絶景だ。自然豊かなのもそうだが、妖怪、妖精、動物。種族問わず存在している。これだけの環境を作っている幻想郷は未知に溢れた土地だろう。今は表面上しか見ていないから、ただの異国の地といった所だが、俺の想像も及ばない環境があるだろう。お嬢様は約束を守ってくれた様だ。
さて、仕事に戻りますか。
神社の階段からの絶景に別れを告げて
お嬢様がいるだろう場所とはくれいの巫女がやってくるだろう方角を避けて進む。
「ん?」
再び森に入るが、何かおかしい。
雰囲気が違う。毒か?俺には効かないから構わないが。妖怪が強くなった気がする。
そのまま森を抜けてしまった。
何だったんだ、今の森は?
何処か不気味な森の事が気になったが、すぐに目の前の景色に目が奪われる。
一面真っ白。
花畑。白い花が視界いっぱいに広がっていた。月夜に浮かぶ白い絨毯。
静かだ。あれだけ蠢いていた妖怪が一匹もいない。
ある程度、殺し尽くしたか?なら、戻って別の方角からやってきているだろう妖怪を殺さなければならない。
だけど、俺は目の前の光景に好奇心がくすぐられていた。それに抗う事なく進んだ。
鈴蘭って花だったか。毒性があるらしいが俺には関係ないな。妖怪がいないのもこれが原因か?この先は何があるんだろう?
鈴蘭畑を抜ける。かなりの広さだった。こんな状況じゃなきゃ、ゆっくり見ていけるな。
幻想郷はすごいな。ここだけで一つの世界を作ってるだけはある。
暫く歩くが、鈴蘭畑を抜けてからはただ森が続いた。妖怪も全然現れない。
ゴールか。そろそろ引き返すか。
変わり映えのしない景色に飽きてきた頃、また景色が一変した。
花畑だ。再びの花畑。だが、今回は黄色。向日葵の畑だ。こちらも絶景だ。
この調子なら抜けた先にチューリップ畑があっても驚かないぞ。
「どうかしたのかしら?ぼうや?」
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不気味。目の丸の存在を一言で表すなら不気味が1番しっくりくるだろう。
「お前がここの首領か?中々のものだな。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。」
余裕の笑み。腰まで届くウェーブのかかった金髪に紫と白の服が特徴的だ。
どこぞのわかりやすい威圧感を放つクソガキとは対照的な虚無感。圧倒的強者のはずなのに、圧を感じない。
自身の行く末に薄暗いものを感じる。
実際に対面しているのに、実力が読めない程に力の差があるのか?それとも元々、他人を化かす事が趣味な偏屈者か?後者な気がするが、確証は得られない。
「やればわかることか?」
「あら、未来でも見えるんですの?」
「ああ、お前が這いつくばる姿が見える。」
「どうやら目は節穴な様ですわね。」
「........問答は終わりだ。」
翼に妖力と魔力をためる。翼が光だし、夜を染め上げる。
「せっかちね。それも嫌いじゃないけど」
言い終わる前に行動を開始する。
こいつはパチェと同じ匂いがする。
吸血鬼は膂力が武器だ。遠距離が得意で近距離が苦手なら、わざわざ相手の土俵で戦う必要もない。天狗の速度にも引けを取らない吸血鬼の速度で突進する。満月の力を借りて。
だが、渾身の一撃を容易く躱される。空を切る爪。
「あら?もう終わりなの?」
何度も突進する。花火の様な弾幕が襲いかかる。全て避ける。自身は弾幕は放たない。その分の力も身体能力向上に費やした。
弾幕が掠るが気にしない。不死性が高い吸血鬼だ。すぐに傷は修復される。それでも数は多い。治癒に妖力が削られるのがわかる。短期決戦が望ましいだろう。
何度も繰り返すが、届かない。相手が後退しながら弾幕を放つ。それに対して全身する際に上下左右とジグザグに飛ぶからだ。
小休止。どちらともなく停止した。
「まだやるつもりですの?いい加減無駄だと悟ったらどう?」
呆れ。扇子の奥で嘲笑しているのだろう。だが活路はここしか無い。なればそこに全力で
再び妖力と魔力を体にみなぎらせる。
とそこで遠くで妖怪達が騒いでいるのが見えた。
「天狗の里で何かあったのかしら?まあ、あそこは基本的に私干渉したくありませんので、どうしても困って泣きついてきたら手伝ってあげましょう。面倒臭いあの天狗の長が頭を下げる姿が今から楽しみですわ。」
幻想郷の政治的な事は知らない。これから知ればいいのだから、今は眼前の敵に吸血鬼の力を理解させなければならない。
余所見している敵に容赦せずに突進する。
流石に油断しすぎていたのか。嘲笑が消える。
空間が裂けた。その裂け目から無数の目玉こちらを除いている。
敵はそこに体を潜り込ませた。
次の瞬間背後から弾幕を浴びせてくる。
これが奴の瞬間移動のタネか。
無数の裂け目が出現する。裂け目からレーザー光線、鉄塊などが降り注ぎ、さらに弾幕も襲いかかる圧倒的物量。
避ける事など叶わず、そのまま地面に押しつぶされた。
全身がトマトが弾けた様に真っ赤に染まる。痛みで意識が飛びかける。それを気合で繋ぎ止める。
負けるわけにはいかない。
運命を見た。妹の呪われた運命はここ幻想郷で解放される。
ここで無様に這いつくばるわけにはいかない。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!」
ブチブチブチッ!
