ヤマメが定食屋にくるようになった。
店の売り上げも上がった。やはり人気者が来ると人が集まってくる。
さらに彼女がパルスィのいい話を店に来た人達に話してくれたお陰で最近はパルスィへの視線も幾分か和らいだ。
定食屋に来ている連中も最初は半信半疑だったが、何度も今日はあんな事をした、こんな事をしたと話し続けた甲斐があったようだ。
とはいえ、彼女の人望に頼ってもここまでくるのに1年ぐらいかかった。中々、妖怪達の認識を変えるには大変だ。
また、ヤマメの効果があるのは基本的に穏やかな性格の者ばかりだ。喧嘩っ早い奴らはヤマメの事には余り興味がないらしい。喧嘩にだけ生きてるような奴らだ。
「と、最近はマシなんだけど、根本的な解決にはならないんだよなー。」
俺は地霊殿に来ていた。俺の監視目的にこうして定期的に報告に来させる。勿論八雲紫とブッキングしないように調整はしてくれている。
「そうですね。実害を与えてくる人達には響きにくいでしょうね。」
ヤマメではそこの層には響かないか。
「その路線で行くなら、勇儀がオススメですよ。」
「誰だよ、それ。」
「あら、意外ですね。2年もここにいながら、まだ会ってなかったんですね。..........名前は星熊勇儀。地底を支配している鬼の種族の四天王です。」
「.......鬼?」
「ええ、妖怪の種族で最強と謳われています。政治的な支配者が私であれば、実質的な支配者は彼女でしょう。彼女に認めて貰えれば、すぐにでも市民権を得ることができます。」
「それ、最初に言ってくれよ。」
「すみません。すぐに出会うと思っていたもので。........鬼はとても好戦的で、四天王の彼女は『力の勇儀』と呼ばれ、恐れ親しまれています。吸血鬼も鬼の一種ですから、力の程は理解できますよね?」
なるほど。それなら納得だ。
「ですが、並大抵のことではありませんよ。力量は風見幽香と同等です。記憶を読ませていただきまましたが、貴方は強い。でも風見幽香の方が更に強いですよね?」
癪だが、その通りだ。無論この2年間、鍛錬は積んだ。それは地底から脱出するためでもあるし、風見幽香を倒すためでもある。だが2年間、本格的な実戦が無かったのも事実。プラスマイナス0。
ならば俺が圧倒的に不利だな。
だが、これも目的のための過程の一つ。諦める気は無い。
「そうですか。ならいつにしますか?」
「明日でいいよ。」
「準備は無くていいんですか?」
「必要無い。常に戦える準備はできている。」
「では明日、旧都東側の広場に行けば会えると思います。」
「そうか、サンキュー。本当にお人好しだな。」
「いえ、貴方がここで住みやすい環境を整えれば、地上に上がろうという気持ちも減るだろうと思っての事です。」
本当にお人好しだ。
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次の日、さとりに言われた通りに広場にやってくる。
酒臭いな。
頭に角を生やした鬼達が下品にゲラゲラ笑いながら、酒を煽っていた。中央では殴り合いの喧嘩。それを囲むように野次馬が集まっている。
典型的な武闘派って感じだな。
さとりに聞いた話では、鬼は酒と喧嘩が大好きらしい。今の光景のまんまだな。
あと、嘘と卑怯な手は嫌いらしい。タイマンに命かけてる連中だそうだ。
随分とミミっちい種族だな。
そういう騎士道武士道精神が好きな奴らの気持ちもわかるが、念能力者の俺からしたら、あるもの何でも使ってでも勝つ気で戦うのが当然だ。力の全てが発揮できないんじゃ、それこそ失礼だと思うが。
まあ、わざわざ口には出さないが。
「あん、何だガキ?ここはお前みてぇなのが来る所じゃ無いんだよ。」
背が小さいから目立たないが、流石に近くの奴らには気が付かれる。次第に俺の周りにも野次馬が集まってくる。
星熊勇儀は何処にいるんかな?周りの奴らが多くてわかりずらいな。適当にぶっ飛ばせば出てくるか。
俺はオーラを練り出そうとするが、その前に声をかけられた。
「お前がさとりの言ってた、人間のガキか?」
