鋼の心   作:モン太

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変化

気がつけば1年の時間が過ぎていた。

 

昼は定食屋で厨房のアルバイトに勤しんでいる。

 

パルスィには命の恩人な上に居候までしているんだ。穀潰しにはなりたくなかった。彼女は気にしなくていいというが、それでは俺が暇すぎるのだ。

 

「おい!次チキン南蛮定食!」

 

「オッス!」

 

注文が入ったらすぐに鍋を振る。

 

俺は基本的に店内は歩かない。

 

人間のガキだとわかれば絡まれるからだ。

 

ここの店主は、余りそこのところは無関心なようで美味い飯が作れるならそれでいいそうだ。

 

そんな店主に俺は感謝している。職探しに大工や運送など探し回ったが、どこも人間でガキの2重バツじゃ、相手にもされなかった。ようやく見つけたここでは俺の事を配慮してか、厨房の中にいるだけでいい環境となった。まあ、本音は店内で揉め事を起こされたくないと言ったところだな。

 

最悪は地霊殿で料理を振る舞う事も考えたが、いつ八雲紫に会うのかわからないそうだから、頻繁に出入りするアルバイトなんてパルスィに止められるだろう。

 

パルスィはよく家か、地底の穴の側の橋にいる。

 

なんで橋にいるのかと尋ねたが、曖昧な返事しか返ってこなかった。橋姫という種族だから橋にいるそうだ。そういうもんなのかな。人間とは違うから完全には理解できないだろう。

 

パルスィ及び俺への視線は相変わらず悪感情に塗れているが、直接手を出してくるやつは、それ程いなかった。だからこそ面倒臭いと思う。もっと実害が大きければ、パルスィもさとりに相談するんだろうが、少し我慢すればいい程度。

 

そう少し我慢すれば問題は起こらないのだ。さとりも嫌われ者だ。さとりと友人のパルスィはその事を無理に解決する事で友人に悪評がつかないように気遣っている。

 

また、嫌がらせをする側も程度が小さいから、彼女は本気で仕返しをしないのだ。

 

『この程度の嫌がらせでなんでこんな目に遭わなければならないのか。』

 

嫌がらせをやった側は実際に報復を受けたらこう思うだろう。彼女はそこにも気遣っている。

 

つまるところ、優しすぎるのだ。

 

妬ましい、妬ましい。といつも悪態をついてめんどくさくはあるが、根はかなり甘い。

 

地底の連中はそれに気付いていない。ただ能力を恐れて、迫害されているだけである。

 

お互いが歩み寄れば解決できそうではある。少なくともパルスィ側はできるだろう。

 

だが、少し我慢すればその場を凌げる。

大きな傷を負って和解する。

 

どちらの選択をするのか。彼女は前者を選び続けている。

 

彼らができないなら、俺からアプローチするしかないだろう。俺の寝床だしな。

 

俺自身も火種である事は自覚している。

 

それでもなんとかしようと思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんなある日

 

「君が今話題の凄腕料理人の子供?」

 

地底の穴を下から眺めてたら、女に声をかけられた。

 

黄色い服に膨らんだスカートを履いた女だ。左手には籠が下げてあり、その中に緑髪の小さな女が入ってた。

 

「そうだよ。俺はシャーキャ。」

 

「私は地底のアイドル!黒谷ヤマメ!よろしく!.......こっちはキスメ。」

 

「ああ、よろしく。」

 

自分でアイドルとか言うのか?

 

「こんな街の端で何してたの?」

 

目をキラキラさせて聞いてくる。好奇心旺盛だな。このグイグイくる感じ。人気者なんだろうな。確か定食屋でバイトしていた時も厨房の方へヤマメちゃんがどうのこうのと話し声が聞こえていた。アイドルってのもあながち間違いではないのかもしれない。

 

「穴を見ていた。」

 

「穴?私の家の事?」

 

「家?」

 

「うん!ここの穴に住んでるんだよ!」

 

いや無理だろ。どういう事だよ。

 

「不思議そうな顔をしているね。私土蜘蛛って種族の妖怪なんだ!ここじゃ見えないけど、糸を張っているんだ!」

 

なるほど

 

「じゃあ、ヤマメは地上にも出ているのか?」

 

「いや〜、流石にそれはできないよ。そんな危険なことはできないな〜。」

 

やはりダメか。無理って訳じゃないだろう。地上に上がれば、さとりや八雲紫に目をつけられるからできないって訳だな。

 

「でも気持ちはわかるよ。そうやって穴にくる人や妖怪は、地上に残してきた人達がいるからって。........君もそうじゃないの?」

 

