現化させる。シャワーを浴びて疲労が回復したと錯覚してくれればいいが。あまり能力を明かしたくはないからな。
信頼してくれてるのか、特に疑うわけでもなく具現化した懐中時計は持っていてくれているのは助かる。
問題は俺の方か。疲労が回復できない。すでに「
「出たわよ。」
どうやら随分と考え込んでいたようだ。
「じゃあ、明日の動きを説明するぞ。」
「シャワー浴びないの?」
「後でな。」
「そう。わかったわ。」
「じゃあ始めるぞ。本当は昨日説明したかったが、俺たちよりも遥かに強い相手の襲撃を受けた時のフォーメーションについて。まず、念文字を教える。」
「念文字?」
俺は人差し指をあげる。オーラで数字の「9」を書く。眼鏡をかけている咲夜ならわかる筈だ。
「凄い!念能力ってこんな事もできるのね。」
「で、俺が前衛。咲夜が後衛で戦う或いは睨み合っているフリをしている間に念文字でカウントダウンするから、それに合わせて時間を止めて咲夜は離脱しろ。」
「ちょっと!貴方を見捨てろって事!」
立ち上がって怒鳴り出す咲夜。
「落ち着け、まだ話は終わってない。それで俺と敵からしたらカウントダウンが終わった瞬間には咲夜は遥か彼方にいる状況だ。そこで俺の能力を使う。」
「シャーキャの能力?」
「お前も知ってるだろ。お嬢様と俺が戦った時にお嬢様を引き寄せて殴りつけた技。」
「ああ、あれね。」
「あれの逆をやる。つまり俺が咲夜に引き寄せられるように移動するって訳だ。音速でな。」
「それって大丈夫なの?」
「オーラで守られてる俺は問題無い。お前も俺が必ず守ってやるから安心しろ。」
「.........わかった。もう寝るわ。」
咲夜はすぐにベッドに潜り込んでしまった。
「あ、おい。」
「話しかけないで.........」
まあいいか。俺もさっさとシャワーを浴びて軽く飯を食べよう。今晩も「円」で警戒するからな。
咲夜は大丈夫だろうが、俺の方がヤバくなってきたな。明日のコンディションが最悪の可能性も考慮しないといけないな。
本当の意味での最悪は、咲夜だけでも生きて紅魔館へ帰す事だな。