鋼の心   作:モン太

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埋め合せ

妹様との大波乱な再会を終えて暫く。宴会に行っていたメンバーが帰ってきた。

 

誰にも妹様との一悶着には気付かれる事はなかった。どうやら上手くやれたようだ。無論、皆酒を飲んで顔を赤くしていたから、勘が鈍ってたのもあるだろう。

 

そうして、出迎えも早々にお嬢様の号令で全員が足早に大図書館に集まった。

 

「さて、シャーキャ。クビになる事無く済んで良かったわね。」

 

「お嬢様と上司のご慈悲に感謝いたします。.........それでこの集まりは一体?」

 

「勿論、この10年間何をしていたかの報告よ。」

 

成程、俺は自分がやるタスクばかり考えて完結してしまってたが、お嬢様達から見れば、急に帰ってきた訳だからな。俺もお嬢様達が10年間何をしてたか知りたいし、情報交換が必要だ。

 

こうして俺は幻想郷に侵攻してから今に至るまで、ざっくりとして内容を話した。

 

侵攻の際、とある大妖怪との戦闘に遭った事。その後地底に飛ばされた事。5年かけて地上に戻った事。大妖怪にリベンジを挑むも返り討ちにあった事。更に5年間、その大妖怪の元で修行した事。偶然にも異変が起こった日に俺は大妖怪の元を去った事。そして帰還してみれば、紅魔館で異変が起こり、終わっていた事。

 

全てを語る訳にはいかない。突っ込まれれば回答せざるを得ないが、言って無い部分もある。特に地底のメンバーはそうだ。パルスィやさとりの名前をあげる事を避けた。地底と地上のいざこざに巻き込まれる可能性が高いからだ。

 

本当は幽香の事も言いたくはなかったが、地上に上がってから5年間の俺の消息が不明になってしまうので、仕方なく言った。

 

だが、意外にもそんなに突っ込まれる事は無かった。大妖怪の名前だけは聞かれたので、仕方なく幽香の名前を出した程度だ。

 

お嬢様達は、最初の一年は俺の捜索。その後は権力基盤を作りに奔走していた。その仕上げとして、幻想郷の管理者との契約の元、異変を起こした。これによって、正式に幻想郷メンバーに入ったようだ。

 

お嬢様も俺にあえて言っていない内容がある。八雲紫についてだ。俺が地底に落ちる寸前と、先の異変後に俺は2回確認している。特に2回目は実際に目視で確認しているし、1度目はお嬢様が実際に矛を交えているのだ。説明がないという事はそういう事なのだろう。

 

俺個人としては八雲紫について知っておいた方がいいのだが、代わりに質問されるのは避けたいとも考えている。

 

結局、お互いが嘘はついてないが、言ってない内容もある会話で終わった。

 

お嬢様がそれに気が付いているかはわからないが。

 

そうしてお互いの情報のすり合わせをして、解散となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ガチャ。

 

自室に帰って暫くして、咲夜が入ってきた。

 

「どうしたんだ、もう寝る時間だろ?」

 

「これを渡しに来たのよ。」

 

渡されたのは執事服。

 

「随分懐かしい物だな。」

 

「いつまでも旅人の格好という訳にもいかないわ。貴方は紅魔館の一員なんだから。その格好も似合ってるけどね。」

 

「そうかい。ありがたく受け取っておくよ。」

 

受け取った執事服をクローゼットに入れて、さっと紅茶を淹れる。2人分を用意して咲夜を座らせる。

 

「即席で悪いがこれで勘弁してくれ。」

 

「ええ、構わないわ。」

 

「で、本題はなんだ?」

 

「本当の事を言って欲しいの。」

 

「本当の?」

 

「正確には言ってない内容についてよ。」

 

「やっぱり、気付いてたか。」

 

「いえ、お嬢様は気付いてないわ。私が気付いたのよ。」

 

「どこが腑に落ちなかったんだ?」

 

「そうね。.........幾つかあるけど、まずは霊夢ね。」

 

確かに博麗霊夢については言ってないが、特に重要な内容ではないから端折っただけだ。だが、何故俺が博麗霊夢を知ってるとわかったのか?

 

「異変の時にね。名乗ったら『十六夜』に凄く反応してたのよ。」

 

それだけで大体察しがついた。

 

成程、『十六夜』に反応した霊夢に、どこで聞いたのか問い詰めようとした訳か。そして、俺と霊夢に何かしらの接点がある事を確信したと。でも、俺の説明には出てこなかったから、隠し事があると読んだ訳か。

 

思考の流れは理解できるが、深読みし過ぎだな。それ程、大層な繋がりはない。端折るぐらいだからな。

 

「そうだな。話さなかったのは、深い理由がある訳じゃないんだ。特に大きな出来事では無かったから、端折っただけさ。」

 

「そうなの?なら別に「いや、ちゃんと話そう。」......いいの?」

 

「勿論だ。納得できない事や腑に落ちない事は聞いてくれ。全て答えられるかはわからない。だけど、疑問はあまり残さない方がいいだろう。10年も間があるんだ。お互いなりが変わったように、思ってる事も変わってるはずだ。10年前の感覚でいたら、思わぬ思考の擦れ違いがあるかもしれない。」

