翌日
案の定、コンディションは悪かった。咲夜にはバレてはいないが、念能力者ならわかるだろうな。
全ての街を抜けて、最後の森に入った。紅魔館は近い。
「咲夜、止まれ。」
だが、「円」に反応があった。
次の瞬間、無数のトランプが飛んで来た。
全部オーラで強化されてやがる!
「咲夜、避けろ!ただのトランプじゃない!ナイフと同じだと思え!」
「
即座に砂鉄の槍で迎撃。咲夜に飛んで行った物は時間停止で回避していた。
今の咲夜は武器のナイフが一本しかない。衣服を剥ぎ取られた時に失ってしまった。即興で一本は用意したが、投げナイフは使えない。
「フッフッフ♡ クアンとセーチを殺っただけの事はあるね♡」
次の瞬間、悍ましいオーラが身体を駆け巡った。
現れたのは不気味なピエロ。
何だこの気色悪いオーラは?全身を虫が這い回るようなオーラだ。ついでに気色悪い笑顔も浮かべている。
咲夜を見ると全身をガクガク振るさせている。
仕方ない。彼女は相手の害意のあるオーラから身を守る術がない。俺ですら冷汗が出る程だ。
俺が体張ってオーラから護ってやるしかないか。
「健気だね♤ 彼女は念能力者じゃないのか♢」
「テメー誰だ?」
「うーん、ヒントをあげよう♡ イランでの君の活躍は素晴らしかったと言えばわかるかな?」
「あいつらの仲間か。」
「どうだろうね♤ ボクは気にしてないよ♧ ボクが興味があるのは君だ♡」
奴は俺を指刺してくる。それと同時に「隠」で見えないがオーラを飛ばしてくる。
俺はそれを半歩ずらして避ける。
「よく見えているね♡ でも気がついているだろう?もうボクのオーラが君の体に着いていることを♡」
俺は「凝」で左手を確認する。最初のトランプを迎撃する時につけられたか。
「ボクのオーラは、ガムとゴムの両方の性質を持つ♧ 『
随分とネタバレしてくれんだな。舐めてるのか?
実際力量差はかなりあるだろう。俺も本調子じゃないし。咲夜を守らなければならない。
ホテルで練っていた逃走プランもこいつのオーラがついてるんじゃ使えない。逃げてもこいつもついてくる事になる。
能力的には変化系か。応用力がある能力だな。かなり厄介だ。本人の技量が高ければ高いほど、力を発揮できるタイプの能力。制約も少なそうだ。いい能力してやがる。
勝てるかどうかは正直絶望的だ。だが、逃走できないなら、戦うしかない。
『100%勝つ気で闘る‼︎ それが念使いの気概ってもんさ』
モラウの言葉を思い出す。
そうだ。3日寝てないから何だって話だ。ちょっと疲れてるから何だって話だ。相手が強い?良いじゃないか!望むところだ!
紫色のオーラが体から溢れる。全力でオーラをピエロに叩きつける。
「ああぁぁぁああああ♡ 良いねぇ♡」
気色悪い笑みを浮かべていたピエロが背中を逸らし、天に向かって恍惚な表情で唸っている。
何だこの変態。
大きな隙だが、俺はつかない。
今のうちに咲夜に念文字で指示をだす。
『お前は俺の後ろに下がっていろ。相手はオーラを見えにくくする技術を使っている。その眼鏡でも見えない攻撃があるから、どんな状況でも手を出すな。今は奴の能力で離脱できないが、必ず隙を作る。俺がカウントダウンする時に備えて集中しといてくれ。』
情報不足も甚だしいだろうメッセージだが、咲夜は無言で頷いてくれた。
「俺はあんたみたいに能力は教えないぞ。」
「構わないよ♢ ボクの能力はバレても問題無い程の応用力があるからさ♤ 君の能力はじっくり確かめた方が面白そうだね♧」
ピエロが左手を此方に引き寄せる仕草をした瞬間、俺の身体が奴に引っ張られる。奴の右手には凶器のトランプ。
俺は引っ張られる力を利用して、体を捻って右足にオーラを集中させて蹴りを入れる。
切り裂こうとしていた右腕を蹴りで弾き、さらに体を捻って左足にオーラを移動させてで踵落としを入れる。
「オラァ!」
しかし、左手の敵のオーラに引っ張られて狙いが外れる。
外れた踵落としが地面を叩き、土埃が上がる。
即座に「円」で状況確認。
相手は俺に繋がっているオーラで場所がわかる筈。此方も蹴りを入れた時に磁力のオーラを付けている。だが、咲夜にターゲットが移ってる可能性がある。
