鋼の心   作:モン太

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試験

シャーキャを引き取って5年。その5年の間でも大きく世界は動いておった。彼が見つけられたイラクでは、イラク=イラン戦争の停戦から、イラクのクウェート侵攻を発端とした湾岸戦争。ドイツの統一。ソ連解体。冷戦の終結。多くの出来事があった。

 

そして、シャーキャもこの5年で大きく成長した。念の扱いはもちろん、まだ幼さはあるが、物事を深く観る「目」を持っておる。あやつの探究心も尋常ではない。外の世界に興味を持ち出しておる。そろそろ、道場に押さえ付けておくのも限界じゃろう。決断の時かもしれぬな。

 

覚悟を決めて、わしはヒマラヤを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日は朝からヒマラヤの道場に来ている。なんでもジジイからこっちに来るように言われたからだ。なんかあるんだろうけど、わからないから、今は考えないことにした。

 

先日、バスケをやってからちょっとしたマイブームになっている。念を使えば、遊びながら修行もできる。ジジイへのサボりの言い訳もできるしな。実際「練」は四六時中やってる。寝ている時でもやってる。俺は子供で「オーラ」の量が少ないから、こうやって常に「練」で少しづつ増やしている。

 

ボールで遊んでると、ジジイがやって来た。

 

「すまんのう。待たせたな。」

 

「全くだぜ。人様を待たせるなんて。師範のすることか?」

 

「相変わらず口の減らんやつじゃ。」

 

「で、今日はなんの用?」

 

「ゴホン。そうじゃな。今日はお主に決めてもらいたいことがあるんじゃ。」

 

ジジイから発する雰囲気が真剣なものになる。無意識に肩に力が入る。

 

「シャーキャ。お前は外に旅立ちたいと、そう願っておるのじゃろう?」

 

「え?なんでそれを?」

 

「隠しておるのかもしれんが、わしにはバレバレじゃのう。コンパスを手放さないのが、いい証拠じゃ。」

 

「そ、そうか。でもいいのか?ここの事を知っている俺が外に出てしまうのは、『組織』とって不味くはないのか?」

 

「今までも、ここを卒業した者が絶対に『組織』に入ってるとは限らん。」

 

「そんなことして、大丈夫なのか?そいつらが後で『組織』に牙を剥いたり、アメリカやロシアのような超大国の後ろ盾を得て、国連の名のもとに『組織』を悪として、正義を遂行するとか、そういう事態にはならないのか?」

 

「なんのために世界各地に150の支部があると思うとる。仮に本部に戦争吹っかけてきおったら、たちまち150の支部で後方からその国を駆逐するまでじゃ。前者なら、そもそもわしを打倒しうる能力者などおりはせん。」

 

「えらい自信たっぷりだな。」

 

確かにこのジジイを単独で倒せる存在はこの世には存在しないかもしれない。それこそ核兵器でも使わなければ。だがどんなに正義を謳っても、核兵器の使用は国際社会からの避難を免れない。それは世界の警察であるアメリカも例外では無いだろう。

 

「それにな。別に『組織』が滅んでもわしは構わんと思っとる。」

 

「どういう事だ?」

 

「1000年じゃ。1000年もの間この『組織』は存在した。この世は善意だけでは回らん。それは善悪関係なく依頼を行うこの『組織』の体制が如実に表しておる。じゃが、時代は変わる。この『組織』が滅ぶ時は、きっとそういう運命なのじゃと受け入れる覚悟はある。」

 

「ジジイはそれで良くても、他のメンバーはどうなんだよ?納得できないだろ。」

 

「納得もなにも、『組織』に入る時に命の保証はできないとの警告を契約時に言うのが、決まりじゃ。能力者ならば、いつ死ぬかわからんからのう。」

 

やっぱり、そうだ。同じ仲間でも獲物が被れば、迷わず殺し合う。例え、友人や恋人でも。『組織』の人間、いや念能力者はみな、狂っている。いや、自分だけ違うと思うのは思い上がりだ。俺も狂っているのだろう。

 

「話が逸れたのう。で、もう質問は無いかのう?」

 

「ああ、もういい。」

 

「そうか、じゃあ決めてもらおうかの。」

 

「そうだな。それなら最初から決まっている。俺は旅に出る。」

 

「そうか。じゃが、お前はまだ子供。10年も生きておらん。外で生きていくにはあまりにも矮小な存在。それは如何に天才なお前でも例外では無い。じゃから、試験を行う。」

 

「試験?」

 

「ああ、待たせたのう来なさい。」

 

呼ばれて道場に入って来たのは、頭を丸刈りにした僧侶のような男。身に纏っている服はこの道場の道着だ。

 

だが、全く気配を感じなかった。「円」を使っていたわけでは無いが、それでも全く気配を感じなかった。かなりの実力者なのだろう。完璧な「絶」であった。

 

