鋼の心   作:モン太

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再会の挨拶①

咲夜とは彼女が話疲れるまで、付き合った。10年も間が空けば、お互いぎこちなさがあるかと思ったが、外見はともかく中身は案外お互い変わっていなかったのかもしれない。

 

それでも異変が有った事で精神的に疲れていたのか、彼女はすぐに寝落ちしてしまった。

 

俺はそのままの足で大図書館にやってきた。

 

久しぶりに入るが、やはり圧巻な景色だな。

 

部屋のテーブルに腰蹴てるパチュリー様と目が合う。

 

いつも眠たげな瞳を珍しく、見開かせている。

 

「おやおや?イケメンはっけーん!」

 

横から甘ったるい声が聞こえる。

 

「どうしたんですか〜?お兄さん1人ですか〜?私といい事して遊びませんか?」

 

こいつも変わらないな。

 

小悪魔が俺の左腕に腕を絡めて密着してくる。

 

暑苦しいので、この淫魔の顔面を右手で掴んで力を込める。アイアンクローだ。

 

「いたたたたたた!」

 

「お前も相変わらずなだな。このクソ淫魔。」

 

「割れる!潰れる!」

 

「それくらいで許してあげて、シャーキャ。」

 

淫魔の主人に言われたので、とりあえず手を離してやる。

 

ドテッと地面に尻餅をつく小悪魔。キョトンとした表情で俺を見上げてくる。

 

「え?シャーキャ?」

 

「よくわかりましたね。」

 

「こあのあしらい方で何となく。まあ、今のはカマを掛けただけよ。」

 

ありゃ、これは一本取られたな。

 

「成程、流石パチュリー様。」

 

「ええー!全然雰囲気が違いますよ!昔は俺様最強!って感じのクソガキだったのに!」

 

「人間なんだから、私たちよりも変化が早いのよ。」

 

「こんな落ち着いたイケメンになっちゃうなんて。」

 

随分と言いたい放題だな。

 

「こあ、そのへんにしておかないと後で咲夜に絞られるわよ。........で、随分長い事遊んでいたようだけど。レミィには会ったの?」

 

「お嬢様に挨拶しましたよ。軽く小言を言われましたが。」

 

「その程度で済んで良かったわね。咲夜には?」

 

「咲夜には.........よくわかりませんが許してはくれたようです。」

 

「........そう。それでこれからどうするの?」

 

「まだ美鈴と妹様に挨拶してないので、それをしてからここでもう一度働く事になります。」

 

「なら、私からは何も言う事は無いわ。」

 

「随分とあっさりしてますね。もっとお叱りがあるのかと思いましたが。」

 

「そう言うのなら、もっと咲夜を大切にしてあげなさい。彼女がこの10年でどれだけ貴方の事を心配してた事か。」

 

「それは耳が痛い話で。」

 

「何はともあれ無事で良かったわ。」

 

「では美鈴に会おうかと思いますが、彼女の傷はもう治されましたか?」

 

「ええ、もう治したわ。咲夜の方は誰かさんが治してたみたいだけど。」

 

「人間と妖怪は違いますからね。早く治しておいた方が良いと判断したまでです。」

 

「美鈴も治してあげれば良かったじゃない。2人を運んだのは貴方でしょう?」

 

「そうですが、治す能力も特別なもので色々と制限があるんですよ。」

 

「そうなのね。その辺は念能力より魔法の方が優れているのね。」

 

「念能力は万能ではありませんから。......それでは失礼します。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

紅魔館の門へ向かえば、美鈴がいた。

 

「よお、美鈴。傷は癒えたか?」

 

「シャーキャさん.......。お久しぶりです。」

 

「おや、美鈴も一目で俺ってわかるんだな。」

 

「私は気の流れを見て判断できるんですよ。」

 

「そうかい。傷は大丈夫なのか?」

 

「ええ、パチュリー様に治してもらいました。」

 

「そう。」

 

「..........大人になりましたね。」

 

「そうか?特に自覚は無いんだが。」

 

「そう言うところですよ。昔だったら、もっと舞い上がっていると思いますよ。」

 

そんなものだろうか。幻想郷で色んな妖怪と触れ合って知っただけだ。強さだけが全てでは無いと。色んなものを見たいという欲求は今でもあるが、それ以外にも道草を楽しむのも悪くないと思うようになっただけだ。

 

「色々と寄り道をして、楽しい事が増えたからな。」

 

「そうですか。.........強くなりましたね。」

 

「そうでも無いさ。さっきも咲夜とパチュリー様に良いようにあしらわれたところだからな。」

 

「ならここで10年前のリベンジをしませんか?」

 

「ん?俺はもう別に構わないけど。」

 

「なら、今度は私からは貴方に申し込みます。今の貴方と拳を交えさせてください。」

 

美鈴が俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。どうやら本気のようだ。

 

「わかったよ。これも家出の罪滅ぼしの一つとして相手するよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

俺と美鈴は中庭で向かい合う。

 

「纏」で様子見をするか。怪我が治ったばかりで怪我させたくないからな。そんな事、口にしたら美鈴に失礼なので言わないが。

 

向かい合った瞬間に、目の前に美鈴の拳が来ていた。

 

咄嗟に首を倒して避ける。

 

あの独特の呼吸を掴ませない歩法は健在か。

 

避けた先、さらに左拳が迫る。それを屈んで避ければ、次は右回し蹴りが放たれる。

 