 

「わかったわ。」

 

「まず、博麗霊夢と出会ったのは10年前。幻想郷侵攻時だ。当時、紅魔館へ向かってくる妖怪と戦ってた時に巻き込まれた少女がいた。それが彼女だ。俺は彼女の素性は知らず、ただ巻き込まれた人間と判断して、彼女を救出。そのまま博麗神社に送った。それだけだ。その後に風見幽香と出会った訳だ。」

 

「それだけなの?」

 

咲夜は呆気に取られた表情だ。何か違和感があるらしい。

 

「何か疑問はあるか?」

 

「それだけにしては、霊夢の執着が強かったと感じたのだけど............」

 

「そうは言っても、俺視点ではこれぐらいしか情報はないな。彼女自身に聞かないとわからないかもしれない。」

 

「そうね。........でもわかったような気もするわ。」

 

一応は納得してくれたようだ。

 

「次は何を聞きたい?」

 

「じゃあ、風見幽香について。そこで修行したとしか言ってないけど。具体的にどう過ごしてたの?」

 

「幽香とはな〜。修行とは言ったけど、初めは殺し合う仲だったんだ。」

 

「え?殺し合うって?」

 

「いや、それも語弊があるな。.........俺が一方的に目の敵にして、殺そうとしていた感じだな。」

 

「.......なんでまたそんな事を」

 

「.......一度負けたのが、ムカついてたからな。」

 

「.......何だか、昔のシャーキャらしいわね。」

 

「実際5年前の話だからな。......それで、俺は幽香を殺そうと何度も戦ってたんだけど、段々と幽香に対してなんだかな.....正直に白状すると、情が芽生えてきてな。気が付けば殺し合いから、実戦スタイルの修行って感じになってたんだ。それが真相。」

 

「......ふーん。」

 

何だか機嫌が悪そうなだな。

 

「何か気に食わない事でも?」

 

「......別に。それで、貴方は風見幽香の事をどう思ってるの?」

 

「ん?なんでそんな話になるんだ?」

 

「いいから。答えてくれるんでしょ?」

 

「......わかったよ。で、幽香についてか。......一言で言うのも難しいんだが。1番しっくり、くるのは母親かな。実際の母親なんて俺は知らないけど。.......今振り返れば、幽香はいつも俺の一挙手一投足を見守ってくれてたな。落ち込んだ時は慰めてもくれたしな。今は感謝してる。」

 

「.....母親ね。でもそれなら、もっと早く帰ってきてよ.......」

 

「それは........悪かった。」

 

正直、俺が幽香に甘えていなければ、3年は早く戻ってきていただろうしな。

 

「他に聞きたい事はあるか?」

 

「なら地底での話を聞かせて。殆どボカされて、 何をしていたかわからなかったわ。」

 

「地底に落ちてからは、パルスィという妖怪に拾われて、そこからは地底の主人及び地底の住人の信頼集めに奔走したな。」

 

「信頼集め?どういう事?」

 

「俺はまず飛べないし、地上と地底には不可侵条約があるから、そこの主人と住人に黙って貰う必要があるからな。幻想郷側の管理者にでもバレれば、最悪俺は粛清される可能性があった訳さ。」

 

「しゅ、粛清って、そんな.......」

 

顔を青ざめさせる咲夜。

 

「心配すんなよ。バレなきゃいいんだよ。」

 

「そんな大事な事を言って大丈夫なの?」

 

「別に構わないさ。お前の事は1番信頼してるからな。お前から情報が漏れても俺は別に恨んだりはしないよ。」

 

多分俺は咲夜だったら、裏切られても許してしまうだろうな。

 

「話を戻すと。5年かけて信頼を得た俺は、地底の主人の妹の手引によって地上に戻って来たのさ。」

 

「そうなのね。」

 

今度は機嫌が良さそうだ。

 

「先に聞かれるだろうから言っておくけど、パルスィについては俺の姉って感じだったな。色々と世話になったし、世話を焼いた事もある。地底の主人は古明地さとりって名前だが、気難しい友人だ。妹の古明地こいしは天真爛漫だが、こっちもこっちで気難しいやつだな。まあ、彼女達にも感謝してる。俺が地底で生きてこれたのは間違いなく、彼女達が守ってくれたからだ。」

 

「成程、よくわかったわ。」

 

「他はまだ質問はあるか?」

 

「いえ、十分よ。よくここまで話してくれたわね。何か見返りが必要かしら。」

 

「要らないよ。見返りや交換条件がほしくて話したわけじゃないから。咲夜が信頼が欲しかっただけさ。」

 

「そう、ありがとう。」

 

そう言って咲夜は扉に向かっていく。

 

「この事は誰にも言わないから。.....後、スキマ妖怪について聞きたい事があったら言って。知ってる情報は話すから。」

 

どうやら俺の思惑はバレていたようだ。

 

「ああ、また後日な。今日はもう寝ろよ。」

 

「ええ、おやすみ。」

 

「おやすみ。」

 

明日からはこの執事服に袖を通す事になるな。

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