俺に集中させる為に砂鉄の槍を作りピエロに投げる。土埃で見えなくても自動で追尾してくれる。
砂鉄の槍を投げた直後、「円」にトランプが飛来してくるのがわかった。
俺の左手についたオーラを使って飛ばしてきたか?なら避けるのは不可能か。
左手にオーラを集中して防御。
だが、トランプはオーラの防御を抜けて俺の左手の甲に刺さる。
「くっ!」
オーラで防御してなかったら、左手が落ちてたな。クソッ、簡単にオーラを貫きやがって!同じ変化系だってのに。
奴はトランプで砂鉄の槍を簡単に迎撃したようだな。
左手に刺さったトランプは抜かない。右手で触れば、そちらにもオーラが付く可能性を考慮してだ。
「シャーキャ大丈夫なの!」
「問題無い。擦り傷だ。」
「砂を操る操作系の能力かと思ったけど♧ ボクについてるこのオーラ♢ どうやらボクと同じ類の変化系能力だね♡」
「さあね。そんな事どうでも良いから、かかってこいよ!オメェはかなりの使い手だ。楽しませてくれよ!」
好戦的な笑みを浮かべ、全力でオーラをピエロに浴びせて挑発する。
「フッフッフ♡ 知ってるかい?変化系って嘘吐きなんだ♤ 君はボクと戦うよりもボクの注意を後ろのお姫様から自分に意識逸らしたいんだろう?」
「ごちゃごちゃ五月蝿え!ちょっとは集中したらどうだ?」
「君こそボクに集中してくれないかな?ボクが萎えるから♤ それともお姫様を先に殺した方がやる気になってくれるかな♡」
ピエロが咲夜にトランプを投げる。
「のやろう!」
俺は磁力の槍でトランプを迎撃する。だが、一瞬意識が咲夜に逸れてしまった隙をつかれて、ピエロが目の前に来ていた。
速っ!
「意識が逸れてるよ♡」
「ガアアアァ」
脇腹に敵の蹴りが刺さる。口から血を吐きながら、吹き飛ばされる。
俺の左手についてるオーラを伸縮させて接近したのか?つくづく能力が似てやがる。
朦朧とする意識を何とか繋ぎ止める。
右側の肋骨が2本折れたな。内臓に刺さらなかったのが幸いだな。
再び引き寄せられる。
またそれか!もう一度迎撃してやる........何!
今度は無数の瓦礫が飛んでくる。
成る程。直接迎撃するんじゃなくて、飛び道具で対処できない様にする訳か。この距離と速度じゃ迎撃は間に合わない。
左手腕にオーラを集中させて防御する。
「隙あり♡」
左側頭部を蹴り飛ばされる。
「グッ!」
ギリギリオーラの防御が間に合い、即死はしなかった。
「シャーキャ!」
咲夜の叫び声で意識が戻る。
「お死舞♡」
目のにはピエロが手刀で抜き手を構えていた。狙いは心臓。
「
俺を中心に砂鉄の津波が発生する。ピエロの手が届く前にピエロは高速で離脱した。
あいつの背中にゴムのオーラが付いてたな。それを森の木に付けて伸縮の力で離脱ってとこか。
無差別に広がっていた砂鉄の津波は纏まり大蛇となってピエロを追いかける。
「追尾するのか♧ 凄いね♡」
かなりの速度で砂鉄の大蛇は追尾するが、相手も木々にゴムのオーラをつけて凄まじい速度で逃げる。目で追えない程の速度に対応する為に「円」と「凝」で対応する。
「これあげるよ♡」
ピエロが此方に向かって飛んでくる。砂鉄の大蛇を引き連れて。
「バーカ。自分に当たる訳無いだろ。」
もちろん、砂鉄の磁性と俺が纏っている磁性は反発する。
「成程、君のオーラは磁性の性質を持つ能力か♧」
勢いそのままにピエロは咲夜に向かっていく。
緊張の表情でナイフを構える咲夜。彼女にはオーラから身を守る術は無い。無論、俺がそれを許す筈はない。
やっと、俺に
ピエロが俺に吸い寄せられる。
咲夜に手を出してんじゃねぇよ。殺すぞ。
引き寄せる能力はお前の専売特許じゃねぇぞ。
ガムのオーラで引き寄せられる速度とは比べ物にならない速度で引き寄せる。
音速の世界へようこそ。
「あああああああ
「硬」で攻撃力を最大にした右手を突き出す。このクソ野郎をミンチにするため。
だがピエロは敢えて、俺の左手についたオーラを伸縮させて打点をずらし、両腕を「硬」でガードする事で即死を免れていた。