「この者はな。今ここでわしが1番だと思っとる生徒じゃ。今からこやつと組手をしてもらう。1発でも攻撃を当てれたら、合格じゃ。」

 

俺は相手の男を見る。なるほど。このハゲのとても静かで穏やかなオーラの流れ。これは1発どころか隙を狙う事も難しそうだ。

 

「オーケー。やってやるよ。」

 

俺とハゲは向かい合う。

 

にしても、こいつ全然喋らねーな。ちょっとでも喋ってくれたら情報量増えるんだけど。多分、放出系では無いな。

 

俺は「練」でオーラをためる。

 

「両者、準備はええかのう?」

 

俺もハゲも頷く。

 

「では、はじめ!」

 

精孔を一気に開き、「堅」「円」「凝」を行う。俺の強みは、念を扱うセンス。基本の「四大行」は念能力者なら大体が完璧だが、応用の「七大行」は全てを完璧に使える者は少ない。俺はその数少ない内の1人だ。これで相手の動きに対応する。

 

それに対して相手の行動は、手元に本を具現化して本を読み出した。

 

具現化系か特質系と言ったところか。本という直接攻撃するには、向いていない物の具現化は、即ちそれだけで手が塞がってしまう事を意味する。恐らくそれ自体が制約になって能力を底上げしている。つまり、見た目よりもかなり凶悪な能力の可能性が高い。

 

俺の弱みは、「発」を覚えていない事。俺個人の必殺技が無いから、念能力者には俺の攻撃は読まれやすい。また、年齢故のオーラの総量も少ない。長期戦はできない。

 

ハゲが攻撃を仕掛けてくる様子は無い。ただ、読書をしている感じだ。まったく、1発当てればいいとか、敵の目の前で読書とか、舐められっぱなしは頭にくるぜ。後悔させてやる!

 

俺はオーラを足にため一気に加速。ハゲの懐に飛び込む。ようやくここでハゲが本を消し、こちらに意識を向ける。

 

やっとか。でも、もう遅いんだよ!くらえ!

 

必殺の覚悟をもって拳を放つ。しかし、それを紙一重でかわされる。さらにそのまま回し蹴りを放たれ吹っ飛ばされる。

 

再び、距離が開く両者。

 

イッテェ。あの野郎の蹴り。完全に「硬」だ。それも一切迷いの無い。経験差から来る判断だったのか?いや、それにしては直前まで一切反応は無かった。にもかかわらず、まるでこちらの攻撃がわかっていたかの様なカウンター。それも攻撃に使うのが、右手とか左足とかから攻撃のた貯めや軌道まで全て。いくら俺の攻撃が読みやすくても、あんなギリギリまで懐に入れて仕舞えば、その場凌ぎの対応をさせられる筈なのに。それとも、そんなことが可能な程の手練れなのか?いや、それも違う。それなら、本を消す必要もない。そんな動作自体が無駄な動きになる。今度は様子を見るか?

 

もう一度攻撃を仕掛けるが、今度は「堅」を維持したまま、蹴りやパンチで攻撃する。

 

再び、本を消してこちらの迎撃にくるハゲ。俺は再び拳を放つが、やはりかわされるが、それは想定済み。そして、回し蹴りが来るが体を捻らせてかわし、俺も回し蹴りを放つ。

 

今度は決まるか?

 

だが、かわされる。

 

やっぱりか。

 

まるで俺の動きが手に取るように攻撃して来る相手に、俺はギリギリの反射でかわし、反撃する攻防がしばらく続いた。そして、

 

なんだ?急に動きが悪くなったぞ?

 

ハゲの動きが俺に合わせた丁寧な攻防が、急にその場凌ぎの荒々しい対応に変わった。変化に戸惑った俺は少し動きが鈍くなる。その隙をハゲが狙い再び距離を離される。

 

「はあ、はあ、はあ。」

 

クソ。もうオーラが足りなくなってきやがった。ハゲの方は基本的に待ちの姿勢だからまだ余裕がありそうだな。だが、ハゲの能力が大体わかってきた。恐らく特質系の能力で未来予知。具現化した本に事象全てか、俺単体かはわからないが、未来が記されるのだろう。そして、その未来は本の見開き2ページ分しか記されない。つまり、それ以上先は未来予知できない。だから、長く続いた攻防でハゲが未来を知らない領域に達した瞬間、攻防が荒くなり、距離を取ることに必死になった。今も本を具現化して読んでるのが、いい証拠だ。

 

まとめると、相手は予知能力者。制約は、2ページ分の未来しか見れない事。手が塞がる事。だが、それだけで未来予知程の能力は手に入れれない。つまり、予知の範囲は事象全てでは無く、対象者を選ばなければ成らない可能性が高い。

 

勝機は見えた。だが、オーラが残り少ない。はじめ数分間の攻防はまず当たらない。それどころか、こちらが一方的に攻撃をくらう事だってありえる。未来予知できない領域に来ても、今度は相手が必死に距離を取ろうとして来るだろう。それに体力が少ない状態で一撃を入れなければならない。

 

いけるか?やれるのか?

