庭いじりをしていたある日の事だ。
「円」に誰かが侵入するのを感知した。常日頃から「円」を使っている訳ではないが、修行を兼ねて「円」の範囲を広げる事をやっている。まあ、成果は一向に出ないが。
俺は感知した場所まで足を進める。
「よお。アンタ、人間じゃないな。」
「こんにちわ!凄いね、ここは!向日葵だらけだ!」
金髪に赤いリボン、黒い上着に赤いスカート。見た目は10歳ぐらいのガキだ。
だが、10歳のガキが無邪気に一人でこんなところに来る訳がない。
「ここは花妖怪が管理している花畑だからな。俺じゃなくて、本人に言ってやってくれ。」
「貴方はここの管理人じゃ無いの?」
「俺は違うね。俺は十六夜シャーキャ。ここの居候......のようなもんだ。」
「私はメディスン・メランコリー。自立人形って言う妖怪だよ!」
人形なのか。人形にしてはかなりサイズが大きいな。まあ、自立して動くにはこれぐらいの大きさは必要か。
「手に持ってるのは何だ?」
彼女の手には白い花があった。何処かで見たような気がする。
「これは私が産まれた所で咲いていた花だよ!鈴蘭って花なの!可愛いでしょ!」
鈴蘭。........まさか、この太陽の畑の側にあった鈴蘭畑からきたのか。それよりも......
「ああ、綺麗な花だな。所でアンタは毒が平気なのか?鈴蘭って毒がある筈だが。」
「平気よ。鈴蘭畑で産まれた私は毒を糧に生きてるんだもの。それより、貴方は何で私といても平気なの?」
おい、今更それを聴くのかよ!
「俺も平気。俺も似たような環境で産まれたからな。」
「そうなのね!なら、今度無名の丘に来てよ!」
「無名の丘って?」
「私が住んでるとこよ!」
あの鈴蘭畑がある場所か。
「悪いけど、俺はここから出れないんだ。」
「ええ〜、そんな〜」
随分と素直な反応をする妖怪だな。直情型で見た目通りの幼い性格だ。
「なら代わりに手品を見せてやるよ。」
「手品?」
彼女の鈴蘭を空中に浮かせる。
大地の意志(マグネティックフォース)による磁力操作を駆使する。
時計回りにクルクル回したり、八の字に回したり、縦旋回させたりする。
「凄い!凄い!」
メディスンが飛び跳ねて喜ぶ。
「どうやってるの?」
「手品なんだから教えれないよ。」
「ええ〜、教えてくれてもいいじゃん!.......えい!」
メディスンが宙に浮いてる鈴蘭に手を伸ばす。
だが、鈴蘭はメディスンの手から逃れるように離れる。
俺が磁力操作でメディスンの半径1m以内に留まるように操作しているからだ。
「あ、ちょっと待って!」
必死に追いかけるが、常に一定距離を保つ鈴蘭はメディスンから逃げているように見えるだろう。
そのまま暫く、鈴蘭とメディスンの追いかけっこが始まった。
「おーい、どこまで行くんだ。戻ってこいよ。」
「はあ、はあ、そうね。戻るわ。.......え?」
メディスンが戻ろうとすれば、今度は鈴蘭が追いかけてくる。
「ははははは!凄い!これ凄いよ、シャーキャ!」
自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回る猫みたいだな。
暫く能力で遊んでいたメディスンは、疲れて戻ってきた。
能力を解除して、鈴蘭を返してあげる。
「どういう仕掛けなの?」
「俺の能力だよ。」
「やっぱりそうなんだ!凄い妖怪だね!」
「いや、妖怪じゃ「うんうん!妖怪なら仲良くできそうだわ!」
人の話聞けよ...........
それはともかく、妖怪なら仲良くできるとはどういう事だろうか?
「それに対して、人間は身勝手だよね。勝手に作っておきながら、人に売ったり、捨てたりして。でも、あの鈴蘭畑に捨ててくれたお陰で妖怪になれた訳だから。........こうして復讐できる。」
さっきの天真爛漫さからは打って変わって、暗い雰囲気を纏うメディスン。
テンションの落差が激しいな。事情はなんとなく読めるけどさ。
「私は全ての人形を人間から解放するの!」
無邪気。
まるで世間を知らない子供のようだ。視野が狭い。まあ、それを彼女に説いたところで意味はないだろう。
だが、誤解は早めに解いておくべきか。
後々に俺が人間だとわかって拗れる可能性が高い。
「そうか。まあ、頑張れよ。」
「シャーキャも手伝ってくれないの?」
「そりゃあな。誤解してるようだけど、俺は人間だし。」
その瞬間、彼女の瞳の瞳孔が開いたのが見えた。
向日葵畑に「円」で磁力のオーラを覆う。
次の瞬間、俺の体が爆発する。メディスンの妖力弾が直撃したのだ。
だが、俺にとっては軽く小突かれた程度にしか感じなかった。痛みなど皆無。
それが逆に心に喪失感や虚脱感のようなものが広がった。
「ふふふはははははは!そっか!残念だなぁ!人間なら死ななきゃね!」
「堅」どころか「纏」でも全くノーダメージ。
「お前は毒は効かないんだよね!ああ〜、ムカつくなぁ。私の弾幕で殺してあげるよ!」
メディスンが弾幕が放たれる。
周りの向日葵畑は俺が
「おいおい、いきなりは酷いじゃないか。」
「うるさい!妖怪のフリをして私を騙していたくせに!」
俺はつくづく恵まれていると思う。旅に出て本当によかったと思う。
暴力を相手にぶつける事しか知らなかった俺が色んな事を知った。
