旧地獄
橋に佇む金髪の女…特徴的な耳を持つ、”橋姫”水橋パルスィは、いつも考えていた…。
地上の光が妬ましい…
吹き荒ぶ風が妬ましい…
旧都の光が妬ましい…
皆の笑顔が妬ましい…
私自身の呪われた力が妬ましい…
恋人に裏切られ、憎悪と殺意のままに、橋姫としての役目を放棄し、鬼となりながら、恨みを晴らした私には…
この世界は眩しすぎる…忌むべき者が集う地底に来てもそれは変わらなかった…
この世の全てが羨ましく…この世の全てが妬ましい…
いつも胸を焦がす、陰窟した思いを胸に橋から川の流れを眺めていた。
ここは地底と地上を繋ぐ穴の近く。
知り合いの蜘蛛女と釣瓶女、物好きの鬼女ぐらいしかやってこない。
私に近付くと精神を蝕まれる。それは私の種族による特性でもあり、能力でもある。まあ、意図的に能力を行使しないと発現はしないが。
だが、他者から見れば関係ないだろう。だからどうしても通らないといけない者と自分に絶対的な自信がある者しか近づいてこない。端的に言うと嫌われ者だ。
この地底にはもう一人の嫌われ者もいる。心が読める能力を持っている彼女はペットに囲まれて引きこもっている。私はよくそこへ赴く。嫌われ者同士が仲良くなるのは、地底でも同じ事だ。だけど、長時間は一緒にいる事ができない。心が読めてしまう彼女は、私の心を読みすぎると精神を蝕まれるからだ。
妬ましい。
同じ嫌われ者のはずなのにどうして、彼女の周りにはペットがいるの?何で私の周りには誰もいないの?
そんな事は誰よりも自分がわかってる。それでもこの妬ましさは抑えられない。
そんな時だ。橋の側に人間の子供が落ちてきたのは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここは?」
目が覚めると知らない部屋にいた。
「いてて......」
起き上がろうとして全身が悲鳴を上げた。
そういえば大きな穴に落ちたんだっけ。全身を打ちつけたか。
「堅」での守りがあったから助かったのか。
記憶の懐中時計の具現化を解く。瞬時に体の痛みが無くなる。
起き上がって周りを見渡す。
紅魔館ではないな。何処だここ?
周りの物が洋風な物で統一されていた紅魔館とは違う。ネパールとも違うが木造の建物である事は似てる。
寝かされている物だってそうだ。ベッドじゃなくて布団。アジア方面での寝具だ。
巻かれていた包帯を取る。もう怪我は治ったからな。
脱がされていた上着を羽織る。
着替えながら状況を思い出す。
幻想郷にやってきて暴れまくったら、馬鹿力な花妖怪にあったんだ。あいつに吹き飛ばされて、天狗共にも吹き飛ばされて、気が付けばこんな所にいた。
思い出すだけでも腑が煮え繰り返る。
屈辱だ。天狗などどうでもいい。あれは所詮数が多いだけの雑魚だ。無論一人一人が実力者なのはそうなんだろうが、あの花妖怪を知った今なら雑魚だ。
そう花妖怪だ。決着は着かなかったが、完敗だ。あのまま戦っていたら俺は死んでいただろう。
奥義の
最強種の吸血鬼と手加減されながらも渡り合えてたと思っていた。だからこそじしんもあった。それを簡単に防がれた。屈辱だ。必ずあの花妖怪を叩きのめしてやる。
ガラガラ
部屋の戸が開かれる。
思考を中断して振り返る。
「もう目が覚めたのね。」
金髪の女だ。
耳が長いな。なんだあれは?
「あんたが助けてくれたのか?」
「貴方、すぐそこで倒れてたから拾ってきたのよ。ここは人間が来るには危険な場所だから。」
「ふーん。サンキューな。でも俺は強いから心配無用ね。」
「随分と自信があるのね、妬ましいわ。」
「はあ.....。」
妬ましい?