 

だが、やらなきゃここで終わりだ。俺は外に出ると決意したんだ。ならここで躓く訳にはいかない!次で決める覚悟を持て!行くぞ!

 

俺は足にオーラを纏い、再び相手の懐に入る。これで三度目の攻防だ。

 

懐に入り、小さな体を活かして、高速フェイントで撹乱を狙いながら、攻撃を続ける。

 

だが、全て未来を読まれているため簡単な纏だけでガード或いはいなされてしまう。

 

クソ!まだか!?まだ未来予知の範囲か!?オーラが持たねぇ。

 

だんだんと動きが鈍くなって来た俺の手足や顔に、ハゲの攻撃が掠り血が流れる。だが、諦めずに攻防を続ける。その甲斐あってか、ハゲの動きが乱れ出す。

 

来た!ここからが本番だ!

 

再び激しさを増す俺の攻撃に、ようやくハゲの顔にも苦悶の表情が表れる。必死に距離を取ろうとするが、俺も必死に追い縋る。

 

手を休めるな!足を休めるな!相手に本を読ませる隙を与えるな!相手の動きを、呼吸を乱せ!そこにしか、活路はない!

 

未来予知無しでの攻防は、オーラの扱いに長けている俺がだんだんとハゲを追い詰め、とうとう足を引っ掛けて態勢を崩す事に成功する。

 

当たれ!

 

俺は相手の顎めがけて、アッパーを放つここで決まれば勝ちだ!しかし、少ない俺のオーラが限界を迎える。それに伴い、意識を失いかける。

 

クソ!オーラが足りないなら、残り全てをこの拳に!

 

霞む視界の中、「凝」や「堅」のオーラを全て拳に集めて「硬」にする。カウンターの蹴りの気配がするが、一切気にせずそのまま拳を打ち上げる。

 

「はあああああああああああああ!」

 

防御を捨て渾身の一撃で決めると決意した拳は、その覚悟をオーラの加速に変えて、相手の蹴りよりも僅かに速く、相手に届く事となった。

 

「はあ、はあ、はあ。ざ....まあ、み.........やが....れ。」

 

ぶれる視界の中でハゲが吹っ飛ぶ様を見て、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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目がさめると、道場の木造の屋根では無く、無機質なコンクリートの天井があった。

 

「目が覚めたかのう。」

 

「ジジイか。」

 

どうやら『組織』の会長室のようだ。窓から見える景色は既に夜だった。

 

「気分はどうじゃ?」

 

「まあまあかな。よく寝たみたいだし。回復はしたよ。」

 

「そうか。ならええんじゃ。」

 

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「後悔は無いな?」

 

「ああ、もう思い残す事は無いよ。」

 

「そうか。では、旅立つお前に餞別じゃ。」

 

「これって。」

 

ジジイは俺に『組織』のカードを渡して来た。

 

「おい、ジジイ。俺は『組織』に入らずに旅に出るって言ったんだけど。とうとうボケて来たか?」

 

「なあに。これは特別じゃ。」

 

「これがあれば、『組織』が経営しているレストランやホテル、病院などのあらゆる施設にタダで使うことが可能じゃ。」

 

「そりゃあ、知ってるけど。」

 

「それとも、お主。5歳児が親も連れずに1人で職を探すつもりなのか?できない事は無いじゃろうが、やめておけ。ろくな事には成らんぞ。」

 

「でも、そんな例外許されるのか?」

 

「お前は、わしが認めたのじゃ。わしから説明しておく。別にお前に依頼を頼んだりはせん。自由に世界を見ておくと良い。ただ、必要が無くなれば、それは捨てておくように。まあ、ほっといても10年しか効力の無いカードじゃがな。」

 

「わかったよ。あんたが俺に世話焼きたいって気持ちは十分に伝わった。」

 

「はあ〜。まったく、賢いのはいい事じゃが、可愛げがないのう。」

 

「とりあえず、今日はここで寝るわ。明日の朝に出発する。おやすみ〜。」

 

「そうかい、そうかい。お休み。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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まったく、何が今日はここで寝るじゃ。強がりおって。本当はもっと甘えたいのが丸分かりじゃ。

 

これが最後になるであろうから、最後くらいは本当の親子の様に一緒に寝てやろうかの。抱いて寝ようものなら、恥ずかしがって蹴り飛ばしてくるがな。

 

わしは合格を出したがの、それでもお前はやはりまだ5歳の子供じゃよ。親の愛情無しで生きて行く事はできん。『組織』に入らない時点で『組織』としての援助はできん。じゃが、わし個人なら話は別じゃ。いつでも頼っていいんじゃよ。

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