鋼の心   作:モン太

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最近、パルスィは笑う事が増えた。未だに妬ましい、妬ましいとうるさいが、笑顔が増えたように思う。

 

嫌われ者ではあったが、美人で優しいその性格から、徐々に人気者になり始めている。ある意味安心して見ていられるようになった。

 

俺としても一番の監視者であった彼女が味方に付くことは好ましい。今まで体を張ってきた甲斐があった。

 

これは大きな進展だが、手段が未だ見つからない。俺は飛べないからだ。

 

勇儀とも徐々に実力差が追いついてきたのか、勝ち星を何回か取った。

 

定食屋はヤマメがよく来るので、売り上げも上々。

 

充実した生活を送れている。最初の3年間が嘘のようだ。

 

だが、目的を忘れてはいけない。風見幽香を倒す事。その為には地上にでなければならない。

 

「私が手伝ってあげようか?」

 

街中を歩いていると声をかけられた。

 

振り返るが誰もいない。

 

「こっちこっち!」

 

振り返るがいない。

 

どういう事だ?

 

「円」を使う。

 

反応があった。

 

そちらに向く。

 

少女がいた。黄色い服に緑のスカート。緑がかった白髪に黒い帽子。背丈は俺と同じぐらい。

 

そして、どこか見覚えのある第三の目。しかしそれは閉じられている。

 

「アンタ、さとりの関係者か?」

 

「うん!私のお姉ちゃんだね!」

 

こいつがさとりの妹なのか。結構性格が違うな。自由奔放さが滲み出している。放浪癖と言うのもなんとなくだがわかる。

 

地底に来て既に4年経過しているが、さとりの妹で一度も合わなかったのも納得だ。

 

「俺は十六夜シャーキャ。アンタは?」

 

「私は古明地こいしだよ!」

 

「何で俺の手伝いをやってくれるんだ?さとりの知人だったととしても、俺とお前は初対面だ。」

 

「うーん、なんとなく!」

 

本当になんとなくなのか?理由はないのか?

 

どうにも理屈で考えて通じるタイプではないのかもしれない。勇儀のような直感タイプか?

 

「円」を解く。

 

途端にこいしを見失う。

 

「おい、こいし!どこだ?」

 

もう一度「円」を使う。すぐに見つかった。俺の隣にいた。

 

明らかにおかしい。隣にいて別に移動なんてしてないのだ。なのに「円」をやめたら見失う。

 

「私はね。心を閉ざした悟妖怪。心を閉ざして、読心能力を失った代わりに『無意識を操る程度の能力』を得たの。貴方が私を探しても目の前にいても気が付かないのは、そういう能力だから!」

 

成程、だから「円」や「凝」でないと見つけられないのか。暗殺者なら最強なんじゃないか?

 

それにしても悟妖怪は皆精神を病む奴が多いのか。当然な事かもしれない。さとりも人当たりが悪くは無いが、宴会などには参加しない。地底の主人なのだが、極力人に会わないようにしている。それは避けられている事もあるが、さとりが避けている事もあるからだろう。

 

心を閉ざした妖怪。読心能力なんてエグい能力。この姉妹も咲夜やパルスィに劣らないぐらい、辛いエピソードがありそうだ。

 

ある意味、強力な能力に対する制約と誓約になっているな。

 

手伝ってくれるって発言も本当に無意識に発した言葉と言うわけか。勇儀以上に本能に生きているのかもな。

 

「成程、能力ね。でも、さとりは認めないと思うぞ。」

 

「大丈夫!私誰にも見つからないから!」

 

そういう問題じゃないと思うが。姉が哀れだ。

 

「じゃあ、追いかけっこしよう!」

 

「ん?」

 

急に話題がが変わったな。これも無意識だからか。

 

「私を捕まえられたら、一緒に地上に行こう!」

 

「お前地上に行った事あるのか?」

 

「よくあるよ!地上でも誰にも見つからないから!」

 

マジかよ。それなら俄然協力を仰ぎたいな。

 

「オーケイ!ならやろうか。」

 

「範囲は地底!時間は6時間で勝負!私が移動してから、一分後にシャーキャが鬼役って事でいくよ!」

 

一分か。妖怪の走力で一分なら俺の「円」の範囲を抜けられるな。まあ、その方が面白いか。

 

「いいよ、それで。」

 

「じゃあ、スタート!」

 

瞬間、こいしの姿が見えなくなった。

 

「マジで認識できなくなるんだな。」

 

これじゃあ、さとりの読心も効かないんじゃないだろうか?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「見つからないな。」

 

わかってはいたが、隠形というなら最強な能力だ。3時間近く探してるが見つからない。

 

「円」と「凝」で探しているが、見つからず。街の住人に聞いてもわからないそうだ。

 

俺でも見つからないなら、街の人間の意識に入る訳はないか。

 

一旦、家に帰ってパルスィに聞いてみる。

 

「こいしにあったのね。」

 

「ああ、鬼事勝負を仕掛けられたんだが、見つかる気がしないんだ。」

 

「当然ね。絶対勝てないわ。」

 

「何か弱点はないのか?」

 

「追いかけっこに於いて彼女の能力に死角はないわ。目の前を通り過ぎてもわからない訳だし、貴方を見つけたら、その逆方向に移動すればいいだけ。地底という広範囲ならまず捕まらないわ。」

 

そうだよな。難易度高いよな。.......いや、待てよ。

 

「........ちょっと、出かけてくるわ。いいアイデアが思いついたんだ。」

 

「早く帰ってきなさいよ。ご飯は作っておくから。」

 

「りょーかい。」

 

外に出る。「円」と「凝」は維持する。

 

更に「隠」を使う。

 

そのまま物陰に隠れる。

 

恐らくだが、こいしは俺からそこまで遠くにはいない。近くで俺を見張っているんだ。俺の動きに合わせて、「円」の範囲外に逃げている。

 

何故「円」の半径300mがわかるのか、判断できないが、これも無意識でオーラを感じているからかもしれない。

 

なら、俺が隠れてこいしの視界から姿を消す。こいしに見つからずに「円」で捜索すれば良い。

 

そこから更に2時間探して、見つかった。

 

「..........お前、何してんだよ。」

 

「え?.......」

 

こいしは定食屋で蕎麦を食べていた。

 

「追いかけっこはどうなったんだよ?」

 

「......あっ!忘れてた!」

 

「はあ.......」

 

肩から力が抜ける。

 

こいつ手強すぎる。ある意味で俺が出会った中で最強じゃん。

 

「だって、途中からシャーキャいなくなっちゃったもん!退屈だからご飯食べてたの!」

 

「.........もういいよ。じゃ、俺の勝ちって事で。」

 

「いいよ!今度シャーキャのお手伝いしてあげる!」

 

6時間のリミットで5時間弱か。危なかったな。

 

「俺も楽しかったよ。」

 

久しぶりに殴り合いじゃない、バトルで楽しかった。4年前、旅に出る前にモラウとバスケで勝負した時以来だ。

 

「お姉ちゃんにも自慢しよっ!シャーキャと遊んだんだって!」

 

無意識でしか物を考える事ができないのかもしれないが、よく姉の事が口から出る辺り、さとりの事が好きらしいな。

 

あのお人好しの事だ。妹なら尚更か。

 

「俺も蕎麦食べるか。」

 

こいしと蕎麦を食べて帰った。

 

だけど、家でパルスィがご飯を用意していたことを忘れてた俺は、それはもうこっ酷く怒られた。

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