咲夜に出会って誰かを心配したり、護りたいと言う感情を知った。
パルスィとさとり、こいしに会って同情したり、救ってやりたいと言う感情を知った。
なら、今メディスンに対して抱いている感情はきっと、憐れみや悲しみだ。
彼女の人形解放は叶わない夢だ。これだけ憎しみを持っていても力が追い付いていない。きっと夢半ばで倒れるだろう。
「来いよ、全力で。お前の気が済むまで付き合ってやるよ。」
俺の相手をしている幽香もこんな気持ちなのかもしれない。
満足するまで付き合おう。そうしたら、また友達になれるかもしれないから。
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「お友達と喧嘩したの?」
家に帰るとニヤニヤ笑いを浮かべた幽香が挑発してくる。
「見てたのか。」
結局、メディスンは暴れるだけ暴れて、そのまま帰ってしまった。
最後まで俺の顔を睨みつけていた。分かり合えるかもしれないと思っていた俺は甘かったのだろう。
「この花畑の中なら私は全て知覚できるわ。」
「あの向日葵か。」
畑に生えてる無数の向日葵。あれが幽香の目になっているらしい。
だから、今まで侵入者にはすぐに対処できた訳だ。
「話し合えば分かり合える。拳を交わせば分かり合える。腹の内をさらけ出せば分かり合える。人間と妖怪だって分かり合える。...........そんな事を考えていたのかしら?........人間同士だって分かり合えない人種がいるはずなのにね。」
ふふふと笑う幽香。
そうかもしれない。俺は思い上がっていた。
咲夜と喧嘩をしてもいつも仲直りできていた。
パルスィの事も地底の民に認めさせる事ができた。
俺は今まで大きな失敗はなかった。寧ろ成功ばかりだ。
何故気が付かない。俺が幻想郷に来る前にも、散々殺し合った妖怪や人間がいた事を。当時の俺は相手の事など理解しようと考える事さえ思い付かなかった。
「また一つ成長したわね。」
「上から目線で物を言ってるんじゃねぇよ。」
「でも、貴方が弱くなった理由が少しはわかったかしら?」
俺が弱くなった?
そんな筈はない。産まれた時から、ずっと修行して、5歳から実戦も経験した。何度も死線を潜って、幻想郷でも戦ってきた。
鬼を相手に相手にしたって、それなりに戦える。
「じゃあ、何でいつまでも私に勝てないのかしらね。」
「...............」
「貴方、親は居ないの?」
「はあ?何で居ると思うんだよ。居るなら俺はこんな所には居ない。」
「そうだと思ったわ。5歳の子供が1人でここに来る事なんてあり得ないわ。...........そういえば、貴方がここに来た理由を知らないわ。食事にしましょう。これまでの事を聞かせてちょうだい。」
それからは俺の生い立ちを話した。以前にもパルスィ相手に話した事があったが、事情が違う。今はこうやって住む場所を提供して貰っているが、本質は敵なのだ。自分の手の内を明かすようなもの。
だけど、俺は澱みなく話した。自分でも自覚していなかったが、俺はショックを受けていたのだろう。
幽香はそれを静かに聞いていた。結局、話終わっても「そう」と一言しか言わなかった。何が目的かはわからないが、もしかしたら彼女なりに俺を慰めようと思ったのかもしれない。
俺は幽香の生い立ちを聞いたが、ずっとこの花畑に居たとしか返ってこなかった。嘘ではないのだろうと何となくわかった。彼女の瞳が寂しげに揺れていたからだ。
きっと孤独なんだろう。ずっと1人で
何だか気不味い雰囲気になった。俺は逃げるようにリビングから出た。
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パルスィは地霊殿に来ていた。
右手にはお酒を包んだ荷物を持って。
友人の所へ案内される。
家にいた弟分が去って3年。最初は寂しさに涙を流す事もあったが、今はこうして街を歩いて、友人の家に遊びに行くようになっていた。
「さっきヤマメが旧都で歌ってたわよ。」
「ええ、遠くから眺めてたわ。ライブは成功したようで何より。」
「近くで見てあげてもよかったんじゃないの。」
「人に囲まれると落ち着かないのよ。」
「それもそうね。」
あの
「静かに飲めるのも今のうちって事ね。」
「そうね。」
2人は酒を開けて、喉に流し込む。
「こいしは見つかった?」
「いえ、あれからは一度も返って来てないわ。シャーキャに言伝を頼んだのだけど。」
「シャーキャが伝えてもそれをこいしが覚えているかは別だから仕方ないわ。」
「だといいのだけど。あの能力だからそうそう危険は無いと分かっていても、悟妖怪の私達は戦闘能力がないから......」
「随分と心配しているのね。」
「貴女も同じでしょう?」
「まあ、彼は戦闘能力が高いけど。誰彼構わず喧嘩を吹っかけるから。」
「お互い苦労が絶えないわね。」
「そうね。」
2人で溜息を吐く。その溜息もすぐに酒に流し込まれた。
するとドアがバタンと開かれる。
「おいおい、先に飲んでるなんてズリぃじゃねぇかよ!私もまぜろ!」
「さとり!パルスィ!おつまみ持って来たよ!」
予想通り、騒がしい2人がやってきた。静かに飲める時間は終わったようだ。