鋼の心   作:モン太

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紅霧異変
10年


「おーい、霊夢!異変だぜ!」

 

今日も騒がしい友人が神社にやってくる。

 

「五月蝿いわね。そんな事より賽銭でも入れておきなさいよ。」

 

「ここの神社は何も祀ってないだろ?」

 

「そんな訳ないでしょ。」

 

「じゃあ、何の神様なんだよ?」

 

「知らないわよ。」

 

「じゃあ、構わないな。」

 

どかっと炬燵に座り込んでくる魔法使い。

 

彼女は霧雨魔理沙。腐れ縁だ。

 

「客人が来たんだぜ。お茶ぐらい出したらどうだ?」

 

「アンタは客じゃ無いから問題ないわ。」

 

「ケチ臭いぜ。........それより、異変だぜ!外が真っ赤だ!」

 

何が嬉しいのか、この友人は目をキラキラと輝かせている。

 

「あっそう。」

 

「おい、解決しに行かないのか?」

 

「嫌よ。面倒臭い。特に被害もまだ出てないじゃない。」

 

本当に面倒臭さい。せっかく炬燵でのんびり過ごしているのだ。夏だろうとここから動きたくない。

 

「そうか。なら私は先に行ってくるぜ!」

 

「ちょっと!......たくっ」

 

あの暴走列車は人の話を聞かずに出て行ってしまった。

 

「..........はあ。」

 

あの腐れ縁に死なれでもしたら目覚めが悪い。

 

いくらスペルカードでも当たりどころが悪ければ、重症になる事だってあるのだ。

 

私はお祓い棒、針、お札、陰陽玉の装備を整えて、空を飛んだ。

 

先代(お母さん)から博麗の巫女を受け継いでから、初めての異変。

 

前回は10年前。外来から吸血鬼が攻めてくる『吸血鬼異変』があった。

 

あの時とは違う。

 

私はお祓い棒を強く握りしめた。

 

10年前の記憶は私の黒歴史だ。

 

幻想郷最強の博麗の巫女。そんな私が妖怪に怯え、涙を流して同い年の子供に助けられる。とてつも無い屈辱だ。

 

ならば払拭すればいいだけだ。行きたくもない異変解決に乗り出したからには、過去のトラウマを克服するのもいいだろう。

 

そうして、始まった異変解決は順調そのものだった。

 

闇妖怪、氷の妖精。道中邪魔をしてくる奴らは全員ぶっ飛ばした。

 

やはり博麗の巫女にとって妖怪など取るに足らない存在なのだ。

 

そう考えた時、霧の発生源であろう赤い館が目に写った。

 

主人は相当趣味が悪いらしい。こんな毒々しい見た目にする必要などないだろうに。

 

門番も大した事は無かった。武術の達人らしいが、わざわざそれに付き合う気は無い。弾幕ごっこで蹴散らした。

 

魔理沙の姿が見えないのが気になったが、すぐに意識を目の前に向けて館に入った。

 

中は外のような外見では無く、落ち着きのある内装だった。それ以上にやたら拾い空間は一体どう言うカラクリなのか。

 

「それは私の能力によるものよ。」

 

氷。

 

一眼見た時にそう感じた。氷の妖精以上にそんな言葉が似合う殺気を放っていた。

 

こいつも只者ではないらしい。だが、博麗の巫女は最強。

 

一応名乗ってやるかと自分の名前を言った。

 

「博麗霊夢よ。」

 

「十六夜咲夜」

 

瞬間、己の耳を疑った。

 

「.......十六夜?」

 

それは10年前、自分を助けた人物と同じ名前だった。

 

私が聞き返した事で目の前のメイドの様子も変わった。

 

闇。

 

先程までの氷とは違う。されど熱い激情とは違った不気味な闇を感じさせる殺気に変わった。

 

メイドが口を開く。

 

「十六夜シャーキャと言う名前に聞き覚えがあるかしら?」

 

確信した。

 

過去のトラウマ。目の前の者はそれと何かしら関係がある存在。

 

そこからは殺し合いに発展した。私も相手も殺す気で弾幕を放った。ギリギリ、弾幕ごっこと言い訳ができる範囲で。

 

私は過去を乗り越える為に、この十六夜と名乗る者を倒す。その意気込みで勝負した。こいつがどういうつもりで殺す気満々のナイフを投げてくるのか知らないが叩き潰す。

 

勝負は私が勝った。ギリギリの戦いだった。何回か被弾した。屈辱だ。やはり、十六夜と名乗る者と私は相性が悪いらしい。

 

手強かった。時間を止めると言う離業を見せて来た相手。されど感傷に浸る間もなく、私は先を急いだ。異変は解決されていないから。

 

そうしてたどり着いた元凶。吸血鬼だった。

 

つくづく今回の異変は私の神経を逆撫でしてくる。

 

こいつも手強かった。異変の元凶に恥じぬ力を持っていた。だが最終的に私に軍配が上がった。

 