何だよ、こいつ。さっきからなんか暗い雰囲気だし。めんどくせぇ感じがする。さっかさとズラかろう。
「じゃましたな。すぐに出て行くよ。」
「待ちなさい。」
出て行こうとすると止められる。
何だよ。
「傷はもう良いの?」
「はあ、無傷だよ。」
俺は服を捲って腹をみせる。
「人間と思ってたけど、実は妖怪?」
「人間だよ。タネは明かさないけど。」
「そう。なら今から私に着いてきて。」
女はすぐに外に出ていった。俺は慌てて追いかける。
「ちょっ、待てよ!....え?」
外に出て唖然とする。
空が無い。満月の夜でも、太陽輝く青空でもない。真っ赤な岩盤が空を覆っていた。
風景も違う。自然豊かな森が広がる景色とは異なる。草木は生えておらず、剥き出しの岩盤に無造作に建てられた木造建築。行き交う妖怪達。街中には違いないが、歪な感じだ。
本当にここは何処なんだ?幻想郷じゃないのか?
不安が首をもたげる。
そうだ、幻想郷だ。もし幻想郷ならここでも暴れる必要がある。
だが、場所の把握はしたい。紅魔館へ帰る為には必要な事だ。
「おい、ここは何処なんだ?」
「それは今から行くところで説明する。」
「今じゃだめなのかよ。」
「長くなるからね。それより気配はできるだけ消して。」
「なんで?」
「妖怪に絡まれるからよ。」
現在進行形で絡まれてるんだが。
「別にかまわねぇよ。全員倒すから。」
「いいから、貴方の服装は目立つのよ。」
たしかにそうだろうな。ここにいる奴らはどちらかと言えば、ボロい服を着た奴らが多い。目の前の女はそうでもないが、流石に俺の執事服はここでは綺麗すぎる。
妖怪でもなくても、こんな格好でスラム街歩いてちゃ、絡まれる。
いちいち相手にしてたら、一向に進まないか。
「絶」で気配を断つ。
瞬間、女が振り返る。
「あら、本当に気配が消えるのね。驚いたわ。」
「気配を消せって言ったんだろ?いいじゃないか。それよりお前名前は?」
「随分と生意気ね。妬ましいわ。........水橋パルスィよ。貴方は?」
「十六夜シャーキャ。よろしく。」
そう言うとパルスィは目を見開いて驚く。
「なんだよ?」
「いえ、よろしくなんて初めて言われて驚いたのよ。」
「なんで驚くんだよ。人生で一度は言われるだろ?」
「..........ええ、そうね。それより貴方、今更だけど私と一緒にいて大丈夫なの?」
は?どういう事だ?
別に何もないが?
「何の話だ?不都合でもあるのか?」
「いえ、何もないならいいのよ。」
その顔は何処か嬉しそうに見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何度か妖怪に絡まれた。気配を消しても姿が見えない訳じゃないからな。
その度にパルスィの顔を見ては、そそくさと逃げ帰る妖怪達。
彼女は嫌われてるのか?さっき一緒にいて大丈夫かと聞かれたが、それと関係あるのか?
「着いたわ。」
立派な建物だ。さっきまでのスラム街からは場違い感が凄い。
紅魔館と遜色ないレベルだな。色は白いが。
パルスィは勝手がわかっているのだろう。迷う事なく歩き進める。
門番はいないのか?
俺も彼女に着いて行くと、中から猫耳と尻尾が生えた女が出てくる。
「パルスィさん、こんにちは!そちらの方は?」
「彼は穴から落ちてきたのよ。さとりに合わせようと思ってね。連れてきたのよ。」
「なるほど、それならあたいに着いて来てください!」
やかましい女だ。猫の妖怪か?
「あんた名前は?」
「火焔猫燐です。お燐って呼んでくださいね!」
「十六夜シャーキャだ。」
「貴方、人に名乗らせる前に自分で名乗りなさい。」
「うるせぇな。こっちも名乗ったんだからいいだろ。」
「うふふ。早速お姉さんに怒られてますね。」
キレそうになったが、耐える。この猫を潰すのは容易いが、状況把握できていない現状では悪手になるかもしれない。
猫女に着いて行くと大きな一室に案内された。
中には部屋の中央で本を読んでいる子供がいた。背丈は咲夜よりは大きいか。
お嬢様と一緒で妖怪だから見た目通りの年齢ではないのだろう。
「あら、パルスィ。どうしたの?.......ああ、そう。ならそこに座ってちょうだい。」
そことはソファを指さす子供。
「子供、子供と随分と失礼ですね。貴方も子供でしょうに。」
ん?今声に出したか?