鉄塊から無理矢理抜け出す。左腕がちぎれる。右足がもがれる。だから何だ。この程度、フランの痛みに比べれば何て事は無い。
ありったけの力を翼に込めて飛翔する。
爪を伸ばす。敵の首を切り裂くために。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
「非礼をお詫びしますわ。貴女の覚悟に敬意を表しましょう。」
爪が届く瞬間、全身が灼熱に包まれた。
「グッガアアアアアァァァァァァ!」
痛みに一瞬意識が飛ぶ。だが、次の瞬間には全身が焼かれて目覚める。
空に太陽が現れていた。
何故?今は満月の夜の筈。
考えが過ぎるが、すぐにどうでも良くなる。
どうせ死ぬなら、一矢報いらなければならない。幸い敵は目の前、全ての力をこの一撃に。
「スピア・ザ・グングニル!」
空間を削りながら、死の魔槍は敵に吸い込まれる。
だが、敵の目の前で空間が避けるグングニルは吸い込まれる。そのまま自分に向かって飛び出してきた。
「フラン、ごめんなさい。」
そこで意識は無くなった。
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「どうかしたのかしら?ぼうや?」
身体から冷や汗が一気に出てくる。
辺りの妖怪が居なくなって暫くしていたから、油断していた事は認めよう。雑魚ばっかりだったから「円」を解いていたと言い訳もしよう。だが、こんな簡単に背後をとってきたこいつは何者だ。
振り返る。そこには妖艶な笑みを浮かべ、日傘をさした女。
今は夜だぞと場違いなツッコミが頭を過ぎるが無視する。
「聞こえなかったかしら?どうしたの?ぼうや?」
即断即決。
「
相手は話しかけて来てはいるが、漏れ出る殺気を隠していない。大方ここに侵入した俺を殺しに来たんだろう。話しかけて来たのは、強者の余裕というやつか。
だがな、この距離で油断してる敵は間抜けだ。音速で必殺技をぶちこんでやる。
直感が告げている。こいつは今まで出会った奴らで最強の敵だと。だから容赦しない。
渾身の一撃が決まったかに思えた。
「っ!」
だが、敵は日傘を畳み盾にし自分の左腕を合わせることで無傷で防御した。
あれに反応し、最適な防御を可能にする動体視力と身体能力。馬鹿な.....。
すぐに相手が回し蹴りを放ってくる。
この一撃は
「硬」で咄嗟に左腕にオーラで固めて防御する。
「グッ!」
吹き飛ばされる。だが、すぐに着地する。奇跡的に無傷だ。だが、左腕の感覚がない。折れてはいない様だが。
クソッ!化け物め!
「硬」で防御してこれか!
痛みに顔を顰めている間もなく、相手は接近していた。
日傘が振り下ろされる。咄嗟に避ける。避けた先、地面が避ける。
馬鹿力なのはわかった。接近戦が得意なのもわかった。なら
俺は「凝」「円」で反応速度を最大限にまで上げ、「堅」を維持して殴り合った。
無心で躱し殴る。「硬」で防御してもダメージを負うんだ。「堅」では骨が折れてしまう。即死しない様に「堅」で守っているに過ぎない。基本は避けるしかない。
だが、
一旦距離を取る必要がある。だが、
仕方ないオーラ消費が多いから、使うのは控えていたが
即座に敵を吹き飛ばした。
だが流石は化け物。少し吹き飛んだところで、地面に日傘を突き刺し耐えた。
だが、間合いが離れたなら使える!
