鋼の心   作:モン太

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幻想入り
幻想入り


2ヶ月が経過した。

 

その間は実に平和な毎日だった。俺は咲夜から投げナイフを教わり、美鈴や小悪魔を的に遊んでいた。

 

美鈴はあの身体能力で巧みに避ける。練習にうってつけだ。「周」で強化したナイフは殺傷力が強すぎるからやらなかったが、実戦では有用な武器になるだろう。

 

小悪魔は悪戯してきた時の制裁や暇潰しに遊んでいる。

 

「酷いですよシャーキャさん」

 

2人とも涙目になりながらも付き合ってくれる。

 

いや、小悪魔は俺に悪戯を仕掛けてくるからお互い様か。

 

小悪魔の悪戯は不意打ちでくるから、此方も実戦で役に立ちそうだ。だからやめさせようとは思わない。

 

そうやって2人を的にしていると咲夜によく止められる。

 

そんな事をする為に教えたわけじゃない!

 

妖怪なんだから簡単には死なないからいいじゃないかと口喧嘩は日常茶飯事。

 

最終的には頬を膨らませて、投げナイフなら私が相手してあげると拗ねる始末。

 

確かに咲夜の投げナイフの腕前はすごい。俺が投げたナイフを全て投げナイフで迎撃してくる。

 

でも俺は知っている。咲夜だって居眠りしている美鈴や悪戯した小悪魔にナイフを投げる姿を見た事を。

 

パチュリー様は最近は本では無く、魔法陣を館中に描きまくってた。聞いたら、幻想郷へ転移させる魔法陣らしい。

 

普段動かない彼女が館内でも動き回っては、すぐにバテてる姿を見た事は内緒にしている。

 

妹様ことフラン様は特に変わりはなく、よく暴れている。最近は投げナイフに「周」で磁力を持った強化ナイフで戦う練習相手になってもらっている。そのうち磁性を持ったナイフの具現化もやりたいと考えている。

 

そっちはもう暫くナイフに触れて、イメージ修行を継続する必要がある。

 

お嬢様も特に変わりはないが、最近は幻想郷侵攻を控えてる為か、何処か気迫を感じさせる振る舞いが多くなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

館のエントランスに全員が集まる。

 

幻想郷へ行くための準備が終わった。

 

「いよいよね!」

 

と、腰に手を当てたレミリアお嬢様が意気揚々と言った。

 

「作戦を伝えるわ。」

 

パチュリー様が参謀役だ。

 

「レミィとシャーキャは遊撃。兎に角暴れて幻想郷を侵攻する。私と美鈴、咲夜は館の守護よ。」

 

ボスが外に出て暴れるのか。

 

「私達は皆実力者揃いだけど、多勢に無勢。戦い続ければ、敗北するわ。何処かで落とし所を見つけないといけない。紅魔館の実力を幻想郷に認めさせて、幻想郷の一勢力に数えられる事が目標よ。それまで反撃にやってくる妖怪からこの館を守りきれば、私達の勝利よ。」

 

成程、武力で勝つのは無理だから外交的勝利が目標なわけね。

 

ふざけやがって.......

 

俺のプライドがそんな甘っちょろい事を認めるはずはなかった。

 

俺だけでも全員屈服させてやるぜ。

 

静かに闘志を燃やす。

 

とはいえ、俺は何も幻想郷の事を舐めているつもりはない。あのパチュリーが無理だと言ったんだ。最強格の妖怪『吸血鬼』率いる陣営でも無理と言った意味を理解できない訳ではない。

 

だからこそ、潰してやる

 

床の魔法陣が光りだす。

 

「――合図が来たわよ。改めて聞くわ、準備はいい?」

 

皆うなづいた。

屋敷の敷地全てを覆う魔法陣が展開され、閃光のように輝いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

不思議な浮遊感のようなものがおさまると、皆は転移が終了したことが分かった。

 

「着いた、のよね?」

 

「ええ、そのはずだわ」

 

非常に静かであるが、なんとなく空気が変わった感じがした。

 

「じゃあ、行くわよ。シャーキャもついてきなさい。」

 

「りょーかい。」

 

俺とお嬢様はエントランスから外に出る。

 

「お嬢様、シャーキャ。御武運を。」

 

「ええ、館の守りとフランの事を頼むわ。パチェと美鈴もね。」

 

「わかってるわ。」

 

「了解しました。」

 

外は真っ暗だった。空には大きな満月。

 

全速力で外を駆ける。すぐに森に入った。

 

幻想郷とは随分と自然豊かな土地のようだ。

 

「良い感じね。力が漲ってくるわ。」

 

「それは何より。侵攻前に俺で試してみるのはいかがでしょうか?」

 