「いえ、出していませんよ。」
とりあえずパルスィと一緒に座る。
成程、そういう能力か。
「勝手に一人で喋らないで欲しいわ。頭がおかしい奴だって思われるわよ。」
「それなら心配要らないわ。すでに思われているから。」
コト、コト。
「はい、紅茶です。」
紅茶か。なんでここだけ洋風なんだ?
どれ、味をみてみよう
俺は紅茶に口をつける。
ふむ。思ったより美味しいな。咲夜程ではないけど。
「ちょっと貴方!」
横から焦った声が聞こえる。
「何だよ、失礼だって言いたいのか?相手が出してきた茶だろ。いいじゃん。」
「そうじゃなくて!........って貴方大丈夫なの?」
ん?
「はあ、お燐。残念だったわね。」
子供が溜息を吐く。
何だよ?
「先に謝っておくわ。ごめんなさい。彼女、紅茶に毒を入れてたみたいなのよ。」
毒?なんでだよ。ここまで案内しておいてか。なら最初から殺せばいいじゃねーか。
「彼女の妖怪の本能でね。死体を運ぶのが趣味なのよ。」
悪趣味だな。こいつに俺を殺せる程の力があるようには見えないが、実力差はしっかりと教えてやるべきか。
俺は猫女の前に行く。
「い、いや〜ちょっと砂糖と毒を間違えて入れちゃいました。ごめんなさい〜。」
「いいよ。誰だって間違いの一つや二つあるからな。」
「ありがとうございます!お優しいんですね。」
「ああ、だからちょっと屈んでよ。」
俺の言葉に感激して、屈む猫女。そっと耳に口元を寄せて小さく言った。
「次やったら、お前が死体になるかもな。」
小さくお燐にだけ念を飛ばす。
「...............」
そのまま猫女は気絶して倒れた。
「満足したかしら。」
「ああ。」
「貴方平気なの?」
パルスィが心配そうに此方を見てくる。
ああ、やめてほしい。その視線は苦手なんだ。むず痒い。誰かさんを思い出す。
「平気。訳あってな。........それより俺をここに連れてきて話したかった事って何?」
「それは、ここの説明と貴方のこれからよ。」
これから?どういう事だ?
「私から説明します。まず自己紹介を、古明地さとりと申します。地霊殿の主人であり、地底の管理者です。」
「十六夜シャーキャだ。」
地底とか地霊殿とか単語が出たな。
「地底とは妖怪の山の穴につながるここ旧地獄の事。地霊殿はこの建物。」
その後も特に俺から喋る訳でもなく、さとりが一方的に俺の疑問に答えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふーん。心が読めるって便利だな。」
「そんな風に肯定的に捉える物好きは中々いませんよ。もっともこの能力を恨んでさえいる私に対して、便利だなんて言葉をかけられるのもそれは嫌ですが。」
「じゃあ、どっちがいんだよ!」
面倒臭い奴らばっかりだな。地底に来てからは特に癖の強い連中ばかりだ。
「乙女心とはそのような物です。」
「一生理解できる気がしないね。」
「せいぜい努力してください。貴方の為にも。」
「........で、肝心な事言ってないだろ?どうやったら地上に戻れるんだよ?」
そう言うと、さとりは言いにくそうに口を開いた。
「........残念ですが、地上には帰れません。」
瞬間、一気に体からオーラが吹き出した。
「ちょ、ちょっと抑えて、説明しますから!」
オーラを抑える。さとりは顔色を悪くしながら、小さく「おっかないわね」と呟いていた。
ソファに座る。隣を見ると余り動じていないパルスィが静かにお茶を啜ってた。
「平気なのか?」
何がとは言わない。わざわざ念能力のことを口に出す必要はないからだ。
「私に直接向けられた訳では無いし。慣れてるから平気よ。」
そう言う彼女の顔は何処か悲しげだ。また誰かさんを思い出しそうになる。
