鋼の心   作:モン太

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回復

目が覚める。相変わらず体が鈍りの様に重い。

 

視線を動かすと咲夜がタオルを絞っていた。

 

「今何時だ?」

 

俺の声に驚いたのか、バッと顔を上げた。

 

「に、二時よ」

 

咲夜の顔は泣いていたのか、目が赤いが健康そうだ。

 

それに安心を覚える。

 

「半日も寝てしまったか。」

 

「いえ、まる2日よ。」

 

「........そうか。」

 

咲夜はタオルを額に当ててくれる。

 

冷んやりと気持ちいい。

 

どうやら熱があるみたいだ。この体の怠さはそういう事か。

 

タオルを乗せた咲夜がモジモジとしている。

 

何か言いたい事があるのだろうか。

 

中々言い出さない辺り、言いづらい事か。

 

ならこちらが先に言うか。

 

「すまなかった。」

 

「え?」

 

咲夜がキョトンとした顔をする。

 

「心配かけてすまなかった。」

 

「い、いいよ別に。助けられたのは私だし。」

 

「いや、それだけじゃ無くて前の美鈴の時も含めてだ。」

 

「..............」

 

「俺は自分の為にしか力を振るってこなかった。それしか知らなかった。人を心配する感情を知らなかった。お前が拷問されて、助け出してベッドで寝ている時、不安だった。初めてお前の気持ちがわかった気がした。ここまでボロボロにならないと気が付かないなんて、俺は馬鹿だった。」

 

もう一度咲夜を見る。

 

「だからお前が生きててよかった。」

 

こちらを見ていた咲夜が泣き出す。

 

こいつはこんなにもよく泣くやつだったのか。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ん?」

 

「私、貴方の事を信用してなかった。これだけ私を護ってくれてたのに。貴方がどういう目的で私を助けたのか、疑ってばかりだった。私が貴方を心配して美鈴との戦いを止めたはずなのに。貴方が怪我してるのに助けにも入らずにこんな酷い仕打ちをした。」

 

泣きながら懺悔してくる。

 

「別に構わねぇよ。好きでやったからな。」

 

「ふふ.....でもこれだけは言わせて......護ってくれてありがとう。」

 

「ああ、友達だからな。」

 

「そうね。」

 

お互い笑い合った。

 

「まあよくもお互いボロボロになったもんだ。」

 

「それは貴方だけよ。」

 

「ん?そうか?」

 

「ええ、貴方が何かしてたんでしょ?私は無傷よ。」

 

「そりゃ良かった。」

 

もう一度、ベッドの中で記憶の懐中時計(リバースタイマー)を具現化して咲夜に渡す。

 

「もう良いわよ。それよりもその時計が何か教えてよ。」

 

どうやら懐中時計の事を勘付いたらしい。

 

それもそうか。これだけ乱用したら気がつくよな。

 

でもこの能力は他人に明かすことのリスクがデカすぎる。

 

「わかった。今度誰も覗いていない時に教えるよ。」

 

軽く「練」をする。

 

途端に誰かが部屋の扉から走り去っていった。

 

多分淫魔だろうな。

 

主人に言われて覗き見か、はたまた好奇心での覗き見か。後者だろうな。

 

遠見の魔法があるんだから、淫魔の目は必要ないはずだ。

 

「後で殺してやるわ。」

 

咲夜は相当ご立腹だそうで。

 

「ほっとけよ、めんどくせぇ。」

 

「貴方が良くても私は嫌よ。」

 

「そうかい。.....ん?」

 

視界の端に白いものがあった。手で触れると髪の毛だ。

 

「あれ?もしかして俺の髪の毛白くなってる?」

 

「気付いてなかったのね。......その、あ、貴方がベッド倒れた時には既に.....多分...極度の疲労で....」

 

咲夜が吃りながら説明する。

 

まあ大体わかった。こいつは自分の所為でこうなったと思ってるんだろう。

 

「そうか。ならこれでお揃いだな。」

 

「いえ、貴方は白で私は銀よ」

 

「そこ拘るのかよ......」

 

まあ一時的なもんだろうな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

また目が覚める。

 

咲夜と喋ってる途中で意識が飛んだらしい。

 

「目が覚めた?」

 

視線を動かすと咲夜がベッドの側にいた。

 

「お前ずっといるけど、仕事大丈夫なのか?」

 

「お嬢様の許可は得てるわ。」

 

「さいで。」

 

抜け目の無い事で。

 

「どんだけ寝てた?」

 

「2日よ。」

 

「またか。」

 

「4日間、何も食べて無いでしょ。食事を持ってくるわ。ついでに人払も済ませるから、そのつもりで。」

 

そう言うと咲夜は部屋を出て行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

咲夜はすぐに戻って来た。大量の飯を持ってきて。時間を止めて料理を作っていたな。

 

「そんなに食えねぇよ。」

 

「良いわよ。残りは私が食べるんだから。」

 