終わってみればあっさりしたものだった。それでも一応は私なりに過去にケジメをつけたつもりでいる。

 

魔理沙は結局、向かった先の図書館で魔法使いと意気投合して一緒に魔法談義に興じていた。自由奔放なやつだ。

 

こうして、私の最初の異変は終わった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

幻想郷にやってきて10年。

 

八雲紫との契約により異変を起こす。これで私達は本当の意味で幻想郷の一勢力としての地位を確立する。

 

当代の博麗の巫女のデビュー戦でもあり、スペルカードルールを使用する最初の異変にもなる。

 

妖怪や自然現象による異変と言うよりは、作為的に起こし、解決させる。謂わば出来レースだ。だが、これによって人々は妖怪に恐怖する。その恐怖によって妖怪は力を強め、幻想を維持できる。また、それを打ち倒す博麗の巫女を人々が認めるきっかけにもなるのだ。この裏事情を知っているのは私達と八雲紫のみ。博麗の巫女もこの出来レースは知らない。

 

私は館の守りを任されている。

 

お嬢様に与えられた大事な仕事だ。全うしてみせる。

 

出来レースとは言われているが、博麗の巫女がとるに足らない存在なら、倒してしまっても良いと言われている。逆に実力を認めたなら、通して良いとも言われている。

 

心を氷の様に冷やせ。冷徹に、機械の様に体を動かすのだ。10年間、完璧にこの館でお嬢様の右腕として働いてきた。

 

稚気な心など、10年前に置いてきた。未熟者はもうここにはいない。

 

私は大切な人を10年前に失った。5年程探したが見つかりはしなかった。当時は酷く落ち込んだものだ。だが、それこそが私の弱さ。吸血鬼の従者として不完全。

 

無心で仕事に打ち込んだ。それが現実逃避だったのは認めよう。だが、お陰で心を揺さぶる事なく仕事に集中できる。感情は過去に置いてきた。

 

私はポケットの懐中時計を握り締めた。

 

館の入り口が開かれる。

 

入ってきたのは、紅白の巫女服を着た少女。あれが博麗の巫女なのだろう。

 

辺りを見回している。おそらく、外観と内観の広さの違いに混乱しているのだろう。

 

ここからは私の仕事だ。少女に近付き話しかけた。

 

いい面構えだ。一部の隙も無い。美鈴を倒しているであろう事から、実力もあるんだろう。これならすぐにお嬢様の所へ案内してもいいかもしれない。

 

だがその後の名乗り合いで事態は急変する。

 

『十六夜』の言葉に反応したのだ。

 

私と博麗の巫女は初対面のはず。なのに既視感があると言わんばかりの表情を見せた彼女。

 

私以外に『十六夜』を名乗る人物は1人しか知らない。

 

どういう訳か私は震えていた。

 

おかしい。感情は捨てたはず。

 

ならば、なぜ?

 

何故、この内側から溢れ出しそうなこれは一体なんなのか?

 

震える声で私は聞いた。

 

「十六夜シャーキャと言う名前に聞き覚えがあるかしら?」

 

決定的だった。少女の目が見開かれた。

 

そして、それまでは何処か無機質だった彼女から凄まじい殺気が放たれた。

 

私は確信する。

 

こいつは彼を知っている。

 

いつのまにか、お嬢様の仕事の事を忘れていた。

 

目の前の女を這いつくばらせて、彼の事を吐かせる事だけを考えていた。

 

スペルカードルールなんてものも忘れていた。手段なんて問わずにこの女を拷問する事を考えていた。

 

だが、女は強かった。いや、巧かった。

 

私の時を止める能力に瞬時に対応してみせた。投げナイフではなく、暗殺目的で時を止めて、首を切れば簡単に殺せただろうが、半殺しを目的に投げナイフでの攻撃であった事。一度その能力を見た事で女は私を上回ってきた。

 

それと馬鹿げた直感力。まるで未来を見ているかの如く、私の投げナイフを避けていた。

 

結局、蓋を開けてみれば、這いつくばっていたのは私の方だった。

 

女はそんな私を一瞥してすぐに先に進んでいった。

 

視界が滲む。もう10年も流していなかった涙が目から溢れてくる。

 

諦めた頃に、手がかりが転がってきた。でもそれを掴むことができない私。

 

「ハハハ」

 

乾いた自嘲の笑いが止まらない。

 

もう疲れた。

 

弱音が心の中で溢れた。

 

きっと私はもうダメだろう。異変が終わり、私の傷が癒えても、もう満足に生きていく事はできないだろう。

 

完全に心が折れていた。

 

もう辞めよう。

 

これ以上、ここには居られない。いつまでも彼の影がチラつくこの館には居られない。お嬢様に相談しよう。その結果、殺されても構わない。お嬢様の忠誠を裏切る事になるのだから。それでもこんな不完全な従者ではお嬢様の顔に泥を塗るだけだ。

 

私の意識は闇に沈んだ。

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