「私もパルスィもそういったものを向けられるのは慣れてます。直接向けられれば身構えますが。」
さとりは何となくわかる。心が読めるんだから、会う人が皆警戒され、悪感情を持たれてしまうのだろう。では、パルスィは?さっき街を歩いている時も皆から避けられていた。
「そちらの話は後でいいでしょう。まずは地上へ帰れない理由ですが、地上と地底はお互い不干渉の条約があります。これは地底の管理者の私と幻想郷の管理者の八雲紫の間で結ばれています。また、地獄の閻魔様の四季映姫によって調停されたものです。今回貴方は偶然、ここに落ちて来た。貴方が帰る為には偶然地上に出るしかありませんが、既に私が認知しています。私の立場上、容認も黙認も難しいでしょう。仮に貴方が武力や話術等で私の口を封じれたとしても、まだ問題はあります。貴方は幻想郷へ侵攻して来た勢力だった事実です。これも地上への帰還が難しくなる原因ですね。紅魔館の幻想郷侵攻の結末にもよりますが、ほとぼりが冷めるまでは待つ必要があるでしょう。」
また知らない単語が出てきたな。だが、今の話なら少し待てば地上に帰れそうだ。
「さらに問題があります。」
まだあるのかよ。
「幻想郷の管理者である八雲紫は、大の念能力者嫌いです。」
...........................................
「おい、パルスィ。悪いがさとりと二人きりにしてくれ。」
「それはできないわ。私が第三者としてここにいる意味があるんだから。」
「いいですよ。申し訳ありませんが、隣の部屋で待ってください。お空、案内よろしく。」
「はいはーい!案内任されましたー!パルスィさんこちらに〜」
猫女以上にうるさい羽が生えた女が入ってきた。猫女とは違って、本当に頭のネジが緩そうな奴だな。
「彼女は霊烏路空。私のペットよ。お空と呼んでるわ。」
こいつもペットか。動物の妖怪だからか。
パルスィが俺とさとりを交互に見る。
「でも、2人共.........」
「大丈夫です。すぐに話終わります。」
「ささ、行きますよー」
2人は出て行く。
「余りお姉さんを心配させてはいけませんよ。」
「随分と口が軽いんだな。寿命を縮めるぜ。次話す言葉には気をつけろよ。」
「貴方の頭の回転の速さには脱帽ですね。」
「お前ならわかる。心を読んで俺の能力を知ったってな。教えるつもりはなかったが、知られてしまったなら仕方ない。予めパルスィから誰に会うのか、どんな能力なのか聞いていなかった俺の落ち度だ。口封じも考えたが、お前の立場上それも不可能だ。お前が黙ってくれることを祈るしか無い。だが、八雲紫ってのは何故、念能力を知っている?基本的に妖怪と念能力者は接触してこなかった歴史がある。地上に帰る上で、八雲紫とも対峙する可能性がある以上、それを無視する事はできない。」
さとりを見ればわかる。戦闘能力は高くないだろうが、心を読む能力は政治を行う上でこの上無く強力な武器だ。支配者たるものそれなりの物がいるのだろう。ジジイ然り、お嬢様然り。だからこそ、八雲紫も一筋縄ではいかない相手だろう。そんな相手が何故か念能力を知っている。これは見過ごせない。
「八雲紫は過去に念能力者と戦った事があるそうです。まだ幻想郷はできていない頃、150年程前に念能力者に殺されかけた事があるそうです。その事がトラウマになってるようで念能力を調べていたようです。」
成程な。それなら納得だ。俺も初めてビヨンドやエクソシストに魔術師に会った時はすぐにジジイに話を聞いたからな。
ん?そう言えば、念能力者側で妖怪の事を知っていたのはジジイだったな。まさか..........
「そのまさかですよ。八雲紫はアイザック・ネテロと矛を交えたんですよ。」
ジジイと戦って生き残ったのか?