チッ。これにも反応できるのかよ。だが両腕はバキバキだな。
吹き飛びピエロ。だが、不自然に停止する。
これで千切れてくれる事を期待してたんだがな。
未だに奴のオーラは俺の左手に付いている。これで止まったのだろう。また、オーラが消えないなら奴は死んでないって事だ。
案の定、鼻血を垂らしながら気色悪い満面の笑みを浮かべて起き上がってくる。
「いい♡良いよ♡実に良い♡」
いきなり体をビクビク震わせて唸りだすピエロ
「ああああぁあぁぁぁっっぁ♡ まだ成長するから完全に壊さないように気をつけてたけど、もう我慢できない♡ 今すぐ君を
ピエロが飛びかかろうと足にオーラが集中するのがわかった。「円」と「凝」で状況確認している。何か仕掛けがある訳でも、折れた腕を治すわけでもないが、こいつならこの状況でも俺を殺す術があるんだろうなと直感するが、
「お前、上忘れてねぇか?」
その瞬間、砂鉄の大蛇がピエロを飲み込んだ。
左手のオーラは消えない。
結果がどうなったか確認する前に即座に「周」で強化したナイフを取り出し、自分の左手を切り落とした。
「ちょっとっ...!」
喚きかけた咲夜をオーラで黙らせ、念文字でカウントダウンを開始する
『3』
『2』
『1』
舞い散る砂鉄をかき分けピエロが飛び出してくる。
「ぎぃぇええぁあああええあえええあああえあええあえああああ!」
全身を血に染めて、狂気に染まった顔で走ってくる。
『0』
咲夜が消える瞬間、
「
視界に映る瓦礫や土、木々が全て吹き飛ぶ。あの粘着性のあるオーラを樹々につけて耐えようが、樹々そのものも吹き飛ばす。ピエロの姿など一瞬で居なくなってしまった。
状況確認もしないですぐに
目まぐるしく変わる視界と衝撃に耐える。一瞬の後にくる咲夜との衝突に備える。
即座に全身のオーラを消す。
瞬間、空中で咲夜を抱きしめる。即座に「周」で咲夜をオーラで守る。俺は咲夜にダメージがいかないようにオーラは消したままだ。
「うっ。」
「グッ!」
咲夜が呻き声をあげたが、血を吐く等の重症はなさそうだ。
これで咲夜のダメージは無くなっただろう。
全身を音速の衝撃が駆け抜ける。身体中が悲鳴を上げ、軋む。
咲夜を離さない様に強く抱く。俺の手が離れると「周」が切れてしまうからだ。
とはいえこのままでは俺が死んでしまうので、着地する。両足のみオーラを纏い、
オーラで足を守った事もあり、骨折はしなかった。
「ふぅ。」
神業だ。
咲夜をキャッチするタイミング。「周」をかけるタイミング。着地と磁力操作の精度。
どれも0.001秒の誤差も許されない。特に最初の咲夜をキャッチし、「周」をかけるタイミング。正直に言うと俺は咲夜を一度殺してしまう事も覚悟していた。
「目を開けろ、下ろすぞ。」
咲夜は目を開け、ゆっくりと降りた。
意外と落ち着いているな。もしかしたら、事ある毎に時間を止めて精神を落ち着かせていたのかもしれない。
「あいつはどうなったの?」
咲夜は後ろを確認する。
先程の戦場から20kmも離れた場所から確認できる術は俺たちには無い。
「分からん。でも追いかけては来てないだろうな。これで追い縋れるってんなら、あいつは念能力者じゃなくて、妖怪の類だろうよ。」
元々人間より高いスペックでオーラまで扱えるバケモノなんて御免被る。
「私達は助かったの?」
「そうだな。」
「............その手」
咲夜の視線が俺の左手に移る。手首から先が無くなった左手。オーラで傷口を塞いであるから血が滴ることは無い。
「オーラで塞いだから問題無い。それより、服を汚して悪かったな。」
咲夜の服の背中には俺の血が付いている。
「........そういう事を言いたいわけじゃないんだけど、今は怒鳴らないでいてあげるわ。」
咲夜は安堵の表情を浮かべる。張り詰めていたものが無くなったのだろう。
緊張の糸が切れた事と、オーラや死の恐怖、過去のトラウマから解放された事からか咲夜が俺の胸に顔を埋めて泣き出した。
「ぅう....ううぅ」
とりあえず泣き止むまでゆっくりと落ち着かせるか。