「そうだな。.......残した人もいるし、やり残した事もある。」

 

「そうだね。私には慰めの言葉しか言えないよね。.......代わりに仲良くなりましょう!」

 

そうハキハキとした笑顔で手を差し出してくる。

 

きっと彼女の言葉に救われた者がいるんだろう。地底の端に居を構えながら、人気者になれた理由がなんとなくわかる。

 

ヤマメも優しい。

 

俺は人でなしだ。そんな優しい彼女を利用する手立てを考えついたのだから。

 

「いいぜ。だけど、俺の姉気分とも仲良くしてくれねぇか?.......彼女は俺以上に寂しい思いをしてるんだよ。人気者のアンタが友人になってくれれば弟分として安心できるんだよ。」

 

「ほう!お姉さん想いのいい弟でだね!誰なの?」

 

「水橋パルスィ」

 

名前を言った瞬間、ギョッとした顔をする。

 

まあわかってたが。

 

「え?あの橋姫........。大丈夫なの?」

 

心配そうに聞いてくる。

 

「問題無いよ。みんな能力にビビりすぎなんだよ。1年以上一緒にいるけど平気だし。」

 

「それでも、何人かは精神攻撃されたって話だし。」

 

「それは、多分パルスィに絡んだ奴がおるんだろ?喧嘩っ早い奴が多いし。」

 

「たしかに.......。でも気後れしちゃうわ。」

 

「なら、試してみたらいいじゃん。」

 

「試すって?」

 

「実際に会ってみるんだよ。」

 

「ええっ!」

 

「俺も一緒にいるからさ。もしそれでダメだったら、俺の事嫌ってくれても構わないぜ。人気者のアンタに嫌われたら、いよいよ俺も居場所が完全に無くなるだろうけど。」

 

「そんな事しないよ〜。.......キスメはいい?」

 

キスメはしゃべらないのか、無言で頷くだけだ。特に嫌ではないらしい。

 

俺は2人を引き連れて、パルスィ宅へ向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ただいま。」

 

「おかえり、今日は早く戻ってきたわね。」

 

パルスィは机に頬杖をついてお茶を啜っていた。

 

随分とリラックスしているようだ。

 

「まーね。ちょっとさ、友達連れてきたんだよ。」

 

「......え?」

 

パルスィの顔が凍りつく。

 

「じゃ、入ってきて。」

 

「ちょっと!シャーキャ!」

 

パルスィが止める間もなく、ヤマメとキスメを中に入れる。

 

「橋のすぐ近くなのね〜」

 

パルスィとヤマメの目が合う。

 

「こ、こんにちわ。」

 

「ど、どうも。」

 

お互いぎこちない挨拶をする。

 

「とりあえず、ここに座って。」

 

「う、うん。」

 

固まってるパルスィを置いて、すぐにお茶とお菓子を用意する。

 

早く戻らないと、気不味い空間が出来上がってしまうだろう。

 

準備して3人の元へ向かう。

 

「橋姫なんだから、当然よ。」

 

「ねぇねぇ!何処でシャーキャと出会ったの?」

 

あれ?

 

意外と楽しそうに話してる。........いや、楽しそうと言うか、ヤマメが一方的にパルスィに質問攻めをしている感じか。

 

「ほい、お茶と茶菓子。」

 

机に準備したものを置く。

 

「わぁ!ありがとう!」

 

はしゃぐヤマメ。キスメも飛び回り、お菓子にかぶりつく。

 

「ねぇ、シャーキャ。何処でヤマメと会ったの?」

 

「ん?穴の下だな。」

 

「はあ、また行ってたのね。妬ましいわ。」

 

「うわぁ!この羊羹、美味しい!誰が作ったの?」

 

「俺だよ。」

 

「凄い!今度私に料理作ってよ!」

 

「それなら、定食屋にこいよ。そこで好きなだけ食えるからさ。」

 

「ええ〜、タダで食べたいよ〜」

 

まあ、タダで食う飯は美味いからな

 

「それにしても、案外普通に話せるじゃないか。」

 

「穴と橋は近いし、普段から挨拶ぐらいはしてたわよ。」

 

そりゃそうか。

 

「私も意外でした!パルスィさんって優しいんですね!」

 

「.........どうしてそう思うのかしら?」

 

「だって、1年も子供を済ませてるんですよね!地底じゃ人間は見下されてるのに。噂は当てにならないわね!」

 

「........そうね。」

 

ぶっきらぼうに返事しても、頬が赤くなってのが丸わかりだ。

 

そのまま、和やかな雰囲気のまま、気がつけばパルスィとヤマメ達は友達になっていた。

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