声の方を見ると、手足に鎖をジャラジャラとつけ、頭に一本の角が生えた鬼がいた。あれが星熊勇儀か。
「ああ、そうだ。」
「「「プッハッハッハッハ!」」」
俺が答えると周りが急に笑い出した。
「姐さんに決闘を挑む奴が居るなんて聞くから、どんなやつかと思ったらただのガキかよ!」
「少しは程度ってのを知ったらどうだ?」
「笑いのネタとしては百点だな!」
口々に好き勝手言いやがる。
「黙りな!!!!!」
勇儀が怒鳴るだけで辺りが静まり返る。
「悪いな。気分を害しちまって。」
「別にいいよ。アンタが強ければそれでいいから。」
そう言った瞬間、今度は周りから殺気の篭った視線が降り注ぐ。舐めた口を聞いたのが癇に障ったらしい。
「私は酒と喧嘩が好きだ!誰でも歓迎するよ!流石に酒は期待できそうに無いが、喧嘩はできるのかい?」
「勿論。」
「じゃあ、決定だ!.......だが、その前にお前の実力を見たい。私も半信半疑だからな。悪く思わないでくれ。」
勇儀は野次馬に目線を向ける
「誰かそいつと戦いたい奴はいるか?」
野次馬は顔を見合わせる。やがて1人前に出てくる。
「俺と勝負しろ、小僧。」
「良いよ。感を取り戻すにはうってつけだ。」
俺は広場の中央に行く。
「勝負のルールは?」
「ルール?........馬鹿にしてるのか?お前はこれから俺に殺されて喰われるんだ。気にするだけ無駄なんだよ!」
「あっそ。じゃあ気絶したら負けね。」
勇儀が俺とおっさんの間に立つ。
「はじめ!」
「はあああ!怪炎剛腕!」
炎を纏った拳を放ってくる。
へえ、すげえじゃん。
俺はオーラを集中させた左手で受け止める。
中々の衝撃と熱だ。だが、俺のオーラは突破できない。
その勢いのまま、おっさんを引き寄せ右足にオーラを集中。回転蹴りを左側頭部に叩き込む。
「うボアっ!」
鬼が吹っ飛ぶ。そのまま起き上がることはなかった。
大した事無かったな。まあ肩慣らしだな。
「勝負有り!」
シーンと静まり返る。予想外の結果だったんだろう。あまりにも呆気なく終わってしまったからだ。
「いやー、悪かった。舐めてたよ。お前は私と戦うに値する戦士だ。」
勇儀が俺の前に移動する。
「では改めて、星熊勇儀だ。よろしく。」
「十六夜シャーキャだ。よろしく。」
『練!』
「ほう!良い殺気じゃないか。本当に嬉しい誤算だ!」
「練」を感じ取っても一切動揺が無い。風見幽香以来だな。
セオリーで行くなら、速攻
だが、それは風見幽香に失敗している。その失敗が脳裏を掠める。
それでも念能力の真髄は心の持ちよう。その失敗すら乗り越えて、自身の必殺技を信じる心の強さが必要だ。
でも今回はそれはしない。星熊勇儀とのタイマンは死闘を演じる必要がある。そう文字通り死闘だ。格上である事は認めよう。俺が全力で戦えばそれは即ち、死闘になるだろう。無論、死ぬ気は無い。地に伏せるのは星熊勇儀だ。
地を蹴ったのは同時だった。
お互いに右ストレートを放つ。
「行くぜ!」
「死に晒せ!」
拳同士でぶつかる。すぐに左ストレートを放つ。敵も合わせるように拳を放ってくる。
拳同士がぶつかる音が鳴り響く。
いける。
押し負けてはいない。
相手もまだ本気とは程遠いだろうがな。
もう一度、拳がぶつかる。その衝撃を利用して後方に飛び、そのまま「周」で強化したナイフを投げる。
「ハアア!」
敵は弾幕で迎撃してくる。
無数の弾幕が視界を覆う。それを全て投げナイフで迎撃。
次の瞬間、勇儀が左側に現れた。
弾幕を目眩しに接近してきたか。
勇儀に対して、磁力の
この至近距離。更に今までとは比較にならない速さで飛ぶナイフ。
顔面に向かって飛んでくるナイフを鬼の動体視力でもって避けた。
勇儀の頬を裂くナイフ。顔には獰猛な笑みを浮かべている。きっと俺も笑ってるんだろう。
この程度でクタバル筈はない。そういう信頼を勇儀は裏切らなかった。一切の減速無しに懐に入り込み、アッパーを放ってくる。
それに合わせるように、右肘を「硬」で強化して迎撃する。
バコンッ!
