太陽の畑を出て、無名の丘を越える。
鈴蘭畑を通り過ぎる際にメディスンに出会うかと思ったが、居ないようだ。
今は別に構わない。時が解決してくれるだろう。その時は殺し合いになるかもしれないし、和解するかもしれない。若しくはこのまま一生再会する事もないかもしれないが。
そのまま魔法の森を通り過ぎ、博麗神社にやってきた。
神社の境内に入るが、博麗の巫女は居なかった。
既に異変解決に乗り出したか。
まあ、ばったり出くわしても。どうするか決めて無いんだがな。
俺は今紅魔館側なのか、フリーなのか微妙な感じだし。
でも博麗の巫女側からみれば、グレーな時点でアウトになるだろうな。
弾幕ごっこではまともに戦えないぞ。
とりあえず神社を後にして紅魔館を目指す。
森を抜けて、湖を越える。
小さな妖怪やチルノが倒れていたが、博麗霊夢が倒したのだろうか。
そうしてたどり着いた紅魔館。
10年前と何も変わっていなかった。
上空ではお嬢様と博麗霊夢が戦っていた。
強いな、ありゃ。
お嬢様と互角以上の弾幕を打っていた。
スペルカードルールで無くとも、幽香や勇儀とタイマンはれるレベルはありそうだ。
門の前で倒れている美鈴を担いで中に入る。
中に入ると咲夜が倒れていた。
咲夜も担ぐ。
部屋の配置が変わってないといいのだが。
まず美鈴を部屋に入れて寝かせる。後でパチュリー様が治してくれるだろう。
次に咲夜を彼女の部屋まで運んで寝かせた。
俺はポケットから懐中時計を取り出して、彼女の側に置く。
懐中時計は空気に溶ける様に消えた。次の瞬間、咲夜の傷が癒えた。
生体情報を1時間巻き戻す。具現化系の能力だ。
さて。
咲夜はこれで大丈夫だろう。
辺りが静かになっていた。お嬢様の方も終わったか?
館から出て再び中庭に出る。
戦闘は終了したようで、博麗霊夢は神社の方角へ飛んでいっていた。
お嬢様の元へ向かおうとしたが、すぐに「絶」を使い、物陰に隠れた。
お嬢様の側の空間が裂けて、中から金髪の女性が現れた。
なんだあれは?
凄まじい妖力だな。まさか、あれが八雲紫か?
そいつは日傘をさし、扇子で口元を隠してニヤニヤと胡散臭い笑みを浮かべていた。
成程。幽香とは馬が合わなそうだ。
お嬢様とそいつは少し話した後、空間に入っていった。
「円」でも気配は感知できない。どうやら去ったようだ。
俺は今度こそお嬢様に近付く。
「よお。随分とボロボロじゃないか。」
お嬢様は此方をチラリと見る。
「ふん、悪ガキが。随分と長い家出だったわね。口の利き方も忘れたの?」
「それは俺をまだ執事だと認めていると思っていいのか?」
「私がやめろと言うまで、お前に執事を止める権利なんてないの。ましてや勝手に居なくなるなんて万死に値するわ。」
「んじゃ、ここで俺を殺すかい?」
聞いてみたはいいが、お嬢様からは特に殺気は感じない。
「そうね。言いたい事は山の様にあるけど。今回はお前の処遇を決めるのは、お前の上司に決めてもらおうかしら。............咲夜は無事なの?」
「俺が治しておいた。死んだとしても生き返らせる事もできる能力だ。今は部屋で寝ている。」
「成程。..........貴方、咲夜の寝込みを襲ったりしないでしょうね?」
「する訳ないだろ?怪我人だぞ。」
「でも、成長した咲夜は中々に美人だったでしょう?」
「そう言うお嬢様は一切お変わりがないようで。」
「あら?やっぱりここで私が殺してあげようかしら?」
「おっと、それでは失礼します。」
妖力と魔力を練り出したお嬢様を後目に、俺は館へと戻った。
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咲夜の部屋に戻って来た。
彼女はまだ眠っているようだ。
それにしても、お互い随分と変わったと思う。
背丈も伸びたし、俺のイメージの咲夜は7歳だった訳だから当然か。
身長の話なら、俺の方が高くなったようだが。
俺が言えた義理では無いが、10年間無事なようでホッとした。
顔は随分と大人びた様に見える。
髪型や服装に変わりはないから、誰かすぐにわかった。
残りのメンバーは人外共ばかりだから、見た目の変化は無いだろう。まだお嬢様と美鈴しか見ていないが、変わった様子は無かったしな。
「.................」
何だか咲夜の寝顔を見続けていると気不味い気分になる。
それもそうか。お互いもう子供じゃ無いしな。
女性の部屋に男がいる状況は良くないだろう。
ならば、さっさと出て行くとしよう。
そうして扉に手をかけ時に声をかけられた。
「あなたは誰?」
「はあ〜。」
何とも間が悪い。いや、この場合はタイミングが良かったのかもしれない。
警戒、無機質、期待、絶望、失望、殺意、憤怒、歓喜、悲哀
うーむ。たった一言だけで、色々なモノを感じ取れるんだが。
なんて答えるのが正解なのやら。
お嬢様相手ならあれだけ威勢よく話せたんだが、咲夜相手だと此方も身構えてしまうな。
とりあえず振り返る。
「久しぶりだな。」
ベッドから体を起こした咲夜が目を見開く。
「誰?」
おい。
くそぅ。いきなり出鼻を挫かれた。
まあ、そりゃ分からんわな。
ポケットから懐中時計を取り出す。
「シャーキャだよ。」
「..............」
「おい、フリーズするな。信じられないってんなら、パチュリー様の眼鏡でもかけてみるか?」
「ふふふ、冗談よ。その時計を見てわかったわ。」
このヤロウ。
見た目は大人びても、中身はあんまり変わってないんじゃないのか?
「そう。本当にシャーキャなのね。」
そう言うと咲夜は少し俯いた。
前髪が垂れて表情は伺えない。だが、震える体と震える声が彼女の感情を雄弁に物語っていた。
「すまなかった。」
「何が?」
「ずっと居なくなって」
「それで?」
「心配してくれたんだろ?今のお前を見ればよくわかる。」
「だから?」
「許してくれとは言わない。土下座しろと言うならやろう。靴を舐めろと言うなら喜んでしよう。だから、もう一度俺をここに置いて欲しいんだ。」
「.............」
「............」
沈黙が流れる。
暫く無言でいたが、
「ふふ。」
笑い声が響いた。
「ふふふ。別にそこまで怒ってないわよ。それに人事権はお嬢様にあるのよ。私に土下座しても仕方ないじゃない。」
どうやら許してくれるらしい。随分と優しい事だ。
「お嬢様にはもう会ったよ。咲夜の気分に任せるって言ってたぜ。」
そう言うと急にジト目になる
「ふーん。何だ、私よりも先にお嬢様に会ってたんだ。だから私のご機嫌を取ろうとしたの?」
「違うって。エントランスで倒れてたお前をここに運んだ後にお嬢様に会ったんだよ。」
そう言うと今度は自身の体を抱きしめて、睨みつけてくる。
「貴方、変な所触ってないでしょうね?」
「お前なぁ........」
「ふふ、冗談よ。貴方が治してくれたんでしょう?能力を使って。」
こいつ.......
本当に咲夜相手だと振り回されるな。
一生勝てないかもしれない。
「おかえりなさい、シャーキャ。」
「ただいま、咲夜。」