俺の中での八雲紫に対する警戒度が跳ね上がる。
ジジイは世界で5本の指に入る念能力者だぞ。
「八雲紫は何度か死にかけた経験がありますが、その念能力者との戦いもその内の一つのようですね。」
八雲紫はどの程度、念について知ってるんだ?
「念能力者では無いためか、随分と偏った知識ですね。『発』の6系統は知っているが、4大行や応用7大行は知らないですね。おおよそ自分達が持っている『程度の能力』を物差しに調べたんでしょう。それ程、『百式観音』がトラウマになってるとも言えますね。」
「発」ばかり調べたのか。まあオーラは念能力者にしか見えないからな。「発」は具現化系とかならわかりやすいだろうし。
活路があるとすれば、その知識の偏りか。だが、念能力の奥義「発」を知られている事は大きなハンデとなるな。そして、ジジイとやりあえる程の実力もある訳だ。お嬢様が妖怪の山上空で戦っていた相手が八雲紫なのではないか?今の話が本当なら、お嬢様に勝目が無さそうだ。
つまり、幻想郷侵攻の失敗。俺が地上に上がる条件が難しくなった。
同時に咲夜達、紅魔館のメンバーの安否も心配になってきた。
「それについては心配いりませんよ。八雲紫は紅魔館を幻想郷の一勢力にするつもりのようですし。」
「おい、お前。さっきは幻想郷侵攻がどうなるかわからないって言ってたんじゃないのか?」
「申し訳ありませんが、私に戦闘能力がない以上、こうやって能力を併用した話術で渡り合うしか術がありません。貴方が今無理矢理にでも地上に出ようと考えられては、私の監督不届きとして地底に制裁が加えられるかもしれません。」
やはり心が読める相手に交渉はかなり不利だな。こうなってくると何処までが本当で嘘かわからなくなる。
「まあ、貴方の目的の一つを達成する為にはここで力をつけるのがいいかもしれません。」
どういう事だ?
「八雲紫と敵対した場合、貴方は勝てると思いますか?貴方のボスであるレミリア・スカーレットを下し、アイザック・ネテロ相手に生き延びた妖怪に。また、貴方が倒したいと考えている花妖怪『風見幽香』も八雲紫と同等の実力を持っています。たった1人で幻想郷一勢力の『太陽の畑』の主人なのですから。貴方はお遊び程度でしか相手にされていなかった訳です。」
「........ふざけやがってッ!」
とてつもない憤怒がぐつぐつ胸奥で煮えたぎる。
どいつもこいつも、手加減ばかりしやがって。舐めやがって!
「その怒りは貴方の容姿的に仕方ないと思いますが。その年でそれだけの実力と迫力がある方が異常です。よく今まで殺されなかったですね。こんな才能の塊、敵対者なら今のうちに殺すと思いますが。.........ああ、何度かそのような経験があるんですね。」
「お世辞はよせ。今の俺の状況はお前が八雲紫にチクれば、簡単に殺される程度でしか無い。」
「本当によくわかっていますね。貴方がここで大人しくしてくれれば、八雲紫には黙っててあげますよ。」
「........チッ。」
本当に完敗だな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パルスィが戻ってきた。
「話は終わりました。」
「よかったわ。喧嘩はしていなようで。」
戦闘はしていないが、余り平和的な会話ではなかったがな。
「では、これから貴方が地底に住む事を許可しましょう。貴方の住居はパルスィさんの家でいいですね。」
「え?ちょっと、何でよ!」
何でだよ。流石にいきなり家をくれとは言えないが、誰かの家に居候するにしても本人の許可なく話進めようとしたのか。
「まさか人間の子供1人、この地底で1人暮らしさせる訳にはいかないでしょう。」
「俺は問題無いぜ。」
「それでもですよ。それに貴方が勝手に地上に出ない為の監視もいる。」
「ならさとりの所に住ませわせればいいじゃない。」
「地霊殿には八雲紫がやってきます。彼を地霊殿に置く事はできません。パルスィさんの所に置く事は、監視の意味と匿う意味、両方あります。」
「........それでもよ。」
どうしたんだ?