「
地面を踏みつける。砂鉄の遠距離攻撃で押し潰してやる。
「何?」
だが何も起きない。
「ふふふ。貴方さっきから地面を見てたけど、何かしたかったんでしょう?残念だったわね。私は『花を操る程度の能力』を持ってるの、この向日葵畑の土を耕される訳にはいかないわ。地面に蔦を這わせておいたわ。」
このヤロウ!
そんなふざけた能力で防いだってのか!?なら、これはどうだ!
「
「周」で強化した音速の投げナイフを投擲する。オーラで強化されたそれは投げナイフと言うよりは砲弾のそれだ。
だがこれも簡単に掴まれて粉々に砕かれた。少し血が滴っているがそれだけ。普通なら掴んだ腕は消滅する程の威力だ。
「凄いわね。私に血を流させるなんて、どんな能力なのかしら?」
「チッ」
多少は傷が付く上に遠距離攻撃が通じたのは、この
一気に10本投げた。しかし、多少の傷は作れても全てキャッチされる。
「お返しするわ。」
そのまま投げ返してくる。
速い!
流石に音速ではないが、人間が反応できるレベルじゃない。
咄嗟に飛んでくるナイフと体の磁性を変換。反発させて逸らす。
ナイフに意識が集中した隙を突かれ接近を許す。
逃げようと足を動かそうとするが、足に蔦が絡まる。
敵の拳が腹に入る。そのまま俺は天へ打ち上げられた。
咄嗟に「硬」で防御が間に合ったが、猛烈な痛みに悶える。
「グウウゥ」
人をボールみたいに簡単に打ち上げやがって。
視線を敵に移す。
相手は日傘の先端を此方に向けていた。
「マスタースパーク」
黄緑色の閃光が迫る。
「
咄嗟にナイフを投げる。空中で閃光と
空中に投げ出され動きが取れない俺は両腕を「硬」で防御する。
「クウウゥ」
両腕にかかる衝撃が凄まじい。腕が焼けるように熱い。このままでは貫かれてしまう。
「
閃光が四方八方に弾ける。その衝撃で射線から抜ける。俺はそのまま重力に従って落下した。
「はあ、はあ。」
オーラをかなり消費した。
何処だここは?
随分と飛ばされてしまった。
「貴様何者だ!」
「空から降って来たぞ!」
「人間か!」
「何故妖怪の山に侵入して来た!」
「白狼天狗は何をしている!」
考える時間はくれなさそうだ。
白い翼が生えた犬耳の奴と黒い翼が生えた奴らに囲まれた。
「
消耗が激しい。その上数が多いし、さっきの花妖怪程ではないが雑魚ではなさそうだ。
此方も手数で対応する。
「何!ただの人間ではないのか?」
「ええい!鬱陶しい!」
飛んでくる妖術、斬術を躱し、砂鉄の槍で攻撃する。だが、お互い力が拮抗しているからかどちらも決定打が出ないで膠着してしまう。
オーラが少ないんだ。手を変えないといけないか。
そんな事を考えていたら、急に空が明るくなった。
「は?」
空には太陽が浮かんでいた。
急に昼夜逆転したのか?意味がわからんのだが。
気が逸れたのが不味かった。
「今だ!」
一瞬で風の妖術で砂鉄を散らされて、俺の身体は空へ投げ出された。
また空中遊泳かよ!
何とか着地しようと下を見た俺は凍りつく。
地面がなかった。大きな穴があった。
「ちょっ!」
視界の端で紅い光が見えた。
あれはお嬢様のスピア・ザ・グングニル。
クソッ!
穴が迫る。
俺も空を飛べたらな..........。今度俺も飛べる能力を考えるか。まあ、次が来る前に俺は死にそうだがな。
走馬灯が頭を駆け抜ける。ジジイ、モラウ、ノヴに育てられた事。旅をした事。世界にはいろんな奴らがいる事を知った。お嬢様に出会った。咲夜と生活した2ヶ月間。友達ができた事。友達と喧嘩した事。誰かを護る事。誰か心配する事。初めて知った感情。幻想郷に来た事。かつてない強敵に出会った事。
全てが過ぎ、最後に咲夜の顔を思い出す。
ああ、心配かけてしまうだろうな。すまねぇ、咲夜。
そのまま俺は穴に吸い込まれた。