「フフ、魅力的な相談だけど、遠慮するわ。貴方にナンパなんて10年早いわ。それにお客さんがやってきたみたいね。」

 

「円」で感知するに数百もの気配を感じる。

 

「二手に分かれましょう。私の力に巻き込まれたくなかったらね。」

 

「お嬢様こそ俺の攻撃の余波で死なないでくださいよ。」

 

「ふん、誰にものを言ってるのかしら。」

 

360°から妖怪が襲ってくる。

 

俺とお嬢様は背中を合わせる。

 

「骨は拾ってあげるわ。」

 

「お嬢様は灰になりそうですけどね。」

 

「本当に口が減らないわね。ーースピア・ザ・グングニル!」

 

大地の意志(マグネティックフォース)!」

 

極大の赤い閃光と無数の砂鉄の槍が妖怪を穿つ。

 

そのまま俺とお嬢様は二手に分かれて幻想郷で暴れまわった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

向かってくる妖怪を薙ぎ倒す。

 

力を見せつけろとの命令だからな。好きにやらせてもらう。

 

とはいえ、妖怪の数が減りすぎると幻想郷を保てないそうで本末転倒だ。

 

だから、紅魔館を目指してる妖怪を重点的に狙って突き進む。

 

少しでも防衛組の負担が減れば幸いだ。

 

遠くにはお嬢様の妖力と魔力が広がっていた。中級妖怪くらいにとっては圧倒的と感じる程の力。

その魔力でもって周囲の妖怪を屈服させ従えさせた。 俺とは違い殺すだけで無く、集団としてまとめ上げる力。さすがは吸血鬼といったところか。そうしている内に、次第に数を増していき、その辺りの妖怪を丸ごと吸収し大きな集団になった。

幻想郷の危機を感じて出てくるような輩をおびき出すのが目的である。幻想郷全てを相手取るのは骨があるうえに、それでは意味がない。幻想郷でトップに立つことが目的である。

 

俺のオーラはお嬢様の妖力や魔力の様な自然な圧力では無く、不自然な威圧感を放つ為、相手が戦意喪失しても従う事はなく逃げ出す奴らばかりだ。

 

結果、俺の方は集団になる事もない。

 

お嬢様の方がやたら目立つ。

 

遊撃ではあるが、結局俺も防衛みたいなものだな。

 

まあ此方のボスなわけだし、あちらさんのボスもお嬢様のとこに行くだろう。

 

隠しボスとしてフラン様がいる。

 

彼女もお嬢様に引けを取らない戦闘力がある。

 

攻撃が直線的で読みやすい欠点があるが、それを補って余りある凶悪な能力を持っている。前情報無しなら、大妖怪ですら即死しててしまう能力だ。

 

お嬢様の様に頭を使って戦える様になれば最強の妖怪になるだろう

 

No.2のパチュリー様は紅魔館で最も手数が多い魔法使いだ。調子がいい時は固定砲台として活躍するだろう。接近戦が苦手だが、頭が切れる。何より恐ろしいのは2ヶ月間、俺が挑発しても躱し続けただけで無く、力の底を見せなかった事だ。ある意味でお嬢様よりも安心できる。

 

美鈴はトップ3人には少し劣るが、戦闘経験が豊富で接近戦最強だ。遠距離が苦手だが、パチュリーと連携を取れば死角がなくなる。

 

咲夜は未知数だが、能力が能力だけに不覚を取る事は無いと思う。そもそも防衛組は俺が紅魔館に攻めてくる妖怪の数を減らしているから大丈夫だと思うが。

 

小悪魔は時間稼ぎぐらいしか役に立たないが、あの臆病な性格上、パチュリーの影に隠れて生き延びるだろう。

 

それにしても数が多いな。雑魚ばっかだけど。ビヨンドと戦った時を思い出すな。あれはゾンビだったか。今は動物ばっかだな。

 

これだけ数が多いんなら、強いのもそれなりにいそうだし、お嬢様以上の存在もいるかもしれないな。

 

期待に胸を膨らませていると霧たった水辺に出た。

 

なんだ、湖か?

 

満月の夜の広大な湖。普段なら風情があるんだろうが、今は妖怪が犇めいていて、風情のかけらもない。

 

ん?