俺は左足を出して、美鈴の右足を止める。

 

隙だらけの腹に右肘のエルボーを放つ。

 

美鈴は後方に飛んで回避する。

 

「そういえば、これは弾幕ごっこじゃないんだよな?」

 

「ええ、そうですよ。」

 

さて、美鈴とやり合う上で大切な事は呼吸を乱されない事、つまり彼女に主導権を握らせ続けるのは得策ではない。ならば、こちらから仕掛けよう。

 

「隠」で気配を断ちつつ、足にオーラを集中させて地面を蹴る。

 

彼女視点、唐突に俺が目の前に現れたように感じるだろう。

 

何時ぞやのお返しになったかな。

 

軽く左手で手刀を繰り出す。

 

美鈴が咄嗟に屈むのを確認する前に、右膝を顔面の位置に出す。

 

それもギリギリでガードされる。

 

「ふう。危ないですね。」

 

「流石に美鈴の物真似だけで、倒せないか。」

 

「私が何百年とかけて磨いた技をこうも簡単に模倣されるとは。........いや〜戦慄しますね。」

 

美鈴が腰を深く落として構える。

 

「大鵬墜撃拳!!!」

 

全速力で美鈴が突っ込み、両腕を振り下ろしてくる。

 

俺は両腕を頭の上で交差してガードするが、予想以上の衝撃に足を踏ん張って耐える。

 

そこに回し蹴りの要領で足を刈り取られる。

 

これはすごいコンボだな。

 

空中に浮いた状態で彼女を見れば、右拳を後ろに振り被っていた。

 

普通の妖怪とか人間なら、このまま腹に美鈴の一撃を入れられてノックアウトだな。

 

彼女の右ストレートが迫る。

 

俺は体を捻って拳を回避する。

 

中々のパンチだな。風圧が凄まじい。

 

避けられた美鈴は目を見開いて硬直していた。

 

そんな隙を見逃す訳もなく、俺は右手の手刀で彼女の顎を優しく撫でた。

 

彼女の体が崩れ落ちる。

 

地面に倒れる前に俺が抱き抱えようとした瞬間、いきなり咲夜が現れて美鈴を抱えた。

 

「美鈴は私が運ぶわ。」

 

「何だ見てたのか。」

 

「美鈴に接近戦を挑むなんて自殺行為よ。」

 

「まあ、今度から気をつけるよ。」

 

「はあ〜。美鈴、起きなさい!」

 

思いっきり頬を叩かれる美鈴。

 

「おれ?咲夜さん?」

 

「おはよう、美鈴。昼寝とは良い度胸ね。」

 

絶対零度の視線に貫かれた美鈴は顔を青褪めながら、命乞いをする。

 

「ち、違うんです!ちょっとシャーキャさんと手合わせしてただけなんです!」

 

咲夜は見ていたはずなんだが。

 

どうやら美鈴をいじめて楽しんでいるようだ。

 

まあ門番サボってたのは事実だしな。哀れ。

 

「それでシャーキャ。これから博麗神社で宴会をするのだけど、一緒に行く?」

 

「ん?何だそりゃ?」

 

「異変が解決されたら、関係者が集まって宴会するのが恒例なのよ。今回は博麗の巫女の初めての異変という事で博麗神社での宴会なのよ。」

 

「成程な。」

 

どうなのだろうか。俺は異変には関わってない。一応紅魔館に復帰することにはなるが。恐らく挨拶代わりも兼ねているんだろう。

 

だが、俺個人としては八雲紫や博麗の巫女に目をつけられそうな気がしてならない。

 

本当はすごく行ってみたいのだが。

 

それにまだ妹様との挨拶も済んでいない。

 

「悪いが、俺は留守番だ。」

 

「え?行かないの?」

 

意外だろうな。

 

「俺は異変に参加してないからな。それに紅魔館を無人にするわけにもいかないだろ。」

 

「じゃあ、私も.....」

 

「お嬢様の右腕が参加しない訳にもいかないだろ。安心しろよ。別に出かける訳じゃないから。」

 

「いや、でも........」

 

「わかったよ。何処にも行かないって約束するから、これ以上は勘弁してくれ。」

 

「絶対よ。絶対に紅魔館から出ちゃダメだからね。」

 

「はいはい。」

 

「本当にわかってるのかしら?........何よ美鈴?」

 

「いーえ?別に何もないですよ?」

 

美鈴はニコニコ顔で咲夜を見ていた。それに気付いた咲夜がナイフ片手に美鈴を再び脅し出した。

 

それを後目に俺は館に戻った。

 

「あら、シャーキャは行かないの?」

 

エントランスにお嬢様とパチュリー様、小悪魔がいた。皆これから出発するようだ。

 

これだけ段取りがいいと、博麗霊夢に出来レースだとバレないのか疑問なのだが、俺が心配することではないか。

 

「俺は異変に参加してませんし、館を無人にする訳にもいかないので、留守番しておきます。」

 

「そう、わかったわ。私達がいない間に悪さしないようにね?」

 

「わかってますよ。子供じゃないんですから?」

 

「そうかしら?貴方のその好奇心旺盛な性格を少しは隠せるようになってから言いなさい。」

 

どうやらお嬢様にはお見通しらしい。

 

とはいえ、10年間道草を楽しんだので、暫くは我慢できるだろう。

 

「では皆さん行ってらっしゃいませ。」

 

俺は宴会に出て行く、皆を見送った。

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