肉体が発するとは思えないような音が響く。
衝撃で互いが吹っ飛ぶ。
「ハハハッハハハハ!良いじゃないか!最高だ!私とこれだけ殴り合える奴に会うのは久しぶりだ!」
ニヤリと笑ってやる。
「こんなもんなのか?鬼の四天王は。」
「言うじゃないか!ならもっとギアを上げていくぞ!」
瞬きをした瞬間には、目の前にいた。
速い!
振り下ろされる拳。
咄嗟にジャンプして回避する。
だが相手の追撃の方が早かった。
左拳が飛んで来る。オーラを両腕に集めてガード。
即座に
だが今度は握り潰される。
風見幽香に一応は傷をつけれた筈なんだが。無傷かよ。
着地する。すでに目の前に迫る勇儀とインファイトで殴り合う。
俺は絶対に負けない。こいつをここで倒す。
「
砂鉄の大蛇をけしかける。だが、大蛇は鬼の拳に砕け散った。
避けるでも迎撃でも無く、拳一つか。
俺が感心していると、勇儀の拳に炎が灯る。
さっきのおっさんと同じ技か?
「大江山嵐!!!」
同じだが、威力は桁違い。
受け止めるのは危険。なら「硬」での攻撃で迎撃する!
「オラアァッ!!」
熱風が吹き荒れる。
何とか凌げたか?
「はあ、はあ、はあ......」
「ハハハッハハハハ!!まさか、これも耐えるなんてな!アンタなら全力でやれそうだ!」
スタミナも底なしか。参るぜ。
だが、まだだ。まだ俺はやれる。
覚悟の強さはオーラの強さ!
身体から更にオーラが溢れて来る。
「行くぞぉ!!」
再びぶつかり合うが、今度は競り負けて吹き飛ばされる。
更に弾き飛ばされた先に回り込まれ、蹴り飛ばさる。
クソッタレ!
ピンポン球みたいに飛ばしやがって!
オーラでの防御が間に合っているが、反撃できねぇ。ここまで全力の差があるとは。
「オラよっと!!」
「グッ!」
地面に激突し、砂埃が舞い上がる。
好機!
咄嗟に「隠」を使う。
「こんなもんじゃねーだろ?さっさと出てこッ!」
「ウラァッ!!!!!!」
背後から「硬」で殴りつける。
両腕でガードされたが、漸く相手にダメージが入った。
奴の腕から血が流れていた。
これだけやって漸くか。本当、大妖怪ってのは底が知れないな。
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ゴアオオアン、バアアアアン、パアオオオオオア
遠くで轟音が聞こえる。
こんな地底の橋の家のここまで聴こえて来るなんて、久々に勇儀が暴れているのかしら。
私に偏見なく話しかけてくる珍しい妖怪。それが彼女だ。別段友人って訳ではないけど。普通に会話ができるってだけだ。
彼女は地底で1番有名だ。何せ最強の妖怪だから。
シャーキャとは意図的に会わせないようにしていた。性格から考えて2人とも好戦的。喧嘩するのは目に見えていた。
戦いになれば、シャーキャは死んでしまう。それでも彼は止まらないだろう。反骨精神だけは旺盛だ。
いつまでも誤魔化すには無理だろう。特に今日はこんな音が響いてるんだ。後で何があったのか聞かれるだろう。今頃はバイトをしている筈だから、直接見に行く事は無いだろうけど、不安だ。
ドンドンドン!
扉が叩かれる。この家に用がある妖怪何ていない筈だが、誰だろう?
扉を開ける。
そこには青褪めた表情のヤマメがいた。
ヤマメは最近できたさとりの次の2人目の友人だ。彼女はシャーキャが連れてきた。最初は驚いたが、簡単に打ち解けれた。彼女のコミュニケーション能力が高いからだろう。シャーキャが友達だと連れて来ていたが、彼はどちらかと言うと私と彼女を引き合わせるのが目的だったような感じがする。あまりそこのところの本音は言わないが、私の事を彼なりに心配してくれているのだろう。本音を言わないのは、彼の照れ隠しだ。最近わかるようになった。思った以上に恥ずかしがり屋だ。
「どうしたの?」
「はあ、はあ.......。シャーキャはどうしたの?」
「今日はバイトよ。」
「........なるほどね、何も聞かされて無いね。」
「.......どうしたのよ?」
何だか嫌な予感がする。
ヤマメが私の両方を掴んで来る。
「.....落ち着いて聞いてね。.......シャーキャが勇儀に決闘を申し込んだのよ。」
「え...............」
頭が真っ白になった。