 

そこで「円」に妖怪とは違う気配を感知した。

 

精孔がある?人間がいるのか。

 

妖怪ばかりというか妖怪しか感知していなかったから随分と目立つ。

 

木の影に隠れているのか。俺がオーラを発しているから注意が逸れているが、この数じゃすぐに見つかるぞ。

 

オーラを節約してたから、「発」を使わずに「堅」と「流」だけで戦っていた。

 

大地の意志(マグネティックフォース)

 

手早く片付けて、あの人間を助けるか。

 

もし敵だとしても隠れて出てこないあたり、戦闘力は無いんだろう。

 

自由自在な砂鉄(クリークアイアンサンド)

 

瞬時に周囲を囲ってた妖怪を切り刻む。そのまま人間がいるだろう場所まで道を作るかの如く突き進む。

 

だが、ある程度蹴散らしたところでやはり人間に気が付いた妖怪がいた。

 

俺では無く人間に襲いかかる妖怪。

 

仲間じゃ無いって事だな。ただ巻き込まれただけか。

 

咄嗟にナイフを投げる。

 

ナイフは妖怪の群れの隙間を通り、人間に襲いかかる妖怪の首に刺さった。「周」によって強化されたナイフはただ刺さるだけで無く、首を爆散させた。

 

磁力の誘導無しで当てれた。咲夜との練習の成果だな。

 

首無しになった妖怪の体が倒れる。

 

他の妖怪達が、首無し死体に注目する。次いで人間の存在を認識する。絶対絶命だ。

 

だが、この妖怪達が動きを止める一瞬の隙を突いて磁力の弾丸(リニアバレット)発動。

 

音速で人間の元に駆けつけて抱える。そのままもう一度音速で離脱した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「立てるか?」

 

「う、うん。」

 

抱えてたのは人間の子供だった。

 

見た目は俺と同じぐらいの年齢だ。

 

赤い服に頭に赤い大きなリボンを付けた子供。

 

随分とお嬢様が喜びそうな色だな。

 

「どうしてこんな所にいた?」

 

「....わ、わかんない....」

 

わかんないっか.......。迷子か?

 

「親はどうした?」

 

「おや......?」

 

「お母さんだよ。お母さんはどこにいるんだ?」

 

そう聞くと子供は俯いて小さくつぶやいた。

 

「........みずうみであそんでたら、まわりようかいいっぱいになって......。う、うぅ...ぐすっ......」

 

完全な迷子か。こんな子供がそれ程遠くには移動できないだろう。近くだとは思うんだが。俺もあんまり些事に時間はかけたくは無いな。

 

「家の場所はわかるか?」

 

「......うん、わかる。」

 

わかるんかよ!なんで帰らないんだよ。.......いや、俺達が幻想郷に侵攻した所為で急に妖怪達が現れたから、あそこで身動きが取れなくなった訳か。

 

俺達の所為か。仕方ない付き合ってやるか。

 

そのままもう一度子供を抱えて、子供が指差す方向へ走った。

 

今はいちいち妖怪の相手はしたくないので、基本は「絶」でどうしても倒さないといけない場合は砂鉄の槍で倒した。

 

「ここ......」

 

最後に指さされた場所は長い階段だった。勿論駆け上がるなんて、面倒な事はしない。一気にジャンプする。

 

着地したそこはでかい神社だった。

 

懐かしいな。ネパールではこういう建物があった。最近はヨーロッパ方面に旅をしていたから、木造の寺院はめっきり見なくなった。石造りの寺社ばっかだったな。

 

人の気配がない。

 

「お父さんとお母さんはいないのか?」

 

「......おとうさんはいないよ。おかあさんはしごとにいったとおもう。」

 

家に着いたのにあまり元気そうではないな。おとなしい性格の子供か。

 

「仕事?」

 

「おかあさん、ようかいいっぱいでたら、ひとざとをまもりにいくっていってた。」

 

エクソシストか何かか?それに人里って?

 

「お母さんは何の仕事をしてるんだ?」

 

「うーんと、はくれいのみこってしごと?」

 

はくれいのみこ?巫女か?

 

ネテロが言うには東洋のエクソシストに退魔師がいると聞いていたが、それかもしれないな。

 

まあ、家まで届けたんだ。もう大丈夫だろう。

 

「もう家から出るなよ。お母さんの帰りを待てばいいんだからな。」

 

「うん。わかった........」

 

さっさとズラかろう。子供は助けてやったが、あくまで俺も紅魔館っていう妖怪側の一味だ。ましてや幻想郷を侵攻している最中。はくれいの巫女ってのは明らかに敵対関係になる可能性が高い。それにエクソシストにはあまりいい思い出がない。この状況で顔を合わすのは不味い。俺がこの子供を襲おうとしていると思われるかもしれない。

 

「......あ、あの.....」

 

「何だ?」

 

「.......なまえ」

 

珍しいな。この子供から話かけてくる事は無いと思っていたんだが。

 

「十六夜シャーキャだ。」

 

「はくれいれいむ。」

 

名前も名乗れるのか.....。いや、俺と咲夜が異常なだけか。

 

「じゃあな。」

 

俺は神社を後にした。

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