そう言いつつ、結構食べれた。4日間何も食べてなかったのもあるけど、こいつの作る飯が美味いからな。

 

咲夜はニコニコしながら俺を見ていた。

 

人の食べる様を見続けて楽しいんだろうか。

 

「それで、この時計の事が知りたいんだろ?」

 

「そうよ。やたら私に渡してくるその時計よ。気が付いたら無くなってるから、最初はびっくりしたけど、何事もなかった様に次から次へと渡してくるから気になってたわ。」

 

「人払できてるんだよな?」

 

「パチュリー様にもお願いしたわ。」

 

「なら、説明するか。」

 

「お願い。」

 

「じゃあ前に軽く念能力について説明したな。あれは念の基本の話だ。お前だったたら、霊力による身体能力の強化や飛行といったところだ。念能力にはお前の時間を操る能力の様に個人で持つ必殺技がある。」

 

「それがあの時計って事?」

 

「そうだ。あれ以外にもピエロが使ってた粘着性のオーラとかもそうだ。あいつ固有の能力だ。」

 

「シャーキャの紫色のオーラもそうなの?」

 

「そうだが、今は時計についてだ。この時計の能力は生体情報の巻き戻しだ。」

 

「生体情報?」

 

「そうだ。その時のコンディションを1時間前の状態に戻す。」

 

「それが一体何のメリットがあるのよ?」

 

「それが他人に聞かれたく無い理由の一つで、もし怪我や疲労しても1時間前に元気だったら、その状態に瞬時に戻れるんだよ。何だったら死んでしまっても、1時間前に生きていたら生き返る事だってできる。」

 

「そ、それは凄いわね。」

 

「もちろん修行などした後に使うと修行の成果も無くなるんだがな。」

 

「そんなのメリットに比べれば些細な事じゃ無い。」

 

「そうだな」

 

「念能力って本当にすごいのね。」

 

「時間を止める方が凄いだろ.......」

 

「でも通りで念能力者ってあんなに強いのね。」

 

「念能力は万能じゃ無いぞ。」

 

「そうなの?」

 

「お前の能力みたいに才能に依らず誰でも習得できるけど、色々と制限があるんだ。」

 

「そんな風には見えないけど。」

 

「その時計だってそうだ。その時計が効果を発揮するには10個のルールをクリアしないと効果を発揮しない」

 

「10個! そんなに条件つけてまともに使えるの?」

 

「まあ、なんとか使えてるな。お前が1番わかってんだろ?」

 

「そうだけど......あ、なるほど。だから私は治せてもシャーキャは治せなかったのね。」

 

「少し誤解ではあるが、そう言う事だ。念能力は厳しいルールを課せばそれだけ強力な能力になる。」

 

「誰でも使えるけど、強力な能力には制限があるのね。」

 

「そう言う事だ。」

 

咲夜に10個の制約の説明をした。

 

全ては理解できないだろう。念能力者じゃ無いとわからない内容もあるからな。

 

「随分と難しいルールね。」

 

「全て理解できるわけがない。念能力者じゃ無いとわからない事も含まれてるからな。」

 

「つまり、1個しかその時計は存在できないから私しか回復出来なかったわけね。」

 

「これはお嬢様や妹様に出会って作った能力だからな。」

 

「そうなの?」

 

「念能力は基本的に物理攻撃と防御が主体だ。だけど、妹様の『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は概念的に破壊してくる。念の防御なんて意味をなさない。ならそれに対抗する為の能力を作ったわけだ。」

 

「なら妹様と戦った時に使えば良かったじゃ無い。」

 

「まだ完成してなかったんだよ。完成したのは美鈴と戦う直前だ。」

 

「そうあの時ね。でもピエロと戦っている時とかは使っても良かったんじゃないの?」

 

「お前を守る為に戦ってんだから、お前に持たせるだろ。万が一死んでも生き返らせる事も出来るしな。」

 

「そ、そう。」

 

気恥ずかしいのか顔を赤くする咲夜。

 

「これだけのメリットと制限のある能力を他人には言えない。お前だから言ったんだ。本当だったら墓場まで持っていくつもりだったんだからな。」

 

「そうね。これは言えないわね。」

 

「明日からちょっとリハビリに付き合ってくれよ。」

 

「もう動けるの?明日も寝てて良いわよ。」

 

「.......そうかしら。」

 

「心配そうな目で見るな。問題ねぇよ。」

 

「.......わかったわよ。それでリハビリって何よ?」

 

「前に言ってた投げナイフの事だよ。」

 

「そう言えば言ってたわね。良いわよ付き合ってあげるわ。」

 

「サンキュー。」

 

「なら明日はよろしくね。早く寝て体調を回復させるのよ。」

 

咲夜は料理を片付けて部屋を出る。

 

ベッドから降りる。

 

鉛の様な重さは感じない。オーラを体に巡らせ、「纏」「絶」「練」を行う。

 

特に問題はなさそうだ。

 

咲夜に感謝だな。

 

俺は久方ぶりのシャワーを浴びて眠りについた。

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