パルスィの表情が悲痛な物に変わる。どうやら俺を泊めるのが嫌だと言う理由ではなさそうだ。
「貴方も薄々勘づいていると思いますが、悟り妖怪は嫌われ者です。そして彼女も嫌われて者なんですよ。」
「理由を聞いても?」
俺はパルスィを見る。
「いいわ。私も能力を持ってるの。『嫉妬心を操る程度の能力』。私が能力を使ったら、対象者は精神を嫉妬心に支配されて病んでしまうの。他の妖怪達が私に近寄ってこないのは、この能力があるからよ。」
「ふーん。」
確かに精神系の能力は防ぎ難いわな。とはいえ、俺は彼女の側にいるが、特に影響は受けてない。さとりとパルスィの様子を見るに、さとりはオート、パルスィはリモートの能力。彼女に能力を使う意思がなければ無意味なんだろう。
「そ、それだけ?」
「それだけって?」
「だから何かないの?自分には使わなかったのかとか、どうして今まで黙ってたんだとか。」
「別に今の所、無害だし。俺は勝手な噂よりも自分の目で見た物を信じるんでな。それに何かに嫉妬するくらいなら、それを乗り越えればいいしな。俺の当面の課題はあの花妖怪を倒す事と地上に帰る事だな。」
パルスィは信じられないのか、さとりの方を見る。
「本当に彼は何とも思ってないそうですね。」
「..........随分とポジティブなのね。妬ましいわ。」
その表情は何処か嬉しそうで、目元が潤んでいた。
「最も地上に上がる事は私が許しませんが。」
「ふん、言ってろ。その内、お前の裏をかいてやるぜ。」
それにしても、パルスィといいさとりといい、能力は精神系の凶悪な能力だが、随分とお人好しばっかりだな。
俺を匿ってくれるさとりに俺を看病し、さとり会うように案内してくれたパルスィ。
街中の粗暴な連中とは真反対だ。
能力は恐ろしいかもしれないが、精神性は奴らの方が醜いのではないのか?今度絡んできたら気兼ねなく潰せるな。
「貴方、その粗暴な考えさえなければ、素敵な男性になれると思いますよ。」
「まだ、5歳のガキだぞ。これから成長するんだ。余計な世話だ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぅ〜さとり様〜。怖かったです〜。」
お燐が私に抱きついてくる。私より体が大きいお燐に抱きつかれると、視界がぶれて本が読めない。
「5歳児の何を怖がるというの?」
「5歳児だからこそ異常ですよ。」
「異常.........。まあ、異常よね。私を相手にあれだけ自然体で会話するんだから。」
とは言っても全く嘘をついていない訳でもない。
「変化系は嘘吐きねぇ。」
「さとり様?」
非常にわかりにくい嘘だ。彼は思った事を素直に口にしている。それは自信の現れであり、パルスィが側に居ても悪影響を齎さなかった要因。パルスィの元に居候させたのも、パルスィにとっていい影響を与えるだろうとの目論み。彼は他者に対して余り嘘はついていないが、自分には嘘をついている。
彼はたった5年の生ではあれど、かなり面白い人生を歩んでいる。色々な出会いを経験し、子供とは思えない思考と行動を身につけている。ただ、出会いのやり方は全て噛み付くばかりだ。私とパルスィに噛み付かなかったのは戦闘能力が低かったから、興味を惹かれなかった。でも、1人例外がいる。
十六夜咲夜。
彼女の能力は戦闘面でも強力。すぐに噛み付いて殺し合いをする筈が、それをしなかった。シャーキャさんは何も思っていないようですが、行動が明らかに違う。その事に彼自身も気がついていない。
そこを揺さぶれば面白いかもしれないと妖怪の欲が出そうになったが、踏みとどまった。あの場で彼に武力を向けられれば死んでいたから。勇儀が側にいる時にやればいかとも思うけど、勇儀はそういうのは嫌いだから無理か。
残念ではあるが、悟り妖怪とあれだけ話せる相手は稀有なもの。大切にしていきたい。
もっと早く出会っていれば、こいしも心を閉ざす事は無かったかもしれない。